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<概要>
 セラフィールド(旧「ウインズケール」から改称)サイトに改良型ガス炉(AGR)およびドイツ、日本等海外からの受託軽水炉使用済燃料の処理を目的に酸化物燃料用の大型工場を建設し、1994年3月に試験操業を開始し、1997年8月に全運転許可証を得た。2005年4月に、THORP再処理工場の配管の破損によりセル内へ多量の放射性溶液が漏えいした。操業再開に向けた設備の更新などを進め、現在、規制当局の審査が進められており、操業開始は2007年以降の見通しである。
<更新年月>
2007年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.THORP(酸化物燃料再処理プラント)の概要
 英国国内のAGR使用済み燃料(2160トン)およびドイツ、日本等海外の受託軽水炉使用済み燃料の再処理を商業規模で行える施設として、THORP(THermal Oxide Reprocessing Plant)の建設が計画された。1976年に公称処理能力濃縮ウラン1200トン/年、最初の10年間で6,000トンの処理を予定した(後に濃縮ウラン850トン/年、7,000トンに修正)基本計画の許可申請が行われた。公開審問会(Board of Inquiry)の審議を経てTHORPの基本計画の承認に関する環境大臣への報告書が公刊され(1978年1月)、さらに下院での議論を経て工場建設(総工費約18億5,000万ポンド、文献1による。)が進められた。1983年から受入れ・貯蔵施設の建設が開始され、1992年建設を終了し、1994年3月、最初の使用済燃料がせん断され、1995年1月には、抽出工程に溶解液が供給され、原子力施設検査庁(NII、Nuclear Installations Inspectorate)および環境庁(Environmental Agency)の検査に合格し1997年8月に公式に認可され、本格操業を開始した。
 THORPのプロセス構成は、せん断、溶解、ピューレックス溶媒抽出であり、六ケ所再処理工場と基本的には同じである。この工場の主な特徴は、燃料受入れ・貯蔵工程ではMEB(Multi Element Bottle)という輸送用遮蔽容器の着脱式内部密封容器を使用することである。THORPでのプール貯蔵はMEBのまま行うので、受入れ時の作業量を減らし、また貯蔵時のプール水の汚染を防止できる。前処理施設のプールで燃料集合体をMEBから取り出す。集合体せん断機は保守時間を短縮するため摩耗部品であるせん断刃の交換がユニットとして遠隔的に行えるよう工夫されている。溶解槽は回分式で、臨界防止には可溶性中性子吸収材(硝酸ガドリニウム)を使用する。燃料溶解液から不溶解残渣を除去するために遠心清澄機が使用される。ウラン、プルトニウム、核分裂生成物の分離は、TBP−ケロシンを使用する溶媒抽出で行われる。プルトニウムの分離は第1サイクルで行う早期分離型フローシートで、還元剤には原子価4価のウラン(ウラナス)、ヒドラジン、ハイドロキシルアミンを用いる。これは他の再処理工場と同じく”Salt-free”といわれる方式で廃液中の塩類を減らし、廃液量も低減できる。
 抽出装置は、第1サイクルではパルスカラム(脈動塔)を、ウラン第2、第3サイクルではミキサーセトラーを、プルトニウム第2、第3サイクルではパルスカラムを使用する。操業実績では、すべての核種についての除染係数(DF)は設計値を上回っている。
2.放射性溶液漏えい事象の概要
 2005年4月19日に操業を中止し、核物質バランス異常の確認のため実施した20日のカメラ検査により前処理工程の供給清澄セル内で破損した配管が発見された。当該配管は計量槽に使用済燃料溶解液を供給する配管で、その破損により大量の使用済燃料溶解液(ウラン硝酸溶液)がセル(ステンレスで内張りされたコンクリートセル)内に漏えいし、セル内の鋼製架台を腐食した。漏えい量は約83立方メートルであった。内容物の重量測定ができるよう4本のロッドにより吊り下げ支持された計量槽に接続する配管が、計量槽の変位に起因する金属疲労により計量樽のノズルで破損したものである。吊り下げ支持された計量槽は施設内にはこれだけであり、作業従事者の被ばくはなく、周辺環境への放射性物質の放出はない。セルは、流出液体を設計どおり収容できており、セルからの漏えいはない。セル床面の溶液は6月にポンプで回収され、セル内のバファー貯蔵タンク内に保管された。漏えい事象の経緯と評価は次の通りである。
(1)事故の経緯:THORPの前処理建屋内の供給清澄セル内の2基の計量樽の一方に接続された直径4cmの配管が破断した。流出したウラン硝酸溶液は、約83立方メートルで、その中には、ウラン約19トン(プルトニウム約200kg)が含まれていた。セル内の鋼製架台の一部も溶けて壊れていた(図1参照)。
 計量槽の変位により、計量樽頂部に接続された配管が金属疲労で破断した。吊り下げ支持された計量樽の横方向の変位拘束は地震対策の設計変更で機能せず、配管に想定異常の応力を発生させていた。
 配管の損傷は2004年8月頃から始まり、2005年1月中旬頃に配管は破断し大量の溶液漏えいに至っていたと判断された。漏えいが始まってから8か月間、セルサンプリングや水位計測により、さらには溶液量が減少していたはずであったが異常を認識できなかった。
(2)プラント内の金属疲労の可能性の総点検、プラントの異常を示すセル計装等に対する保守・検査・信頼性の改善、教訓が実践されるプラント内の操業慣行の見直しが必要とされた。原子炉施設の事象の国際評価尺度(INES)は、作業員や周辺環境に影響はないが大量の放射性物質の漏えいを伴う重大な事象として、レベル3(2005年5月11日)と評価された。
