<本文>
1.世界のエネルギー情勢
現在、世界のエネルギー情勢は、先進各国を中心として、原子力をはじめとする石油代替エネルギーの導入が進んだこと、省エネルギー政策が進められたこと、非OPEC産油国の生産能力拡大が積極的に図られてきたこと、OPEC(Organization of Petroleum Exporting Countries:
石油輸出国機構)の石油価格政策が穏健化したことなどの要因から、比較的安定を保っている。しかしながら中長期的には、アジア地域をはじめとする発展途上国を中心にエネルギー需要の増大が予想され、石油需給の逼迫など資源制約の顕在化が懸念されている(
表1−1、
表1−2、
表1−3)。
IEA(
国際エネルギー機関)が2002年9月に発表した需給見通しによれば、世界のエネルギー需要は2030年には2000年比で66%伸びるとされている。また、世界の一次エネルギー供給に占める化石燃料のシェアは2030年までに90%に達し、二酸化炭素は70%増大する見込みである。
エネルギーは、経済社会の発展を支える基礎的な財であり、経済の持続的発展のためには、エネルギーの安定的かつ効率的な供給が必要不可欠である。これまでわが国は、二度の
石油危機の経験を踏まえ、石油依存度および中東依存度の低減のため供給側では、石油代替エネルギーの開発・導入、消費側では、省エネルギーの推進等を行ってきた。この結果、原子力、天然ガス等の石油代替エネルギーのシェアが向上し、石油危機時に8割近くまであった石油依存度は、現在、5割程度に低下するなどエネルギー源の多様化が進展した。しかしながら、わが国のエネルギー需給構造は、2002年度においてエネルギー供給の約8割を海外に、また、約5割を石油に依存しており(このうち、中東依存度は約8割)、依然として諸外国に比べ極めて脆弱であるといわざるを得ない。このため、エネルギー供給の安定確保はわが国にとって引き続き重要な課題である(
図1)。
また、化石燃料の燃焼に伴い排出されるCO2、NOx、SOx等は、
地球温暖化、酸性雨等の原因の一つとして指摘されているなど、エネルギーと環境問題は密接不可分な関係をもっている。現在、世界的なエネルギー消費の増大に伴い、地球規模でのエネルギーに起因する環境への排出が大きな問題となっており、わが国もこれに積極的に対応していくことが必要である。
2.日本の基本方針
わが国は、このような視点を踏まえ、エネルギー政策の基本方針として、それぞれトレードオフの関係にある3つの要素、すなわち、「経済成長(Economic Growth)、「エネルギー需給の安定確保(Energy Security)」、「環境保全(Environmental Protection)」の調和を図りつつ、この3つの”E”を同時達成することを目標としている。
具体的には、石油の自主開発や緊急時対応のための備蓄対策といったエネルギーの安定供給対策をはじめ、エネルギー供給体制の効率化の推進、通商産業大臣(現:経済産業大臣)の諮問機関である総合エネルギー調査会(現総合資源エネルギー調査会)が策定した「長期エネルギー需給見通し」等を踏まえた省エネルギーや
新エネルギーの導入対策、安全性の確保および国民の理解を大前提とした原子力の開発・利用等の推進を行っている。また、エネルギー・環境分野における技術開発・技術移転の推進、今後エネルギー需要が急増していくと見込まれるアジア地域等との政策対話や産油国協力の促進など、上記の目的を達成するための幅広い視点に立った各般の施策を推進している。
近年、地球環境問題への国際的な関心が高まってきた。とりわけ、地球温暖化問題、酸性雨問題の二つは、化石エネルギーの燃焼によるとされているため、エネルギー問題と密接に関係しており、世界のエネルギー需要の増大への大きな制約要因となっている。
地球温暖化問題(
温室効果問題)とは、炭酸ガス(CO2)、メタン、フロン等の
温室効果ガスが大気中に排出され、その大気中の濃度の増加により、地球大気の気温の上昇とこれに伴う海面の上昇があるとの問題である。この問題は、温室効果の約6割が炭酸ガスによるもので(
図2)、しかも炭酸ガスの約8割が、石炭、石油、天然ガスという化石エネルギーの燃焼によるとされている。地球温暖化問題は、対応が遅れれば、場合によって手遅れとなる公算が大きい重大な問題である。
同時に、現在の世界のエネルギーの多くを占める化石エネルギーの消費等により炭酸ガスが発生することからも明らかなように、この問題は、世界全体の人間活動、すなわち、生活や経済活動の根幹に関わる問題であるため、人間活動と地球環境保全の両立をいかに確保するかという点においても、極めて重大な問題である。
酸性雨問題とは、主として化石燃料の燃焼段階によって発生する硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)等の汚染物質が大気中に排出され、雲や雨滴に溶解して硫酸、硝酸等となり、雨、雪に伴って地表に降下するものである。
