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<概要>
 プルサーマルは海外では1960年代に開始され80年代には商業利用も本格化している。一方、わが国においても国内での基礎的な研究や実用炉を用いて行われた実証試験の成果等を踏まえてプルサーマルを実施していくことが、2005年10月の「原子力政策大綱」において国の方針として述べられている。また、2003年8月に原子力委員会がとりまとめた「核燃料サイクルについて」や同年10月に閣議決定された「エネルギー基本計画」においても、その重要性が再確認されている。
 ここではプルサーマルの安全性について、MOX燃料の核特性、燃料物性、照射ふるまいの観点から技術的解説を加える。
<更新年月>
2005年09月   

<本文>
 プルサーマル導入と言っても、新しい型の原子炉を開発して建設するということではない。現在まで十分な運転実績が有り、且つ改良が加えられてきた軽水炉(BWRまたはPWR)に、UO2(ウラン酸化物)燃料に代わりMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を用いるということである。プルサーマルでは、このMOX燃料をUO2燃料炉心の取替え燃料としてまず用いることになるので、MOX燃料集合体とUO2燃料集合体は互換性を有する必要があり、その基本構造は同一である。従って、プルサーマルではMOX燃料とUO2燃料の核特性、燃料物性および照射ふるまい等の違いと運転条件を考慮に入れた上で炉心設計を行えば、これまでの軽水炉と同等の安全性が確保される。
 現在、わが国で検討されているプルサーマルには、BWRまたはPWRの取替え燃料の一部としてMOX燃料の装荷率を全炉心の1/3程度とするもの(1/3MOX)と改良型BWR(ABWR)の全炉心にMOX燃料を装荷するもの(フルMOX)がある。いずれもMOX燃料棒の基本構造はUO2燃料棒と同一、核分裂性プルトニウム富化度((Pu−239+Pu−241)/(全Pu+Am−241+全U))が8%以下、プルトニウム含有率((全Pu+Am−241)/(全Pu+Am−241+全U))が13%以下、用いるプルトニウムは原子炉級プルトニウム(プルトニウム中の核分裂性プルトニウム(Pu−239+Pu−241)の割合が80%程度を超えないもの)という条件である。また、MOX燃料集合体の最高燃焼度は、1/3MOXでは45,000MWd/t、フルMOXでは40,000MWd/tと、いずれもUO2燃料集合体の許可の範囲内に設定されている。
 MOX燃料炉心とUO2燃料炉心の核特性の差は、ウランとプルトニウムの中性子に対する反応断面積の違いに基づいている。例えばプルトニウムはウランと比較して、熱中性子吸収断面積が大きい、中性子共鳴吸収が大きい、遅発中性子割合が小さい等の特徴がある。これらにより、制御棒や可燃性毒物の反応度価値が相対的に低下する、減速材温度係数、ボイド係数およびドップラー係数がより負となること等が生じる。これらを考慮した上でMOX燃料炉心の核特性が評価されているが、その評価手法はMOX燃料、UO2燃料にかかわらず、普遍的な手法として確立されている。また、MOX燃料についての解析精度もUO2燃料の場合と同程度であることがこれまでの国内外の臨界実験等の結果から確認されているため、従来の軽水炉で行われてきた評価手法は1/3MOXのBWRならびにPWR、フルMOXのABWRについても適用できると判断されている。
 これまでの評価結果によれば、BWR、PWRの場合、MOX燃料の炉心装荷率が1/3程度(1/3MOX)であれば、UO2燃料炉心の特性を大きく変えることなく、原子炉の基本的な設備の改造なしで現行炉に装荷することができる。それ以上の装荷率となると、制御棒の本数を増加する等の対策が必要となる。一方、近年わが国で導入したABWRの場合は、炉心燃料を全てMOX燃料(フルMOX)とすることも目指しており、現段階での検討ではこの場合でも現状の原子炉の設備で十分対応できるものと評価されている。MOX燃料とUO2燃料の核特性の差は、プルサーマルの安全性を損なうものではない。
