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<概要>
 水力発電は約100年の歴史を有し、発電電力量で約10%、電源設備で約20%を占めるまでに至っている。水力発電の開発初期段階では、流れ込み式に始まったが、大規模な貯水池式・調整池式が昭和30年代に建設され、火力・原子力の建設に呼応して揚水式が建設されるようになった。2001年現在、一般水力において1819地点と21,776MWがすでに開発されており(12.0MW/1箇所当たり)で、未開発地点は2715地点、12,113MWと1箇所当たりの出力は4.46MWと小さくなっている。今後、豊富な水資源に恵まれる中小規模の開発に適した地域を中心に、水力発電をにした地域の活性化と環境に優しい開発が望まれる。
 また、水力発電は二酸化炭素をほとんど発生しないクリーンなエネルギーとして地球温暖化の観点からも重要な役割を担っているほか、純国産のエネルギー資源として、繰り返し使える(再生可能)エネルギーの代表として位置づけられる。
<更新年月>
2003年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 水力発電は流れ落ちる水の力で電気を起こす、自然の力を利用したクリーンな発電方式である。日本の年間平均降水量は約1,700mm、世界の年間平均降水量の約2倍となっているが、本州の中央部に南北に長く山脈がそびえていることから、地域・季節によって降水量の変動は大きい。
 地域的変動としては、九州、四国南部、東海および北陸などは年間2,000mm以上の降水量に恵まれる一方、瀬戸内海沿岸部、関東(内陸部)および東北(太平洋側)等は平均降水量以下である。また、季節変動としては、太平洋側は梅雨・台風による夏季の降雨が多く、日本海側は雪による冬季の降水が多い。これらのことから日本の包蔵水力(*)は、日本アルプスを中心とした本州中央部に多く分布している。水系的には、長野県・岐阜県にまたがる木曽川水系、長野県・新潟県にまたがる信濃川水系、群馬県・栃木県を中心とした利根川水系、猪苗代湖を中心とした阿賀野川水系などがある。2001年現在、日本国内の水力発電所は1819箇所、その総出力は21,776MWである( 表1 参照)。
1.1 水力発電の歴史
 日本が水力発電を開始したのは100年以上も昔の明治20年代であるが、その時代に建設された仙台電燈の三居沢(さんきょざわ)発電所出力140kW(明治21年(1888年))や京都市営の蹴上発電所出力80kW(明治24年(1891年))などは今も電気を作り続けている。100年以上の長い歴史の中で、水力発電の果たす役割も時代に応じて変化してきた( 表2表3 参照)。1896年(明治29年)という記載もある(東北電力・白い国の詩:電気の文化史p16、2003.4)
 水力発電は運転コストが安いことから、明治から昭和の初めまでは日本の発電方式の主流となり、水力がベースロードを担い、火力がピーク時の不足をカバーするという“水主火従”という関係が長い間続いた(昭和20年当時、水力:火力の比は約6:4)。しかし、昭和30年代から40年にかけて急増する電力需要を賄うために、建設費が安く、出力規模の大きい発電所を比較的短期間に建設できる火力発電所が次々と建設され、昭和34年には発電の主体が水力から火力に移り、平成12年で、水力は日本の全発電設備の約17.9%、火力・原子力は81.9%となっている。水力発電の比率は小さくなっているものの、貴重なエネルギーの一環として、また電力のピーク時に安定した供給を支える役割を担っている。
1.2 水力発電の特徴とその役割
 電力の消費は、季節によっても、また、1日のなかでも昼間と夜間では大きな差がある。このような時々刻々と変化する電力需要に応じて、安定した質の高い電気とするために、水力、火力(石油、ガス、石炭など)、原子力等の各種電源をバランス良く組み合わせて発電が行われている(電源のベストミックス)。 図1 に一日の時間帯別発電の組合せを示す。
 水力発電は起動・停止が容易であり(3〜5分)、貯水池・調整池・揚水式などの手法により、エネルギーの蓄積が可能であることから、電力需要の変化に素早く対応できるという特徴がある。また、揚水式発電所は一度発電に使った水を下の貯水池に蓄え、深夜、火力・原子力発電所で起こした電力を利用して上の貯水池に水をくみ上げ、電力消費のピーク時に再び利用している( 図2 参照)。平成13年3月現在、揚水式発電所は全部で20地点、水力発電所全体の1%に過ぎないが、合計出力は約26%に達する( 表4 参照)。
