<本文>
1.エネルギー政策の基本目標
わが国のエネルギー政策は、「環境保全や効率化の要請に対応しつつ、エネルギーの安定供給を実現し、適度な経済成長を達成する」こと、すなわち、「3つのE:Economic Growth、 Energy Security and Environmental Protection」の同時達成にある(
図1)。この目標を達成するためのエネルギー需給像とそれを支える政策の方向を明らかにするため、総合資源エネルギー調査会において検討が行われ、2001年7月に答申がなされた。答申はわが国のエネルギー政策の目標達成に向け、直面する課題を明らかにし、めざすべきエネルギー需給のあり方とそれを実現するための対策を明らかにしている。
(1)安定供給の確保
わが国のエネルギー問題を考えるに当たって、まず直面する課題は、国内にエネルギー資源をほとんど持たず、大部分を海外からの輸入に依存するわが国のエネルギーの供給構造の脆弱性の克服である。わが国は、1970年代の第一次・第二次石油危機の経験を経て、とりわけ安定供給の確保に多大な努力を行ってきた。具体的には、過去20〜30年にわたる、省エネルギーの推進、石油代替エネルギーの導入、備蓄等による石油の安定供給の確保等による石油の安定供給を進めてきた。また、エネルギー供給の多様化という観点では、わが国の一次エネルギー供給に占める石油の割合は、石油危機以降、約77%(1973年度)から約52%(1999年度)へと約25%低減する一方で、原子力、天然ガスの割合が大きく増加する等大きな成果が得られてきた。しかしながら、安定供給の確保の重要性は、今後とも変わらない。
(2)環境保全の要請
1990年頃からは、環境保全、とりわけ地球温暖化問題が、国際的に大きな問題となってきている。地球温暖化問題は、
化石エネルギーの燃焼等により発生するCO
2等の
温室効果ガスが原因となって生ずるものと考えられており、今やエネルギー消費と一体不可分の問題として、それへの対応が厳しく求められるに至っている。
(3)効率化の要請
エネルギーについては従来から効率的な供給が求められてきたが、さらに近年では、わが国産業の国際競争力強化の観点から、エネルギーコストの低減を図るべく、自由化、規制緩和等を通じた一層の効率の向上が求められている。
(4)基本目標の同時達成の難しさ
こうした状況の中、わが国のエネルギー政策は、「環境保全や効率化の要請に対応しつつ、エネルギーの安定供給を実現する」ことが必要となっている。しかし、例えば、自由化等を通じたさらなる効率化が始まるにつれて、安価な石炭の使用が増え、CO
2排出量が増加する可能性があること、その一方で、CO
2排出量のより多い石炭は天然ガスに比べると供給安定性に優れている面があること、効率化の面から国産エネルギーであるがコストの高い水力や
新エネルギーの導入が停滞する可能性があること、あるいは、エネルギー価格の低下が省エネルギーの意欲を鈍らせる可能性があること等、相互に矛盾する側面も有しており、エネルギーを巡る状況が以下に述べるとおりさらに大きく変化しつつある中で、これらの同時達成をどのように実現していくかが非常に難しい課題となっている。
2.エネルギー需給の動向
省エネルギーの度合いをマクロ的に把握する指標として、GDP(Gross Domestic Product:
国内総生産)当たりのエネルギー消費量(エネルギー消費の
GDP原単位)がある。このGDP原単位の数値が低いとエネルギーを効率的に使用しているといえる。
わが国は、1973年の第一次石油危機以降、エネルギー安定供給の観点から省エネルギー対策を強力に進め、産業部門を中心にエネルギー消費効率の急速かつ大幅な改善とあいまって、OECD(Organization for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構)主要国の中で最も高い省エネルギーの水準を達成している(
図2)。部門別の
最終エネルギー消費の推移を
表1に示す。
上記のような高い省エネルギー水準も、近年、エネルギー価格が比較的低位で安定する中、国民生活のゆとりと豊かさの追求を背景とするライフスタイルの変化等により、わが国のエネルギー消費は、バブル経済崩壊後の1992年1993年および1997年1998年の不況期に落ち込んだものの、1990年度以降2002年度まで平均年率約1.5%で増加している(
