<本文>
1.世界の原子力発電の動向の概要
2005年12月末現在、世界で運転中の原子力発電所は439基、合計出力は3億8,505万4,000kW(前年:434基・3億7,920万7,000kW)、建設中は36基、出力3,140万5,000kW(前年:33基・2,805万2,000kW)、計画中は39基、出力4,006万kW(前年:38基・3,972万3,000kW)となった。運転中の合計出力は、前年を上回る過去最高となった。
各国・地域で運転中・建設中・計画中の原子力発電所を設備容量と基数別に集計したものを
表1と
図1に示す。また、運転中の
原子力発電所の設備容量の推移を
図2に示す。
運転中の設備容量は、1996年頃をピークとして一時減少傾向が見られたが、1999年から増加傾向を示し、2000年以降、世界各国での原子力発電再評価の気運が高まったことから、設備容量は上昇に転じている。なお、原子力発電所の運転経験(
原子炉・年)は9,602炉年となった(
表2参照)。2005年における原子力発電所の主要な動きを
表3に示す。
2.営業運転を開始した発電所
2000年以降、営業運転を開始した基数は、合計30基(合計出力2,649万7,000kW)に達した。地域別に見ると、日本、韓国、中国、インドなどのアジア地域が19基(合計出力1,372万2,000kW)で、新たに営業運転開始をした原子炉の約52%をしめる(
表4参照)。
2005年に新たに営業運転を開始した原子力発電所は、日本の浜岡5号機(ABWR、138万kW)と東通1号機(BWR、110万kW)、韓国の蔚珍6号機(PWR、100万kW)、インドのタラプール4号機(PHWR、54万kW)、ウクライナのフメルニツキ2号機(PWR、100万kW)、ロシアのカリーニン3号機(PWR、100万kW)の6基で、そのうち4基がアジア地域であった。また、1997年12月から運転を中止していたカナダのピッカリングA1機(CANDU、54万2,000kW)が運転を再開した。
3.建設工事を開始した原子力発電所
2005年の新規
着工は、韓国の新古里1、2号機と新月城1、2号機の4基・400万kW、フィンランドのオルキルオト3号機(PWR、170万kW)、中国の嶺澳II期1号機(PWR、100万kW)、日本の島根3号機(ABWR、137万3,000kW)とパキスタンのチャシュマ2号機(PWR、30万kW)の合計8基 837万3,000kW。また、2001年に着工し、一時建設を中断していたロシアのバラコボ5号機(PWR、100万kW)は、2010年の運転開始をめざして建設を再開している。
4.新たに計画入りした原子力発電所
新たに計画入りしたのは、ブルガリアのベレネ1、2号機(PWR、各100万kW級)、ロシアのカリーニン4号機(PWR、100万kW)と海上浮遊型原子力発電所(KLT-40S:半一体型PWR、7万kW)、南アフリカのPBMR実証炉(HTGR、11万kW、2007年着工、2010年完成予定)。
ブルガリアのベレネ発電所は、欧州連合(EU)の加盟条件として2006年までに閉鎖を要求されているコズドロイ3、4号機(VVER-440/230=旧ソ連型PWR、各44万kW)の代替電源であるが、ブルガリア政府は2005年4月に建設計画再開を正式に承認、2005年5月から所有者のブルガリア電力公社(NEK)が国際入札手続きに
着手している。
ロシアで計画入りした2基のうち海上浮遊型原子力発電所(KLT-40S)は、中国、インドネシア、マレーシアなども関心を示し、資金調達が順調に進めば、ロシア北西部白海沿岸、セヴェロドヴィンスク市の造船所で着工、4〜5年で運転を開始できる見通しである。
5.2005年に閉鎖した原子力発電所
2005年には脱原子力政策を推進しているドイツのオブリッヒハイム原子力発電所(PWR、35万7,000kW、5月11日)と、スウェーデンのバーセッベク2号機(BWR、61万5,000kW、5月31日)の2基が閉鎖した。バーセッベク2号機は代替電源の確保の見通しが立たなかったため、当初計画から4年遅れの閉鎖となった。
6.今後の動向