 現在、大規模開発に適した地点での発電所建設はほぼ完了し、今後は平均出力約4,500kWクラスの中小規模の発電所の開発が中心となる(表1参照)。豊富な水資源に恵まれる中小規模の開発に適した地域はいまだ未開発であり、水力発電を核にした地域産業の創出・活性化が期待される。
 また、水力発電は二酸化炭素をほとんど発生しないクリーンなエネルギーとして地球温暖化の観点から重要な役割を担っているほか( 図3 )、エネルギー源のほとんどを海外からの輸入( 図4 )に頼っている日本にとって、国内の豊かな水資源を利用する水力発電は、貴重な純国産のエネルギー資源として、また、繰り返し使える(再生可能)エネルギーの代表として位置づけられる。
 石油や石炭などの限りある資源( 図5 )を有効に使うためにも、再生可能な水力エネルギーを開発することが必要である。今後、開発可能な一般水力発電所は、2,715地点、12,113MWあると推定され、これらが一年間に生み出す電気の量を原油に換算すると約1,050万キロリットル(2,020億円)に当たる(表1参照)。
2.水力発電のしくみ
 水力発電は、水の力を利用して電気を生み出すもので、せき止めた河川の水を高い所から低い所まで導き、その流れ落ちる勢いにより水車を回して発電する。このときの発電量は、水の量が多いほど、また、流れ落ちる高さ(“落差”)が大きいほど増加する。 図6 にダム式発電所を例に水力発電所のしくみを示す。
 (1)取水口・・・発電所で発電に使われる水は、取水口と呼ばれる水の取り入れ口から鉄の管(水圧管(路))を通って水車まで運ばれる。取水口は貯水池の池底よりやや高いところにあり、土砂や魚、流水などが流れ込むのを防ぐため、丈夫なスクリーンがかけられている。
 (2)水車・・・鉄管によって導かれた高速・高圧の水の流れは水車を勢いよく回転させる。水の量は水車の回転数を一定に保つよう調速機によりコントロールされ、安定した周波数の電気を起こすことができる。水車の種類を 表5 に示す。
 (3)発電機・・・発電機は水車と同じ回転軸で繋がっており、水車の回転の力が発電機に伝えられ発電が行われる。水力発電所の出力は水量と落差(放水路の水面からダムの水面までの高さ)によってきまり、理論出力(kW)=9.8(重力加速度)×水量(m3/秒)×落差(m)の関係がある。
 (4)変圧器・・・発電機のつくる電圧は1万8000ボルト以下のため、送電ロスを考慮して変圧器で電圧を15万4000〜50万ボルトまで高めて送り出す。
2.1 水力発電所の種類
 水力発電はその地形に合わせて様々な様式がある。以下、水力発電を水の利用面と構造面から分類する( 表6 参照)。
2.1.1 水の利用面からの分類
(1) 流れ込み式・・・川の水をそのまま利用する方法で、自流式ともいう。水を貯めることができないため、豊水期と渇水期の水量変化により発電量が変動する。
(2) 調整池式・・・大きな取水ダムや、水路の途中に調整池を造ることにより水量を調整して発電する方式で、1日あるいは数日間の発電力をコントロールする。
(3) 貯水池式・・・調整池より大きい貯水池に雪解け水や梅雨、台風などの水などを貯めて渇水時に利用する。
(4) 揚水式・・・1日の電力消費量のピーク時に対応する発電方式で、主として地下に造られる発電所とその上部、下部に位置する2つの池から構成される。昼間のピーク時には上のダムに貯められた水を下のダムに落として発電を行い、下のダムに貯まった水は電力消費の少ない夜間に他の発電所からの電力を使って上のダムにくみ揚げられ、再び昼間の発電に備える。一定量の水を繰り返し使用する(図2参照)。
2.1.2 構造面からの分類
(1) ダム式・・・山間部で、川幅が狭く、両岸が高く切りたったところにダムを設け、水をせき止めて人造湖を造り、その落差を利用して発電する。 表7 にダムの形式を示す。
(2) 水路式・・・川の上流に小さな堤を造って、水を取り入れ(取水口)、長い水路で適当な落差が得られるところまで水を導き、そこから下流に落ちる力で発電する。
(3) ダム水路式・・・ダムで貯めた水を圧力隧道(すいどう)で下流に導き、落差をさらに大きくして発電する。水路式とダム式をより効果的に組合せた方式である。
3.水力発電促進への取組み
