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<概要>
 原子力発電所廃止措置に係る費用評価は廃止措置計画を着実に進める上で重要な課題であり、費用評価の方法論、各種施設を対象にした費用評価など様々な検討が行われている。近年では、OECD/NEAの作業部会が26カ国を対象にして原子力発電所の廃止措置に係る政策や費用を調査し、単位出力当りの廃止措置費用や費用の内訳等が報告された。我が国では資源エネルギー庁が110万kWe級原子力発電所に対して、5〜10年間の密閉管理を経て解体撤去(3〜4年)する工程(標準工程)に対してBWR及びPWRの廃止措置費用を試算し、双方で多少の相違はあるが、約300億円(1984年価格:放射性廃棄物の処分費用は含まれず)と報告されている。この試算に基づいて、1987年から廃止措置費用の引当金が算定され、電力料金に組入れられている。一方、総合エネルギー調査会の原子力部会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会の原子力部会)による検討では、110万kWe級原子力発電所(PWR及びBWR)を解体して発生する放射性廃棄物の処分費用(BWR:187億円、PWR:197億円)が算定され、2000年からは解体放射性廃棄物処理処分費用が引当金に追加されている。
<更新年月>
2005年01月   

<本文>
1.廃止措置に必要な費用項目
 廃止措置費用の算定には、廃止措置に必要な作業内容やそれに係る費用項目を明らかにすることが必要である。そこで、原子力に関わる3つの国際機関(IAEA,OECD/NEA,EC)では、費用評価の標準化などを目的として、廃止措置の費用評価に必要な費用項目に関する検討が行われた(文献1)。この検討結果によれば、費用項目は、廃止措置方式、廃止措置の実施体制、廃止措置費用の適用範囲等によっても異なるが、以下のように分類され、この分類毎に費用項目が整理されている。
・ 廃止措置の前処理作業
・ 敷地の清掃と整地
・ 施設停止作業
・ 計画の管理・監督・維持
・ 資材・物資の調達
・ 技術開発
・ 解体作業
・ 燃料
・ 廃棄物処理処分
・ その他
・ 施設の防護・監視・維持
 例えば、「解体作業」の細部項目として以下のような費用項目が整理されている。
・ 建屋及び装置の除染
・ 遠隔解体特殊装置の調達・設置・試験
・ 使用済燃料プールの排水と内張りの除染
原子炉圧力容器炉内構造物の撤去
・ 休止期間に向けた準備
・ 主蒸気系統及び付属系統機器配管の撤去
・ 汚染した装置や機器の解体と移送
・ 生体遮蔽対と熱遮蔽体の撤去
・ 領域の区分と放射能の特性評価
・ 格納容器等の機器・装置の撤去
・ 敷地の再配置・隔離・構造物強化
・ アスベストの撤去・処分
・ 施設の強化・隔離・処分
・ 燃料貯蔵プール内張の撤去
・ 廃止措置・除染に向けた放射能特性評価
・ 建屋の除染
・ 廃棄物保管領域の準備
・ 環境の清掃
・ 燃料取扱装置の撤去
放射性物質の特性評価、他
 なお、以上の費用項目は、労務費、資本費、装置・資材費、経費、予備費から構成される。
2.廃止措置費用の評価方法
 廃止措置費用は、廃止措置に係る様々な作業の量を推定した上で算定される。目的により廃止措置に係る作業量の推定方法やその詳細度は異なるが、様々な方法が検討されている。米国で検討された廃止措置の費用評価に関する方法論を以下に示す(文献2)。
 費用項目は、一般的に作業依存型、期間依存型、付随型に分類される。ここで、「作業依存型費用」とは、解体作業等に対して直接必要となる費用であり、手順が固定している作業に対しては、「単位作業係数」を用いて算定される。例えば、ポンプの解体についてみると、ポンプの大きさや種類が同じであればその解体手順はほぼ同等であることを基本としている。即ち、寸法や種類が同等なポンプの解体には一定の人工数や資材が用いられるので費用は等しくなる。また、種類が同等なポンプはその重量に比例して人工数や資材が必要になることが経験上分っている。従って、予め基本となる費用を評価しておけば、解体する機器の個数や重量に応じてその機器の解体費用を計算することができる。この個数や重量で規格化した基本的費用を単位費用係数といい、単位費用係数を用いて原子力発電所に存在する機器・装置の解体に係る費用を算定することが出来る。「期間依存型費用」とは、ある期間継続して雇用する作業者のように、期間を基にして算定される費用である。「付随型費用」とは、以上の2種類の方法で求めた費用に基づいて算出したり、全く独立して算定するものであり、例えば、予備費がこれに相当する。前章で示した費用項目に対して費用が算定され、それらを積算することにより廃止措置プロジェクトの全費用が求められることになる。
3.我が国における廃止措置費用の試算結果(1985年報告)
 わが国では、資源エネルギー庁が110万kWe級(BWR及びPWR)原子力発電所の解体費用の試算結果を1985年(昭和60年)に発表した。これは、原子炉の運転を終了した後、燃料を取り出し、5〜10年の密閉期間を経て施設を全て解体撤去(3〜4年)する工定(標準工程)に基づいて、必要となる費用を試算したものである(文献3)。試算の結果では、BWRとPWRでは多少の相違はあるものの、放射性廃棄物の処分費用を除いて約300億円の費用が見込まれた。費用の内訳を図1に示す。当時は放射性廃棄物の処分場が操業されておらず、放射性廃棄物処分費用の見積もりが困難であったため、全費用の約15%がこれに相当すると予想された。その後、低レベル放射性廃棄物の処分場が操業し、また、処分方法に対応した放射能レベル区分が整いつつあること等により、放射性廃棄物処分費用の検討が行われた。総合エネルギー調査会の原子力部会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会の原子力部会)(資源エネルギー庁)の試算(中間報告、1998年8月28日付)によると、110万kWe級(BWR及びPWR)の原子力発電所の解体から発生する放射性廃棄物の処分に掛かる費用として、187億円(BWR)及び197億円(PWR)が試算された。
 以上の評価をふまえて、原子力発電に起因して発生したものであること、解体の標準工程に基づく合理的な費用見積もりが可能であること、発電時と解体時に時間的差異があること、等の理由から、収益・費用対応原則に基づき発電時費用として取扱うことが世代間負担の公平を図る上で適切と考えられ、電気料金原価に組みこまれ、所要の額が積み立てられている。
4.米国における廃止措置費用の試算
 廃止措置の費用評価は原子力施設を有する各国の共通した課題であり、様々な原子力施設について廃止措置費用の試算やその見直しが適宜実施されている。米国では、商業用原子力発電所の廃止措置に際して、廃止措置の方法や費用を原子力規制委員会に提出することが義務付けられている。このため、廃止措置費用評価の妥当性を検討することを目的に110万kWe級の原子力発電所に対して廃止措置費用の試算がなされた(文献4,5)。PWRの廃止措置費用の試算例を表1に示す。この廃止措置費用の試算は原子力規制委員会が規制を行う部分に関するもののみであり、一般建屋の解体作業等は除外されている。幾つかの廃止措置方式が検討されているが、廃止措置方式が異なるとその費用も変化することが分る。
5.廃止措置費用の国際比較
 ベルギー、カナダ、フィンランド、フランス、スペイン、スウェーデン、英国、米国等、原子力発電所を有する幾つかの国において、廃止措置費用の評価が行われている。OECD/NEAでは、多くの加盟国において原子力発電所の廃止措置が現実的なったことを背景に、廃止措置費用の比較やその相違を明らかにする検討が行われた。OECD/NEAにおいて実施された廃止措置費用に関する検討の経緯を以下に示す。
・ NEA加盟国の廃止措置費用の比較と相違原因の検討(1991年)
・ 廃止措置費用の評価に必要な費用項目の整理(1998年)
・ 原子力発電所の廃止措置方針に関する政策、費用評価等の調査・検討(2003年)
このうち、1991年に発表された各国における廃止措置の評価結果(表2)では、廃止措置費用の定義が明白でないこと、費用評価の方法が標準化していないこと、費用評価に必要なデータが整備さていなかったこと等により、各国で評価した費用に相違が存在した(文献6)。その後、廃止措置に係る費用項目の標準化に関する検討が行われ、その内容が整理されたこと等から、再度、廃止措置費用と政策に関する調査・検討が行われた。この調査・検討では、定義された費用項目毎にその費用を算定し、廃止措置の政策、廃棄物量、施設特性等が廃止措置費用に及ぼす影響について考察が加えられた。表3は26カ国を対象にして原子力発電所の廃止措置費用を調査した結果をまとめたものである(文献7)。各国の廃止措置政策や規制、放射性廃棄物管理の相違に比べて廃止措置に係る作業範囲や費用評価方法の相違が費用評価結果に影響していること、ガス冷却炉軽水炉(BWR及びPWR)に比較して廃止措置費用は高くなること、これは黒鉛の処分に関係すること等が明らかにされている。
<図/表>
表1 米国における110万kWe級原子力発電所の廃止措置費用の試算例(1993年)
表1  米国における110万kWe級原子力発電所の廃止措置費用の試算例(1993年)
表2 廃止措置費用の算定結果の比較(OECD/NEAの調査結果)
表2  廃止措置費用の算定結果の比較(OECD/NEAの調査結果)
表3 原子力発電所の単位出力に対する廃止措置費用の評価結果(OECD/NEAの調査結果)
表3  原子力発電所の単位出力に対する廃止措置費用の評価結果(OECD/NEAの調査結果)
図1 わが国における110万kWe級原子力発電所の解体費用の内訳(1985年)
図1  わが国における110万kWe級原子力発電所の解体費用の内訳(1985年)

