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<概要>
イギリスの高速増殖炉の開発は1950年代の初めに開始された。ゼファー(ZEPHYR)とゼウス(ZEUS)による炉物理などの研究を経て、1954年に実験炉としてドーンレイ炉(DFR)の建設が開始された。この炉は1959年に臨界になり、1977年に閉鎖されるまで種々の基礎実験に利用された。高速原型炉(PFR)は1966年に建設が開始され1974年に臨界に達し、1994年に運転を終了するまで商用発電、酸化物燃料(MOX)、ナトリウム冷却、燃料サイクルの完結(リサイクル)などの技術開発に成功した。その後、商用実証炉(CDFR)の開発に進む予定であったが経済的な理由などからこれを取止め、欧州5ケ国の欧州高速炉(EFR)計画に参加した。この計画は、1988−1993年の概念設計を終えた段階で社会・経済的な理由から終了した。2001年に提案された第4世代原子炉システム(GEN-IV)の開発では、イギリスは加盟国(12国1機関)となり、2030年以降の実用化を目指すナトリウム高速炉の研究開発に加わっている。
<更新年月>
2010年01月   

<本文>
 イギリスの高速増殖炉の研究開発について、その経緯、主な成果、欧州高速炉計画(EFR)および第4世代原子炉システム(GEN-IV)との関りについて述べる。

1.イギリスの高速炉開発の経緯
 表1に、イギリスの高速炉開発に関連した事項を示す。1945年にイギリスは、自国で原子力開発を進めることを決定し、ウラン資源に恵まれないことから当初から高速炉の研究開発を計画に入れた。
 1950年代初めには、ハウエル(Harwell)でプルトニウムによるゼロ出力のゼファー(ZEPHYR)と、濃縮ウランによるゼウス(ZEUS)による高速炉物理実験などを開始した。また、ナトリウムと熱輸送の研究はハウエル(Harwell)、ウインズケール(Windscale)およびカーペンハースト(Capenhurst)、合金燃料と被ふく材はカルチェス(Calcheth)とスプリングフィールド(Springfield)で進めた。
 1954年に実験炉としてドーンレイ炉(DFR:Dounreay Fast Reactor)の建設が開始され、1959年に臨界になった。表2に炉の主な仕様を示す。目標出力は60MWt(15MWe)である。炉心には高濃縮ウラン合金燃料が用いられ、ナトリウム・カリウム合金(NaK)が冷却材であった。種々の基礎実験に利用され、1977年に閉鎖された。この炉は、2024年までに解体される計画である(図1参照)。
 1966年には、ドーンレイに高速原型炉(PFR、Prototype Fast Reactor)の建設が始まり、1974年に臨界に達し、実用化の研究開発のほか給電も行った(表2)。この炉は将来の大型発電炉開発の前段階の役割があり、以下のような特徴がある。(1)250MWe(670MWt)の給電、(2)酸化物燃料とナトリウム冷却材を採用、(3)ブランケットによる増殖、(4)燃料工場−高速炉−再処理工場を結ぶ燃料サイクルを完結(リサイクル)。これにより、MOX燃料・ナトリウム冷却高速炉の準備が整ったわけである。PFRは1994年に運転を終了し、2024年までの計画で解体される(図2参照)。
 1978年に、英国原子力公社(UKAEA)は 実証炉(CDFR:Commercial Demonstration Fast Reactor)の建設のため、1985年着工の予定でNPC(Nuclear Power Company)と設計契約を交わした(表2)。この段階で高速炉の実用に一歩近づいた筈であった。しかし、1983年にイギリスは、フランス、西ドイツ、イタリア、ベルギーおよびオランダと将来の高速炉の共同開発に関する検討を開始し、欧州高速炉(EFR)が実現する見込みになった。その結果としてCDFR計画は、技術的な理由でなく経済・産業政策的な理由からEFR計画に組み込まれ消滅した。

2.欧州高速炉(EFR:European Fast Reactor)
 発電用原子炉の開発は、世界的には概ね、実験炉、原型炉、実証炉の3段階を経て実用炉へ向う。イギリス、フランス、ソ連(当時)では、既に電気出力30万キロワット級の原型炉が稼働していた。西ドイツ(当時)では、原型炉が建設段階であり、フランスでは実証炉スーパーフェニックス(SPX)が試験中であった。 1983年ころから、スーパーフェニックス(SPX)に続く高速炉について、欧州5ケ国(イギリス、フランス、西ドイツ、イタリア、ベルギー)間の共同開発の協議が進められた。具体的には、ヨーロッパ高速炉電力会社グループ(EFRUG)が、それまで各国で進められてきたSPX-2(フランス)、CDFR(イギリス)、SNR-2(西ドイツ)などの実績を合わせ、5年間で経済性が高く各国共通の許認可性(Licensability)を有する欧州高速炉(EFR)の設計と技術開発を進めることとなった。
 図3はEFRの概略図である。1988年に設計が開始され、1993年に概念設計と予備安全評価を終えたが、本計画はこの段階で終了した。その理由として、スーパーフェニックス(SPX)の成果がまだ挙がってなかったこと、複雑な政治環境などが挙げられている。米国の使用済み軽水炉燃料のワンス・スルー利用の方針とあわせ、高速炉時代の到来が遅れるかに観えた。

