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<概要>
 発電用高温ガス炉の実用化に向けた開発は、1960年代から1980年代の期間に、主として米国とドイツにおいて積極的に進められ、両国で建設された電気出力300MWクラスの原型炉の運転により、高温ガス炉の発電プラントとしての基本性能が実証された。それに併行して、1980年代前半には、原子炉固有の安全性を高め、炉心溶融、大量の放射性物質放出のおそれのない原子力プラントを目指したモジュール型高温ガス炉の概念が生まれ、その後の実用高温ガス炉の主流となった。モジュール型高温ガス炉の実用プラントはドイツ、米国において概念設計が終了し、予備的安全審査が実施された。いずれも蒸気サイクル発電プラントである。その後、ガスタービンを組み合わせた高温ガス炉ガスタービン発電プラントの開発が進められた。また、より高温(〜950℃)の熱をとり出せる試験研究炉が日本および中国で建設され、高効率のガスタービン発電の開発が進められた。

<更新年月>
2022年06月   

<本文>
1.発電用高温ガス炉開発の流れ
 高温ガス炉の開発は、従来、ドイツと米国を中心に進められてきた。発電プラントとしての基本性能は両国に建設された電気出力300MWクラスの原型炉THTR−300(ドイツ)およびフォートセントブレイン炉(米国)の運転により実証された。これらの原型炉はいずれもPCRV(プレストレストコンクリート製原子炉圧力容器)を用い、電気出力500MW〜1,000MW級の中型〜大型プラントを目指したものであった。米国において、1970年代前半には10基の大型プラントが発注されたが、1978年の石油ショックに伴う建設費の高騰、需要の低下のため、全てのプラントが相次いでキャンセルされた。その後1979年のスリーマイル島(TMI)事故による公衆の不安、その後の安全規制の強化による許認可期間の長期化と投資リスクの増大などを背景に、小容量モジュール化による原子炉固有の安全性向上、許認可期間の大幅短縮、投資リスクの低減をねらったモジュール型高温ガス炉の概念が作られた。ドイツのHTR-M(HTR-モジュール)と米国のMHTGRがその代表例で、原子炉モジュールと蒸気発生器を組み合わせた蒸気サイクル発電プラントである。両者とも予備的安全審査が行われたが、両国における原子力全般の停滞の中で、実用炉の建設には至らなかった。その後、中国において蒸気サイクル発電プラントの実証炉HTR-PMの建設が2009年から始まり、現在、2022年の全出力運転に向けた準備を進めている。
 一方、1990年代前半には、このモジュール型高温ガス炉とガスタービンを組合わせた高温ガス炉ガスタービン発電プラントの概念が生まれた。その代表例が米国のGT-MHRである。原子炉で加熱されたヘリウムガスで直接ガスタービンを駆動し、発電するという極めて単純な構成のプラントである。南アフリカ共和国においては、燃料形態が球状燃料を用いたペブルベッド型でブロック型燃料とは異なるが、同様のガスタービン発電プラントPBMR(Pebble Bed Modular Reactor)の設計が進められていた。日本においては、ガスタービン発電高温ガス炉GTHTR300およびコジェネレーション(熱電併給)をねらったGTHTR300Cの設計研究が進められている。以下、それぞれのプラントの概要を説明する。また、約950℃という高温の熱を原子炉からとり出し、高温の核熱利用技術の開発を目的の一つとした、日本の高温工学試験研究炉(HTTR)および中国の実験炉HTR−10についても簡単に触れる。

