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<概要>
 IFR(一体型高速炉:Integral Fast Reactor)とは、アメリカのアルゴンヌ国立研究所が提唱した高速増殖炉核燃料サイクルを指す総合的な概念であり、アメリカでIFRを含むALMR(Advanced Liquid Metal Reactor)計画という国家プロジェクトとして発展した。IFRの特徴は金属燃料を用いることと、再処理乾式再処理技術を適用することであり、金属燃料サイクル(MFC)と呼ばれている。熱を伝え易い金属燃料の採用は、原子炉の安全性を一層高める可能性があること、また、燃料が金属なら乾式の冶金的な技術を適用して再処理の経済性が向上する可能性がある。しかし、研究を進めてきたアメリカは、現在、ALMR計画の予算措置を停止され、今後は研究開発の方向転換を余儀なくされている。
<更新年月>
1998年03月   

<本文>
1.高速炉燃料サイクルの開発経過
 現在の高速増殖炉の燃料は、ウランプルトニウムの酸化物粉末を混合して焼き固めた混合酸化物(MOX)燃料が主流である。混合酸化物燃料の製造は軽水炉燃料の経験を取り入れたもので,高速炉燃料の本命として開発が進められ、原子炉での使用実績やその製造技術の信頼性も十分確立されている。また、使用済み燃料の再処理は、基本技術としてはすでに確立されている軽水炉燃料の再処理と同様で、ピュ−レックス法と呼ばれる湿式の再処理技術が適用されている。つまり、現在の高速増殖炉および核燃料サイクルは軽水炉の経験をベ−スとし、これを高速増殖炉に最大限に活かしながら技術を発展させることに重点がおかれている。
 ウラン資源を軽水炉よりも数十倍も有効に使える高速増殖炉を実用化するには時間がかかる。より一層の安全性の向上と経済性の向上を図り、魅力的な高速増殖炉の展望を切り拓くことが必要である。そのためには、現状の技術の延長のみではなく、新型の燃料や新しいプラント概念など革新的な技術を開発し、これを積極的に取り入れる努力も必要とされている。
 金属燃料は、ウランやプルトニウムを合金として使用する金属状の核燃料の総称であり、目的によって合金の組成、形状などが選択される。世界初の原子力発電は1951年、ウランとモリブデンの合金燃料を用い、液体金属ナトリウムを冷却材とする実験炉であるEBR-1で行われた。歴史的に見ると古くから開発されていた燃料である。
 また、金属燃料は燃料の増殖性が良く、しかも熱を伝え易いなど金属特有の優れた性質を有している( 表1 )。しかし、燃料と被覆管との共存性が悪く、また燃料のスウェリングの問題点などを持っていたために、商業炉の燃料としては実用化が難しいと判断され,世界的に1960年の後半に一度開発が断念された。その金属燃料が20年振りで見直されているのは、金属燃料がナトリウムと全く反応しないので、ナトリウムを被覆管と燃料要素との間に熱媒体として封入することもできるという利点を生かし( 図1 )、U-Pu-Zr10%合金燃料を製造し、新しく設計し直されたためである。弱点とされていた金属燃料融点もU-Pu-Zr10%合金で1100℃に高めることができた(表1)。
 プルトニウムは長半減期(プルトニウム239で24,000年)の人工元素であり、核拡散防止上プルトニウムを永久に処分するには、高速炉で燃やし、リサイクルしてしまうのが一番よい。MFC(金属燃料サイクル)とセットのIFR概念ではこれらの要求を満たし、発電との組合わせで、運転費、保障措置などが節約できる。
2.IFR(一体型高速炉)/MFC(金属燃料サイクル)の特徴と技術開発の現状
 金属燃料は、熱を伝え易いという燃料の原点とも言える基本的な特性があり、混合酸化物燃料よりも数十倍も熱を伝えやすい。このことは、原子炉の固有の安全性を向上させることになる。また、金属燃料を用いれば、高温冶金法あるいは乾式再処理法と呼ばれる乾式再処理技術が適用できる。金属燃料に乾式再処理技術適用する核燃料サイクルを金属燃料サイクル(MFC: 図2 )と呼んでいる。乾式再処理では500℃程度の高温での操業技術の確立が不可欠ではある。成功すれば設備・機器の削減によるプロセスの簡素化や施設の大幅な小型化が図れると考えられるので、現在の高速増殖炉の湿式再処理を凌ぐ経済性が達成できることが期待されている。さらに、発電プラントと再処理施設を同一のサイトに建設するシステムが可能となれば、プルトニウム燃料の輸送が無くなるなどのメリットも考えられる。この考え方を導入したのがIFR(一体型高速炉:タンク型)であり、特に米国においてこの研究が進められてきた。
 IFR炉概念で採用した金属燃料高速増殖炉の固有の安全特性は、1986年にアルゴンヌ国立研究所の金属燃料を用いる高速実験炉EBR-2(出力20MW)で行われた試験により実証された。この実証試験においては、万一、何らかの原因で冷却系のポンプが停止し、さらに制御棒が挿入出来ないような場合(スクラム失敗)に対しても、燃料の破損は無く、原子炉は安全に停止できること、即ち固有の安全性が高いことが実証された( 図3 )。その後、このIFR炉概念はGE社の小型モジュラー標準化型炉PRISM( 図4 )に採用され、DOE(エネルギー省)のIFRを含むALMR(Advanced Liquid Metal Reactor)計画として開発が進められてきた。しかし、唯一研究を進めてきたアメリカは、このALMR計画の1995年度以来予算措置がなされていない。
<図/表>
表1 高速炉用燃料の主な物性値
表1  高速炉用燃料の主な物性値
図1 金属燃料ピンの構造
図1  金属燃料ピンの構造
図2 IFR燃料サイクルの概念図
図2  IFR燃料サイクルの概念図
図3 EBR-2の運転経験:スクラム失敗の下でのヒートシンクの喪失
図3  EBR-2の運転経験:スクラム失敗の下でのヒートシンクの喪失
図4 PRISMの受動的崩壊熱除去システムおよび原子炉格納容器内構成
図4  PRISMの受動的崩壊熱除去システムおよび原子炉格納容器内構成