3.イギリスの高速炉開発の成果
 イギリスは高速炉開発に早くから取り組み、技術開発では以下のような成果を挙げた。
(1)液体ナトリウム冷却とその負の温度係数による高い安全性の実証
(2)原型炉(PFR )の高い平均稼働率;20年平均で64%、後半の10年間は40%、最後の数ヶ月は93%
(3)ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX)の開発と利用
(4)燃料の適切な設計と高い燃焼度(5〜23.5%)
(5)燃料サイクルの結合(リサイクル)の完成

4.第4世代原子炉(GEN‐IV)の検討
 2001年、米国のブッシュ政権は、21世紀の発展途上国の経済発展と人口増加による電力需要増大に対応するため、高い経済性と安全性、放射性廃棄物発生量の抑制、核兵器拡散抵抗性などに優れた革新的な第4世代原子炉システム(GEN-IV)の開発の必要性を説いた。そして、GEN-IVの開発を国際的な枠組みで推進するため、第4世代国際フォーラム(GIF:Generation IV International Forum)の結成を呼びかけた。
 2001年に9か国(米国、アルゼンチン、イギリス、カナダ、韓国、日本、ブラジル、フランス、南アフリカ)はGIFに加盟した。その後、スイス、中国、ロシアおよび欧州原子力共同体(EURATOM)が加わり、2009年には12か国と1国際機関がGIFの加盟国となった。加盟国は、具体的な原子炉システムの研究開発に参加することになる。
 GIFでは、天然ガス火力発電に競合できる経済性、高度な核兵器不拡散性、高度な安全性、高レベル放射性廃棄物による負担の軽減などに適う原子炉システムを検討する。これまで、2030年までに導入可能な以下の6原子炉システムが選ばれた。(1)ガス冷却高速炉(GFR)、(2)鉛冷却高速炉(LFR)、(3)ナトリウム冷却高速炉(SFR)、(4)溶融塩炉(MSR)、(5)超臨界圧水冷却炉(SCWR)、(6)超高温ガス炉(VHTR)である。上記から、高速炉の研究開発が半数を占めている。図4はナトリウム冷却高速炉の概念図である。
 イギリスのNNC(National Nuclear Corporation)は、これまでの歴史と経験から1件の改良型ガス冷却炉と3件のナトリウム冷却高速増殖炉を提案した。今後の第4世代国際フォーラム(GIF)の検討にイギリスの実績が反映されるものと考えられる。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 イギリス高速炉開発の歴史
表1  イギリス高速炉開発の歴史
表2 イギリスの高速炉の主な仕様
表2  イギリスの高速炉の主な仕様
図1 DFRの概要
図1  DFRの概要
図2 PFRの概要
図2  PFRの概要
図3 EPRの概略
図3  EPRの概略
図4 ナトリウム冷却高速炉の概念図
図4  ナトリウム冷却高速炉の概念図

<関連タイトル>
アメリカの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-04)
フランスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-05)
ドイツの高速増殖炉の研究開発 (03-01-05-07)
欧州型高速炉(EFR) (03-01-05-08)
第4世代原子炉 (07-02-01-10)

<参考文献>
(1)原子力委員会、原子力白書、外国の高速炉開発、昭和38年〜平成16年、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/index.htm
(2)Dounreay Site Restoration LTD, Decommissioning, DFR, PFR, , ,
(3)原子力委員会、第5回研究専門部会、資料3「欧州の原子力政策と研究開発」、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/kenkyuukaihatu/siryo/kenkyuu05/siryo3.pdf
(4)原子力委員会、高速増殖炉懇談会(第4回)、資料4-3 講演メモ「The UK and the Fast Breeder Reactor」、デレク・プーリ、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/koso/siryo/koso04/siryo06.htm
(5)外務省、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/gif.html
(6)IAEA, EFR,
(7)The Generation IV International Forum (GIF),http://www.gen-4.org/
(8)IAEA, Fast reactor database 2006,
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