<本文>
1.原子力発電の概要
ウクライナでは、2013年12月末現在で4つのサイト(
図1)で総発電設備容量1,381.8万kWを擁する15基の原子炉が運転中である(
表1-1参照)。同国内における原子力発電設備容量の割合は約25%(
表2参照)となっている。また、原子力による発電電力量は1996年以降、総発電電力量の約43〜48%を供給している(
表3参照)。2012年12月時点で同国の原子力による総発電電力量は848億kWh、総発電電力量に占める原子力発電の割合は46.2%で、2011年の47.2%より1ポイント減少した。また、2011年の平均設備利用率は74.5%で、2010年の73.6%より0.9ポイント上回った。
なお、ウクライナは1986年4月26日に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所を有していたが、2000年12月までに事故炉を含む全4基(RBMK-1000、4基380万kW)が閉鎖された(
表1-2参照)。
チェルノブイリ事故後、ウクライナ最高会議は1990年8月に「ウクライナにおける原子力発電所の建設凍結」(
モラトリアム)を決議したが、ウクライナ国内はエネルギー不足に陥り、1993年10月に決議は撤回されている。2013年12月末時点でフメルニツキ3、4号炉(VVER-1000)の2基を2017年から2019年の完成に向けて建設中である。
運転・建設中の原子力発電所の管理は、燃料エネルギー省(The Ministry of Fuel and Energy of Ukraine)が管轄する国有企業エネルゴアトム(NNEGC ENERGOATOM:1996年設立)が担当している。また、原子力全般の安全規制は、国家原子力規制監督局(SNRIU:State Nuclear Regulatory Inspectorate of Ukraine)が担当している。
図2にSNRIUの組織図を示す。
(1)原子炉の運転寿命延長プログラム
VVER-440及びVVER-1000の設計寿命は30年であり、1980年代から営業運転を開始したウクライナの原子力発電所は2010年から2020年までに合計12基が設計寿命を迎える。総発電電力量に占める原子力発電の比率が高いウクライナでは、同国の電力確保が課題となった。エネルゴアトムは2001年10月下旬、ロシアとの共同作業により、VVER-1000型炉の運転期間を設計上の30年から10〜15年延長する計画を公表した。2004年4月には総合計画が政令で承認され、2007年までにエネルゴアトムにより準備作業を行うことになった。最初の実施対象となった原子炉は、ロブノ1号機(VVER-440/213、1981年9月運転開始)及び2号機(VVER-440/213、1982年7月運転開始)で、実施スケジュールは2007年に作成され、2009年に改修作業が集中的に行われた。2010年12月には、SNRIUより10年間隔で安全性評価を実施することを条件に、20年の運転期間延長が認可された。
(2)核燃料調達の多様化
ウクライナの原子炉は旧ソ連製
PWRであるため、原子炉燃料は全てロシアから供給されている。ロシアからの経済的な
リスクが高いことから、原子炉燃料調達の多様化を図るため、2000年に米国エネルギー省(DOE)と協力協定を結び、2005年に米国ウェスチングハウス社(WH)製VVER-1000用燃料が導入された。2010年にかけて、ロシア核燃料会社(TVEL社)製燃料とともに南ウクライナ3号機に装荷され、実用可能性試験が実施された。良好との判断から、エネルゴアトム社は2008年3月、スウェーデンのWH子会社と5年間の供給契約を結び、2011年〜2015年にかけて計630体の燃料集合体が供給されることになったが、2012年5月の定期検査の際、WH社製燃料2体に損傷が見つかったことから、SNRIUはWH社製燃料の装荷を中止した。なお、2010年6月には、ウクライナの全原子炉を対象とした燃料供給の長期契約をロシアのTEVL社と締結している。
(3)
使用済燃料の管理
ウクライナは運転中の原子力発電所の使用済燃料に関しても、集中型乾式使用済燃料貯蔵施設(CSFSF)の建設を計画している。現在、ザポロジェ発電所を除く全ての使用済燃料が、ロシアへ
再処理・一時貯蔵を委託している。ロシアからの高レベル返還廃棄物が2013年から始まることもあり、2005年12月には、エネルゴアトム社と米国ホルテック・インターナショナル社(HI)との間で、チェルノブイリ立入り禁止区域を立地候補地として、CSFSFの建設一括契約が結ばれている。なお、ザポロジェ発電所に関しては、オンサイト乾式貯蔵施設(SFDSF)で2004年8月から管理されている(貯蔵容量:VVER使用済燃料タイプ380キャスク)。
2.各原子力発電サイトの状況
以下に各発電所の状況を示す。なお、ウクライナは2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を受け、チェルノブイリ4号機を除く全19基を対象に、原子炉の安全性評価を実施することを決定し、2011年6月にEUのストレステストを実施した。SNRIUによる評価後、2011年12月に欧州原子力安全規制グループ(ENSREG)へ報告書が提出された。SNRIUはENSREGの勧告と西欧原子力規制当局連合(WENRA)仕様に基づいて作成された新安全性向上総合計画を承認している。2011年4月には2017年までの「原子炉近代化・安全性向上総合計画」が採択されており、法規を含めた安全対策の実施が図られるとともに、機器の耐震性の向上や電源喪失時の電力供給の確保などの改善を継続的に行っていく。
(1)フメリニツキ原子力発電所(KHMELNITSKI)
