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<概要>
 フランスにおけるFBRの開発は、フランス原子力庁(CEA)がカダラッシュに建設した実験炉ラプソディーの運転によって開始された。その後、フランスは原型炉フェニックスの建設・運転の実績をふまえ、1985年実証炉スーパーフェニックス−1(SPX−1)を建設した。この炉は、フランスの他イタリア、ドイツ、ベルギー、オランダの国際協力の下に完成した。フェニックス及びSPX−1において運転及び建設中に得た種々の経験を次期大型炉建設の貴重なデータとして蓄積している。その他の施設として、フランスには臨界実験装置MASURCA、燃料溶融安全検証炉CABRI炉、並びにナトリウム燃焼試験用のESMERALDAなどの大型Na施設がある。フランスは、欧州連合の次期大型炉EFR概念設計の中心的役割を果していた。しかし、高速増殖炉軽水炉に比して高いことから、1998年SPX−1の閉鎖を決め、またこれに伴ってEFRの計画も中止となった。2000年に米国主動の第四世代原子炉計画に参画し、今までの豊富なナトリウム冷却高速増殖炉の経験を武器に、積極的な役割を果たしている。
<更新年月>
2004年11月   

<本文>
1.今までのフランスにおける開発経過
フランスにおける高速増殖炉の開発は、1953年からフランス原子力庁(CEA:Commissariat l’Energie Atomique)によって着手された。最初の実験炉ラプソディー(Rapsodie)はカダラッシュの原子力研究所(CEN:Centre d’Etudes Nucleaires)で1967年に運転を開始した。初期熱出力は20MWで、1970年には40MWへと出力が増大されたが、ナトリウム漏洩のため1982年に閉鎖が決定された。現在廃止措置が開始された。
 原型炉フェニックス(PHENIX)は電気出力250MWで、ローヌ川下流のマルクールに建設された。1973年8月に臨界、翌1974年3月には全出力に達した。初期の炉心は半分が混合酸化物燃料(MOX)、残り半分が二酸化ウランであったが、1977年からすべて混合酸化物燃料が用いられている。運転を開始して、20年間の設計寿命に達したが、1994年3月から安全上の改造、補強工事を行い2009年までの寿命延長が決まった。2003年より運転が再開され、主としてマイナーアクチニドや長寿命放射性廃棄物の核変換試験および将来のガス冷却高速炉開発のための照射試験を実施する予定である。
 ラプソディー(図1参照)とフェニックス(図2参照)の経験に基づき電気出力1240MWの実証炉スーパーフェニックス−1(SPX−1:Super−Phenix−1;図3参照)が、1977年ローヌ川上流のクレイ・マルビルに建設開始され、1985年に初臨界に達し、1986年に全出力運転が開始された。この原子炉の総合管理のためにフランス、イタリア、西独、ベルギー、オランダの5ヵ国の電力会社が出資し、ネルサ(NERSA)社が設立された。フランスのノバトム社が設計の大部分を担当した。また、その運転はネルサ社の下でフランス電力公社EDF)が行っている。SPX−1の建設費は軽水炉の2倍である。
 しかし、SPX−1は、1987年3月原子炉容器に隣接する炉外燃料貯蔵内側容器からのナトリウム漏洩が発見され、運転を中断した。その後1994年8月に、プルトニウム燃焼、アクチニド消滅の試験炉として目的を変更した上で再起動し順調な運転を続けていた。1996年12月から燃料交換のため約6ヵ月間計画停止中、1997年6月にジョスパン首相が議会で「スーパーフェニックスを将来放棄する」と発表し、1998年12月にその廃止措置が決定した。2003年3月には全燃料集合体の炉心から水プールへの搬出が終了し、Naドレンの準備が進められている。そして2025年までに解体を完了する予定である。
 フランスはSPX−1に続く原子炉としてSPX−2を、イギリスは原型炉PFRに続く実証炉CDFRを、ドイツは実証炉SNR−2の研究開発を進めていたが、研究開発費の削減や開発リスクの低減を考えてヨーロッパ統一の欧州統合実証炉としてEFRを建設することとし、その設計を1988年3月から共同作業で開始した。EFRの電気出力は、1,500MWである。しかし、現状ではSPX−1のトラブルもあり、世界的なFBRの低調な建設意欲の中で計画は打ち切られた。
2.フランスの各研究所と試験施設
 ラプソディーとフェニックスの他にも、以下のような高速炉開発のための研究施設が建設されている。
(a)ゼロ出力炉(MASURCA):1966年より運転されており、混合酸化物燃料炉心の核的特性を測定するために用いられている。
(b)熱中性子炉(CABRI)及び研究炉SILOE炉:過渡時及び冷却材喪失時の燃料破損機構を解明するために用いられている。
(c)ESMERALDA:大規模ナトリウム火災試験用であり、ナトリウム火災時の圧力上昇及びエアロゾル挙動の研究に用いられていたが現在は目的を達し閉鎖されている。
(d)グルノーブルには大型の熱流動研究装置がある。
(e)カダラッシュには種々のコンポーネントを試験するための大型ナトリウム装置が設けられている。
(f)SPX−1の1次系及び2次系ポンプはジャンヌヴィリエのフランス電力公社の水ループで、中間熱交換器はカダラッシュでそれぞれ試験を行った。また、1次ポンプの回転部の加震試験と耐久試験はブラシモン(イタリア)のナトリウムループで行った。
(g)ナトリウム−水反応に関する研究はカダラッシュとブラシモンで進めた。
(h)蒸気発生器モジュールはルナルディエールの50MW施設で実機条件下で試験された。現在の高速増殖炉開発体制は、CEAが公的な立場から方策を示し、ノバトム社が技術的問題の解決や設計を行っている。しかし、スーパーフェニックスの完成後、ノバトム社の人員・資金は減少傾向にあり、フラマトム社(現AREVA NP社)に合併吸収された。
 図4にフランスにおける原子力開発体制図を示す。フランスでは原子力を含むエネルギー政策は、産業省の資源・エネルギー総局の管轄である。原子力の安全規制については、産業省、環境省、厚生省の管轄下にある原子力安全・放射線防護総局が担当である。2002年の改正で、従来までの原子力施設安全局に放射線防護機能が追加され、また新たに厚生省の管轄下にも組み込まれた。
3.フランスの最近の開発状況
 フランスにおける高速増殖炉開発は現在新たな局面を迎えている。その理由の1つは、フェニックスの反応度異常現象とスーパーフェニックス−1の故障・炉停止が生じたことであり、もう1つの理由としてチェルノブイル発電所事故後の世論の動向があげられる。このような傾向は他の欧州諸国にも見られ、欧州諸国はそれぞれの独自の開発計画を見直し、欧州連合統合として欧州各国のメーカー(フランスはノバトム社)が協同で設計を担当するEFR(European Fast Reactor)と呼ばれる1つの高速増殖実証炉を開発する方向に動いていたが、世界的に低調な建設意欲の中で経済的理由からベルギー、イタリア、イギリスが共同作業より撤退したため、計画全体が見直され、1995年5月にPhase−2(概念設計)までを終了したが、Phase−3(詳細設計)は打ち切られた。
 さらに、最近の世界的潮流として、米・ソ冷戦の雪解けによる核軍縮からの余剰プルトニウムの処理、核不拡散対策などから、高速増殖炉によって更にプルトニウムを増殖させる必要はなく、プルトニウムおよびアクチニドの燃焼炉とすべきだという考えが現実問題として支配的になっている。
 このためCEAは運転を再開したフェニックスの運転目的を増殖炉としてではなくプルトニウムおよびアクチニドTRU消滅炉として位置づけ、プルトニウム燃焼計画(CAPRA計画)やアクチニド燃焼計画(SPIN計画)などを進めるためフェニックスと共に研究用高速炉として運転していく予定である。
 2002年に米国が各国に呼びかけて動き出した第四世代原子炉(GEN−IV)計画は、経済性、安全性、信頼性、持続性の向上を図る次世代原子炉を国際協力の基に開発するものである。現在6概念の原子炉が選定されているが、このうちの半数は高速炉である。フランスは次世代原子炉の有力な候補として、ガス冷却高速炉(GFR)の研究開発に着手した。2012年を目標にその実験炉を建設し、2020年の実証炉の建設を計画している。
<図/表>
図1 高速増殖実験炉Rapsodieの立断面図
図1  高速増殖実験炉Rapsodieの立断面図
図2 高速増殖原型炉Phenixの鳥瞰図
図2  高速増殖原型炉Phenixの鳥瞰図
図3 高速増殖実証炉Super−Phenixの立断面図
図3  高速増殖実証炉Super−Phenixの立断面図
図4 フランスの原子力開発体制図
図4  フランスの原子力開発体制図