 MOXとは、ともに蛍石型の結晶構造を有する二酸化物であるUO2とPuO2の固溶体である。すなわち、MOX燃料中のプルトニウム濃度が増すと蛍石型の結晶構造中のU原子がPu原子に順次置き換わる。それによってMOX燃料の物性値もUO2燃料の物性値から徐々に変化する。プルトニウム含有率が13%程度であればいずれの燃料物性値にも大きな変化はないが、プルサーマルの燃料設計では、UO2燃料とMOX燃料の燃料物性値の違いも考慮されている。燃料健全性に影響するMOX燃料の主な物性値について、UO2燃料との比較を表1に示す。
 融点は、安全性を検討する上で重要な物性値であり、燃料溶融時には大きな体積変化を伴うので、運転時の燃料ペレット温度は融点以下でなければならない。UO2−PuO2系の相状態図は整備されており、それによればUO2の融点が約2,840℃であるのに対して、プルトニウム含有率13%のMOXの融点は約100℃低い。一方、燃焼に伴う融点の変化についても実測されており、図1に示すように融点の低下が見られる。最近の総説では、MOX燃料においても、UO2燃料同様に10,000MWd/tあたり5℃の融点の低下が推奨されている。しかし、運転時の燃料ペレット温度は融点に比較して十分低く、実際上は融点の低下は問題にはならない(文献2参照)。
 熱伝導率は運転中の燃料ペレット温度を支配する重要な物性値である。MOX燃料の熱伝導率は、融点同様にプルトニウム含有量とともに低下するが、図2に示すようにその影響は小さい(文献3参照)。むしろUO2燃料でも見られるように、燃焼の進行に伴う核分裂生成物の蓄積等による熱伝導率の低下の影響の方が大きい。MOX燃料の燃焼度50,000MWd/t程度までの熱伝導率はハルデン炉の照射実験から求められており、得られた評価式は既に多くの燃料ふるまいコードで使用されている。
 燃料ペレットのクリープ(一定の荷重を加えた状態のままで、時間とともに塑性歪みが増大する現象)は、被覆管の応力に影響を及ぼすので、燃料棒の健全性を評価する上で重要な物性値である。MOX燃料のクリープ速度はプルトニウム含有率の増加とともに増大する傾向にある。このことは被覆管の応力が緩和される方向に働き、後述するように出力急昇時においても、MOX燃料棒はUO2燃料棒に比較して破損しにくいという結果が得られている(文献4参照)。
 その他、MOX燃料の健全性に影響する熱膨張率、ヤング率、ポアソン比などの燃料物性値は、これまでの実験結果等からUO2燃料とほぼ同等であることが分かっている。MOX燃料とUO2燃料の燃料物性の差は、プルサーマルの安全性を損なうものではない。
 これまでの世界の商用炉でのMOX燃料の使用実績は集合体数で4,462体(2003年12月末現在)、燃焼度では50,000MWd/tを超える集合体最高燃焼度を達成している。わが国では1980年代から90年代にかけて、敦賀1号炉(BWR)および美浜1号炉(PWR)で計6体のMOX燃料集合体の少数体実証試験が行われ、詳細な照射後試験結果からその健全性が確認されている(文献5参照)。一方、これまで海外の商用炉において数本のMOX燃料の漏洩事例が報告されているが、いずれも端栓溶接不良、異常腐食、異物(デブリ)などUO2燃料においても見られた原因で発生したものであり、MOX燃料に特有の漏洩事例はない。MOX燃料の漏洩発生の頻度は極めて低く、漏洩率はUO2燃料と同等である。
 また、プルサーマルとは異なるが、わが国ではMOX燃料を用いた新型転換炉「ふげん」での豊富な運転実績がある。「ふげん」は2003年3月に運転を終了するまで、計772体のMOX燃料が照射され、その健全性が確認されている。「ふげん」での実績は、原子炉1基あたりのMOX燃料集合体の装荷数としては世界最高である。
 MOX燃料の照射ふるまいは、これまでの照射試験等から豊富なデータが蓄積されている。通常運転時におけるMOX燃料の主な照射ふるまいを、UO2燃料と比較して表2に示す。