活発化したアジア地域の原子力発電開発は、今後、電力需要の大幅な増加が予測される中国とインドを中心に、ますます勢いを増すことが予想される。また、アジア以外の地域でも、長期的なエネルギーの安定供給と環境保全を目的に、原子力発電に対する期待が顕著になってきている。以下、主な動向を示す。
(1)米国では2005年8月の「2005年エネルギー政策法」の成立を受け、原子力発電所建設がいよいよ具体化してきた。米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が2005年12月に公表した「2006年版長期エネルギー見通し」(〜2030年)では、2014年〜2020年で合計600万kWの原子力発電所が新たに着工され、既存の出力増強(約300万kW)とあわせて2030年の米国の設備容量は900万kW増加すると予測している。
(2)カナダのオンタリオ州は2009年に全ての石炭火力発電所を閉鎖する計画。オンタリオ州電力庁(OPA)は2005年12月に公表した「電源ミックス報告書」で、2025年時点、原子力発電電力量:890億kWh、総発電電力量に占める割合:50%、設備容量:1,500万kWを目標に、既存原子力発電所の改修やリプレイス、原子力発電所の新規建設を行うことを勧告している。
(3)脱原子力政策を推進してきたドイツ、スウェーデンでは政策の転換が示唆されている。また、イタリアでもフランスのフラマンビル3号機(EPR、160万kW)建設計画への参加に加え、イタリア国内での原子力開発のオプションも視野に入ってきている。また、オランダ政府は2006年1月10日、国内唯一の運転中原子炉ボルセラ発電所(PWR、48万1,000kW)の20年運転延長を認可し、2033年12月まで運転を継続することを発表した。
(4)リトアニアのイグナリナ1号機(RBMK−1500、150万kW)は、EU加盟の条件であることから2004年12月31日に閉鎖したが、代替電源として原子力発電所の新規建設が求められている。3番目の発電所は2015年〜2017年の運転開始を目指している。
(5)ウクライナはロシアからの天然ガス供給停止に直面し、新規原子力発電所の建設計画が浮上している。エネルゴアトムのネダシュコフシキ総裁は、2008年から100〜150万kW級の発電所新設に着手するほか、炉型の選定などで国際入札を行う方針を述べている。ウクライナは2030年までにベースロード電源としての原子力発電設備容量を現在の約1,200万kWから2,000万kWに拡大することを計画している。
7.2006年6月現在の世界の原子力発電所の主な動き
(1)営業運転開始:志賀2号機(ABWR、135万8,000kW、2006年3月15日)日本
(2)送電開始:田湾1号機(PWR、100万kW、2006年5月12日) 中国
送電開始:タラプール3号機(PHWR、54万kW、2006年6月15日)インド
(3)閉鎖:ホセ・カブレラ(PWR、16万kW、2006年4月30日)、スペイン
(4)着工:嶺澳II-2(PWR、100万kW、2006年6月15日)、中国
着工:秦山II-3(PWR、65万kW、2006年3月28日)、中国
(5)
臨界:新月城-1、2号機(PWR、各100万kW、2006年4月28日)、韓国
<図/表>
<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向・アジア(2005年) (01-07-05-02)
世界の原子力発電の動向・中東(2005年) (01-07-05-03)
世界の原子力発電の動向・北米(2005年) (01-07-05-04)
世界の原子力発電開発の動向・CIS(2005年) (01-07-05-05)
世界の原子力発電の動向・中南米(2005年) (01-07-05-06)
世界の原子力発電の動向・西欧州(2005年) (01-07-05-07)
世界の原子力発電の動向・東欧州(2005年) (01-07-05-10)
<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2005年次報告(2006年5月)
(2)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向 2004年次報告(2005年5月)
(3)IAEA発電炉情報システム:PRIS HOME PAGE