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<概要>
 エネルギーをはじめとする資源の有限性を認識するには、その生い立ちに遡ると良く理解できる。そこには、太陽の内部で4個の水素原子核から1個のヘリウム原子核と2個の陽電子が生じる核的過程により放出される膨大なエネルギーを起源として地表に届く太陽光と、微生物の活動である光合成が極めて重要な役割を演じている。27億年前を境にこの核的過程と生物過程が手を取り合って、地球環境は大きく替わりはじめた。そして鉄鉱床をはじめとする天然資源やウラン資源や化石燃料が誕生し、現在の地球環境が形成された。このように考えると、化石燃料は太古の太陽エネルギーの缶詰であり、使うと無くなってしまう有限なものである。そのことを知りながら、エネルギー問題や地球環境問題を考える必要がある。また、これらの資源が極めて長い期間にわたり存在し続けたために今に残り、我々は利用できる。したがって、放射性廃棄物処分の長期安全性を考える上で、このような地質年代スケールでの地球の歴史を考察することは参考になると思われる。
<更新年月>
2006年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 46億年前に地球が誕生して、間もなく海が生まれた。大気中に酸素がなくオゾン層も形成されていなかったため、太陽から毒性の強い紫外線が地表に直接飛来した。陸上では生物が生きていく条件は整っていなかった。一方、海の水は紫外線を遮る。海の生成は生物が誕生する要件の一つを備え、35億年前に海に生命が誕生した。
 27億年前になると、いずれもエネルギーを放出することはない熱力学的に安定な化合物である二酸化炭素と水、そして太陽光のエネルギーから有機物をつくり、酸素を放出する光合成がはじまった。プランクトンの有機物平均組成をもとに光合成は、
106Co2 + 16NO3 + HPO42− + 122H2O + 18H+ + hν→
           C106H263O110N16P1 + 138O2   (1)
と記述できる(参考文献1)。こうして地球の大気が変わりはじめた。この頃は今のものと違い、火星や金星ほどではないが、二酸化炭素濃度のきわめて高い大気であった。
 20億年前になると、大気中の酸素の濃度が少し高くなった。原子力発電で核燃料として使われるウランには、金属ウランの他に四価のウランと六価のウランが知られている。UO2と記述される核燃料に用いられる二酸化ウランや瀝青ウラン鉱(pitchblende)が代表的なものであるが、四価のウランは水に溶けない。したがって、欧米のいくつかの国で進められている使用済み核燃料の地層処分が、ガラス固化体の地層処分と並んで長期安全性の面でも有望とされる所以である。地下深部は還元環境にあり四価のウランが安定である。一方、六価のウランは水に溶ける。雨に含まれる酸素により酸化され、岩石から六価のウランとして溶け出し、川を下って河口にたどり着く。河口には、(1)式にしたがって酸素を放出して生成した有機物の腐植物質が存在し、これは還元性である。ウランは再び四価に還元され沈殿する過程が続いた。このようにして堆積型のウラン鉱床が形成された。カナダや南アフリカのウラン鉱床には、このときに生成したものがある。
 17億年前、現在の中央アフリカのガボン共和国のオクロに、天然原子炉が存在していたことが1972年にフランスの研究者によって明らかにされた(参考文献3、4、5)。当時のウラン鉱床に適度な地下水が存在し、地中で自発核分裂により生じた中性子が、235Uを核分裂させ、連鎖反応が進行した。現在、天然ウランには0.72%の235Uが含まれている。その半減期は7億年である。17億年前に遡ると、ウラン235の同位体存在率は3.2%と軽水炉燃料なみであった。オクロでは500トン以上のウランが核分裂連鎖反応に関与し、反応が50万年間続き、計100×109kWhのエネルギーが発生するとともに、10トンの核分裂生成物と4トンのプルトニウム が生成したと報告されている。17億年前の天然原子炉が痕跡をとどめ発見されたことは、17億年間、一部の移動しやすいものを除く核分裂生成元素(FP)とプルトニウムおよびそれらの娘核種が、ほぼ移動することなく地中に封じ込められていたことを意味する。そして、現在のオクロの元素分布や同位体の分布から17億年前の状態を放射化学的に再現できる。高レベル放射性廃棄物処分の封じ込めに要する期間を少し長くみて十万年とすると、17億年はこの期間の1.7×104倍にあたる。このような場所が地球上に存在したことも事実である。各国における高レベル廃棄物処分の候補岩種を表1に示す。地質環境特性に関する基準と地層処分の基本概念を表2および図1に示す。
 5億年前になると、石油鉱床が形成されるようになった。このころ酸素の濃度がさらに高まり、比較的大型の三葉虫をはじめとする動物や植物が活動するとともにその死骸が海底に沈んで、堆積岩の中に取り込まれ、熱と圧力のもとで長い時間をかけて石油が生成した。
 ここまでは、全て海を舞台とした出来事である。陸上のことはほとんど出てこない。4億年前になると、酸素濃度がさらに高くなり、20から30km上空の成層圏に放射線化学的過程でオゾン層が形成された。この結果、320nmより短波長の紫外線はほとんど地表に届かなくなり、地上にはじめて生物が生まれ育つ条件が整った。やがてシダ類の大きな森林が繁茂し、老木は朽ちて腐植し地中に埋もれて石炭鉱床が生まれた。
長い年月をかけて、太陽エネルギーの一部が地中に取り込まれてできた石油や石炭を、産業革命以後、特にわが国では1950年代半ば以後の大量生産・大量消費・大量廃棄時代になって急激に消費するようになった。化石燃料はこのように、生物活動によって数億年前から蓄えられた太陽エネルギーの塊であり、有限な資源である。また、ウランについても地球の永いいとなみの中で形成されたもので、有限である(参考文献6、7)。
<図/表>
表1 各国における高レベル廃棄物処分の候補岩種
表1  各国における高レベル廃棄物処分の候補岩種
表2 地質環境特性に関する基準
表2  地質環境特性に関する基準
図1 地層処分の基本概念
図1  地層処分の基本概念

<関連タイトル>
放射性廃棄物 (05-01-01-01)
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
高レベル放射性廃棄物の特性と処分の概念 (05-01-01-14)

<参考文献>
(1)J.I. Drever:”The Geochemistry of Natural Waters”,Third Ed.,Prentice Hall(1997)
(2)丸山茂徳、磯崎行雄(著):「生命と地球の歴史」、岩波新書(1998).
(3)黒田和夫(著):「17億年前の原子炉」ブルーバックス、講談社(1988)
(4)P.K. Kuroda:”The Origin of the Chemical Elements and the Oklo Phenomenon”,Springer-Verlag,Berlin(1982)
(5)IAEA group, Proc. Symp.:The Oklo Phenomena,IAEA,Vienna(1975)
(6)佐藤正知、蛭沢重信:「図解雑学・エネルギー」(ナツメ社)(2000)
(7)村岡進、佐藤正知、大江俊昭:原子力学会誌、45、634-646(2003)
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