2.新型蒸気サイクル発電プラント
(1)HTR-M(HTR-モジュール)
 HTR-Mは、ドイツにおいて開発された蒸気サイクルのモジュール型高温ガス炉発電プラントであり、原子炉固有の安全性を特に高めた設計を特徴とする。HTR-Mの主要諸元と原子炉断面を図1に示す。
 原子炉は球状燃料を用いたペブルベッド型炉心である。事故時の崩壊熱は伝導、放射、対流の自然の原理によって原子炉室内面に設けられた水冷パネルに伝わり静的に除去される。炉心諸元は、高温ガス炉の優れた安全性特性を最大限活用し、原子炉固有の安全性を高めるよう次のような大きさに定めている。
1)原子炉の直径は、反射体領域に反応度制御要素を挿入するのみで低温炉停止が行えるようにするため、約3mとしている。
2)炉心の高さは圧力損失と軸方向出力分布の観点から約9.5mとしている。
3)さらに、原子炉の出力は仮想的な事故を想定しても燃料破損を全く起こさないで残留熱除去ができるように設計されている。すなわち、被覆粒子燃料は1600℃以下では破損は生ぜず核分裂生成物(FP)の被覆燃料粒子からの放出の増加がないので、事故時にも燃料温度がこの温度を超えないよう炉心平均出力密度を3W/cm3と低めに設定している。
 このような炉心設計諸元から単基の原子炉熱出力を約200MWと定めている。
 もう一つのHTR-Mの特徴は、原子炉容器と蒸気発生器を横に並べ(サイド・バイ・サイド配置)、この2つの容器の間を第3の圧力容器である連結圧力容器で接続したスリー・ベッセル構造をとっていることである。このことにより、1次系から大口径配管をなくし、配管破断による大量の空気侵入の可能性を排除している。このような設計により、仮に原子炉室内面に設けた水冷パネルを含む全ての冷却系の機能喪失時においても、原子炉からの自然の原理 (伝熱、放射、対流) による放熱のみで、燃料の健全性を損なうことなく崩壊熱は除去される。また、1次系ヘリウムの流量喪失事故もしくは減圧事故時に、仮に原子炉スクラムに失敗したとしても炉心のもつ負の反応度温度フィードバックにより原子炉は自然に停止し、燃料の破損も生じないという優れた高温ガス炉固有の安全特性を有している。その結果、炉心溶融のおそれがなく、耐圧気密の原子炉格納容器なしでも周辺住民の緊急避難は不要となっている。
 HTR-Mは、電力と産業用プロセス蒸気を供給する電熱供給プラントとして、ドイツ国内、ロシア、中国、インドネシア等でフィージビリティスタディが実施されたが、政治的、経済的理由により実現には至っていない。
(2)MHTGR
 MHTGRは、HTR-Mの基本概念を踏襲して米国において開発されたものである。その主要諸元および原子炉断面図を図2に示す。HTR-Mと同様な静的崩壊熱除去特性を維持しながら単基出力をできるだけ増大させることをねらった設計としている。ブロック型燃料を用い、炉心を円環状とすることによって、HTR-Mの出力200MWtに対し、450MWtまで出力を増大しても静的崩壊熱除去のみによって事故時の燃料最高温度を1600℃以下に維持できる設計となっている。
(3)HTR-PM
 HTR-PMは実験炉HTR-10をベースに中国で開発された実証炉である。熱出力250MWtのペブルベット型炉と蒸気発生器をそれぞれ2基設置し、1つの蒸気タービンで発電するシステムとなっている。主要緒言と原子炉断面図を図3に示す。電気出力は211MWeで発電効率は42%となっている。2009年に建設を開始し、現在、2022年の全出力運転を目指して、機能試験を実施中である。