<関連タイトル>
金属燃料の再処理 (04-08-01-03)
高速増殖炉燃料(金属燃料) (04-09-02-08)
PRISM (07-02-01-05)

<参考文献>
(1) 磐井守泰, 他:FBR金属燃料サイクル技術, 原子力工業,Vol.36,No.6(1990)
(2) Y.I.Chang :Integral Fast Reactor, Nuclear Technology, Vol.88,No.2(1989)
(3) 日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1994年版、(平成6年11月)
(4) S.Rosen : The ALMR as a Future Energy Source for the United States,International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles,Oct.(1991)
(5) C.E.Till et al.:Progress and States of the Integral Fast Reactor(IFR) Fuel Cycle Developement,International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles,Oct.,(1991)
(6) P.Magee et al.:Performance Analysis of the 840MWt PRISM Reference Burner Core, 3rd JSME/ASME Joint Int.Conf.on Nucl.Eng.,Apr.(1995)
(7) W.Kwant et al.:U.S.ALMR Sodium Cooled Design and Performance 3rd JSME/ASME Joint Int.Conf.on Nucl.Eng.,Apr.(1995)
(8) J.P.Ackerman et al.:Treatment of Wastes in the Fuel Cycle,Progress in Nuclear Energy,31(1/2).141-154(1997)
(9) J.I.Sackett:Operating and Test Experience with EBR-2,the IFR Prototype,Progress in Nuclear Energy,31(1/2), 111-119(1997)
(10)W.H.Hannum et al.:Using the IFR to Disspose of Excess Weapons Plutonium,Progress in Nuclear Energy,31(1/2),187-201)(1997)
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