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1.発展途上国に対する国際協力と意義
国際的なエネルギー情勢については、今後とも発展途上国を中心に需要の増大が予想される一方で、供給面では中長期的に石油供給の逼迫・不安定化が予想されている。そのため、世界各国の省エネルギー推進は、各国の経済発展だけでなく、国際エネルギー需給の安定化のためにも必要である。さらに、省エネルギーは二酸化炭素排出量の増大による地球温暖化を解決する有力な手段でもある。1992年6月にブラジルで開催された国連環境開発会議(UNCED:United Nations Conference on Environment and Development/通称「地球サミット」)等の国際会議でも世界各国が協力して直ちに取り組むべき最大の課題として合意されている。省エネルギーに関しては日本の技術や経験の海外への普及による国際的な貢献が強く求められている。
アジア地域を中心とする発展途上国では、今後、工業化、都市化が進むに伴い、エネルギー、特に石油の消費量の増大が予想されている。将来の国際石油需給の逼迫を防止するとともに、地球環境問題への積極的対応を図る観点から、省エネルギー先進国であるわが国が省エネルギー技術等をこうした国々・地域へ移転することが必要である。
1997年12月に京都で開催されたCOP3(The 3rd Conference of Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change:気候変動枠組条約第3回締約国会議)において、先進国の温室効果ガスの排出削減目標(先進国全体のCO2排出量を1990年比で5.2%削減)について法的拘束力のある数値目標が設定され、国際協力の仕組みとして、(1)クリーン開発メカニズム、(2)先進国の共同実施活動、(3)排出量取引等が合意された(京都議定書)。
この国際協力の仕組みは、先進国だけでは目標の達成が困難なため「柔軟性措置」といわれ、議定書で「途上国が持続可能な開発を達成し並びに先進国が数量的な排出抑制および削減の約束の遵守を達成することを支援すること」と定められている。先進国の資金や技術で途上国の排出削減事業を行い、それによるCO2削減分を先進国が譲ってもらう。地球規模で考えれば安い費用でCO2排出量を削減し途上国に技術移転できるという考え方でもある。COP3で発展途上国への国際協力の仕組みが「柔軟性措置」として具体策として合意されたことは、省エネルギ−における国際協力を推進するうえで大きな意義がある。クリーン開発メカニズム等の柔軟性措置の概要は次のとおりである。
クリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism)とは、発展途上国自らが温室効果ガスの排出削減等の事業を行い、自国の環境保全的な開発に役立てると同時に、この事業によって生じる排出削減量を先進工業国に有償譲渡し、先進工業国の温室効果ガスの削減量に繰り入れる制度である。
先進国の共同実施活動(AIJ:Activities Implemented Jointly)とは、1994年3月に発効した気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)に定められた温室効果ガス排出抑制のための手法であり、2000年以降に実施される共同実施(JI:Joint Implementation)のパイロットフェーズとして位置づけられている。この活動は、先進各国が協力して地球の温暖化を防止するため、各国が有する温室効果ガスの削減、吸収および固定化などの技術、ノウハウ、資金を適切に組み合わせ、共同のプロジェクトを実施し、世界全体として地球温暖化対策を費用効果的に行っていくことを目指す手法である。
排出量取引(Emissions Trading)とは、数量目標と実排出量の差を「排出権」として先進国間で売買し、削減目標未達成の国が達成した国から排出権を買い取る仕組みである。
2.発展途上国との国際協力での問題点と課題等
