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<概要>
 日本における原子炉廃止措置に係る国の考え方は、1981年6月に原子力委員会がその基本方針を定め、1994年6月に原子力委員会が発行した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」の中に記述されている。すなわち、原子炉施設の廃止措置は、安全確保を大前提として、地域社会との協調を図りつつ進めること、また、技術開発を進めること、商業用発電炉の廃止措置については、原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則としている。
 2005年5月に原子炉等規制法が改正され、廃止措置については届け出制から認可制になり、また、クリアランス制度が取り入れられた。この改正を受け、2005年12月に「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」が改正され、廃止措置計画の認可の基準、廃止措置の終了確認の基準が設けられた。その後、原子力規制委員会により、規制関連法も2012年に見直しされた。また、発電用原子炉施設等の廃止措置に係る内規が2013年11月に定められた。
<更新年月>
2015年11月   

<本文>
1.日本における原子炉廃止措置に係る国の考え
 わが国における原子炉廃止措置に係る国の考え方は、1981年6月に原子力委員会が策定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下、長計と略す)の中でその基本方針が初めて示された。その方針は現在まで引き継がれており、1994年6月に原子力委員会が策定した長計では、原子炉の廃止措置については、安全の確保を前提に、地域社会との強調を図りつつ進め、さらに敷地を原子力発電用地として引き続き有効利用するという考えに立って、原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則としている。その対策として、実際に原子力発電所の廃止措置が必要となるまでに技術の向上、諸制度の整備等を図るものとし、旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の動力試験炉(JPDR)を用い、実際の商業用原子力発電所の廃止措置において活用し得る解体技術等の開発と実地試験を実施し、多くの成果を得ている。この経験等を参考に、安全規制において廃止措置の届け出制から認可制になり、また、クリアランス制度も導入された。
2.廃止措置の安全規制
2.1 わが国の原子炉の解体に係る安全確保の基本的考え方
 発電用原子炉である動力試験炉(JPDR)を解体撤去するに当たり、原子力安全委員会は解体届を作成するための指針「原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的考え方−JPDRの解体に当たって−」(1985年12月)を策定した。この指針は、日本原子力発電(株)東海発電所の解体届前に見直され、「原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的考え方」として2001年8月に改定された。指針の主要項目を表1に示す。
 原子炉の運転中に安全確保のために要求される主な機能は、「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」であるのに対し、廃止措置段階においては、施設内の放射性物質の「閉じ込め」や放射線の遮へいが安全確保のため要求される主な機能となる。
 原子力規制委員会は、下記の事項について適切なものであるか、廃止措置計画の認可の際に確認する。
(1)解体中における保安のために必要な原子炉施設の適切な維持管理の方法
(2)一般公衆及び放射線業務従事者の放射線被ばくの低減策
(3)放射性廃棄物の処理等の方法
2.2 廃止措置認可制度
 この認可制度は、2005年の原子炉等規制法の改正を受け、認可の申請と認可の基準、及び終了確認の申請と確認の基準の2段階に整理されている。この認可制度は、原子力規制委員会での法規制検討の結果でも基本的に同じであるが、2012年から2013年末にかけて法規制体系の整備が行われた。
 廃止措置条項に係る現行の法規制の要点を以下に示す。廃止措置段階の安全規制概念を図1に示す。
 発電用原子炉の廃止措置については、原子炉等規制法第43条の3の33において「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉を廃止しようとするときは、当該発電用原子炉施設の解体、その保有する核燃料物質の譲渡し、核燃料物質による汚染の除去、核燃料物質によって汚染された物の廃棄その他の原子力規制委員会規則で定める措置を講じなければならない。」と、また2項で「発電用原子炉設置者は、廃止措置を講じようとするときは、あらかじめ、原子力規制委員会規則で定めるところにより、当該廃止措置に関する計画(「廃止措置計画」)を定め、原子力規制委員会の認可を受けなければならない」と定めている。
 原子力規制委員会は、廃止措置に係る規則を整理して、廃止措置関連の下記の内規を2013年11月に定めている。
 ・廃止措置段階の試験研究用等原子炉施設における保安規定の審査基準
 ・廃止措置段階の発電用原子炉施設における保安規定の審査基準
 ・発電用原子炉施設及び試験研究用等原子炉施設の廃止措置計画の審査基準
 廃止措置に係る保安の監督に関する責任者である廃止措置主任者の選任要件を表2に示す。また、実用炉規則(実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則)と試験炉規則(試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則)とを比較して、廃止措置計画の認可の基準を表3に、廃止措置計画の認可の申請内容を表4に示す。
 原子力規制委員会では、廃止措置の認可申請での審査に当たっては、「原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的考え方」を参考にするとともに、申請の内容を勘案し、必要に応じ、現地調査、有識者の専門的意見の聴取を実施する。
 また、発電用原子炉施設の廃止措置の終了確認の基準は、実用炉規則第121条で次のように定められている。
(1)核燃料物質の譲渡しが完了していること。
(2)廃止措置対象施設の敷地に係る土壌及び当該敷地に残存する施設について放射線による障害の防止の措置を必要としない状況にあること。
(3)核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄が終了していること。
(4)第六十七条第一項に規定する放射線管理記録の同条第五項の原子力規制委員会が指定する機関への引渡しが完了していること。
3.商業用原子力発電施設の廃止措置の標準工程と引き当て金の積み立て
 商業用原子力発電施設の廃止措置に関しては、総合エネルギー調査会原子力部会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会)が廃止措置の作業内容、費用等の検討を行い、その結果が1985年に報告された。この報告では、5〜10年の密閉管理期間の後、施設を解体撤去(3〜4年)することとし、その作業手順や適用技術について検討した上で、原子力発電所の廃止措置のための標準工程を作成した。また、この標準工程に基づいて110万kW級原子力発電所(BWR及びPWR)の廃止措置費用が見積もられ、この結果に基づいて電力料金の中に廃止措置のための費用が組み込まれ、1987年から廃止措置のための引き当て金が積み立てられている。さらに、商業用原子力発電施設解体廃棄物の処理処分費用についても引き当て金に追加された。クリアランス制度導入に伴い処理処分費用、再資源化の処理等の観点からの費用評価が電気事業連合会で行われ、「原子力発電施設廃止措置費用の過不足について」(補足資料)(平成19年3月14日付け)が公表された。
 経済産業省は、原子力発電施設解体引当金に関する省令(経済産業省令第30号)を2015年3月改正している。この政令では、原子力発電施設ごとの解体に要する全費用の見積額「総見積額」を定義し、引当金に関する基本的な事項を定めている。その「積立期間」は、発電を開始した月から起算して50年を経過するまでの期間としている。電気事業者は、毎事業年度、当該事業年度終了の日における総見積額を定め、当該事業年度末までに経済産業大臣の承認を受けなければならない。
4.廃止措置等で発生する放射性廃棄物の処理処分
 解体から発生する廃棄物の合理的な処理・処分に対応するため、これまで高βγ等廃棄物の処分、クリアランスレベル等の制度整備について検討が進められてきた。
 原子炉廃止措置に伴い発生する放射性廃棄物は、低レベル放射性廃棄物であり第二種廃棄物埋設(浅地中処分余裕深度処分)対象廃棄物として扱われる。埋設に係る濃度区分については、原子力安全委員会報告「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係わる放射能濃度上限について」(平成19年5月21日)を反映し、「核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」(平成19年12月19日)において、廃棄物埋設の事業区分に係る基準(第一種廃棄物埋設と第二種廃棄物埋設を区分する放射性物質及びその放射能濃度の基準)等が規定された(ATOMICA「解体廃棄物の放射能レベル区分<05-02-01-04>」参照)。
5.クリアランス制度の導入
 2005年の原子炉等規制法の改正により、クリアランス制度が導入され、現在、原子力規制委員会規則にクリアランスレベルが定められている(ATOMICA「日本のクリアランス制度<11-03-04-10>」参照)。
 原子炉施設等解体に伴い発生する放射能の極めて低い放射性核種を含む廃棄物等について、クリアランスレベル以下であれば、「放射性物質として取り扱う必要のない物」として再利用、あるいは一般産業廃棄物と同様に処分することが可能になった。すでに東海発電所の解体物及び旧JRR−3の改造により発生したコンクリートを対象としたクリアランス認可申請が行われている。また、日本原子力学会も学会標準としてクリアランスの判断方法を刊行している。
(前回更新:2008年1月)
<図/表>
表1 原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的考え方
表1  原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的考え方
表2 廃止措置主任者の選任要件
表2  廃止措置主任者の選任要件
表3 廃止措置計画の認可の基準
表3  廃止措置計画の認可の基準
表4 廃止措置計画の認可の申請内容
表4  廃止措置計画の認可の申請内容
図1 廃止措置段階の安全規制概念
図1  廃止措置段階の安全規制概念

