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将来の不確実性を十分に踏まえ、2030年頃を念頭にわが国のエネルギー需給構造を見通すとともに、エネルギー戦略の検討を行うため、2003年12月から総合資源エネルギー調査会需給部会において、長期エネルギー需給見通しの見直しに向けた審議が行われ、2005年3月に答申された。以下に概要を示す。
1.2030 年のエネルギー需給見通し
1.1 国際経済社会とエネルギー需給構造の将来像
(1)国際経済の将来像
世界の人口は2030年においては、概ね80億人以上になろう。アフリカ、中国、インドの伸びは大きく、それぞれ15億人程度の人口を抱えることになる。OECD諸国においては、出生率の低下と長寿命化が影響し、人口はあまり増加しないが、大幅な高齢化が進展する。経済活動の国際化やITの進歩などに伴い、世界経済の統合は確実に強まり、人的資本の質が向上するとともに、技術も相当程度進歩し、グローバルな情報社会が実現する可能性が高い。一方で、環境、都市、社会、貧富の格差の拡大などの分野で様々な問題がより拡大された形で登場する可能性がある。世界経済は、年率平均概ね3〜4%程度の増加と見られている。このような世界経済の成長は、とりわけアジア地域(中国、インド)によって牽引されていくものと予想される。
2030年のエネルギー需要量は、2002年と比較し約60%増大すると予想されている。エネルギー需要を部門別に見ると、開発途上国における運輸部門が大幅に増加、都市化の進展や様々な電化製品が導入されるなどから民生部門の需要も伸びることが予想されるが、産業部門と同程度の伸びと見込まれる。大幅に増大するエネルギー需要を賄うのは、今後とも
化石エネルギーが中心と予想される。原子力の役割、位置付けについては、欧州における脱原子力の動きがある一方、米国の政策転換やアジアにおける積極的な原子力開発などを考えれば、単純に見通すことはできない。
再生可能エネルギーも、技術開発のブレークスルーの予測が困難であることから、簡単に見通すことはできない。エネルギー需要の増大に伴い、エネルギー起源CO
2排出量も、2030年には2002年比で約62%増大する(
IEA)。その増分の約2/3 は途上国において発生し、特に中国は単独で世界のCO
2増加分の約1/4を占める(
図1および
図2)。
(2)2030年におけるわが国の姿とエネルギー需給構造
わが国の総人口は、減少し2030年には1億1,800万人程度になろう。これに伴い高齢者比率は、2030年度には約30%まで増加する。わが国の2030年におけるエネルギー需給構造を見通すに当たり、経済成長率は、2010年度に至るまで年率2.0%、その後2010〜2020年度に1.7%、2020〜2030年度に1.2%程度と伸び率は減少していくものの、安定的に成長することが想定される。また、このとき1人当たりのGDPは増大し、国民の経済的な豊かさが向上する。 また、産業構造の観点から見ると、引き続き経済のサービス化と高付加価値化が進展する。中長期的に見れば、余暇時間の増加に伴う、働く場所から家庭・サービス施設などへのエネルギー需要の重心のシフト、IT の利用によるエネルギー利用の効率化、都市化に伴う交通負荷の低減など、社会構造の変動がエネルギー需要に影響を及ぼしていくことが予想される。
(3)2030年に向けた複数の将来像と道筋
長期的な将来は不確実性が高いものの、「ある程度確からしいもの」を見通すとともに、エネルギーの「未来を分かつ分水嶺」であって不確実性の高い要素(国際経済社会の政治的安定性、資源枯渇の可能性、技術進展の可能性、環境制約の度合い、国民意識の変化等)を「将来への道筋の岐路」ととらえ、4つの未来の姿とエネルギー需給構造に与える影響を定性的に描く(
図3)。過去の傾向から見て、国際情勢、経済社会構造、人口動態、国内経済情勢、国民行動が今後も趨勢的に変化することを想定した自然体での道筋(現状趨勢シナリオ)では、 国際経済社会構造は極端には悪化せず、わが国の経済社会は緩やかに成熟化し、エネルギー需要はいずれ頭打ちになるが、一次エネルギー供給は引き続き化石燃料に依存した状況が継続する。人々の環境意識が大幅に高まり、あるいは、エネルギー環境関連技術が飛躍的に進歩する可能性とそれが実現する場合の道筋(自律的発展シナリオ)では、エネルギー需要は大幅に減少する可能性がある。国民が豊かさを追求し環境意識が顕在化しないことから、エネルギー需要が増大し続ける道筋(環境制約顕在化シナリオ)では、