 水力発電は他の発電形式と比較すると、石油依存度の軽減、エネルギーセキュリティ、地球温暖化防止への貢献、発電コストの長期的安定などのメリットが多くあることから、環境にやさしい自然エネルギーとして、今後水力発電の積極的な開発が望まれている。
 国内の水資源の有効利用のため、水力発電に適した場所の全国的な調査(発電水力調査)は、国を中心に明治43年(1910年)の第1回以降、その時々の社会的ニーズに合わせて、昭和61年(1986年)6月まで計5回行なわれてきた。第5次発電水力調査結果では、包蔵水力(水資源のうち、技術的・経済的に利用可能な水力エネルギー量)の総量は、出力で約3275万kW、年間可能発電電力量は約1342億kWhと見込まれた。1993年に資源エネルギー庁が行った未開発地点最適化調査では、自然・社会環境等の立地条件を鑑み、開発可能地点は371地点、合計出力181万kWと報告している。包蔵水力は、既開発、工事中、未開発の全てを合計すると1年間に1,353億kWhの電力量 に相当し、原油に換算すると約3100万キロリットル(約5,970億円)、日本の原油輸入量 の約12%に相当する。
 資源エネルギー庁は平成13年度「水力開発の促進対策」の中で、(1) 開発にかかわる関係法令の諸手続きの円滑化、(2) 経済性を向上させるための開発手法、設備のコストダウンを図るための技術開発、実証試験などの促進、(3) 開発ならびに事業者に対する助成・融資制度の充実・強化などを水力発電の促進に向けた課題として挙げている。助成策としては、自治体への交付金・補助金の付与(電源三法交付金制度のうち「電源立地促進対策交付金」および「水力発電施設周辺地域交付金」、それ以外では「固定資産税」、「水利使用料」、「電源地域振興育成支援補助金」、「電源地域振興促進事業費補助金」)と、事業者への発電所の建設費に対する補助(「中小水力発電開発費補助金」、「地域エネルギー開発利用発電事業促進対策費補助金(中小水力発電建設費利子補給)」)が行われている。
 水力発電は、河川・森林の保護、自然生態系の保護など環境に優しい(環境低負荷)、地域特性を生かしたリニューアル水力による発電がいっそう望まれている。
 
[用語解説]
(*)包蔵水力とは、発電水力調査により明らかとなった我が国が有する水資源のうち、技術的、経済的に利用可能な水力エネルギー量をいう。
<図/表>
表1 出力別包蔵水力(一般水力)
表1  出力別包蔵水力(一般水力)
表2 水力発電に関する年表
表2  水力発電に関する年表
表3 日本における年代別発電施設
表3  日本における年代別発電施設
表4 発電方式別包蔵水力
表4  発電方式別包蔵水力
表5 水車の種類
表5  水車の種類
表6 水力発電所の種類
表6  水力発電所の種類
表7 ダムの形式
表7  ダムの形式
図1 一日の時間帯別発電の組合せ
図1  一日の時間帯別発電の組合せ
図2 揚水式発電
図2  揚水式発電
図3 日本の電源別CO
図3  日本の電源別CO
図4 主要国のエネルギー輸入依存度
図4  主要国のエネルギー輸入依存度
図5 エネルギー資源の確認可採埋蔵量
図5  エネルギー資源の確認可採埋蔵量
図6 水力発電のしくみ(ダム式発電所の例)
図6  水力発電のしくみ(ダム式発電所の例)

<関連タイトル>
ベストミックス (01-02-02-07)
日本の発電電力量と2010年度までの電力供給目標(1994年6月) (01-04-01-01)
日本の各種電源の特徴と位置付け(2001年) (01-04-01-12)
世界のエネルギー資源の埋蔵量 (01-07-01-01)
発電システムのライフサイクル中の環境汚染ガスの排出量(1995年電力中央研究所) (01-08-01-09)

<参考文献>
(1)経済産業省資源エネルギー庁:水力のホームページ
(2)佐藤雅之:中小水力開発の現状と課題、ENERGY、日工フォーラム社(2002-8)、p.104-107
(3)茅陽一(監修):新エネルギー大事典、(株)工業調査会発行(2002年2月)、p.553-592
(4)東京電力パンフレット:電力設備 平成14年度版(2002年11月)
(5)内山洋司:発電システムのライフサイクル分析、研究報告Y94009、電力中央研究所研究報告、(財)電力中央研究所(1995年3月)
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