欧米を中心に森林の枯死、湖沼等の酸性化による様々な被害が生じており、東アジアでも問題になりつつある。
このように、地球温暖化問題、酸性雨問題への取り組みは、その対策の態様によっては、先進国経済の停滞を招来しかねず、その場合、相互依存関係の深化した世界経済のメカニズムを通して、途上国経済等にも大きな影響を与え、世界全体の活動を縮小せざるを得ないことも認識しておくことが必要である。
今後の国際エネルギーを取り巻く状況を総括すると、世界的なエネルギー需要の増大が見込まれる中で、地球規模での資源面および環境面での問題が、エネルギー利用の大きな制約要因として存在することとなった。このような問題を解決するために、長期的な視点に立った計画的なエネルギー政策を展開しなければならない。
1996年5月以降、総合エネルギー調査会(現総合資源エネルギー調査会)基本政策小委員会において今後のエネルギー政策のあり方等について検討を進め、同年12月には、
地球温暖化防止行動計画に基づく「2000年以降、一人当たりCO2排出量を1990年レベルで概ね安定化」とのわが国の目標達成に向けた省エネルギー・新エネルギーに係る新たな追加施策について、中間報告を取りまとめた。同時に基本政策小委員会は、2030年に向けた超長期の展望に関して試算を行い、エネルギー需給構造の脆弱性の緩和を図り、地球温暖化の主因である二酸化炭素排出総量を1990年レベルに抑制するためには、省エネルギー・新エネルギーの導入促進と原子力の計画に沿った立地をいずれもバランスよく、しかも相当強力に推進しなければならないことを示した。
ついで、1997年の第3回締約国会議(
COP3)における結果を踏まえ、同年、地球温暖化対策推進本部を設置し、翌年(1998)に地球温暖化防止対策を総合的に取りまとめた「地球温暖化対策推進大綱」が決定された。
その後、総合資源エネルギー調査会需給部会は、エネルギーの安定供給の確保、環境保全の要請及び効率化の要請に対応するため、エネルギー需給見通しを見なおし、2001年7月にエネルギー需給見通しを発表した。一次エネルギー供給に関しては以下のような見通しが作成された(
表2参照)。また、2004年10月には総合資源エネルギー調査会需給部会が「2030年のエネルギー需給展望」の中間とりまとめを行っている。
基準ケースは、従来の対策ケースでも、二酸化炭素削減の基本目標の達成が充分でないので、新たに省エネルギー及び新エネルギー対策を強化したものである。2010年度のエネルギー供給量は2001年度より約3,300万kl(石油換算)の増加が見込まれる。しかし、二酸化炭素の削減目標を達成するためには(目標ケース)、需要部門での省エネ対策、新エネルギー開発をさらに強化して、この増加量を1,400万kl程度に抑制する必要がある。
供給面では、輸送用を中心に需要の根強い石油が今後さらに増加する可能性が強い。基準ケースでは、石油の供給量を絶対量で減少させ、天然ガス、原子力、等で代替していくものとしている。経済的に競争力の乏しい新エネルギーは、供給安定性でも問題があるが、増加はしても構成比ではわずかな増加に留まるものと見込まれる。そのため、原子力と天然ガスの大幅な利用拡大が必要である。そこで、目標ケースでは、二酸化炭素の排出量を1990年水準に抑制するための供給構造として、石油と石炭の供給量(絶対量)を減らすとともに、新エネルギー利用の大幅な拡大が必要、としている。この供給構造において、石油の構成比は49.4%(2001年度)から45%程度(2010年度)に低下し、一方原子力は12.6%(2001年度)から15%程度(2010年度)へと、また自然エネルギー等(水力、地熱、新エネルギー)は4.7%(2001年度)から6.2%程度(2010年度)へと上昇している。さらに、電力等の燃料転換対策を強化し、基本目標を達成しなければならないとしている。
これらの省エネルギー、エネルギー供給構造の変革とも容易に達成されるものではなく、これらを実現するためには一層の政策努力と国民の理解と努力が必要とされる。
今後、「3つのE」の同時達成のためには、わが国のエネルギー政策についても、ライフスタイルの抜本的改変、膨大なコスト負担、規制的措置の導入といった「痛み」を伴う厳しい選択に直面せざるを得ない。本報告書は、今後のわが国のエネルギー政策のあり方について、国民一人一人が身近な問題として真剣に考え、国民的な議論を展開することが必要であることを強く訴えかけるものとなっている。
<図/表>
<関連タイトル>
主要先進国のエネルギー需要の動向 (01-07-02-08)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(編):エネルギー2004、(株)エネルギーフォーラム(2004年1月21日)
(2)資源エネルギー庁長官官房総合政策課(編):総合エネルギー統計 平成15年度版、(株)通商産業研究社(2005年2月)