地球温暖化問題が急激に現実化し、深刻化する場合には、国際的な環境対応圧力とともに、国内的には政府によるエネルギー消費に対するディスインセンティブ効果を有する規制措置等の導入が不可避となる。エネルギーの安定供給を脅かすような事態が何らかの要因により起こり、国際的な政治的不安定性・緊張が生ずることにより、わが国のエネルギー需給構造に一定のショックが与えられた場合の道筋(危機シナリオ)では、ひとたび供給不足、原油価格暴騰等が起こり、それが長期に及ぶ場合には、日本経済は相当程度の打撃を受けることになる。
1.2 長期エネルギー需給見通し
(1)2030年エネルギー需給見通し
エネルギー需要の伸びは、2030年に向けて、人口・経済・社会構造の変化を踏まえて、構造的に鈍化し、2021年度には頭打ちとなり減少に転じる。部門別に見ると、産業部門は横這い、貨物部門は漸減で推移する。家庭部門、業務部門、旅客部門は、活動水準(世帯数、床面積、交通需要)の増加に伴い、引き続き増加するが、長期的には、省エネ機器・技術の浸透と活動水準の伸び率の鈍化の相乗効果により減少に転じる。 省エネ技術の実用化・普及による省エネポテンシャルは極めて大きい。新技術や
ヒートポンプの導入などが進展すれば、エネルギー需要は合わせて5千万kl程度減少する(
図4)。
エネルギー供給構造は緩やかに変化する可能性がある。
分散型電源は、総発電電力量の約2割程度まで拡大する。天然ガスは、分散型電源の普及によって需要が拡大するが、他方、系統電力需要の低下は天然ガス火力発電の減少をもたらす。一次エネルギー供給ベースでは、シェアは現在よりも増加する見通しである。原子力は、ベースロードに対応した電源として引き続き安定的なシェアが維持される。石油はシェアが減少するが、依然として約4割程度を占める重要なエネルギー源となる。石炭は横這いで推移する。
新エネルギーの導入が進展すれば、一次供給ベースで再生可能エネルギー・新エネルギーは約10%に達成する可能性もある。エネルギー技術が進展・普及すれば、これによる省エネポテンシャルは極めて大きいことから、経済成長が比較的高めで推移した場合であっても、CO
2排出量は1990年レベルを下回る可能性がある(
図5、
図6、
図7および
図8)。
(2)2010年エネルギー需給見通し
現行対策推進ケースにおけるエネルギー需要は、産業部門においては、1990年度に比して9%の増加にとどまる一方、家庭部門、業務部門、運輸部門においては、各々34%、39%、21%と大きく増加する見通しである(
図9、
表1、
表2および
表3)。エネルギー供給構成は、天然ガスの増加、原子力の増加等を踏まえ、一層の多様化が進展する見通しであり、石油の消費量は減少するが、依然として国内供給の4割以上を占める重要なエネルギー源である。天然ガスのシェアは増加、石炭のシェアは横這いとなる。原子力は、2010年度までの新規増設分として既建設中3基が見込まれ、3,753 億kWh となる。また、新エネルギーは、シェアの若干の増加が見込まれる。
エネルギー起源CO
2排出量の増加抑制のためには追加対策が必要である。2010年度におけるエネルギー起源CO
2 排出量は、自然体で見通した「レファレンスケース」では1,181百万t−CO
2、「現行対策推進ケース」では1,115百万t−CO
2の見通しで、基準年(1990年度)の排出量(1,048百万t−CO
2)と比較して6700万t−CO
2増加する見込みであり、更なる追加対策が必要となる(
表4)。なお、エネルギー起源CO
2については5900万t−CO
2の追加対策を講じることで2010年度の排出量を基準年総排出量比+0.6%まで抑制し、引き続き温室効果ガス全体で同マイナス0.5%の削減を達成し得る可能性が示されている。
2.2030年に向けた中長期的なエネルギー戦略の在り方
2.1 エネルギー需給見通しを踏まえた4つの戦略
望ましいエネルギー需給構造の実現に向けて、中長期的なエネルギー戦略の方向性として以下の4点が提唱されている。
(1)アジアのエネルギー需要増加をにらんだ国際エネルギー戦略の確立