発展途上国に対する日本の省エネルギー技術協力については、アジア太平洋諸国を中心として、調査団や専門家の派遣、研修員の受入れ、技術移転のためのモデル事業等が行われきた。発展途上国において省エネルギーが十分に進まない理由として、(1)専門的な技術情報や技術者の不足、(2)省エネルギー設備投資のための資金調達が困難、(3)エネルギー管理手法が分からない、(4)省エネルギーの経済的利点が認識されず、経営者の省エネルギー意識が希薄、等の問題点が指摘されている。また、わが国の実証済み省エネルギー技術の情報交流が、先進国間でもスムースに進行しないとの指摘もある。
このような情勢の中で、わが国は率先して地球規模の省エネルギー推進において、国際的イニシアティブを発揮することが必要である。省エネルギーの推進は、機器の運転方法等ソフト的な面が多分にあることなどから、適切なスキームの中で実施していく必要がある。また、わが国の省エネルギーへの取り組みを積極的に海外へ広報普及していくことも重要である。
今後の具体的な課題として、(1)国際協力の際には、各国のエネルギー需給構造、技術レベルに応じ対応する、(2)わが国の協力体制を強化するなど一層の基盤整備を図る、(3)省エネルギー推進に関する国際的な情報交換・意見交換の場を拡充し、相互理解を深める、(4)先進国間および国際機関相互間で、発展途上国に対する省エネルギー国際協力の実施に関し、相互に調整・連携をはかり、効率的な協力を進める、などが挙げられる。
3.総合エネルギー調査会における「新エネ・省エネ国際協力」の検討結果
総合エネルギー調査会では、2000年9月に新エネルギー部会と省エネルギー部会合同の「国際協力小委員会」を設置し、2010年までに実現すべき課題を念頭に、「開発途上国における新エネルギー・省エネルギーの普及のためのわが国の国際協力の在り方について」検討した結果を、2000年12月に報告書にとりまとめた。この報告書(概要)では「国際協力の目指すべき方向」として以下の5項目を示し、新エネルギー・省エネルギーの普及は、今後10年に限らず21世紀において長期的に取り組む課題であるとしている。
(1)「プログラム的アプローチ」(Programmatic Approach)の採用
a)今後は、各段階のプロジェクトを単発的に捉えず、企画段階からマスタープランの策定、FS調査(フィジビリティ調査)、パイロットプロジェクトによる実証、およびその普及までを一連のシリーズ(プログラム)として捉え、長期的に持続可能な普及を目指す「プログラム的アプローチ」を採用する。b)具体的には、日本が積極的に貢献できる分野のうち、発展途上国のニーズが高く、かつ効果が期待されるいくつかの案件を特定し、個々の案件毎に、発展途上国と調整しつつ、日本の段階的な協力のための「普及プログラム」を策定する。c)これらを着実に実施するために、内外の専門家とのネットワークを形成する。
(2)ファイナンス・スキームの活用
a)マスタープランの作成、FS調査、パイロットプロジェクトに関しては、NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:新エネルギー・産業技術総合開発機構)、JICA(Japan International Cooperation Agency:国際協力事業団)、JBIC(Japan Bank For International Cooperation:国際協力銀行)の協力スキームを組み合わせることを含め、有効活用を図る。b)融資条件が極めて有利な円借款の特別環境金利の活用を図る。このため、有望案件については、発展途上国政府および国内関係者との間で十分な調整を図りつつ、「普及プログラム」中に位置づけ、早期から採択の準備を進める。c)気候変動枠組条約締約国会議(COP)で検討されているクリーン開発メカニズム(CDM)は、民間資金導入のインセンティブとしても期待され、COPでの国際的な協議の進展・加速化が望まれる。
(3)人材育成・教育の支援
a)発展途上国における様々な分野での人材育成・教育を通じて、政策立案能力および事業遂行能力の向上、利用者の知識向上等を図る。b)企業OBやコンサルタントを活用した日本の専門家の確保・育成も重要である。
(4)技術開発の推進
a)エネルギー効率向上、コスト低減、電力の安定性等の技術開発の成果は、発展途上国への普及にも貢献すると考えられ、引き続き技術開発の必要性が高く、官民共に量産化・耐久性向上等について技術開発を推進する必要がある。b)太陽光発電等の大幅な価格低下の実現に資する製造技術や耐久性の高い周辺装置の開発、離島における風力発電システムの開発、バイオマス資源の高効率利用のための技術開発を積極的に推進する。
