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<概要>
 AP600(AP:Advanced Passive)は、米国のDOE/EPRIの改良型軽水炉計画にしたがって米国ウェスチングハウス社(WH社)とその支援グループが開発を進めている電気出力600MWの静的(受動的)安全システムを採用したループ型PWRプラントである。
 実績のある炉心、主要機器を使用しつつ、徹底したシステム・機器の単純化、プラント全般の標準化とモジュール化を行うこと、受動的安全システムを採用して系統の単純化等によるヒューマンエラーの低減を図ることなどによって、信頼性、安全性、建設性、運転保守性を向上している。また、一括許認可取得により建設工期の短縮と確実化をはかり、大型炉や複合サイクル火力等他の形式と競合しうる発電単価の実現を狙っている。
 開発は1985年に開始され、設計、確証試験を終了している。1992年6月に米国原子力規制委員会NRC)に型式承認の申請が提出され、1998年9月には最終設計承認(FDA)を取得した。その後、より経済性の向上を図るためAP1000(電気出力1000MW)の設計も進め、2006年1月にはFDAを取得した。AP1000は米国では7サイトでCOL(建設・運転一括申請)を申請中である。中国から4基受注し、そのうち浙江省三門原子力発電所では2013年末に運転開始予定である。
<更新年月>
2011年10月   

<本文>
1.開発の背景
 米国ウェスチングハウス社(WH社)は、米国DOE/EPRIの改良型軽水炉開発計画に沿ってループ型PWRプラントに静的(受動的)安全系(以下「受動的安全系」という)を採用し、かつ単純化と標準化を行うことにより、安全性の向上、許認可取得の容易化、資本費の低減、建設工期の短縮を図りながら大型炉に劣らない経済性を得るため、1985年にAP600(AP:Advanced Passive)の開発に着手した。
 DOE/EPRIの開発計画はフェーズ1(1985〜1986)、フェーズ2(1987〜1989)、フェーズ3(1990〜1995)に分かれており、設計開発、確証試験及び米国原子力規制委員会(NRC)からの設計証明取得までが含まれている。なお、フェーズ3では電力会社の国際協力体制が作られた。米国内有力大学も開発に参加することとなった。電力の設計要求書も作成され、それへの適合性チェックが行われた。また、AP600の設計の確証のために参加各機関により国際的に試験が実施され、この中には受動的炉心冷却及び格納容器冷却の熱伝達に関する試験、各種のコンポーネント試験、1/4スケールモデルによる安全系総合機能試験が含まれている。計画は少し遅れ、1992年6月にNRCに提出されていた最終設計認証(FDA)は、1998年9月に授与された。
 AP600は米国のWH社が開発している電気出力600MWの受動的安全設計に基づくループ型PWRの標準プラントである。表1にAP600と従来型PWRの主要設計仕様の比較を、表2にAP600における単純化による物量低減を示す。
2.AP600の特徴
 AP600の特徴は次の通りである。
・受動的安全系の採用とシステム・機器の単純化による大幅な物量低減と運転性、保守性及び品質の向上
・実績のある形式の炉心、主要機器の使用による高い信頼性
・多くの確証試験に裏付けられた受動的安全系による高い公衆安全性と許認可の確実性
・モジュール工法の採用による短い建設工期と確実な工程
・標準化による大型炉及び複合サイクル火力等他形式発電と競合し得る発電単価
3.炉心及び1次冷却系
 炉心及び原子炉容器は従来のPWRと同様であるが、燃料集合体数を約20%多くして低出力密度として安全裕度を高めている。反応度制御のために45本の制御棒に加えて16本のグレイ制御棒が使われる。1次冷却材中のほう素濃度調節によるケミカルシムも併用されるが、バーンアップ補償と炉停止用であり、負荷変動調整には使用しない。また、原子炉容器の照射量低減のためにステンレス鋼と水より成る径方向反射体を設け、原子炉寿命60年を達成している。
 1次冷却ループは、図1に示すように、2基の蒸気発生器と4台のキャンドモータポンプより成る。ポンプは2台ずつ蒸気発生器の底部に倒立して直結され、このためクロスオーバレグはなく、ホットレグは2本、コールドレグは4本となっている。キャンドモータポンプの使用により軸シールとシール水系統が不要となり、この部位でのLOCAも考慮不要となる。ポンプを4台としたのは同種の大型ポンプの製造実績を考慮したためである。
4.安全系