 照射初期に起きるリロケーション(出力上昇時に燃料ペレットが熱応力によって割れ、水力振動等によって割れたペレット片が径方向に移動する現象)や焼きしまり(製造時に存在していた燃料ペレット中の微小気孔が核分裂片の影響により消滅してペレットの密度が増加する現象)についてはUO2燃料とほぼ同等である。燃焼の進行に従って起きるスエリング(核分裂生成物の蓄積によって燃料ペレットの体積が増加し、密度が減少する現象)は核分裂生成物の種類や量がUO2燃料と大きな差がないためほぼ同等であると考えられている。Kr、Xe等の核分裂生成物ガスの燃料ペレットからの放出率(FPガス放出率)については、これまで数多くの研究結果が報告されているが、最近では燃料棒が経験した出力が同じであれば、MOX燃料とUO2燃料で有意な差はないということが分かってきている。図3には、MOX燃料とUO2燃料のFPガス放出率を燃料棒の線出力の関数で示す(文献6参照)。MOX燃料では製造工程での粉末混合が不十分であると、局所的にPu濃度が周囲より高くなる部分(Puスポット)ができる場合がある。Puスポットが大きく数が多いと、局所的に発熱量が高くなりFPガス放出率が増大する可能性があるため、わが国のプルサーマルの燃料設計ではPuスポットの効果についても考慮されている。しかし、現在ではPuスポットを抑える製造工程を用いることで、UO2燃料との差が小さくなるように工夫されている。一方、MOX燃料ではPu−238等のPu同位体のα崩壊や照射によって生成するCm同位体のα崩壊によって生成するHeの量がUO2燃料に比べて大きくなる。燃料ペレットからのHe放出はFPガス放出に加えて燃料棒の内圧を高めることになるので、この点についても燃料設計上考慮されている。しかし、PWRのように大きなHe加圧がなされているMOX燃料棒では、燃料ペレットからのHeの放出の増加は明確にはみとめられていない。
 燃焼度が10,000MWd/t程度以上の燃料棒の出力を急昇すると、燃料ペレットの熱膨張やスエリングにより被覆管に円周方向の引張応力が生じ、この時一定の条件が満たされると応力腐食割れにより被覆管が破損するPCI(ペレット−被覆管相互作用)破損が生じる。PCI破損には急昇出力の大きさにしきい値があることが知られているが、MOX燃料ではUO2燃料のしきい値を超える急昇出力の場合でも破損しないという結果が得られている。これはMOX燃料のクリープ速度が大きく、UO2燃料に比較して被覆管の応力が緩和されるためであると理解されている。このほか、燃料棒の長さ変化、燃料棒の直径変化、被覆管内面酸化、被覆管外面腐食・水素化については、現在想定されているプルサーマルの条件下ではMOX燃料とUO2燃料はほぼ同等であると評価されている。
 事故時の照射ふるまいとして燃料設計で考慮すべき事故には、冷却材喪失事故(Loss of Coolant Accident:LOCA)と反応度投入事故(Reactivity Initiated Accident:RIA)がある。LOCA時の燃料の照射ふるまいに影響するのは被覆管の最高温度と最大酸化量であるため、この点は被覆管内部の燃料ペレットがUO2燃料であってもMOX燃料であっても変わりはない。MOX燃料の崩壊熱については、超ウラン元素による崩壊熱はUO2燃料より大きいがFP元素による崩壊熱はUO2燃料より小さい。冷却時間の短いLOCA時のシナリオにおいては、FP元素による崩壊熱の方が支配的であり、MOX燃料がUO2燃料より厳しくなることはない。一方、RIA時の燃料の照射ふるまいについては、原研(現日本原子力研究開発機構)のNSRRで新型転換炉用MOX燃料を用いたパルス照射試験が実施されており、これまでのところ燃料の破損はみとめられていない(文献7参照)。また、フランスでのCABRI炉を用いた試験ではMOX燃料の破損が検出されたが、破損時のピーク燃料エンタルピーは同程度の燃焼度のUO2燃料より高くなっている(文献8参照)。
 以上のように、MOX燃料の照射ふるまいについては、これまでに豊富なデータが蓄積されている。MOX燃料とUO2燃料の照射ふるまいの差が、プルサーマルの安全性を損なうことはない。