(3)調査委員会(Board of Inquiry)が組織され、2005年6月に報告書を発行した。原因究明と勧告がなされている。勧告のうち11項目は、主にセル計装(異常表示)とプラント内の操業慣行に関するもの、その他4項目は、金属疲労評価と設計課題に関するもので他の分野へも適用される。一方、NIIの検査の結果、漏えい検出装置ならびに装置操作マニュアルおよび警報対応に関する改善通達と49項目の勧告がなされた。
(4)2006年10月16日、カーライル刑事裁判所において、THORPの漏えい事象に対するHSE(保険安全執行部)の提訴を受け、作業員や公衆に被害はなかったが、看過できない重大な運転上の過失があったとして英国原子力グループ(BNG)に50万ポンドの罰金が科された。BNGは施設の所有者である原子力廃止措置機関(NDA)との契約に基づき、再処理工場を運転している。
(5)NIIの勧告に対応した再開の準備が完了し、現在、規制当局の審査が行われており、操業開始は2007年以降の見通しである。なお、日本から軽水炉使用済み燃料約2700トン・ウランが再処理委託され2001年6月搬出済みである(図2参照)。
3.六ヶ所再処理工場における対応
(1)六ヶ所再処理工場では、THORPの計量槽のように吊り下げて重量を測定するタイプの貯槽はない。
(2)THORPの計量樽は、六ヶ所再処理工場では、清澄機で不溶解残渣を除去した後の計量・調整槽に対応すると考えられる。不溶解残渣を除去した後の溶解液を移送する配管は耐酸性を有するステンレス鋼製であり、また、配管の接続は溶接構造としており、漏えいし難い。
(3) 万一、漏えいがあった場合に備えて、例えば、計量・調整槽を収納する計量・調整槽セルにはステンレス鋼製の漏えい液受皿を設けるとともに、漏えい検知装置(二重化)を設置している。また、漏えい液を回収するためにスチームジェットポンプ(二重化)を設置している。なお、この設備で取扱う溶解液の漏えいでは、量によらず臨界のおそれはない。
(4) セル内の空気は高性能粒子フィルタ等で放射性物質粒子を除去した後、主排気筒から放出される。
4.英国における原子力の安全規制
 図3に英国における原子力の安全規制を示す。原子力産業を含むすべての産業安全の規制責任は保健安全委員会(HSC、委員長1名、委員9名)が所掌している。HSCの執行機関である雇用・年金省(DWP)の保健安全執行部(HSE、原子力安全局の職員は約270名)が、事業者への許認可権限を持ち、また、HSC の下の諮問機関として、原子力安全諮問委員会(NuSAC)、電離放射線諮問委員会(IRAC)があり、HSEに対し、それぞれ専門的かつ技術的に助言している。
 1946年に制定された「原子力法」は、わが国の原子力基本法に対比して位置付けられる法律で、原子力施設の実質的な安全規制は、HSC、HSEの設置と権限等を定めた「労働保健安全法」(1974年)、原子炉の設置、運転等の規制法である「原子力施設法」(1965年)に基づき実施されている。その他関連法としては、「放射性物質法」(1993年)、「原子力公社法」(1954年)、「放射線防護法」(1970年)等がある。
 英国では、マグノックス炉閉鎖計画等により現在22基の原子力発電所が閉鎖され、放射性廃棄物の処分と原子力施設のデコミッショニングの問題が重要となってきた。2004年7月、エネルギー法が成立し、原子力債務を管理するため原子力廃止措置機関(NDA)が設立され、放射性廃棄物の処分と原子力施設のデコミッショニングに関する安全規制上の対応が進められている。現在23基、1,185万kWの原子炉が運転中で、原子力発電は全発電電力量の約20%(2005年)を占めている。
<図/表>
図1 THORP前処理工程供給清澄セル内の計量樽と鋼製架台
図1  THORP前処理工程供給清澄セル内の計量樽と鋼製架台
図2 THORP再処理工場の概観写真
図2  THORP再処理工場の概観写真
図3 英国の原子力安全規制体制
図3  英国の原子力安全規制体制

<関連タイトル>
世界の再処理工場 (04-07-01-07)
使用済燃料の受入、貯蔵 (04-07-02-01)
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)
イギリスの再処理施設 (04-07-03-09)
イギリスの再処理施設における放出放射能低減化 (04-07-03-10)
世界の再処理施設における火災・爆発事故 (04-10-03-03)

<参考文献>
(1)World Nuclear Association :Information/Nuclear Power in the United Kingdom November 2006, http://www.world-nuclear.org/info/inf45.html
(2)British Nuclear Group : Media Centre、Latest News 10 February 2006、29 July 2005、27 May 2005
(3)Board of Inquiry Report : Fractured Pipe With Loss of Primary Containment in The THORP Feed Clarification Cell(26 May 2005)
(4)原子力委員会:新計画策定会議(第28回) 参考資料5 英国ソープ再処理工場の放射性溶液漏えいについて(平成17年6月7日)
(5)原子力委員会ホームページ:平成7年度原子力白書、第2章、内外の原子力開発利用の現状、6.核燃料リサイクルの技術開発(参考諸外国の動向)
(6)原子力安全委員会ホームページ:平成17年度原子力安全白書
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