 安全系は全面的に圧縮ガス、重力、自然循環力による静的(受動的)安全システムを採用しており、大口径破断による一次冷却材喪失事故(LOCA)から運転中の極小リークに至るまで一定期間(3日間)運転員の操作に期待しなくても炉心損傷を防止し、公衆安全が保てるようになっている。また、運転員の誤操作(ヒューマンエラー)による事故の影響を低減することもできるようになっている。安全系のシステム構成を図2(受動的安全注入系)、図3(受動的格納容器冷却系)及び図4(受動的余熱除去系)に示す。
(1)LOCA時対応
 LOCA時には2基の炉心補給水タンク(高圧注入系、小容量、重力駆動)、2基の蓄圧タンク(中圧注入系、中容量、圧縮ガス駆動)、格納容器内燃料取替用水タンク(低圧注入系、大容量−約1900m3、重力駆動)から炉心へ冷却水の注入が行われる。蓄圧タンクと格納容器内燃料取替用水タンクは1次冷却系と逆止弁を介して接続されており、系の圧力が下がれば自動的に注水が行われる。各タンクからの注水を確実にするために自動減圧システムが設けられており、最終的には一次冷却系の圧力を0.7kg/cm2程度まで下げる。自動減圧系は、誤作動を避けるために4段階の減圧系を設けている。炉心の長期冷却のために、事故発生後10時間程度で格納容器内燃料取替用水タンクからの炉心注水は終了し、1次系は各ループ上部まで冠水する。
 格納容器冷却は格納容器壁と格納容器外周建屋の間に設けられた自然通風路を空気が循環することによって大気を最終ヒートシンクとして行われる。格納容器外周建屋の上部には円環状の重力ドレン水タンクが設置されており、重力によって格納容器上部へスプレイが行われ除熱が促進される。同タンクは3日分の容量があり、以降は運転操作により水の補給を行うが、補給を行わなくても格納容器圧力・温度は設計条件以下に維持できる。
(2)LOCA以外の事故時及び極小LOCA時対応
 外部電源喪失、2次系破断等のLOCA以外の事故または極小LOCAが生じた場合には、1次冷却材保有量維持と負の反応度維持のために炉心補給水タンクから重力によりほう酸水の注入が行われる。2基の炉心補給水タンクは1次冷却系より高い位置に配置されて加圧器の蒸気ラインと連結されており、必要な場合に安全保護系からの信号により隔離弁が開いて自動的に注水がおこなわれる。
 蒸気発生器による通常の余熱除去が不能のときには受動的余熱除去系が使用される。1次冷却材は、格納容器内の1次系より高い位置に配置された格納容器内燃料取替用水タンクに内蔵された2系統の余熱除去熱交換器を通して自然循環により冷却される。格納容器内燃料取替用水タンクの水が全部蒸発するには数日間の余裕があり、長期の炉心冷却を可能とし、その後は利用できる補給水設備から給水する。
5.プラント設計
 AP600発電所全体図を図5に示す。受動的安全系の採用及びその他システム・機器の簡素化によりAP600は従来型PWRと比べて大幅なプラント物量の低減が行われている。主要項目の物量比較は表2に示す通りであり、ポンプ、弁、配管、電線等の減少が著しい。すべてのポンプ類とディーゼル発電機が非安全系となったことも単純化に寄与している。耐震建屋(安全系建屋)の体積も大幅に減っている。ただし炉心、原子炉容器、格納容器は大型になっている。
 AP600はプラント配置も標準化されているが、さらに全面的にモジュール化対応の設計となっている。工場でプレファブされたモジュールは現地へ送られて組立てられる。モジュール化は建設の品質向上だけでなく、工期短縮に非常に有効である。
 WH社はエンジニアリングをすべて行った標準設計により、プラントを確定価格(1990年米国$ベースによる瞬間値で1370$/kW)と確定工期(最初のコンクリート注入から燃料装荷まで3年間)で建設することが可能であるとしている。
6.AP600からAP1000へ
 AP600は、1998年9月にNRCのFDAを取得したが、電力会社からの受注は無かった。その後、国家エネルギー政策「原子力2010年計画」が始まり、これを受けて大型化を図ったAP1000(電気出力1000MWe、2ループ型プラント)を設計(第3世代+(プラス)の原子炉として位置づけ)し、2006年1月にはFDAを取得した。
 AP1000は、LOCA時対策にAP600と同様の受動的安全設計を採用し(図6参照)、系統の簡素化により機器類の物量も低減された(図7参照)。その結果、コストの低減となり、炉心損傷確率も現行炉より2桁低い値となった。AP1000は米国では表3に示す7サイト(16基)がCOL(建設・運転一括申請)を申請中である。中国からは4基受注し、そのうち浙江省三門原子力発電所では2013年末に運転開始予定となっている。
(前回更新:2003年9月)
<図/表>
表1 AP600と従来型2ループPWRとの主要設計仕様の比較