フメリニツキ州Slavutsky地区にある、旧ソ連型加圧水型炉VVER-1000/V320(グロス電気出力:100万kW)2基を運転している。1号機は1981年に建設を開始し、1988年8月に営業運転を開始した。2号機は1983年に建設を開始したものの、モラトリアムにより1990年に建設中断し、営業運転は2005年9月になった。現在、2基が建設中で、3号機は1986年に、4号機は1987年に建設を開始したが、3号機が完成度75%、4号機が28%の状態で1990年に建設を中断した。2010年6月にウクライナとロシアとの政府間で融資の合意がなされ(ロシア側:85%45.5億ドルを運転開始後5年で返済)、2011年2月にエネルゴアトムとアトムストロイエクスポルト(Atomstroyexport)間で、炉型をV320からV392Bへ変更することで建設再開が合意された。2017年及び2019年の運転開始を目指している。
(2)ロブノ原子力発電所(ROVNO/RIVNE)
リブネ州Kuznetsovk地区にある旧ソ連型加圧水型第2世代炉VVER-440/V213(グロス電気出力:44万kW)2基とVVER-1000/V320(グロス電気出力:100万kW)2基を運転している。1〜3号機は1987年までに次々と営業運転を開始した。4号機に関しては1986年に建設を開始し、1991年の稼働を目指したが、モラトリアムにより一時建設を中断した。1993年に建設を再開し、2006年1月に営業運転を開始した。なお、1・2号機は1989年初め、日本、カナダ、フランス、ドイツ、フィンランド等からなる
IAEA専門家チームの評価を得て運転を継続し、2010年12月には運転寿命を10年更新している。
(3)南ウクライナ原子力発電所(SOUTH UKRAINE)
ムィコラーイウ州Yuzhnoukrainsk地区にあるVVER-1000/V302・V338・V320(グロス電気出力:100万kW)3基を運転している。3号機は2005年〜2009年にかけてWH社製燃料集合体を試験的に装荷したが、燃料損傷問題から、ロシアのTVEL社製燃料に切替えた経緯がある。また、2013年12月、南ウクライナ1号機が10年間の運転寿命ライセンスをSNRIUから取得している。
(4)ザポロジェ原子力発電所(ZAPOROZHE)
ザポリージャ州Enerhodar地区にあるVVER-1000/V320(グロス電気出力:100万kW)6基を擁する欧州最大の原子力発電基地である。1〜5号機は1985年から1989年にかけて次々に営業運転を開始した。6号機は1996年9月に営業運転を開始した。同発電所はウクライナ国内で発電される電力量の5分の1を発電している。
(5)チェルノブイリ原子力発電所(CHERNOBYL、
図3参照)
ベラルーシ国境から16km離れたキエフ州pripyat地区にある圧力管型黒鉛炉RBMK-1000(グロス電気出力:100万kW)4基を擁し、1号機は1978年5月に営業運転を開始したウクライナで最も古い原子炉である。1986年4月26日、非常用発電系統の電源テスト中であった4号炉(1984年営業運転開始)が制御不能となり、炉心溶融後爆発し国際原子力評価尺度(INES)レベル7の深刻な事故を起こした(詳細はATOMICAタイトル「チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 <02-07-04-11> 等参照)。政府は国内のエネルギー供給を維持するため、4号機以外の原子炉の運転を続けたが、2号機は1991年にタービン室の火災のため、1号機と3号機は1996年11月と2000年12月に、西側先進7カ国(G7)諸国並びに欧州連合による国際的圧力により閉鎖された。代替電源としてフメルニツキ2号機が2005年9月に、ロブノ4号機が2006年1月に営業運転を開始した。
閉鎖後のチェルノブイリ原子力発電所は、多くの国際協力を得て、1996年に設置されたウクライナ非常事態省の管轄のもと、2001年4月に国有特殊会社として独立した。事故炉の安全管理、廃炉の実施等を行っているほか、応急的に建設された4号機を覆っていた「石棺」を新たな構造物で覆うシェルター実施計画(SIP)や1〜3号基の使用済燃料の乾式中間貯蔵計画を進めている。プロジェクトは、
欧州復興開発銀行(
EBRD)が管理する「チェルノブイリ・シェルター基金(CSF)」や原子力安全口座(NSA)の資金により賄われる。シェルターは可動式のアーチ型構造物で100年間の運転が見込まれている。なお、2012年4月、日本とウクライナの両政府は、チェルノブイリ原子力発電所事故で得た知見の共有化を図るため、「原子力発電所事故のその後の対処に関する協力協定」を締結している。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK) (02-01-01-04)
チェルノブイル原子力発電所事故直後における国際的な対応 (02-07-04-10)
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 (02-07-04-11)
チェルノブイリ原子力発電所事故の経過 (02-07-04-12)
ウクライナの国情およびエネルギー事情 (14-06-02-01)
ウクライナの原子力政策および計画 (14-06-02-02)
<参考文献>
(1)(一社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2013年版(2013年5月)
(2)米国エネルギー情報局(EIA):International Energy Statistics(Ukraine)Total Electricity Installed Capacity、
など
(3)国際エネルギー機関(IEA):Ukraine Electricity and Heat for 1990-2011、
(4)ウクライナ国家原子力規制局(SNRIU):組織図、
(5)国際原子力機関・発電炉情報システム(PRIS):ウクライナ、
(6)国際原子力安全計画ホームページ
(7)世界原子力協会(WNA):ウクライナ、
http://www.world-nuclear.org/info/Country-Profiles/Countries-T-Z/Ukraine/
(8)ウクライナ国家原子力規制局(SNRIU):National Report of Ukraine Stress Test Result、2011年、
http://www.snrc.gov.ua/nuclear/doccatalog/document?id=171796