表1)。また、2002年度における最終エネルギー消費およびCO
2排出量の実績値は、いずれも1998年6月の「長期エネルギー需給見通し」(対策ケース)での西暦2000年の目標水準を超えている。特に、1990年度以降2002年度までの最終エネルギーの伸び率は、民生、運輸の各部門とも、20%〜40%と高い伸びとなっている(
表1)。年平均伸び率では1.5%〜1.8%の高い伸び率になる。2002年度の最終エネルギー消費量の構成比は、産業部門の47.2%(1973年度65.5%)に対し、民生28.8%(同18.1%)、運輸24.0%(同16.4%)と両部門の合計は1995年度以来産業部門を上回っている(
表1)。2000年度以降も、この両部門の伸びは衰える気配が無い。また、供給側においても、新エネルギー等に対する高い期待が寄せられているにもかかわらず、2000年度のシェアは再生型・未活用エネルギーで2.5%に留まっている。2010年度目標3.1%と比べると、その導入は大きく停滞している(
表2)。
こうしたエネルギー消費の増加傾向と省エネルギーの停滞により、わが国の二酸化炭素排出量は、2000年度において炭素換算3.16億トンであり、国際公約である西暦2010年の排出目標である1990年レベルの2.87億トンを大幅に上回っている状況にある(
図3および
表3)。また、CO
2排出量を国際比較すれば、日本の2002年実績値は1973年と比較して33.4%増で、欧州諸国と比較して高い伸びを示し、欧州諸国は概ね減少傾向にある(
表4)。1990年頃から国際的に大きな課題として登場してきた地球温暖化問題は、1997年12月に
COP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)が開催され、
京都議定書として先進国の温室効果ガスの削減目標が合意されるに至り、エネルギーに対する新たな定量的な制約要因として、重大な影響を有するものとなった。わが国は、温室効果ガス全体を2008年から2012年の平均値で、1990年に比べ▲6%削減(米▲7%、EU▲8%)することとなっているが、温室効果ガスの約8割を占めるエネルギー起源のCO
2については、2010年度において90年度と同じ水準に抑制することを目標としている。しかし、現状を見ると、エネルギー起源のCO
2排出量は2002年度において既に1990年度に比べ約9%増加しており、今後2010年度に向けて当該増加分を削減し、1990年度と比べて横這いを達成するという困難な目標に挑むことが必要となっている(
表3)。
3.長期エネルギー需給見通し
今後の具体的な対応を考えるに当たっては、まず現在の政策枠組みを維持した場合の2010年度におけるエネルギー需給の姿(長期エネルギー需給見通し(基準ケース)を定量的に明らかにし、それに基づいた検討を行うことが不可欠である。
表5に長期エネルギー供給見通し、
表6に最終エネルギー消費の推移と見通しを示す。
3.1 基準ケースの全体像
最終エネルギー消費は約409百万klと見込まれる。特に、民生・運輸乗用車部門については、引き続き需要が増加することが見込まれる。供給面では、発電用の燃料を中心として、前回対策ケースで想定したとおりには原子力等の非化石エネルギーの導入が進まず、むしろ安価な石炭が大幅に増加すると見込まれる。この結果、エネルギー起源のCO
2の排出量は、目標とする1990年レベルの2.87億トンまで低減せず、3.07億トン(約2百万t-C、約6.9%増)となるものと見込まれる(
図3)。
3.2 需要面
各部門のエネルギー消費について概観すると、以下のとおりである。
(1)産業部門では、経団連環境自主行動計画が達成されるとの前提で試算すると、前回対策ケースに比して500万kl程度の減少になる。
(2)民生家庭部門では、トップランナー機器の普及、住宅のエネルギー効率改善等が進むこと等により、前回対策ケースに比してほぼ横ばい(1990年度比約29%の増加)となる。
(3)民生業務部門では、トップランナー機器の普及等が進む一方、サービス部門が大きく伸張する等の産業構造の変化等を反映してエネルギー消費は大きく伸び、前回対策ケースに比して13百万kl程度の増加(1990年度比約69%の増加)となる。
(4)運輸乗用車部門では、乗用車の機器効率改善が進み、また、重量化が従来ほどには進まなくなると見込まれる一方で、今後も乗用車保有台数、総走行距離の増加等が進むことから、前回対策ケースに比して3百万kl程度の増加(1990年度比約32%の増加)となる。