 原子力安全委員会の原子炉安全基準専門部会は、MOX燃料の特性、挙動はUO2燃料と大きな差はなく、MOX燃料およびその装荷炉心は従来のUO2燃料炉心と同様の設計が可能であり、1/3MOX並びにフルMOXの安全評価に当たっては、従来のUO2燃料炉心の判断基準、並びにMOX燃料の特性等を適切に取り込んだ安全設計手法および安全評価手法が適用できることを報告している(文献9、10参照)。これに基づき、プルサーマルの導入にあたっては、法令に定められている原子炉設置変更許可、工事計画認可および使用前検査を個別に受けることになる。
<図/表>
表1 UO2燃料と比較したMOX燃料の主な燃料物性
表1  UO2燃料と比較したMOX燃料の主な燃料物性
表2 UO2燃料と比較したMOX燃料の主な照射ふるまい
表2  UO2燃料と比較したMOX燃料の主な照射ふるまい
図1 MOX燃料とUO2燃料の融点の燃焼度依存性
図1  MOX燃料とUO2燃料の融点の燃焼度依存性
図2 MOX燃料の熱伝導率のPu含有率依存性
図2  MOX燃料の熱伝導率のPu含有率依存性
図3 MOX燃料とUO2燃料のFPガス放出率の出力依存性(燃焼度<40,000MWd/tM)
図3  MOX燃料とUO2燃料のFPガス放出率の出力依存性(燃焼度<40,000MWd/tM)

<関連タイトル>
日本におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-03)

<参考文献>
(1)藤家洋一ほか:プルサーマル−その意義と安全性,日本原子力学会誌、44、(2002)p.238
(2)J.J.Carbajo,et al.:A Review of the Thermophysical Properties of MOX and UO2 Fuels,J. Nucl. Mater.,299,(2001)p.181
(3)R.L.Gibby:The Effect of Plutonium Content on the Thermal Conductivity of (U,Pu)O2 Solid Solutions,J. Nucl. Mater.,38,(1971)p.163
(4)S.Yano,et al.:Power Ramp Tests of MOX Fuel Rods for ATR(IFA−591),ANS Topical Meeting on LWR Fuel Performance,Portland(1997)
(5)市川逵生ほか:わが国におけるMOX燃料の照射実証および照射後試験、日本原子力学会誌、39、(1997)p.93
(6)P.Blanpain,et al.:MOX Fuel Performance and Development,Top Fuel 2001,Stockholm(2001)
(7)H.Sasajima,et al.:Behavior of Irradiated ATR/MOX Fuel under Reactivity Initiated Accident Conditions,J. Nucl. Sci. Technol.,37,(2000)p.455
(8)F.Schmitz,et al.:High Burnup Effects on Fuel Behavior under Accident Conditions:The Tests CABRI REP−Na,J. Nucl. Mater.,270,(1999)p.55
(9)発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について、原子炉安全基準専門部会報告書(1995年6月19日、原子力安全委員会了承)
(10)改良型沸騰水型原子炉における混合酸化物燃料の全炉心装荷について、原子炉安全基準専門部会報告書(1999年6月28日、原子力安全委員会了承)
(11)荒井康夫:プルサーマルの安全性、月刊エネルギー、Vol.38、50−51(1995年6月)
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