<関連タイトル>
アメリカの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-04)
イギリスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-06)
ドイツの高速増殖炉の研究開発 (03-01-05-07)
欧州型高速炉(EFR) (03-01-05-08)
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)
高速増殖実証炉スーパーフェニックスをめぐる動き (14-05-02-08)
高速増殖炉スーパーフェニックスの即時閉鎖(1998年12月30日) (14-05-02-12)

<参考文献>
(1)科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版)、日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(2)日本原子力産業会議(編):原産マンスリー No.21,1?4(1997.7)
(3)亀井 満:技術予測シリーズ、第6巻エネルギー技術、日本ビジネスレポート株式会社(平成2年)
(4)N.H.Hennies et al.:Development of Fast Reactors in Europe, International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles,(1991)
(5)X.Elie et al.:Operation Experience with the Phenix Type Fast Reactor, International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles,(1991)
(6)A.Lacroix et al.:Experience Gained from the 1200MWe SuperphenixFBR Operation,International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles,(1991)
(7)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1996年版、1996年10月
(8)日本原子力産業会議(編):原子力ポケットブック2003年版、日本原子力産業会議(2003年8月)
(9)IAEA/IWGFR Annual Meeting ”Fast Reactor Development Programme in France during 1996”(1997年5月)
(10) JC Astegiano : Status of Fast Reactors and ADS Programmes in France in 2003, IAEA TWG−FR, 37th Annual Meeting, May (2004) (Private Communication)
(11) 日本原子力産業会議(編):原子力年鑑2003年版、2003年10月
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