(5)運輸貨物等部門では、営業用トラックのシェア拡大(自家用からの転換、省エネ対策等)により、前回対策ケースに比して2百万kl程度の減少(1990年度比約6%の増加)となる。
3.3 供給面
供給面においては、2010年度までに運転開始する予定の
原子力発電所の基数が減少(16〜20基→13基)する一方、石炭火力発電量が増加し、電力のCO
2排出原単位は前回対策ケースに比して十分に改善しない(約67g-c/kWh→約83g-c/kWh)ことが見込まれる。また、新エネルギー導入量は、878万klと試算され、前回対策ケースに比して10百万kl程度減少することが見込まれる。自家発用燃料について、前回対策ケースに比して、安価な石炭、重油がより利用されることが見込まれるため、電気事業用以外の燃料についてもCO
2排出原単位は十分に改善しないことが見込まれる。
4. 省エネルギー対策
需給両面における各種の厳しい対策を講じてきており、基準ケースが実現されるためには、引き続き同様の努力を続けていく以外に方法は無い。省エネルギーについては、新たな対策を検討する前提として、経団連環境自主行動計画、トップランナー機器の普及等が確実に進展していくことが必要であり、供給面では、主要なエネルギー源として利用を進め、現に国民生活や経済活動を支える基盤となっている原子力や天然ガス(両者あわせて一次エネルギー供給の1/4強を占めている)については、今後ともその安定的な利用が必要なことは言うまでもない。こうした従来からの対策を継続しても基本目標の達成に十分でないことは「基準ケース」の内容から明らかである。したがって、以下に述べるような新たな対策を追加的に講じていくことが必要である。エネルギー政策の基本目標の達成に向けて今後実施すべき政策としては「省エネルギー」、「新エネルギー」及び「電力等の燃料転換等」に係る対策などが考えられる。
対策の優先順位としては、先ず、「省エネルギー」を実施すべきである。国民経済上、できる限り効用を変えない範囲での最大限の「省エネルギー」は、その分エネルギーの供給の削減を意味し、最も優れたエネルギーの安定供給確保策であるとともに、削減分については、CO
2等を発生させず最も優れた環境対策でもある。さらに、過度にならない範囲での「省エネルギー」は、省エネルギー技術の開発や省エネルギー設備等への投資を通じ、新たな経済成長にもつながると考えられる。
2000年から行われた総合資源エネルギー調査会でのエネルギー政策の総合的な見直しの中で、省エネルギー部会において、現行省エネルギー対策の再評価(原油換算約5000万kl)、及びエネルギー需要傾向が著しい民生・運輸部門を中心とした追加的省エネルギー対策(原油換算約700万kl)を打ち出し、2001年6月末に今後の省エネルギー対策のあり方について報告書をとりまとめた。
表7に現行省エネルギー対策及び今後の省エネルギー対策の概要を示す。
<図/表>
<関連タイトル>
日本の一次エネルギー供給構成と推移 (01-02-02-05)
日本の最終エネルギー消費構成と推移 (01-02-02-06)
経済成長とエネルギー需要 (01-02-02-09)
国際エネルギー事情と日本の立場 (01-02-03-01)
石油危機と日本 (01-02-03-04)
石油危機と世界 (01-06-01-01)
主要国の省エネルギー政策 (01-06-01-03)
省エネルギーにおける国際協力 (01-06-02-03)
省エネルギー政策の基本理念 (01-09-08-01)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(編):エネルギー2004、(株)エネルギーフォーラム(2004年1月21日)、p.52-90
(2)資源エネルギー庁:インフォーメーション、統計情報、需給関連、2002(平成14)年度エネルギー需給実績(確報)、本文(PDFファイル),
(3)資源エネルギー庁:施策情報、目指すべきエネルギー需給像に向けた対策、長期エネルギー需給見通し概要
(4)資源エネルギー庁省エネルギー対策課(監修):省エネルギー便覧 2003年版、(財)省エネルギーセンター(2003年12月)、p.70-110
(5)資源エネルギー年鑑編集委員会(編):2003/2004 資源エネルギー年鑑(2003年1月)、p.23-29、p.250-258