<関連タイトル>
原子炉廃止措置に係る国の考えと安全規制 (05-02-01-01)
米国の原子力発電所の廃止措置費用 (05-02-01-13)
米国の原子力発電所の廃止措置基金(デコミッショニング・ファンド) (05-02-01-14)
国際的に見た原子力発電所の廃止措置の政策、戦略、費用について (05-02-01-15)

<参考文献>
(1)A Proposed Standardized List of Items for Costing Purposes in the Decommissioning of Nuclear Installations,OECD,1999
(2)D. H. Williams and T. S. LaGuardia: Guideline for Estimation of Nuclear Power plant Decommissioning Costs,Cost Engineering,Vol.31,No.4,April(1989)
(3)上村雅一:我が国商用原子力発電所の廃止措置のあり方、エネルギーレビュー、1985年9月
(4)Pacific Northwest Laboratory: revised Analyses of decommissioning for the Reference Pressurized Water Reactor Power Station,NUREG/CR−5884(1995)
(5)Pacific Northwest Laboratory: revised Analyses of decommissioning for the Reference Boiling Water Reactor Power Station,NUREG/CR−6174(1995)
(6)OECD/NEA: Decommissioning of Nuclear Facilities− An Analysis of the Variability of Decommissioning Cost Estimation,OECD(1991)
(7)OECD/NEA: Decommissioning Nuclear Power Plamnts− Policies,Strategies and Cost,OECD(2003)
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