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<概要>
 高温ガス炉では、一次冷却材にヘリウムガス、減速材黒鉛を用いている。炉心の強制冷却機能が失われる減圧事故及び加圧事故時における崩壊熱の除去は、原子炉圧力容器の周囲から原子炉圧力容器外表面を冷却することにより行う。このように、高温ガス炉では、事故後は炉心を間接的に冷却することにより、燃料温度の上昇は防止され、原子炉の安全性が保たれる。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
 高温ガス炉の炉心は、黒鉛ブロックの積層構造からなり、金属製の原子炉圧力容器の中に設置されている。炉心部の黒鉛ブロックの持つ熱容量が大きく、また、黒鉛の融点が高いので、炉心昇温事故が発生しても、燃料温度の挙動は非常に穏やかで、燃料溶融などの事故が起こりにくい炉心特性を持っている。
 高温ガス炉では、評価の結果、一次冷却材の減圧事故及び加圧事故が最も厳しい炉心昇温事故として想定されている。減圧事故は、一次系配管の破断等の原因により、40気圧に維持されている一次冷却材が原子炉圧力容器外に放出され、その結果炉心の強制冷却が不可能になる事象である。また、加圧事故は、一次冷却材が原子炉圧力容器内にあり40気圧に維持されているが、一次冷却材の流れが炉心をバイパスして、炉心の強制冷却が不可能になる事象である。
 減圧事故も加圧事故も原子炉の寿命中に発生する確率は極めて低く、実際に起こることは考えにくいが、原子炉の安全を評価する上ではこれらの事故の発生を想定している。減圧事故および加圧事故が発生すると、どちらの場合も一次冷却材による炉心の強制冷却が不可能になる。減圧事故時においては、一次冷却材圧力の低下が検知されて、原子炉がスクラムする。また、加圧事故時においては、炉心部の冷却材流量低下に起因する冷却材の圧力損失が検知されて、原子炉がスクラムする。この際、崩壊熱の除去は安全系である炉容器冷却設備により原子炉圧力容器の外部から行われる。
 図1高温工学試験研究炉(HTTR)の原子炉冷却設備系統説明図を示す。HTTRの炉容器冷却設備は、原子炉圧力容器の周囲の1次遮へい体表面に設置された水冷管パネルおよび水冷管パネルへの水循環系とから構成される。水冷管パネルには多数の冷却パイプが配置されており、その温度は60℃以下に保たれ、通常時は1次遮へい体を冷却している。
 減圧事故時及び加圧事故時に炉心で発生した崩壊熱は炉心部から原子炉圧力容器へ移動し、この原子炉圧力容器の熱は水冷管パネルへの熱放射により間接的に除去される。このように、崩壊熱は、炉心内自然循環冷却、黒鉛ブロック内の熱伝導および黒鉛ブロックと原子炉圧力容器間の熱放射により行われる。炉心内自然循環は炉心部と炉心外部の冷却材の温度差により発生する炉心部の冷却材の流れである。この自然対流の炉心内自然循環により、炉心部の燃料は冷却材の強制冷却がなくても冷却される。また、この自然対流により炉心部の温度の均一化も行われる。
 図2は、HTTRの減圧事故時及び加圧事故時の燃料最高温度及び原子炉圧力容器最高温度の時間変化を解析により求めた結果を示している。事故発生から数秒で原子炉がスクラムし、原子炉出力が定格出力から崩壊熱出力に移行する。事故発生から約10分までは、崩壊熱出力が燃料から燃料ブロックへの熱放射に比べて十分に小さいため、燃料最高温度はいったん低下する。燃料の温度と燃料ブロック温度がほぼ等しくなると、燃料最高温度は再び上昇する。しかしながら、崩壊熱が熱容量の大きい黒鉛ブロックに吸収されるために、燃料最高温度の時間的変化は軽水炉に比べて非常にゆっくりしており、定格運転時の燃料最高温度を上回ることはない。原子炉圧力容器の最高温度は、炉心からの崩壊熱の移動により上昇するが、構造健全性を保つための制限温度である550℃を超えることはない。つまり 、これらのような事故においても、燃料が溶融して放射生物質が異常に放出されることはなく、原子炉を安全な状態に保つことができる。また、原子炉圧力容器の健全性も保たれるため、炉心の構成が崩れることもない。
 減圧事故と加圧事故では、炉心内自然循環の流量が異なる。加圧事故時の自然循環量は、減圧事故の自然循環量に比べて多く、炉心内での温度均一化が早くなる。したがって、炉心の燃料最高温度が減圧事故に比べて早めに低下する。一方、原子炉圧力容器の最高温度は、自然循環の影響を大きく受けることはなく、減圧事故においても加圧事故においても原子炉圧力容器の最高温度に大きな差はない。
 上に述べたように、高温ガス炉の炉心部は熱容量の非常に大きい黒鉛ブロックで構成されており、また、自然循環により炉心内部の温度均一化が起こることから、軽水炉の冷却材喪失事故時のように炉心を強制的に冷却する必要はなく、原子炉圧力容器外部への熱放射による熱除去によって、原子炉の安全性を保つことができる。なお、モジュール型炉の代表であるGT−MHRでは、環状低密度炉心を採用し、空気冷却パネルにより受動的に残留熱除去が出来る設計となっている。万一、空気冷却パネルの冷却機能が損なわれても燃料最高温度は、設計許容限界温度1550℃を超えないとしている。
<図/表>
図1 原研の高温工学試験研究炉(HTTR)の原子炉冷却設備系統説明図
図1  原研の高温工学試験研究炉(HTTR)の原子炉冷却設備系統説明図
図2 HTTRの減圧事故時および加圧事故時における燃料最高温度および原子炉圧力容器最高温度の時間変化
図2  HTTRの減圧事故時および加圧事故時における燃料最高温度および原子炉圧力容器最高温度の時間変化

<関連タイトル>
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
高温工学試験研究炉(HTTR) (03-04-02-07)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:高温工学試験研究の現状1993年、平成5年11月
(2)日本原子力研究所:大洗研究所原子炉設置許可申請書(高温工学試験研究炉施設の設置)、平成2年10月
(3)M.P.LaBar: The Gas Turbine−Modular Helium Reactor−A Promising Option for Near Term Deployment、GA−A23592(April 2002)
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