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<概要>
 原子炉施設が設置される場所の地質や地盤は、原子炉施設の自己荷重のほか、想定される地震力その他の荷重を厳しく評価しても、原子炉施設の安全を十分に保証しているものでなければならない。しかし、対象となる場所の地質や地盤の性状は場所ごとに異なるのが通常であるので、評価すべき基本事項を集約し安全審査の効率的、かつ系統的運営に役立たせる必要がある。「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き」は、このような目的のために昭和53年に作成されたものである。平成18年9月に「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」が最新の知見を反映して改定されたのを受け、上記の手引きが全面改訂されることとなった。この手引きに規定されている事項のうち、活断層等の調査・認定等に関する部分をまず先行して見直し、「活断層等に関する安全審査の手引き」(平成20年6月20日)として作成された。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている「地質、地盤に関する安全審査の手引き」については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2009年12月   

<本文>
1.原子力発電所の立地に伴う調査
 「電源開発長期計画」によって発電所の立地点(候補点)が選定されると発電所の設置についての調査が開始される。調査の主要項目は、「発電所の適地の確認」、「その設置に伴う環境保全」および「発電所の計画設計に必要なデータの取得」である。そのうち「適地の確認」および「必要なデータの取得」のためには、立地点(候補点)の地形、地質、地盤、地震、海象、気象などについての基本因子の収集が不可欠となる。収集された情報は、立地点の適否の確認、敷地造成工事をはじめ、土木関係工事の計画・設計、耐震設計条件、一般公衆の被ばく線量、発電所全体および各設備の配置計画作成などに取り入れられ、原子炉設置許可申請書、電気工作物変更許可申請書、工事計画認可申請書などの基礎となる。
  図1は、原子力発電所の「立地」に伴い必要となる調査項目を示すものである。なお、図1のうち「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き」に直接関係する項目は、最上段の「地形・地質調査」の部分(土木関係調査の一部)である。

2.土木関係の設計調査
 「環境調査」、「気象調査」、「耐震関係調査」などと一緒に行われる「土木関係設計調査」の主要項目は次のとおりである。
地形測量空中測量立地点およびその周辺測定のための「標点」の設定
地上測量主要部の細部地形測量
深浅測量立地点沿海域の深さの測量(鍾測法、音響法、超音波法)
地質調査既存資料文献等の調査
空中写真空中写真による判読
地質調査踏査による地質構造、岩質、地質構成、断層などの調査
物理探査物理的信号の伝達、反射の利用
海底地盤一般に音波探査法を利用
ボーリング敷地全域、原子炉建屋場所を重点的に直接ボーリング、地質構造の把握
試掘坑と岩盤試験原子炉建屋場所の基礎部分に直接、横坑を掘削、「静的および動的岩盤試験」を実施
地下水調査揚水井の掘削、ボーリング孔の活用等による地下水理等の調査
地震調査地震歴、活断層、褶曲構造などの調査のほか、地震観測
気象、海象、水源調査・省記

3.土木関係工事に要請される重要事項
(1)ボーリング調査、物理探査、試掘坑(原子炉建屋設置部分)などによる「岩盤検査」によって、地盤の地質、構造および岩盤強度が精細かつ正確に把握されている必要がある。
(2)特に「耐震重要度」分類が「Sクラス」の強度を必要とするもの(原子炉建屋、PWRの場合の原子炉補助建屋、制御建屋、屋外タンクの一部など)は、設計荷重に応じた十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない。
(3)したがって、基礎地盤の地質構造、岩盤強度、岩盤深さなどから、基礎地盤の掘削深さの変更、人工岩の補強などが必要となる場合がある。「土木設計」のための条件は、基礎地盤に加わる「静的荷重(原子炉施設の自己荷重)」と「動的荷重(地震時の動荷重)」である。
(4)「地質構造」で注意すべき項目は、「破砕帯」の存在と、岩盤面が深い場合には「地下水圧」による基礎コンクリート部分の浮上力である。それらを回避するが、適切な対応策が施されている必要がある。