<関連タイトル>
低レベル放射性廃棄物の処分 (05-01-03-02)
原子力発電所の廃止措置費用評価 (05-02-01-02)
廃止方法 (05-02-01-03)
解体廃棄物の放射能レベル区分 (05-02-01-04)
原子力施設の敷地などの有効利用 (05-02-01-06)
わが国における低レベル放射性廃棄物の処分についての概要(制度化の観点から) (11-02-05-02)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)

<参考文献>
(1)原子力委員会:原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(1994年6月)
(2)総合エネルギー調査会原子力部会原子炉廃止措置対策小委員会:商業用原子力発電施設の廃止措置に向けて(報告書)(1997年1月)
(3)資源エネルギー庁:原子力発電施設の廃止措置について(パンフレット)
(4)総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会廃止措置安全小委員会:実用発電用原子炉施設の廃止措置に係る安全確保及び安全規制の考え方について(2001年8月2日)
(5)原子力安全委員会 放射性廃棄物・廃止措置専門部会:原子力施設の運転終了以降に係る安全規制制度のあり方について(2005年1月)
(6)原子力規制関係法令研究会:2015年原子力規制関係法令集、大成出版社(2015年8月)
(7)内閣府原子力安全委員会事務局:改訂13版原子力安全委員会指針集、原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的な考え方(旧原子力安全委員会決定:2001年)、大成出版社(2011年3月)
(8)原子力規制委員会:廃止措置段階の試験研究用等原子炉施設における保安規定の審査基準について(内規)(2013年11月)
(9)原子力規制委員会:廃止措置段階の発電用原子炉施設における保安規定の審査基準について(内規)(2013年11月)
(10)原子力発電施設解体引当金に関する省令:経済産業省令第30号(2015年3月)
(11)実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(実用炉規則):通商産業省令第77号(1978年12月28日)
(12)試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則(試験炉規則):総理府令第83号(1957年12月9日)
(13)日本原子力学会:クリアランスの判断方法2005(AESJ−SC−F005:2005)(2005)
(14)原子力規制委員会ホームページ:http://www.nsr.go.jp/activity/regulation/reactor/haishi/haishi0.html
(15)内閣府原子力安全委員会事務局:原子力安全委員会指針集、原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的考え方、大成出版社(2008年)
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