3.ガスタービン発電プラント
(1)GT-MHR
 原子炉概念はMHTGRと全く同じであるが、蒸気発生器に替えてガスタービンを設け、原子炉出口の高温ヘリウムによってガスタービンを駆動し、発電を行うものである。図4に示すようにスリー・ベッセル構造をとり、動力変換容器から直接電気をとり出せるという極めて単純なシステムとなっている。
 原子炉出口温度すなわちガスタービン入口ガス温度は約850℃であるが、高性能コンパクト熱交換器で熱回収を行う閉サイクル・ガスタービンシステムの採用により45%を超える発電効率が得られる。
 MHTGRの環状炉心の形状・寸法を改良することによって、単基出力を600MWtまで増大できるとしており、単基出力の増大、ガスタービン採用によるシステム簡素化、発電効率向上により、天然ガスコンバインドサイクル発電プラントと経済的に競合できるとされている。2002年頃から、米国エネルギー省(DOE)はロシア原子力省と共同で国際共同プロジェクトを興し、ロシアの解体プルトニウムの燃焼用原子炉として、このGT−MHRの開発を進められたが、実現に至らなかった。
(2)PBMR
 1990年代半ばから南アフリカ共和国の国営電力会社ESKOMを中心に、ドイツの協力のもとにペブルベッド型炉心を用いた高温ガス炉ガスタービン発電プラントの設計検討が進められている。このプラントはPBMR(Pebble Bed Modular Reactor)と呼ばれる。原子炉の主要諸元および構成を図5に示す。プラント概念はGT-MHRと同様であるが、相違点は、炉心がペブルベッド型炉心であること、単基出力が約400MWtと小さいこと、動力変換容器が3つに分けられていることである。単基出力は小さいが、同一設計のモジュール化した原子炉を複数基設置することにより、大型軽水炉に優る経済性を有すると評価されている。初期のガスタービンの設計は縦型であったが、技術的課題から横型に設計変更することになった。本計画も南アフリカ共和国の経済的な理由により実現に至っていない。
(3)GTHTR300/GTHTR300C
 現在、日本原子力研究開発機構(旧 日本原子力研究所)によりガスタービン発電高温ガス炉GTHTR300およびGTHTR300Cの設計研究が進められている。本プラントは日本独自の設計となっており、既存の技術を採用することにより新たな技術開発を必要としない、システムの簡素化、構成機器の高性能化による経済性向上が積極的に図られている。これにより2030年前後の初号炉導入を念頭に設計検討が進められている。GTHTR300の主要諸元および原子炉断面図を図6に示す。原子炉圧力容器、熱交換器容器、ガスタービン容器等による構成で、それらは二重管により接続し、使用実績の観点から横型タービンを採用している。環状炉心の採用により、1炉心当たり600MWtの熱出力が取り出せ、かつ想定事故時においても燃料体や鋼製の原子炉圧力容器の制限温度を超えることなく崩壊熱を伝導、放熱、対流の自然の原理を通じて圧力容器から除去できる原子炉固有の安全性を有している。炉心設計では、計画停止を考慮しても稼働率90%以上を満足でき、平均燃焼度約120GWd/tを達成できるとしている。原子炉出口温度すなわちガスタービン入口ガス温度は約850℃であるが、高性能コンパクト熱交換器で熱回収を行う閉サイクル・ガスタービンシステムの採用により45%を超える発電効率が得られる。2001年度から実施している基本設計については、電力会社、メーカ、大学等のチェックアンドレビューを受けた。その後の詳細設計を実施する段階において、国の予算、ユーザの関係により、日本原子力研究開発機構において計画が見直され、発電のみのGTHTR300から水素製造の熱源用などのコジェネレーション(熱電併給)原子炉システムのGTHTR300Cの概念設計を実施した。