4.地質、地盤に対する安全審査上の留意点(旧手引き)
 「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き」(以下、旧手引きと記す)は、地質、地盤の安全審査に際して、審査すべき項目とその内容を指示している。そのあらましは次のとおりである。

敷地周辺の地質1. 敷地中心から半径30km範囲の陸地について、既存の「地形図」、「地質図」のほか、航空写真や踏査による情報が適切なものであること。
2. 敷地前面が海域である場合、「海底地形図」、[海底地質図」、「海底地質構造図」などが適切なものであること。
3. 敷地周辺において顕著な「断層」または「褶曲構造」が認められたときには、その活動性について十分安全側の評価がなされていること。
敷地の地質「敷地内」の地質については、各種の調査で作成された「地質図」およびそれに基づく詳細説明が妥当でなければならない。
1. 敷地中心から半径ほぼ1km 範囲において作成された原縮尺5,000分の1以上の「地質平面図および断面図」。
2. 原子炉炉心予定位置を中心とする半径ほぼ200m範囲において作成された原縮尺1,000 分の1以上の「水平および垂直地質断面図」。
3. 敷地内で行われた各種の測定または調査結果の妥当性(地質区分、岩盤等級が表示されたボーリング柱状図、地下水位・地下水状態図など)。
岩石・岩盤の物性「基礎岩盤」の支持力、すべり、沈下等の解析結果から、それが十分安全なものであることを評価しなければならない。
1. 基礎岩盤の岩石の密度、含水比、間隙比などについての測定結果。
2. 探取岩石の圧縮および引張試験結果。岩盤のせん断および支持力試験結果。
3. 岩盤の変形特性に関与する(動)弾性係数、(動)ポアソン比などの妥当性。特に「軟岩」の場合には岩石・岩盤のクリープ特性。
4. 岩盤に節理や層理が発達しているときには、その異方特性。
5. その他必要に応じて、岩盤物性のバラツキ、初期地圧ならびに透水係数


5.手引きの全面改訂
 平成18年9月に「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」が最新の知見を反映して改定されたのを受け、前項の旧手引きが全面改訂されることとなった。旧手引きに規定されている事項のうち、活断層等の調査・認定等に関する部分をまず先行して見直し、「活断層等に関する安全審査の手引き」(平成20年6月20日)として作成された。今後、震源断層の評価、基準地震動の策定、基礎地盤の評価および地震随伴事象の評価等に関する範囲も含めた形で最終的な手引きとしてまとめられる予定である。本手引きの留意点は以下の通り。
(1) 旧来のリニアメント重視から地形発達過程(地形の成因を含む)重視への移行
(2) 各手法による調査結果の総合的な検討の重要性
(3) 断層の三次元形状の把握の重要性
(4) 一貫した活断層の認定の考え方
(5) 必要に応じ調査原資料に立ち返った審査
 「活断層等に関する安全審査の手引き」の主要内容を表1に示す。
(前回更新:1998年5月)
<図/表>
表1 「活断層等に関する安全審査の手引き」の要点
表1  「活断層等に関する安全審査の手引き」の要点
図1 原子力発電所の「立地」に伴い必要とされる調査項目
図1  原子力発電所の「立地」に伴い必要とされる調査項目

<関連タイトル>
原子力発電所の立地サイト周辺地勢 (02-02-01-01)
原子力発電所の新立地技術 (02-02-01-06)
原子力発電所の建設工事 (02-02-02-03)
原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて (11-03-01-03)
原子力発電所の耐震設計審査指針の改定 (11-03-01-30)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員会 安全審査指針集、大成出版(1994)
(2)徳永岩夫(1979):原子力発電所の計画設計・建設工事、電気書院
(3)土木工学会編(1974):岩の工学的性質と設計・施工への応用、土木工学会
(4)「活断層等に関する安全審査の手引き」策定に当たっての見解(平成20年6月11日、地質・地盤に関する安全審査の手引き検討委員会)
(5)活断層等に関する安全審査の手引き(平成20年6月20日、原子力安全委員会了承)
(6)地質・地盤に関する安全審査の手引き検討委員会における検討状況について(平成20年12月3日)
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