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沸騰水型発電プラント(以下BWRと略す)の水質管理の目的は、(1)
燃料棒の健全性維持、(2)放射性腐食生成物の抑制と除去による冷却系の線量率の低減、(3)機器、構造材の腐食や
応力腐食割れ防止、(4) 放射性廃棄物発生量の低減、でありプラントの安全性、信頼性等を確保する上で重要な役割を担っている。
表1は水質管理の変遷をまとめたものであるが、初期の燃料被覆管破損対策から、最近は冷却系の線量率低減や経年化プラントの信頼性向上(応力腐食割れ防止が大きな比率を占める)に重点が移ってきており、新たな知見に基づいて管理手法の改善が図られている。
図1にBWRの冷却系統および浄化系(炉水浄化系、復水浄化系)を、また 一時冷却系の水質制御法と水質を
表2および
表3に示す。なお、これらの表中には比較のためにBWRのデータも示している(水質管理値は見直しが行われている。)。BWRの
冷却材の流れは、
図1のa)に示すように、主蒸気系−タービン−復水系−給水系と再循環系の2つがある。
水質管理の目的は、プラントの線量率低減と燃料および機器の健全性確保が主なものであるが、各々の具体的な対策を以下に述べる。
1.プラントの線量率低減対策
プラントの線量の主要原因は、冷却水系の配管・機器および
燃料集合体の表面から発生した水垢(クラッド)が炉心において中性子の照射を受け
放射化したもの(放射性腐食生成物)である。冷却水中の主要な
放射性核種を
表4に示す。このうち線量率に大きく寄与する核種は
60Co、
59Fe、
58Co、
54Mnである。この冷却水中のクラッドの発生の低減と浄化系におけるクラッドと放射性腐食生成物の除去は発電所の作業員の受ける被ばく線量を下げるために重要なことである。
クラッド発生低減の手段として、「原子炉停止中および運転開始時の低減」と「運転中の低減」が行われている。
停止中の対策は、
表5の中の主要対策(a)、(b)に示すように、配管内の乾燥や配管内表面の保護性のある酸化膜の保持であり、運転開始時の対策は停止中に発生したクラッドの除去(
表5の(c))や、起動時に冷却材中への酸素添加による配管への安定な酸化膜形成が有効である。
運転中の対策として、冷却水中の鉄濃度を抑制するために、従来の復水浄化系の脱塩器の手前に除鉄性能の高い
プレフィルターを設置することが有効であった。このプレフィルターには粉末樹脂または
中空糸膜フィルターが使われている。また給水中への酸素注入もクラッド低減に効果がある。これらによって給水中のクラッド濃度は、当初の30〜50ppbから1ppb(1μg/L)まで減らすことができた。しかし、Coイオン濃度は僅かではあるが増加する傾向を示した。但し、クラッド減少により、それに含まれるCoも減少するので、Co総量は減っている。
冷却水中の
60Coを抑制するため、給水加熱器チューブ等のステンレス鋼材ならびに燃料体のスペーサースプリング等のインコネル材について低コバルト化を図るとともに、
制御棒のピン、ローラや一次系の弁は
59Co基合金であるステライト鋼材の使用をできるだけ排除することに努めた。また、つぎのように冷却水中の鉄濃度を調整することによって
60Coの濃度を下げることに成功している。
給水中のクラッド濃度は0.1ppbまで下げると、線量率が予想に反して上昇する。原因としてCo酸化物のCoOは、鉄基のクラッドと反応して生成するCoOFe
2O
3よりも冷却水への溶解度が高いため、冷却水中の鉄濃度がある程度存在する方が、冷却水への溶解度が低いCo複合酸化物になりやすいことが分かった。このため、鉄注入または復水系に設置したプレフィルターをバイパスさせ炉内への鉄クラッドを意図的に微増することとした。具体的には、給水中のNi/Fe比を0.5以下に制御し、これによってCoイオンを抑制することが可能となった。
改良標準BWRプラントでは、線量率低下のため上記の対策を施しているが、具体的な施策を
図2に示す。
この他に、改良標準BWRでは配管内面を研磨し、放射性腐食生成物の実効付着面積を10〜30%低減する方法が採用されている。また、米国では冷却水中へZnを注入し、
60Coの燃料表面への固定化と
60Coの配管への付着速度の低減による
60Co放射能低減と線量率低減が行われており、わが国においてもこの方式を採用している。
2.機器の健全性確保対策
構造材のうちでステンレス鋼は、中性子照射を受けると照射誘起応力腐食割れ(IASCC)を起こしやすくなり、冷却水と構造材との相互作用では、応力腐食割れは重要な問題である。応力腐食割れ対策として、給水中に0.4ppmの水素を添加することによって炉水中の実効酸素濃度を20ppb以下に低減でき、応力腐食防止に役立つことが判明し、我が国でも、水素注入を行うBWRが増えている。この程度の水素注入はジルカロイ-2被覆管の水素吸収に悪影響はないが、給水中の水素が増し1ppmを越えると、
16Oの中性子照射により生成された放射性核種
16Nの、蒸気中への移行量が水素無添加の場合の5倍に増加するという問題があるため、注入水素量の制御には注意しなければならない。
IASCC対策としてはさらに配管への貴金属(Pt、Pd)コーティング手法があり、予め該当部位にコーティングを施す方法と、冷却水に貴金属有機物を添加して、冷却系全体コーティングする方法がある。この手法もオプションの一つとして採用されている。
<図/表>
<関連タイトル>
BWRの起動・停止方法 (02-02-03-01)
原子炉機器(BWR)の原理と構造 (02-03-01-02)
PWRの水質管理 (02-02-03-05)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電(1990年6月)
(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(2008年9月)
(3)火力原子力発電技術協会(編):火力原子力発電所における化学管理(1987年6月)
(4)原子力安全研究協会(編):軽水炉燃料のふるまい 第4版(2003年7月)
(5)日本原子力学会 水化学部会:水化学ロードマップ2009(平成21年6月)
(6)日本原子力学会誌:軽水炉プラントの水化学 「アトモスVol.51(2009年2月〜2009年12月)」