<本文>
(1)
表1と
表2にウランの性質を示す。ウランは四価または六価の状態で天然に存在するが、六価のときは、酸素と結合してウラニル基を作っている。ウランは四価の元素として独立の鉱物を作るほかに、
トリウム、
ジルコニウム、
希土類元素などを置換し、酸化物、複合酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、などとして産する。四価のウランは、容易に酸化して六価となり、ウラニルイオンを作る。これは、さらに
表2のような化合物を形成する。(2) 水と共存する場合の四価および六価のウランの安定関係については、ガリ−スが基礎的な研究をしている。その結果をまとめて図示する(
図1)。
ふつう大気と共存している天然水の酸化還元電位は+0.1〜 0.3の範囲にあるから、地表水と共存する場合には、四価の二酸化ウランは強酸性でないかぎり不安定で、六価の水酸化物が安定である。六価の無水の酸化物は理論的には安定でない。地下の岩石中に飽和している地下水では、酸化還元電位が0.0に近い。この場合、
pH6以下の酸性の領域では二酸化ウランが安定で、中性およびアルカリ性の場合は六価の水酸化物が安定である。また有機物と共存する地下水では、酸化還元電位が−0.5ぐらいにまで下がることがある。このような場合には常に二酸化ウランが安定である。またこのような条件では、有機物中のイオウから硫化水素を生じ、それから硫化鉄をはじめとする種々の金属硫化物ができる。世界の主要なウラン
鉱床は、このような環境のもとで生成されたものである。水中に溶解しているウランイオンについては、地表水では常にウラニル基が四価ウランよりも優勢であり、地下水でも、強酸性か、または強還元性の場合を除いてはウラニル基が優勢である。しかしながら、いずれもイオンの溶解度も、中性およびアルカリ性領域においては、問題にならない程度に低い。
(3) 六価のウランは酸素と強く結合してウラニル基を作り、溶液の中でも、結晶の中でもその結合を保持している。結晶の中で四価ウランを置換して混入するトリウムやイットリウムなどの希土類も、ウラニル基の中の六価ウランを置換することはできないので、ウランがウラニルの形で入っている結晶は、トリウムや希土類を含まない。人形峠鉱床では、ニンギョウ石が酸化されてリンカイウラン石になる過程で、四価ウランがウラニル基になるとともに、前者の一部を置換していた希土類がウラン鉱物から駆逐されているのが見出された。
ウラニル基は紫外線によって緑色系の
蛍光を発する。これがウラン鉱物の鑑定や鉱床の探査に役立っている。ウラニルイオンは、いろいろな陰
錯イオンを作り、それらは、一般に水によく溶解するので、風化作用にともなうウラン溶脱に大きな働きをするし、また鉱石からウランを抽出する場合にもこの性質が利用されることがある。天然水中に存在するとおもわれる錯イオンは
表2のようなものである。
とくに炭酸ウラニルイオンは、アルカリ性でもpHが11以下ならば安定である。花崗岩地の地下水では、この形でウランが溶解していることが多いと考えられ、それから沈澱してできたウラン鉱床ではホウカイ石を伴う。また硫酸塩水では硫酸ウラニルイオンの形で溶存し、それから沈澱してできたウラン鉱床ではセッコウを伴う例はコロラド高原でも、人形峠でも知られている。
また土壌の置換能力は、陰イオンの方が陽イオンより勝っているので、一般の金属イオンは水溶液として遠く運び去られる場合でも、ウランは付近の土壌中に吸着されて残留する率が大きい。このことはウランの地化学探査にとって非常に有利であり、土壌中の微量のウランを追跡して鉱床の所在の手がかりを得ることができる。
(4) 炭酸イオンや硫酸イオンを溶解している地表付近の循環水が、ウランを溶脱する働きを持っている。また、花崗岩のように比較的ウランを多く含む岩石では、その含有ウランの半分くらいは、溶解され易い形で存在する。したがって地表付近の循環水中には、かなりの量のウランが含まれているものと期待される。アメリカ合衆国地質調査所では、地下水中のウランを全国にわたって定量し、その結果を10地区に区分して統計的に処理している。その結果によれば、平均ウラン濃度の一番低いのは大西洋岸およびメキシコ湾岸地区で、ウランとして 0.2mg/tであり、それについでは太平洋岸地区の 0.3mg/tである。一番高いのはロッキー山脈東側の平原地区で、平均値が 2.1mg/tであった。
日本では、局部的なデータしか得られていないが、大体アメリカで一番低い地区の値に近いようである。
地区別の平均値を大観してみると、地下水中のウランの濃度は主として降水量と蒸発量とに支配されているようである。すなわち湿潤な地区では低く、乾燥地区では高い。この関係はソ連の天山山脈地方での研究結果によっても示された。天山の例によれば、年降水量550 mmくらいの山地では、湧水中のウラン濃度は1mg/t以下であるが、乾燥した内陸盆地の水では一般にn×10mg/tとなり、塩分を析出しつつあるような流出口のない沼沢地では2.9g/tに達した例がある。これはウラン鉱床内を通過してきた水の中のウラン濃度と比較しても高い方に属する。