4.超高温高温ガス炉の開発
 原子炉出口温度を900℃〜950℃まで高めた高温ガス炉の試験炉、実験炉が日本および中国で運転中であり、それぞれ計画された試験を実施中である。
 日本では、日本原子力研究開発機構が、熱出力30MW、原子炉出口温度最高950℃の高温工学試験研究炉(HTTR)を建設し、1998年11月に初臨界、2001年12月に定格出力30MWt、原子炉出口温度850℃の定格運転、2004年4月には原子炉出口温度950℃の高温試験運転に成功した。さらに、高温ガス炉実用化のためのデータ蓄積として、2010年3月に、原子炉出口温度950℃での50日間の高温連続運転、2010年12月に冷却材喪失事故を模擬した安全性試験(炉心流量喪失試験、原子炉出力30%(9MW))などを実施した。これと並行して、HTTRを用いた熱利用技術の実証に向けて、熱化学法IS法(ヨウ素(Iodine)−硫黄(Sulfur))による水素製造システムの研究開発を進めている。
 中国の清華大学では熱出力10MW、原子炉出口温度最高900℃の実験炉HTR-10を建設し、2000年12月に初臨界、2003年1月に定格出力に達成するとともに、実証炉(HTR−PM)への基礎データを蓄積している。HTR-10では高効率ガスタービン発電の開発のために、2007年に蒸気タービンをガスタービンに交換する計画を進めていたが、現時点では実現に至っていない。

<図/表>
図1 HTR-モジュールの主要諸元と原子炉断面図
図1  HTR-モジュールの主要諸元と原子炉断面図
図2 MHTGRの主要諸元と原子炉断面図
図2  MHTGRの主要諸元と原子炉断面図
図3 HTR-PMの主要諸元と原子炉断面図
図3  HTR-PMの主要諸元と原子炉断面図
図4 GT-MHRの主要諸元と原子炉の概要
図4  GT-MHRの主要諸元と原子炉の概要
図5 PBMRの主要諸元と構成
図5  PBMRの主要諸元と構成
図6 GTHTR300の主要諸元と原子炉断面図
図6  GTHTR300の主要諸元と原子炉断面図

<関連タイトル>
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
高温ガス炉の安全性 (03-03-03-02)
高温ガス炉の発電炉としての適合性と将来性 (03-03-04-02)
発電用高温ガス炉の開発 (03-03-04-03)
海外における高温ガス炉の研究開発(03-03-07-02)
高温工学試験研究炉(HTTR) (03-04-02-07)

<参考文献>
(1)佐野川好母、斎藤伸三:原子力誌、29(7)、p.603−613(1987)
(2)数土幸夫:“海外における高温ガス炉の開発状況”、原子力工業、36(4),p.25−32(1990)
(3)GCRA,“Evaluation of the Gas Turbine Modular Helium Reactor”,DOE−GT−MHR−100002,Feb.(1994)
(4)Executive Committee of 3rd JAERI Symp. on HTGR Technologies,JAERI−Conf 96−010(1996)
(5)“中国の高温ガス炉HTR−10プロジェクトの現状”、原産マンスリー、No.8、p.22−28(1996.5)
(6)“南アフリカESCOM社の高温ガス炉計画”、原産マンスリー、No.19、p.20−23(1997.5)
(7)日本原子力産業会議、原子力年鑑1997年版、p.133−134(1997年10月)
(8)Y. Xu,K.Zuo:“Overview of the 10MW high temperature gas cooled reactor−test module project”,Nuclear Engineering and Design,Oct.,218,(2002),p.13−23,PBMR,http://www.pbmr.co.za/.
(9)A. Koster,et al.:“PBMR design for the future”,Nuclear Engineering and Design,222,p.231−245(2003)
(10)H. L Brey:“The Evolution and Future Development of the High Temperature Gas Cooled Reactor”,GENES/ANP 2003,Kyoto,Japan,Sept.(2003)
(11)国富一彦:“高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)の設計研究”,原子力学会和文論文誌、Vol.1,No.4,p.352−360(2002)
(12)日本原子力産業会議、原子力年鑑2004年版、p.79−87(2003年11月)
(13)原子力ハンドブック、(株)オーム社、,p.512(2007年11月20日)
(14)Yujie DONG: Design, Safety Features & Progress of HTR-PM, GEN IV Webinar Series 17 (2018.1.24)
(15)IAEA Advanced Reactor Information System:“Advances in Small Modular Reactor Technology Developments”, 2020 Edition

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