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<概要>
 高温ガス炉の起源は、1956年に英国で独特の被覆燃料粒子が開発された時点にさかのぼり、直ちに、OECD/NEAによる実験炉としてのドラゴン炉が英国に建設された。このドラゴン炉の燃料は、棒状のブロック型燃料であったが、その後、直径約60mmのテニスボール程度の大きさの球状のペブルベッド型燃料がドイツで開発された。米国では、従来の棒状のブロック型燃料を引き継いだために、ドイツのペブルベッド型燃料とブロック型燃料の2種類の燃料形態でその後の開発が進められることになった。そのために、それら2種類の燃料を使用した発電用実験炉および原型炉がドイツと米国で各々建設され運転された。熱電併給(コジェネレーション)の高温ガス炉の開発も両国に加え、旧ソ連、中国、日本などでも進められ、また、高温核熱利用技術の開発がドイツを中心に行われてきた。1986年のチェルノブイル事故以降からは、安全への考え方として、過酷事故が万一発生したとしても、燃料が溶融することなく自然の原理で停止する受動的安全性を持つことが重視され、それに伴ってモジュール型高温ガス炉が主流となり、ドイツおよび米国において基本設計が完了した。1990年代に入るとモジュール型高温ガス炉と閉サイクルガスタービンを組み合せた発電プラントの設計が始められ、その商用炉として、南アフリカ共和国がドイツの技術を受けて小型の高温ガス炉ガスタービン発電プラントPBMR(Pebble Bed Modular Reactor)の建設計画を2010年の着工に向けて進めている。日本および中国では、900〜950℃の高温の核熱利用を目指す試験研究炉を建設し、実用炉に向けた基礎データを得るための運転を実施している。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 現在までに建設された高温ガス炉の主要項目を表1に、実用高温ガス炉の設計主要項目を表2に示す。以下に、高温ガス炉開発の始まり、および主要国の開発状況を示す。
1.高温ガス炉開発の始まり
 高温ガス炉開発の原点は、英国ハーウェル研究所で高温に耐える独特な被覆燃料粒子が開発された1956年にさかのぼる。被覆燃料粒子の開発に伴って、高温ガス実験炉の建設と運転を行うために、かつ高温ガス炉分野における研究開発を進めるために、1956年にドラゴン(DRAGON)計画が、英国を中心に欧州(OECD加盟の)11か国の参加のもとにスタートした。
 最初の炉心は37体の燃料要素で構成し、各燃料要素は六角形の7本の黒鉛棒で構成されたが、最終的には、マルチホール型模擬ブロック燃料も試験燃料として用いられた。また、初期の装荷燃料としては、他の高温ガス炉と同様に235U/232Th/233/Uサイクルで転換比が約1になるように90%以上の濃縮ウランとトリウムを用いている。ドラゴン炉は、1964年の初臨界後、燃料および黒鉛の開発と健全性実証のための照射試験を広範囲に行うとともに、高温ガス炉の運転保守についての貴重な経験を積み重ねて、1976年3月に運転を終了した。
 被覆粒子燃料は炉心設計に大きな自由度をもたらし、その後ペブルベッド型燃料とブロック型燃料の炉心が開発され、図1に示すように、旧西独(以下ドイツ)および米国でそれぞれのタイプの実験炉、発電用原型炉を建設、運転してきている。
2.ドイツにおける開発
 ドイツでは、反射体を兼ねた下部を円錐状にした黒鉛製の円筒に直径60mmの球状燃料(ペブルベッド)をつめて炉心を構成する独特のペブルベッド型炉心の原子炉を開発してきた。原子炉冷却材のヘリウムガスは燃料の球と球の隙間を上向き、あるいは下向きに流れる。このタイプの特徴は、燃料球を炉心上部から装荷し、自然落下させつつ燃焼させて炉心下部から取り出すことで、燃料交換のために原子炉を停止する必要がない。
 ユーリッヒ研究所に建設された実験炉AVRは、電気出力15MWの発電用実験炉である(図2)。炉心は大きな負の反応度温度係数を有するので、炉出力は可変速度循環機によってガスの流量を変更するだけで、広い範囲にわたって反応度制御できる。
 AVRは、1967年から炉心出口ガス温度850℃の全出力運転に入り、極めて高い稼働率(1967年〜1978年で約77%)で発電用実験炉としても順調に運転され、1974年には炉心出口温度を950℃まで上げることに成功した。その後、蒸気発生器からの水漏れのため一時停止したが、再起動し全出力運転に戻った。AVRでは、ペブルベッド型炉の有する原子炉固有の安全特性についての運転データを蓄積している。その後は、THTR-300用燃料、低濃縮ウランを用いた燃料の照射試験に用いられ、その使命を果たし、1988年12月に20年余にわたる運転を終了し閉鎖した。
 ペブルベッド炉の概念を発展させる発電用原型プラントとして、電気出力300MWのTHTR-300が建設された。THTR-300は1次冷却系全体を単一キャビティ(空洞)を有するPCRV(プレストレストコンクリート製原子炉圧力容器)に収容し、大口径配管のない設計としている。THTR-300の主要な仕様を表1に示す。THTR-300は、営業運転に入ってからの稼働率は50〜60%で高温ガス炉の原型炉としての目的を果たしてきたが、1988年に高温ダクト内の断熱板のボルトの頭が破損したトラブルをきっかけに高温ガス炉電力会社HKG、州政府および連邦政府間での運転維持費の分担問題が解決せず、財政的理由から運転終了に至っている。
