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<概要>
 原研(現、日本原子力研究開発機構)では、科学技術庁(現、文部科学省)からの受託研究「配管信頼性実証試験(WIND計画:Wide Range Piping Integrity Demonstration)」(平成5年〜12年)において、シビアアクシデント時における原子炉冷却系配管内の核分裂生成物(FP:Fission Product)挙動および配管破損に関する試験および解析を実施してきた。WIND計画において行った試験から、FPの配管内壁への沈着、一旦沈着したFPの再蒸発、配管のクリープ破損等に関する知見を得るとともに、これらを解析コードやモデルの検証に活用した。
<更新年月>
2006年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 軽水炉のシビアアクシデント時には、高温の気体およびFPが炉心から原子炉冷却系配管内に流入する。原子炉冷却系の高圧状態が維持されると、熱および内圧負荷により配管が破損する可能性がある。配管の破損位置および破損時刻は、その後の事故進展に影響を及ぼすため、過酷な負荷を受け続けた場合における配管健全性を評価する必要がある。また、シビアアクシデントの影響を評価する際には、破損口から系外に移行するFPの量や化学形、すなわちソースタームを明らかにすることが重要である。
 このような背景から、原研(現、日本原子力研究開発機構)では、平成5年から12年にかけて、科学技術庁(現、文部科学省)からの受託研究としてWIND計画を進め、シビアアクシデント時の原子炉冷却系配管内FP挙動および過酷な負荷条件下の配管破損に関する知見を取得し、実炉評価に用いる解析コードやモデルの性能評価に活用してきた(文献1および2参照)。
2.WIND計画の主な成果
2.1 配管内FP挙動に関する研究
 本研究は、FPの沈着、一旦沈着したFPの再蒸発およびFPの化学的安定性を対象とし、これらの現象について配管内エアロゾル挙動試験装置およびFP/構造材相互作用試験装置を用いた試験並びに関連する解析を行った。
 エアロゾル沈着および再蒸発試験では、図1に概要を示す配管内エアロゾル挙動試験装置を用いた。シビアアクシデント時の主要なFP化合物であるヨウ化セシウム(CsI)を用いた沈着試験の結果として、試験部におけるセシウムの沈着密度分布を図2に示す。入口側において試験部天井領域への沈着が顕著となり、出口に近づくに従い天井、側壁および床領域への沈着が徐々に増加する傾向が見られた(文献3参照)。同様の条件で実施した沈着試験に関する、シビアアクシデント時FP挙動解析コードARTによる解析の結果を図3に示す。試験部断面を複数のノードに分割し、別途実施した三次元熱流動解析の結果に基づいてエアロゾルの沈着に影響するエアロゾル搬送気体の二次流れおよび温度分布を考慮することにより、試験で得られたCsIの沈着分布をほぼ再現できることが判った(文献4参照)。
 エアロゾル再蒸発試験では、試験部に模擬FP化合物を一旦沈着させた後、FPの崩壊熱や高温気体の流入による温度上昇を模擬するために試験部を再度加熱する。原子炉冷却系内壁に残存する可能性のあるホウ酸の影響を調べるために、試験部にメタホウ酸(HBO2)を予め塗布した状態でCsIを流入させた試験で得られた、試験部内壁におけるIとCsの存在比(I/Cs)を図4に示す。試験部壁の温度が高い位置ほどI/Cs比が低下する傾向が見られた。これは、沈着したCsIとHBO2との化学反応により、IがCsIより蒸気し易い化合物に変化し、下流側に移行したためと考えられる。また、CsIと同様にシビアアクシデント時における主要な化合物と考えられている水酸化セシウム(CsOH)の場合、再蒸発が抑制され内壁に残留する割合が高くなることが判明した。この原因として、CsOHと配管材料との化学的な相互作用が関与していることが考えられる(文献5および6参照)。エアロゾル再蒸発試験の結果は、化学反応を考慮できる原子炉冷却系内FP挙動解析コードVICTORIAおよび前述のARTコードの検証に活用した(文献7参照)。