表1  AP600と従来型2ループPWRとの主要設計仕様の比較
表2 AP600におけるプラント物量低減
表2  AP600におけるプラント物量低減
表3 AP1000のCOL申請中の発電所名
表3  AP1000のCOL申請中の発電所名
図1 AP600の1次冷却系
図1  AP600の1次冷却系
図2 AP600の受動的安全注入系
図2  AP600の受動的安全注入系
図3 AP600の受動的格納容器冷却系
図3  AP600の受動的格納容器冷却系
図4 AP600の受動的余熱除去系
図4  AP600の受動的余熱除去系
図5 AP600発電所全体図
図5  AP600発電所全体図
図6 AP1000の受動的炉心冷却システム
図6  AP1000の受動的炉心冷却システム
図7 AP1000の受動安全設計による機器類の物量低減
図7  AP1000の受動安全設計による機器類の物量低減

<関連タイトル>
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
改良型加圧水型原子炉(APWR) (02-08-02-04)
APWRの改良発展 (02-08-02-06)
受動的安全炉の安全概念 (02-08-03-01)
System 80+ (02-08-03-02)
ROSA-AP600計画 (06-01-01-29)

<参考文献>
(1)Westinghouse Electric Co.:AP600 Standard Safety Analysis Report,June 26,1992
(2)H.J.Bruschi:Westinghouse AP600 Executive Summary,ウェスチングハウス社パンフレット
(3)H.Bruschi et al.:The Westinghouse AP600 ALWR is Undergoing Feature Testing for Detailed Design Verification and Licensing,Nucl.Eng. p15-22,Nov.1991
(4)T.van de Venne:Application of Passive Safety Systems to Large PWRs,Proceedings Vol.2,Inter.Conf.on Design and Safety of Advanced Nuclear Power Plants,Oct.25-29,1992,Tokyo,Japan
(5)H.D.Farin et al.:The Westinghouse AP600 Engineers and Constructors a Partnership in the Design,3rd JSME/ASME Joint Inter.Conf.on Nucl.Eng.,Apr.23-27,1995,Kyoto,Japan
(6)鈴木英昭ほか:単純化PWRの静的安全システムの概要,火力原子力発電,Vol.42,No.419,1991年8月
(7)T.Matsuoka et al.:Safety Features of the Simplified Mitsubishi Pressurized-Water Reactor,Nuclear Safety,Vol.33 No.2,April-June 1992
(8)Sugizaki et al.:Development of a Large Scale PWR with Hybrid Safety Systems,3rd JSME/ASME Jonit Inter.Conf.on Nuc.Eng.,Apr.23-27,1995,Kyoto,Japan
(9)日本原子力研究所:原研実施の安全性確証試験で米国が次世代炉の型式承認、ニュース館(,1998年9月17日)
(10)Westinghouse:AP1000,
(11)Simon Marshall GDA Project Director Westinghouse UK:Physics and the AP1000“Passive Safety”,http://www.iop.org/events/scientific/conferences/y/10/epr/file_45458.pdf
(12)NRC:http://www.nrc.gov/reactors/new-reactors/col.html
(13)R.A.Matzie:The AP1000 Reactor Nuclear Renaissance Option(September 26, 2003),(2007年9月)
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