 ドイツでは、AVRおよびTHTR-300の経験を基に、発電用あるいは熱電併給用の実用高温ガス炉HTR-500図3)、HTR-モジュール(HTR-M)の開発が行われてきた(表2)。HTR-500は、THTR-300の延長上にあるPCRVを用いた中型発電プラントである。HTR-Mは、炉心の寸法、出力密度等に制限を加えることによって、原子炉固有の安全性を最大限に高め、炉心溶融時においても大量の放射性物質が放出されるような事故が起こり得ない原子炉をねらったものである。このほかドイツでは、豊富な石炭、褐炭を原子炉の熱でガスや液体にして使い易く環境汚染の少ない燃料に変えるPNP計画、また原子炉の熱を遠方の利用者まで供給し、回収しようとする(いわゆるケミカルヒートパイプ)NFE計画を進めたが、近い将来、経済的に成立する見通しがないとして、1980年代半ばで中断されている。現在は、ドイツ国内の原子力全般の停滞の中で安全性研究以外の開発は中断されているが、後述のように、南アフリカ共和国、オランダ、インドネシア等の計画に協力する形で高温ガス炉開発が進められている。
3.米国における開発
 米国における高温ガス炉の開発は、米国エネルギー省(DOE)の資金援助を受けながらオークリッジ国立研究所(ORNL)やGA社が主体となって進めて来ており、発電用実験炉ピーチボトム炉、発電用原型炉フォートセントブレイン(FSV)炉ともGA社の設計により建設された。ピーチボトム炉(図4)は棒状燃料を用いたプリズム型の炉心を有する高温ガス炉で、直径89mmの804本の黒鉛燃料要素から成る炉心は、鋼製の圧力容器に収められた。ピーチボトム炉は1967年に全出力運転に入ったが、初期に燃料コンパクトの照射膨張により黒鉛スリーブにクラックが発生したため、一層の熱分解黒鉛層で被覆された燃料粒子から二重に被覆した燃料粒子(BISO)に交換された。その後は、高い稼働率で順調な運転実績を残して、1974年に運転終了し解体(デコミッショニング)された。
 ピーチボトム炉に続いて、世界で最初の高温ガス炉の原型炉としてFSV炉(図5)が建設され、1974年に初臨界に達した。この炉の特徴は、燃料として、マルチホール型ブロック燃料を用い、原子炉圧力容器としてPCRVを使用していることなどである。FSV炉は、出力上昇試験の過程で、冷却ポンプから1次系への水の漏れ込み、炉心出口温度の変動等の初期故障などを経験した後、1979年に営業運転に入り、1981年に100%出力運転を達成し、40%近い高い熱効率を得ている。しかし、その後の稼働率が必ずしも良くなかったこともあり、1989年8月、同炉の運転を終了した。この間、蒸気発生器、黒鉛、燃料、1次系純化系等について得られた経験は貴重なものであり、次期のMHTGRの設計に役立てられてきた。
 1978年より電力会社および核熱ユーザー会社で構成されるガス冷却炉協会(GCRA)がDOEとともに資金援助を行って、リードプロジェクトと呼ばれる開発計画が進められた。このプロジェクトの中で、リードプラントとして熱出力2,240MWt、電気出力855MWeの炉心、蒸気発生器および循環機をPCRVに収納した一体型原子炉の開発が進められてきた。しかし、中小電力会社が数多くある米国では、電力需要の伸び悩み等に加え、TMI事故およびチェルノブイル事故等により、原子炉固有の安全性を高め、事故時に周辺住民の緊急避難を必要としない小型モジュール型炉に関心が移り、MHTGRの開発へとつながった(表2)。1990年代初めから経済性向上の検討が進められ、それまでの蒸気サイクル発電炉に対し、原子炉出口の高温ヘリウムにより直接ガスタービンを駆動し、発電するプラントとしてGT-MHRの概念が生まれた(表2図6)。2002年頃に、米国DOEがロシア原子力省と共同で国際共同プロジェクトを立ち上げ、ロシアの解体プルトニウムの燃焼用原子炉の候補として、このGT-MHRを挙げ開発を進めている。またDOEは、電気と水素を同時に生産する高温ガス炉プロジェクトとしてNGNP(次世代原子力プラント)計画を推進しており、2021年の運転開始を目指している。これには日本企業も参加する形で進められている。
4.旧ソ連、中国における開発
 旧ソ連での高温ガス炉利用の主たる目的は、蒸気供給、さらにはアンモニア製造であり、高温化を目指して球状燃料を用いたペブルベッド型炉の研究開発を行っている。これまでに発電炉VGR-50、電気・熱併給原型炉VG-400および熱供給専用炉VGR-500の設計検討を行うとともに、必要な各種研究開発を行ってきた。チェルノブイル事故以後、ドイツのHTR-Mをベースとして熱出力200MWのモジュラー型炉VGMの開発を進めてきた。現在は、前述のGT-MHRの国際共同開発プロジェクトの参加国として米国と一緒に開発を進めている。
