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<概要>
 プルトニウム239が中性子1個を吸収した時の平均中性子発生数ηは、熱中性子領域で2.11、高速中性子領域では2.49であり、中性子経済の観点からは、プルトニウムは熱中性子炉よりも高速炉での利用において優れた特性をもつ核燃料物質である。核的性質として、ウラン235に比べて遅発中性子の割合が小さく、また、中性子吸収が多いため即発中性子寿命が短い。そこで、原子炉の制御性の観点からこうした特性を踏まえた設計が行われている。化学的には、プルトニウムは5種の原子価を持ち、水溶液中で錯イオンの生成や重合等、複雑なイオン挙動を示す。特に、4価のイオンの重合でできた大きな錯体は濃硝酸に対しても難溶性である。原子炉燃料として用いる場合、プルトニウムはウランと混合して利用され、これまで、高速炉のほか軽水炉においても酸化物燃料の形態で用いられてきた。高速炉用としては、炭化物、窒化物、Zr合金等も増殖性が高いほか、それぞれ固有の長所を有しており、将来の燃料形態として研究されている。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
1.核的性質
 プルトニウムの原子核1個が核分裂すると約200MeVのエネルギーを発生し、これは235Uが核分裂した場合とほとんど差はない。しかし、この他の核的性質にはかなり異なる面があり、これが原子炉で燃料として利用する際に技術的な違いが出てくる理由である。
 熱中性子による1回の核分裂で放出される中性子の数νは235Uの場合は、表1に示すとおり平均2.44個であるが、239Puの場合は平均2.88個で0.4個以上大きい。核分裂する際には先ず中性子が原子核に吸収され、次に原子核の分裂が起こるが、中性子を吸収した原子核のすべてが分裂するわけではなく、一部はγ線を放出して高次の同位体に変わる(中性子捕獲という)。例えば、239Puが熱中性子を吸収した場合、27%の確率で中性子捕獲を起こして240Puに変わり、73%の確率で核分裂する。したがって、核分裂に役立たず中性子捕獲で失われるものがあることを考慮する必要があり、中性子1個を吸収した際に平均的に新たに発生する中性子の数η(<ν)が、実際に核分裂連鎖反応で利用できる中性子の数を表す。炉外への中性子の洩れを考慮すると、ηが1.2以上であれば連鎖反応(臨界状態)が維持できる。また、燃料の増殖が可能となるためには臨界状態を維持しながら、さらに中性子1個が238Uに吸収されて239Puに転換する必要があるため、ηは2.2以上の値を取る必要がある。
 代表的な核分裂性物質のηの値を中性子エネルギーの関数として図1に示す。核分裂で放出された中性子のエネルギーは最大期待値1MeV程度、平均値2MeV程度の大きなエネルギーを持つが、原子炉の中では次第に減速し、軽水炉ではいわゆる熱中性子のエネルギー領域(0.025eV程度)まで低下する。酸化物燃料を用いた場合の高速炉ではエネルギーの減少は少なく、0.1MeVまでである。この両ケースのηは、235Uが熱中性子エネルギー領域で2.09及び高速中性子エネルギー領域で1.92であるのに対し、239Puはそれぞれ2.19及び2.49で、239Puの方が高エネルギーにおけるηの増大は顕著である。241Puもほぼ239Puと同様な傾向を示している。したがって、235Uはどの中性子エネルギー領域でも増殖性がないといえる。
 図1から、熱中性子エネルギー領域では232Thから生成する233Uが唯一増殖の可能な核種であることも分かる。また、中性子エネルギーが高くなるとηの値は急激に大きくなり、例えば1MeVになると、特に239Puと241Puのηは3に近い値にまで上昇する。これは、プルトニウムが高速増殖炉の燃料として最も適していることを意味する。なお、酸化物燃料に比べると、金属燃料、あるいは炭化物、窒化物形態の燃料を用いた場合には中性子があまり減速されないので、炉内の中性子エネルギー分布が高エネルギー側にシフトし、増殖性がより高くなる。
 この他、プルトニウムの核的性質として重要なのは遅発中性子の発生割合が小さいことで、例えば、熱中性子に対して235Uの核分裂当りの遅発中性子の発生割合は0.7%であるのに、239Puは0.2%と半分程度である。さらに、MOX燃料239Puと241Puはウラン燃料中の235Uよりも中性子吸収が多く、即発中性子寿命が短い。(燃料による中性子吸収が多いため、制御棒による吸収がその分少なくなる。)これらは原子炉の制御に関係する重要な特徴であり、MOX燃料を用いる炉ではこれらの特性を踏まえた設計によってウラン燃料炉心と同等の制御性が確保されている。
2.化学的性質
 プルトニウムはアクチニウム系列の6番目の元素で、最外殻の6dと5fと電子間のエネルギー差が非常に小さいため、複雑な化学的挙動を示す。5種の原子価を持ち、最大値は+7、最小値は+3で、最も安定なのは+4価である。すべての電荷は5fの電子の除去による。イオン半径は原子番号とは逆順に、Th、U、Npより小さくAmより大きい。