 FPの化学的安定性に関する試験は、図5に示すFP/構造材相互作用試験装置を用いて実施した。模擬FP発生・混合部から試験部にCsIを導入し、試験部内で揮発性の高い分子状ヨウ素(I2)やヨウ化水素(HI)が生成された場合には模擬FP採取設備により捕集される。雰囲気をパラメータとした試験およびホウ酸の影響を調べる試験を実施し、高温の空気雰囲気下においてより多くのCsIが分解されること、CsIとホウ酸との反応により揮発性の高いヨウ素化合物が生成され得ることを確認した(文献8参照)。
2.2 過酷負荷条件下の配管破損に関する研究
 熱及び内圧負荷による配管の破損位置および時刻を評価する手法の整備を目的に、配管高温負荷試験、高温時の配管材料物性を取得するための材料試験および弾塑性クリープ解析を実施した。
 配管高温負荷試験装置の概要を図6に示す。配管の材質として、実機配管と同等のステンレス鋼、炭素鋼およびインコネルを用いた。試験部の一例として、小口径直管試験部の構造および諸元を図7に示す。細径のインコネル製蒸気発生器伝熱管試験部は電気炉を用いた外面加熱、それ以外の試験部は電気ヒーターによりその内面を加熱した。原子力用316ステンレス鋼製小口径直管試験部を用いた試験における試験後の試験部外観および加熱領域の断面形状を図8に示す。他の試験においても、この試験と同様に、クリープによる膨れが生じ配管肉厚が減少するとともに、軸方向亀裂が外面から内面に伝播する形態で配管が破損した。この破損形態から、内圧及び熱に起因して周方向に生じる応力が破損を支配したと推定できる。試験部加熱領域の外径変化を変位計により試験中に連続測定した結果、加熱領域の温度がある程度以上になると配管の膨れが加速されることが示された。配管高温負荷試験では、種々の試験部を用いた多くの試験(全17回)を実施し、配管の変形や破損に及ぼす内圧、温度、配管形状等の影響等に係わる知見を取得した。配管材質の特徴として、鋳造二相ステンレス鋼(CF8M)製の配管は、同程度の温度および内圧条件では、316ステンレス鋼に比べて早期に破損し、破損時の変形量が小さいことが判った(文献9および10参照)。
 試験部と同じ材質の試験片を用いて、高温における材料の熱物性、機械的性質、引張り特性およびクリープ特性を測定した。高温引張り試験の結果を整理し、0.2%耐力および引張り強さがアレニウス型の相関式により記述できることを明らかにした。クリープ挙動については、歪み及び破断のそれぞれに関し、クリープ特性試験の結果に基づいて構成式を構築した。クリープ破断時間に関する構成式を図9に示す。800℃を超える温度領域になると、破断時間と応力の直線関係が成り立たなくなることを見いだすとともに、ノルトン則を適切に修正することにより高温域におけるクリープ破断時間を再現できることを示した。材料の組織観察を行った結果、高温域において炭化物の析出および再固溶が見られ、これがノルトン則からのずれに影響したと考えられる(文献11および12参照)。修正ノルトン則を用いた原子炉冷却系配管破損に関する簡易評価手法を構築し、高温負荷試験の結果を良好に再現することを示すとともに、同手法とシビアアクシデント総合解析コードMELCORを組み合わせた実機評価を行い、配管の破損位置及び破損時刻の予測に適用できることを確認した(文献13参照)。
 配管高温負荷試験を対象として、汎用有限要素法解析コードABAQUSを用いた弾塑性クリープ解析を実施した。本解析では、前述の材料試験の結果から導出した、加速クリープを考慮したクリープ歪みの関する構成式を適用した。解析結果の一例として、図8に示した試験に関する二次元弾塑性クリープ解析の結果を図10に示す。温度履歴を考慮した場合および考慮しない場合について解析を実施した結果、両解析ともに直径増加の加速を定性的に再現したが、より現実的な条件である温度履歴を考慮した場合には試験結果を過大に評価した。この原因の一つとして、二次元解析では加熱領域の変形に対する低温領域の拘束を無視していることが考えられる。二次元解析の結果を踏まえて三次元弾塑性クリープ解析を行い、三次元解析により試験結果を良好に予測できることを示した(文献14参照)。
3.おわりに
 WIND計画では、軽水炉のシビアアクシデント時における原子炉冷却系配管内FP挙動および過酷な負荷が与えられた場合の配管破損に関する試験及び関連する解析を実施した。これらの研究から、シビアアクシデント時の主要なFP化合物であるCsIおよびCsOHの配管内壁への沈着、一旦沈着した後の再蒸発、化学的な安定性および配管のクリープ挙動に関する知見を得た。WIND計画から得られた成果は、シビアアクシデントの進展およびソースタームを評価する上で有用なものであり、原子炉冷却系内FP挙動解析コードやクリープ挙動解析モデルの検証に積極的に活用するととに、実機におけるソースタームおよび原子炉冷却系配管の信頼性評価に適用した。