 中国では、重油回収や石油化学工業用の熱源として高温ガス炉利用の検討がドイツの協力の下に進められてきた。このような電力・プロセス蒸気供給炉として、また、分散型電源として、さらに石炭ガス化等の高温核熱利用の熱源として高温ガス炉の開発が進められており、清華大学において、ペブルベッド炉心をもつ実験炉HTR-10(10MWt、原子炉出口温度、最高900℃)が建設された。このHTR-10は、2000年12月に初臨界、2003年1月に定格熱出力1万kW、電気出力2,500kWおよび原子炉出口ガス温度700℃を達成させており、現在、2009年に着工を目指している次期実証炉HTR-PMへの基礎データの蓄積を行っている。
5.南アフリカ共和国、その他
 南アフリカ共和国には、現在PWR2基が運転中であるが、次期原子力発電プラントとして、小型の高温ガス炉ガスタービン発電プラントPBMRの開発計画を進めている(表2図7)。開発主体は国営電力会社ESKOMであるが、設計にはドイツが協力している。2010年に着工する予定で開発計画が進められている。
 その他、オランダが原子力の復興をにらんで、高い原子炉固有の安全性に着目し、小型モジュラー型高温ガス炉の検討を行っている。また、インドネシアは、自国の石炭資源、天然ガス資源等の有効活用のための熱源として、また分散型電源として高温ガス炉の検討を行っている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 現在までに建設された高温ガス炉の主要項目
表1  現在までに建設された高温ガス炉の主要項目
表2 実用高温ガス炉の設計主要項目
表2  実用高温ガス炉の設計主要項目
図1 ドイツおよび米国を中心とした高温ガス炉開発の経過
図1  ドイツおよび米国を中心とした高温ガス炉開発の経過
図2 AVRの断面図
図2  AVRの断面図
図3 HTR-モジュールの断面図
図3  HTR-モジュールの断面図
図4 ピーチ・ボトム炉の断面図
図4  ピーチ・ボトム炉の断面図
図5 FSV炉の断面図
図5  FSV炉の断面図
図6 GT-MHRの断面図
図6  GT-MHRの断面図
図7 PBMR設備の構成
図7  PBMR設備の構成

<関連タイトル>
ガス冷却型原子炉の技術的進展 (03-03-01-01)
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
高温ガス炉燃料の安全性 (03-03-03-01)
高温ガス炉の安全性 (03-03-03-02)
新型発電用高温ガス炉の開発動向 (03-03-04-01)
海外における高温ガス炉の研究開発 (03-03-07-01)

<参考文献>
(1)斎藤伸三ほか:いま注目される高温ガス炉−現状と将来展望、原子力工業、Vol.36、No.4、p.20-62(1990年)
(2)IAEA:“Gas-Cooled Reactors and Their Applications”,IAEA-TECDOC-436(1986)
(3)IAEA:STI/DOC/10/312(1990)
(4)M.T.Simnad:“Early History of High Temperature Helium Gas-Cooled Nuclear Power Reactors”,Energy,16(1/2),25-32(1991)
(5)A.J.Goodjohn:“Summary of Gas-Cooled Reactor Programs”,Energy,16(1/2),79-106(1991)
(6)O.M.Stansfield:“Evolution of HTGR Coated Particle Fuel Design”,Energy,16(1/2),33-45(1991)
(7)GCRA:“Evaluation of the Gas Turbine Modular Helium Reactor”,DOE-GT-MHR-100002,Feb.(1994)
(8)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑平成9年版(1997年10月)
(9)Executive Committee of 3rd JAERI Symp.on HTGR Tecnol.(ed.):Proc.of 3rd JAERI Symposium on HTGR Technologies,Feb.15-16,1996,Oarai,Japan,JAERI-Conf 96-010(1996)
(10)日本原子力研究所高温工学試験研究炉開発部(編):“高温工学試験研究の現状 1996年”、日本原子力研究所(1996年10月)
(11)IAEA(編):Directory of Nuclear Reactor,Vol.9 Power Reactors(Suppl.to Vols.4 and 7),IAEA(1971)
(12) 中国の高温ガス実験炉の近況
(13)【資料】高温工学試験研究炉(HTTR)の概要
(14)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧1997年版、電力新報社(1997年8月)、p.526
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