 水溶液中のプルトニウムの性質は非常に複雑で、3、4、5及び6の4種類の原子価が共存することができ、錯イオンの生成、イオンの加水分解、イオンの重合を容易に起こす。原子価の共存は核外電子の特徴に起因して4種類の原子価の酸化還元電位が非常に近いためである。例えば、過塩素酸HClO4溶液中のプルトニウムはPu3+、Pu4+ 、PuO2+、PuO22+の4種の化学種が共存する。その他、7価のイオンはアルカリ性で、PuO53-の形で存在するが不安定である。(注:錯体は金属原子を中心原子として他の原子又は原子団(配位子という)が結合した状態の原子集団をいう。中心原子は金属類似元素の原子、非金属原子の場合もある。配位子は通常陰イオンであり、中心原子の電荷と打ち消し合っていない時には錯体は電荷を持ち、錯イオンと呼ばれる。)
 プルトニウムの錯イオンを作る錯体生成定数の高い陰イオン(アニオン)は4価ではOH-及び PO43-、6価でCO32-であるが、これは同時に難溶性の錯体を作り易い。中でもOH-イオンとの錯体形成は最も生成定数が大きい。
 プルトニウム・イオンの重合は水和(水分子との配位結合)が前提になる。重合はウランやトリウムにも認められているが、4価のPuの場合は強い重合傾向があるので、簡単に巨大イオンになり、しかもほとんど不可逆性、すなわち、難溶性となる。一度重合すると濃硝酸中で1時間沸騰しても半分程度しか溶解しない。
 この性質のためプルトニウムの湿式分析では、事前処理を誤ると溶解不十分なため過少な値を与えることがある。また、MOX燃料の再処理に当たっては、燃料ペレット中にスポット的にプルトニウム濃度の高い部分が散在して、100%PuO2またはそれに近い部分があると、不溶解残渣として溶け残ってしまう。一般に、MOXの場合Pu含有量が30%までならば溶解可能であると言われている。
3.プルトニウム化合物の性質
 これまでに、フランス、日本、ロシア等で建設された原型炉規模の高速炉には酸化物燃料が使用されている。これはウラン及びプルトニウムの混合酸化物が、(U,Pu)O2の形で高い融点をもち、融点まで相変化が無いこと、冷却材や被覆管との優れた両立性を持つこと、ウラン及びプルトニウムが全率固溶すること等の、核燃料としての物理的化学的性質が優れているためである。
 プルトニウムの酸化物は、常温ではPu2O3及びPuO2の形が知られているが、いずれも非化学量論的(non-stoichiometric)である。MOX燃料として用いられる二酸化物も高温では酸素量が減少する。PuO2は融点が約2400℃で UO2の2800℃以上と比較するとやや低い。PuO2は、UO2と同じ 蛍石型の結晶を作り、両者は高温まで全率固溶する。混合酸化物の場合は、MO2±X(M=Pu+U)が可能であり、広い単相領域が存在する。酸素と重金属の比(O/M比)に依存して物性が変化するが、燃料として用いられているのは O/M=1.00〜1.95が多い。
 プルトニウムの炭化物は、PuC、PuC2、Pu2C3、Pu3C2の4種が確認されている。燃料として用いられるのは、前二者が同化学型のウランの炭化物と固溶して用いられる。その中でNaCl型 の(U,Pu)Cが高速炉用として、また、(U,Pu)C2は高温ガス炉用として用いられるが、いずれも未だ試験開発段階である。
 プルトニウムの窒化物としてはPuNだけが知られている。これも炭化物と同様にウランとの混合窒化物は(U,Pu)Nの結晶形となる。炭化物燃料と窒化物燃料はMOX燃料と比較して、熱伝導度や重金属密度が大きく、より増殖性に富み、経済性に優れていると考えられており、将来の高速炉用燃料として期待されている。
 一方、金属プルトニウムは常圧で、低温側からα、β、γ、δ、δ′及びεの6相があり、それぞれの間の変態点は、115、185、310、452、480℃で、融点は 640℃と低い。したがって、単体金属は核燃料としては使用不可能である。しかし、合金化によって融点を高くし、また、使用温度までの変態も起きないようにすることができるので、合金の形で高速炉燃料に用いることは可能である。代表的な金属燃料としてはU-Pu-Zr合金がある。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 核分裂性核種の諸性質
表1  核分裂性核種の諸性質
図1 核分裂性核種の中性子発生数η(E)
図1  核分裂性核種の中性子発生数η(E)

<関連タイトル>
プルトニウム核種の生成 (04-09-01-01)

<参考文献>
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(11)出口守一 : 第4章 核燃料サイクル計画・最新報告、最新核エネルギー論、学習研究社(1990年4月)
(12)「極限燃料技術」研究専門委員会 : 核燃料工学−現状と展望−、日本原子力学会(1993)
(13)河田東海夫、岸本洋一郎:プルトニウム燃料の開発、動燃技報、No.100、p159-182(1996.12)
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