<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 次世代再処理法の選定において最も重要な点は、その方法における元素の化学状態の制御と各工程の化学条件の制御の容易性である。湿式再処理では各元素の価数による錯形成の差、乾式再処理ではそれらの溶融塩中の酸化還元電位の差を利用してアクチニドを分離する。従ってこれらの化学挙動を支配する高精度の平衡定数などの基礎データの拡充が必要である。高レベル放射性廃棄物地層処分の研究開発と事業化に向けての制度的な準備、それと並行してTRU廃棄物をはじめ低レベル放射性廃棄物についての技術検討が、原子力開発利用長期計画(長計)のもとで計画的に進められている。また今後も継続的に原子力利用を続け、核燃料リサイクルをさらに積極的に進めるため、発生する廃棄物の量的削減と安全性の面から「環境負荷の低減」を図る核燃料サイクル概念の研究も行われている。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
(1)再処理に関する現状と課題
 次世代の高速炉燃料再処理および軽水炉燃料再処理の候補として、様々な再処理法についての研究や検討が進められている。検討対象となっている主要な方法は、(1)ピューレックス法を合理化した先進湿式再処理法、(2)塩化物溶融塩を用いた酸化物燃料再処理技術(RIAR法)、(3)塩化物溶融塩を用いた金属燃料再処理技術(ANL法)、(4)フッ化物揮発法、などである。再処理工程を選定する上での重要な基準は、燃料への適用性、分離精製、FPの固化処分の安定性、工学規模への適応性、制御性・安全性など多岐にわたる。しかし化学処理工程として考えた場合、最も本質的には「主要な元素の化学的条件による制御」と「各工程の化学的な条件の制御のしやすさ」を基に判断されるべきである。
 アクチニド元素の化学的な回収や分離のメカニズムを湿式と乾式に分けて、図1−1および図1−2に模式的に示しす。湿式の分離系では、アクチニドイオンの持つ有機および無機配位子との錯体の作りやすさ(錯形成)の差を分離に利用し、特に、3価〜6価までの異なる原子価状態間での錯体形成の大きな違いを利用する。従って湿式再処理では、対象元素の原子価状態の制御の信頼性がそれらの化学挙動の制御を決めるため、その代表格としてのPUREX法は、アクチニドの原子価制御を溶媒抽出と組み合わせた非常に巧妙な分離法であると言える。同じ原子価を持つ元素を分離する場合、それらのイオン半径の違いに起因する錯形成の違いを利用する事が多いが、その差はあまり大きなものではない。そこで、共有結合性の違い(軟らかさ)を積極的に利用できる有機リガンドを開発するなどして高い分離係数を実現する試みが続けられている。一方、溶融塩を媒体として用いる乾式再処理では、図1−2に示したように、溶存するアクチニドイオンを還元することによって金属や酸化物などの生成物を直接得るため、酸化還元電位の差が基本的な分離性能を左右する。溶融塩中の反応物と生成物の自由エネルギー差は、単体が溶融塩に溶解する際の過剰自由エネルギーに相当する溶融塩中でのアクチニドイオンの活量係数や、アクチニド金属が液体金属と合金形成する際に発生する過剰な自由エネルギーが含まれる。従って、これらは乾式系での平衡定数を大きく左右する。
 アクチニドイオンの存在状態は多種多様である。図2の左部分は、酸性度10Mの湿式の水溶液中での軽アクチニド元素の原子価状態を、溶液の酸化還元電位の依存性として示したものである。水溶液中では、水および水素イオン共存下の酸化反応によって、低原子価種から5価や6価のイルイオン(アクチニルイオン)(UO2、UO22+)が生成する。この反応では水素イオンが関与するため、アクチニドの5価や6価の存在は溶液のpHに大きく影響される。また、より低い酸性度の領域では6価や4価のアクチニドイオンは、水酸化物や含水酸化物として沈殿する。これに対して、塩化物溶融塩系では(図2の右部分)、酸素ガスの共存がアクチニドの原子価状態に大きな影響を与える。塩化物溶融塩中では、酸素ガスと塩化物イオンとの反応によって酸素イオン(O2−)が生成し、5価や6価のイルイオン(アクチニルイオン)の安定性は、酸素イオンの濃度(pO2− = −log[O2−])に強く依存する。また、酸素イオン濃度が高いと、3,4,6価の酸化物や塩化酸化物の沈殿が生成する。いずれの系においても、様々な溶液条件下でのアクチニドの化学平衡の基礎的情報(Pourvaix図など)が整備されていることが重要である。
 湿式再処理および乾式再処理における対象元素の化学挙動を十分に信頼性高く評価し予測するには、それぞれの反応に関して信頼性の高い基礎データが必要である。このような化学的な基礎データは、(1)化学平衡を表現するための定数(平衡定数、相分配係数、活量係数等)、(2)反応の動的な特性を表現するための定数(反応速度定数、拡散係数等)、に大別され、平衡定数の表現の仕方としては、(1)熱力学的平衡定数(希薄状態や単体状態など標準状態において活量ベースで定義される)、(2)実際の条件下における見かけの平衡定数(濃度平衡定数として定義されることが多い)、に大別される。熱力学的平衡定数を実際の非理想的な現実の系に適用してゆくためには信頼度の高い活量係数が不可欠であり、これらのデータが包括的に整備されることが強く望まれる。また平衡定数だけでなく、定量分析の基本となるべき元素固有の特性データ(吸光スペクトルやモル吸光係数、発光量子収率、電気化学分析の基礎データ等)は、平衡定数や速度定数を定める上で分析の基礎として不可欠なだけでなく、再処理工程分析の基本ともなるものであり極めて重要である。アクチニドの原子価間での酸化還元反応速度に限界のあることが多いことが一つの例であるが、アクチニドの反応速度定数として信頼性の高いものも強く望まれる。また、溶媒抽出にせよ乾式再処理での電極反応にせよ、分離回収の過程が、拡散などの物質輸送律速となっているケースが多く、拡散係数として信頼できるデータが望まれる。