海水中のウラン濃度は 2mg/tであって、陸水の平均値にくらべると高い。海水のpHは一般に 7.5〜 8.4の範囲にあり、炭酸ガスが常に溶存するので、ウランはおそらく炭酸ウラニルイオンの錯イオンとして、安定した状態で溶けているので、普通の状態ではこれが沈澱する機会は少ない。強い還元環境になって、ウランが四価に還元されるような場合に始めて沈澱する。そのような環境は、水が停滞して遊離酸素が欠乏し、生物の遺体は、不完全分解を行い、嫌気性のバクテリアが活躍する所である。ここでウランが沈澱濃集される可能性があるわけで、事実世界の主なウラン鉱床は、そのような環境で生成されたと考えられる。このような環境で生成された堆積岩中のウラン鉱床には、常に有機物が共出するばかりでなく、その有機物の部分にウランが特に濃集していることも稀ではない。
ウランを多量に含む有機物の大部分は、いわゆるチュコライトまたは“Uraniferous asphaltite”などと呼ばれているものである。黒色の粉状または塊状であって、堆積岩の粒子の間隙を埋め、ときにはその構成鉱物の一部と交代して産する。
生物組織のなごりは全くなく、化学組成も生物体と異なる。これらの点から考えて、チュコライト類は水中に溶解または懸濁していた有機物が沈澱凝固したものと考えられる。その際ウランが
共沈して、その後長年にわたる
放射線の影響で
重合が進んだものであろう。このような有機物の起源については、腐植説と石油説とがあって、論争が続いているが、産状を考慮に入れると、おそらく両方の場合があるのであろう。
チュコライト類とは別に、炭化木や泥炭、亜炭などにウランが濃集している例も多い。日本でも、人形峠地区や宮城県大内炭田などで、その例が研究された。
ハンガリーでは天然水中のウラン濃度は1〜3mg/tであるが、泥炭中のウランは60〜200g/tである。しかし炭化が進んで亜炭や
褐炭になると、その中のウランは、もはや塩基置換などで溶出してなくなる。これは、おそらく炭化と平行してイオンが還元固定されるためと解釈されている。ウランの濃集に吸着作用が貢献する例は、腐植のような有機物に限られたわけでなく、水酸化鉄リン鉱および粘土鉱物などにも吸着能力がある。とくに粘土鉱物は堆積岩中に広く分布しているので、その働きは重要な意味を持っている。
(5) 一般に地下水面以上にある水は、大気から供給された遊離酸素を含んで、酸化環境にあるが、地下水面下しばらくで電位は0となり、それ以下では還元環境となる。有機物が多量に含まれていると、地下水面下比較的浅いところで還元環境に達し、しかも酸化還元電位は−0.5ぐらいにまで降下するが、有機物がなければ0に近い値である。したがって地下水面以上では、ウランは酸化されて六価となり、普通の天然水には炭酸根が含まれているから炭酸ウラニルイオンの形の錯イオンとなって溶解する。しかしそれは土壌中に吸着され易いので全部は溶脱されない。もしリン酸根、ヒ酸根、バナジン酸根または硅酸根などが反応し易い形で存在すると、
表3のような一般式で示されるウラニル化合物が生成され、その中には、地表付近の酸化環境で安定な鉱物も少なくない。 最も代表的なウラン鉱物は燐灰ウラン石である。
(6) 火成岩中のウラン含有率は、火成岩の化学組織に関係していて、塩基性火成岩すなわち珪酸分の低い火成岩では、ウランの含有率が低く、酸性岩では高くなる傾向がある。最近までに報告された値は
表4の範囲に入るようである。同じ花崗岩体の中でもウラン含有率が部分によりかなり変動する。また花崗岩中のウランの半分に近いものが、造岩鉱物の結晶の割れ目や境界面に沿って、抽出され易い形で分布している。これはウランが花崗岩のマグマの残液中に濃集したことを物語る。気成鉱脈では、脈の両盤に発達するグライゼンの中に、
モナズ石その他のウラン・トリウムを含む鉱物が濃集していることがあるが、その品位はあまり高くない。花崗岩、ペグマタイト、グライゼンを通じて、ウランは常に四価の状態で、トリウムと密接に相伴って産する。
熱水鉱脈になると、高品位のウラン鉱床が少なくないが、トリウムはほとんど伴わない。ウランは大部分が
ピッチブレンドとして、また一部コフィン石として存在する。現在地表に湧出している温泉には、
放射能の高いものも少なくないが、ほとんどが
ラドンに由来するもので、ウランを多量に含有する例はほとんど知られていない。温泉沈澱物の放射能は、
ラジウムによるものが多く、ウランを多量に含む例は知られていない。
(7) 火成岩中のウランが風化浸蝕作用を受けて、種々の堆積岩中に分配されるものとすれば、火成岩中のウランの平均含有率と堆積岩中のそれとは、ほぼ一致するはずである。最近の資料によって計算した結果は
表5のようで、大局的にほぼ均衡していると見てよい。火成岩が風化作用を受ければ、ウランが循環水中に溶出する。この際難溶性の鉱物中に存在するウランは、ほとんど変化を受けないで残留する。これら残留物が浸蝕運搬されるとき、運搬堆積されて泥岩中に入る。このようなウランの輪廻を概念図、
図2に示した。
<図/表>
<参考文献>
(1) 日本学術振興会、ウラン・トリウム鉱物研究委員会(編):『ウラン−その資源と鉱物』、昭和36年