(2)国民や産業界の省エネルギー・環境対応努力の好循環の実現
(3)エネルギー供給の分散と多様化による変化への対応力強化
(4)これまでのエネルギー産業の業態の垣根を超えた柔軟で強靱なエネルギー供給システムの実現
2.2中長期的エネルギー戦略実現に当たっての留意事項
中長期的な視点に立ったエネルギー戦略を実現していくに当たっては、技術開発の効率化、エネルギー関係特別会計の効果的な活用が重要である。エネルギーベストミックスに関しては、2003年秋に閣議決定された
エネルギー基本計画において基本的な枠組が示されており、その理念に沿って努力を続けていく必要がある。
2.3
京都議定書目標達成計画の策定に向けて
(1)2010年エネルギー需給見通しの評価
今回の見通しによると、CO
2排出量は、目標年度と比較して、レファレンスケース・現行対策推進ケースともに目標値を相当程度上回る見通しである。特に民生部門および運輸部門は目標を相当程度超過するため、民生・運輸対策における温暖化対策の取組を強化していく必要がある。
(2)京都議定書目標達成計画策定に向けた基本的考え方
エネルギー起源CO
2排出量については概ね+0.6%程度を目標とすることが妥当である。 地球温暖化問題は地球規模で長期的に取り組む課題であり、短期的局地的視野からのみで検討・対応するのではなく、長期的地球的視点に立って考え、行動する必要がある。持続可能性のある対策を講ずるためには国民生活や経済活動の水準を切り下げるのではなく、むしろ国民生活を向上、経済を発展させることを通じて地球温暖化問題に寄与することが重要である。省エネルギー等各種技術およびシステムが諸外国においても活用されれば、わが国だけでなく諸外国においても実質的に地球温暖化の解決に貢献するため、技術開発や効率的システムの導入等を対策の基本に据えるべきである。
(3)対策強化の内容
高い省エネ環境意識を有する国民の積極的な取組によって、わが国の省エネルギーの可能性を最大限顕在化させていくため、関係各者が一体となって情報や手段の提供などの環境整備およびそれに向けた責任と役割を果たすことが必要である。交通事業者、産業界、行政等の連携による地域における効率的な交通システムの構築等により、地域構造や経済社会構造の変革をもたらすような対策を講じていく。エネルギー関連主体間の連携等、各主体毎の取組を超える「垣根を越えた取組」を活発化することとする。エネルギー事業者がエネルギー利用の実態把握に努めるとともに、エネルギー管理を自らのビジネスチャンスとして捉え、積極的に事業展開に乗り出すことが期待される。エネルギー供給事業者のそのような取組を促進する仕組みを作っていく。不特定多数の消費者に対して確実に省エネルギーを進めるため、個別機器の効率向上を最大限図る機器対策を進めていく。 世界最先端のエネルギー効率型社会を目指し、京都議定書の削減目標達成に向けて対策を推進していくため、わが国のエネルギー利用の実態把握に不可欠なエネルギー関連統計の充実が必要である。各種政策を担当する関係行政機関、地方公共団体、エネルギー関係者、環境関連団体等が、現状と課題に関する認識を共有し、連携して地域における対策に取り組む場を整備すべきである。政府は、京都議定書の目標を達成する観点から、早急に、
京都メカニズムの本格的な活用に向けた取組を計画的に進めることが重要である。
(4)追加対策の評価
試算結果により、所要の対策を講ずることで、2010年度におけるエネルギー起源CO
2排出量を概ね+0.6%程度に抑制できる可能性があることが示されたが、実際に目標を達成するためには相当の努力と連携を要することを十分に認識する必要があり、関係政府機関、地方公共団体、産業界、NPO等と連携しつつ削減ポテンシャルの現実化を図る必要がある。
<図/表>
<関連タイトル>
長期エネルギー需給見通し(1998年6月・総合エネルギー調査会需給部会) (01-09-09-05)
長期エネルギー需給見通し(2001年7月・総合資源エネルギー調査会) (01-09-09-06)
地球温暖化防止京都会議(1997年のCOP3) (01-08-05-15)
<参考文献>
(1)総合資源エネルギー調査会需給部会:「2030 年のエネルギー需給展望」(平成17年3月)
(2) 経済産業省資源エネルギー庁:エネルギー白書2005