 アクチニドの化学データに関しては、その数が限られているだけでなく複数の報告値があっても一致しない場合が多い。これは、分析の難しさや不純物の影響などに加えて、微妙な化学的な実験条件の違い等が影響しやすいためと考えられる。アクチニドの化学データの多くがかなり昔に取られていること、乾式再処理や新湿式再処理などの新しい再処理研究においては過去にない条件が求められることなどを勘案すると、実験条件を最新の手法や装置を用いて慎重に制御した上での基礎データの再確認が求められる。総括すると、今後の再処理の高度化のためには、アクチニドの基礎化学データの一層の拡充が強く求められていると言える。
(2)廃棄物処理・処分にに関する現状と課題
 現在、高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究開発と、事業化に向けての制度的な準備、それと並行してTRU廃棄物をはじめ低レベル放射性廃棄物についての技術検討が、原子力開発利用長期計画(長計)のもとで計画的に進められている。
 高レベル放射性廃棄物については、まず、その地層処分の成立性や信頼性を評価するため、処分の対象となる廃棄物の特性、特に廃棄物に含まれる放射性核種の種類、量などを明確にする。その上で、適用される処分の方法すなわち埋設深度、人工的なバリアの併設の有無などを想定して、一定の安全評価が行われたところである(参考文献1)。この評価においては、処分された廃棄物から放射性核種が地層中を移行し、拡散して生物圏に到達するシナリオに沿った解析が行われ、長期にわたり有意な線量影響を示す核種とその長期の時間変化が予測されている。その結果、9種の核分裂元素を含む20あまりの核種が、処分後の影響を考える上で着目すべき核種として扱われることなどが報告されている。この報告に引き続き、軽水炉サイクルを主眼にした放射性廃棄物対策とその技術的裏付けに関する諸作業が現在着実に進められている。
 一方で、今後も継続的に原子力利用を続け、核燃料リサイクルをさらに積極的に進めるという視点から、発生する廃棄物の量的削減と安全性の面から「環境負荷の低減」を図ることが一層重要と考えられている。不純物を含有する低除染燃料を使用可能とする高速炉サイクルにおいては、再処理によってプルトニウムやウランを高度に除染するとともにその他の物質をサイクル外へ除去する、という必要性が低い。そこで将来の実用化技術として、除染係数が低く、またTRUの回収を行う再処理技術を特徴のひとつとする高速炉による先進的なリサイクルが検討されている(参考文献2)。ここで検討されている再処理技術はいずれも低除染型であり、従来のPUREX法を合理化・高度化した先進湿式法や酸化物電解法・金属電解法等である。また高速炉の特徴を活かし環境負荷低減を図る観点から、長寿命FPの核変換や分離により、放射性廃棄物の毒性低減も検討されている。このような高速炉サイクルでは従来型の軽水炉サイクルに比べ、高レベル廃棄物のガラス固化体の発生量や潜在的毒性を大きく低減できるという魅力を持っている。このため、高速炉の先進リサイクル研究開発においては、まずサイクル関連施設から発生する廃棄物の削減のため工程の簡素化やプロセスへの新規技術の導入をはかり、併せて従来廃棄物としていたマイナーアクチニド核種をMOXリサイクル燃料として利用する等、具体化に向けた検討が進められている。
 高速炉サイクルの特徴を活かしさらに飛躍的な環境負荷低減性の向上を図る観点から、「必要なものを高い純度で回収する」という従来型のサイクル概念から「邪魔なものだけを取り除く」へと発想を転換し、新しいリサイクル概念としてORIENT(Optimization by Removing Impedimental ElemeNTs)サイクル(参考文献3)なども提案されており、図3に示すような一連の分離処理プロセスにおける核種の移行、燃料や廃棄物の安定性等のデータを取得し、それらをデータベース化していくことが望まれている。
<図/表>
図1−1 湿式の分離系
図1−1  湿式の分離系
図1−2 乾式の分離系
図1−2  乾式の分離系
図2 水溶液および塩化物溶融塩中でのアクチニドの原子価状態
図2  水溶液および塩化物溶融塩中でのアクチニドの原子価状態
図3 新リサイクル“ORIENT−Cycle”の概念
図3  新リサイクル“ORIENT−Cycle”の概念

<関連タイトル>
再処理の概要 (04-07-01-01)
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
わが国の高速炉燃料乾式再処理技術の開発 (04-08-01-06)
金属燃料の再処理 (04-08-01-03)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)各論 (10-01-05-04)

<参考文献>
(1)核燃料サイクル開発機構:「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ−」(2000).
(2)野田 宏 他:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」、日本原子力学会誌、Vol.43、p.858(2001)
(3)塚田 毅志 他:日本原子力学会「2002年秋の大会」予稿集、(社)日本原子力学会、M49−M51
(4)森山裕丈 他:「核燃料サイクルに関する物質科学研究の現状と課題」、日本原子力学会誌、Vol.45、No.10、p.613(2003)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