<図/表>
図1 配管内エアロゾル挙動試験装置の概要
図1  配管内エアロゾル挙動試験装置の概要
図2 エアロゾル沈着試験の結果−後段小口径配管試験部におけるセシウムの沈着密度−
図2  エアロゾル沈着試験の結果−後段小口径配管試験部におけるセシウムの沈着密度−
図3 ARTコードを用いたエアロゾル沈着試験解析の結果−ヨウ化セシウムの沈着密度−
図3  ARTコードを用いたエアロゾル沈着試験解析の結果−ヨウ化セシウムの沈着密度−
図4 エアロゾル再蒸発試験の結果−ヨウ素とセシウムの沈着割合の温度依存性−
図4  エアロゾル再蒸発試験の結果−ヨウ素とセシウムの沈着割合の温度依存性−
図5 FP/構造材相互作用試験装置の概要
図5  FP/構造材相互作用試験装置の概要
図6 配管高温負荷試験装置の概要
図6  配管高温負荷試験装置の概要
図7 配管高温負荷試験小口径直管試験部の構造及び諸元
図7  配管高温負荷試験小口径直管試験部の構造及び諸元
図8 配管高温負荷試験後の小口径直管試験部外観及び加熱領域断面形状
図8  配管高温負荷試験後の小口径直管試験部外観及び加熱領域断面形状
図9 316ステンレス鋼のクリープ破断時間に関する材料試験とモデルの比較
図9  316ステンレス鋼のクリープ破断時間に関する材料試験とモデルの比較
図10 ABAQUSコードを用いた配管高温負荷試験の解析−小口径直管試験部の変形履歴−
図10  ABAQUSコードを用いた配管高温負荷試験の解析−小口径直管試験部の変形履歴−

<関連タイトル>
シビアアクシデント時の炉心溶融進展に関する研究 (06-01-01-09)
シビアアクシデント時の格納容器の健全性に関する研究 (06-01-01-10)

<参考文献>
(1)SUGIMOTO,J.,et al.,Proc.IAEA/IWGFR Technical Committee Meeting on Evaluation of Radioactive Materials Release,Sodium Fires in Fast Reactors,Tokai,1996.
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(4)HIDAKA,A.,et al.,Nucl.Eng.Des.,200,303-315,2000.
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(6)SHIBAZAKI,H.,et al.,Nucl.Technol.,134,62-70,April 2001.
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(8)KUDO,T.,et al.,Proc.SARJ-99,Tokyo Japan,November 8-10,1999,JAERI-Conf 2000-015,2000.
(9)MAEDA,A.,et al.,Proc.ICONE-7,ICONE-7255,Tokyo,Japan,April 19-23,1999.
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(11)HARADA,Y.,et al.,Nucl.Sci.Technol.,36(10),923-933,October 1999.
(12)HARADA,Y.,et al.,Nucl. Sci. Technol.,37(6),518-529,June 2000.
(13)HIDAKA,A.,et al.,Proc. NUTHOS-6,N6P139,Nara,Japan,October 4-8,2004.
(14)CHINO,E.,et al.,Proc. SARJ-99,Tokyo,Japan,November 8-10,1999,JAERI-Conf 2000-015,2000.
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