(5)国際機関との連携強化
国際機関との情報・意見交換の緊密化、国際機関への新たな資金協力等を検討する。
4.省エネルギーにおける国際協力
日本は、これまでの石油危機等の経験から世界でも最高水準のエネルギー消費効率化技術(省エネ技術)を有している。当該技術のアジア地域等途上国への積極的普及・導入促進を通じて途上国のエネルギー消費効率向上を図るとともに、環境調和型のエネルギー需給構造の構築を図る観点から、1993年度から「国際エネルギー使用合理化等対策事業」をNEDOを通じて実施している。
具体的には、アジア・太平洋諸国を対象に、エネルギー消費動向の把握・分析、エネルギー有効利用方策の調査等基礎調査事業、日本で既に実用化されているエネルギー有効利用技術に関する設備を対象国に設置し、技術の実用性・有効性を実証する国際エネルギー消費効率化等モデル事業、およびセミナー開催等モデル事業技術の対象国内での普及活動支援を行うグリーンヘルメット事業等を実施している。
とりわけ国際エネルギー消費効率化等モデル事業(参考文献2)は、エネルギー多消費産業である鉄鋼、セメント、石油化学、紙パルプ等の工場において廃熱回収設備、排ガス回収設備等を取り付け省エネ効果等を実証するものであり、省エネルギーの実施がコスト削減に結びつき産業競争力の強化にもつながるため、実施各国から高い評価を受けている。共同実施活動(AIJ)の一例として、1996年度から2000年度までの5年間、中国・北京市(相手方:国家計画委員会冶金工業部/首鋼集団総公司)で、既存のコークス炉から押し出された赤熱コークスを不活性ガスの窒素で消火、冷却する設備により熱回収し、製鉄所内のプロセス蒸気として活用する技術を実証する製鉄業における「コークス乾式消火設備モデル事業(製鉄業)」を実施している。
日本の国際協力実績の一端を、表1、表2-1、表2-2、表3-1、表3-2、および表4に示す。
わが国の省エネルギー国際協力の現状とアジア・省エネルギー・プログラムの意義と協力の方向性を図1および図2に示す。
5.国際エネルギースタープログラム
(1)日本のプログラム参加までの経緯
日本はかねてから、米国からの呼びかけに応じて、1993年6月から実施されている米国の国際エネルギースタープログラム(International Energy Star Program)をベースとして、国際的に統一された基準によるマーク制度を実施する方向で、日米欧の間で調整を重ね、1995年6月に日本政府(資源エネルギー庁)と米国政府(EPA:United States Environmental Protection Agency/米国環境保護庁)との間で合意が成立した。この合意に基づき、日本は当時の通商産業省において、「国際エネルギースタープログラム制度要綱」(平成7年9月29日付け告示第569号)および「国際エネルギースタープログラム制度運用細則」(平成7年9月29日7資庁第11550号)を策定し、1995年10月1日に施行した。
(2)国際エネルギースタープログラムの概要
このプログラムの目的は、地球規模の問題である省エネルギー対策に積極的に取り組むため、対象製品の製造事業者または販売事業者の自主的な参加により、エネルギー消費の低減性に優れ、効率的な使用ができる製品の開発および普及を促進することにある。対象製品には、オフィス機器のコンピュータ、ディスプレイ、プリンタ、ファクシミリ、複写機、スキャナ、複合機がある。
対象製品の製造事業者等は、通商産業大臣(現在の経済産業大臣)に企業の登録をすることにより、自己宣言によって基準(表5-1、表5-2、表5-3および表5-4)に合致している製品に「国際エネルギースターロゴ」(図3)を貼付できる。また、日本で基準を満たしている製品は、測定条件(電源電圧等)が出荷と合致する場合に限り、他の合意国でロゴを貼付することができる。
手続等の面では、通商産業大臣(2001年1月6日からは経済産業大臣)は、国際エネルギースタープログラムに係る申請・届出受付、広報等の業務の一部を財団法人省エネルギーセンターへ委託できることになっている。
(前回更新:2004年2月)<図/表>