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石炭は燃料及び製鉄用原料として、18世紀の産業革命以降の工業化の進展に非常に重要な役割を果たしてきた。1960年代のいわゆる流体革命により、エネルギー源の主役の座を石油に譲ることとなったが、1970年代の二度にわたる
石油危機を契機として、世界的に石炭の役割についての見直しの気運が高まった。石炭は他の化石燃料に比べて埋蔵量が豊富で
可採年数が長く、賦存地域も先進国を含めて広範囲に分布している。このため、供給安定性が高く、また、価格面でも他の化石燃料に比べて優位にある。
わが国でも、明治以降の近代化の過程で国産の石炭がエネルギー源として重要な役割を担ってきた。しかし、第二次大戦後、とりわけ1960年代の高度経済成長時代に、急増するエネルギー需要を賄ったのは廉価で利便性の高い輸入石油であった。石炭の利用も続いたが、国産の石炭は採掘条件の悪化と価格競争力の面から生産量が徐々に減少し、輸入炭の利用に移行した。石油危機以降に石油代替エネルギーとして急速に導入が進んだのは天然ガスと原子力である。しかし、エネルギー需給構造の脆弱性を改善するためには、エネルギー源の一層の多様化が必要であり、石炭も石油代替エネルギーの重要な柱として位置付けられ、その利用の拡大が図られてきた(
図1)。一次エネルギー供給量に占める比率は最近では20%を超える水準となっている。
わが国の石炭消費量は年間で1億7000万トン前後であるが、ほぼすべてを輸入に依存している(
図2)。国内炭の商業的生産は2002年に北海道の太平洋炭鉱が閉山したのを機に大幅に縮小した。また、1960年代に石油がエネルギー源の主役となった後は、ボイラや加熱炉の燃料となる一般炭の使用量は大きく減少し、コークス製造用の原料炭の輸入が増加していた。その後、第二次石油危機(1979年)を経て、電源の多様化、燃料石油の代替が進む中で発電用等に使用される一般炭の消費が再び増加に転じ、現在では石炭消費量全体の過半を一般炭が占めている。なお、発電部門以外での一般炭消費量はセメント製造用が多く、最近では毎年1000万トン程度を使用している。また、紙・パルプ製造業がこれに次いでおり、消費量は毎年500万トン程度である。
石炭の輸入量を国別、炭種別にみると、一般炭に関してはオーストラリアからの輸入が圧倒的に多く、現在でも豪州炭が全体の7割程度を占めている(
図3)。オーストラリア以外では、インドネシアからの輸入が増加してきていることが特筆される。原料炭に関しても、オーストラリアへの依存は強く、最近では6割近い比率になっている(
図4)。1970年代、1980年代には米国とカナダから輸入される北米炭が輸入の半分程度を占めていたが、高価格のため近年は減少傾向にあり、インドネシア等からの輸入が増加しつつある(
図3)。
全炭種の合計量でみると(
図5)、石炭の輸入量はこの半世紀弱の期間に大幅に増加し、その過半をオーストラリアに依存していることが分かる。また、最近ではインドネシアからの輸入も増えており、このように、先進国や近隣地域からの輸入が多い点が、中東依存度の高い石油との大きな違いであり、日本のエネルギー供給の安定化に大きく貢献している。2007年の金融危機後の景気後退によって粗鋼生産量が減少したため、原料炭を中心に輸入量が顕著に低下したが、日本経済の回復とともに石炭輸入量の低減傾向には歯止めがかかるものと予想される。
上記のとおり、埋蔵量の大きい石炭は石油代替エネルギーの主役の一つとして期待され、世界的にみても発電用エネルギーとしては最も多く用いられている。しかし、エネルギーの大量消費に伴う環境問題が深刻化する中で、環境保全を図りつつ石炭を効率的に利用していくための技術やシステムが求められている。特に、
地球温暖化への対策が世界的な重要課題となっており、化石燃料の中で発熱量当たりのCO
2排出量が最も多い石炭の利用をさらに拡大するためには、排出量を低減し得る技術の開発・導入が不可欠な状況にある。また、わが国は世界最大の石炭輸入国であり、今後とも海外からの輸入に依存せざるを得ないため、地政学的な観点に立った安定供給の確保も重要な課題である。
そこで、こうした情勢に対応するため、以下の施策が実施されている。
(1)海外炭の安定供給確保
中国やインド等による石炭輸入の増大や海外石炭資源権益確保の進展、産炭国における自国の石炭需給を優先する輸出抑制等の動きがあることを踏まえ、わが国も海外での地質構造調査や探鉱事業等の促進、国内の受け入れ体制の整備を行うとともに、アジア・太平洋地域内の石炭需給の安定化に努める。また、石炭需要の増大に見合った生産量を確保するため、域内産炭国の生産技術向上のための共同研究、技術者交流事業等の技術協力等を推進する。
(2)クリーン・コール・テクノロジーの開発
石炭の安定供給確保及び環境問題への対応を踏まえた利用拡大を積極的に推進するため、石炭のクリーンな利用技術(クリーン・コール・テクノロジー)の開発と普及を進める。
・
熱効率の向上を図る技術(
IGCC、超々臨界圧発電(USC)等)
・
脱硫・
脱硝に関する技術(流動床燃焼、排煙処理技術の高度化等)
・CO
2排出量の低減技術(排ガスからのCO
2分離・回収、海洋・帯水層・炭層等での貯留技術(
CCS)等)
・ハンドリング性の向上を図る技術(コールカートリッジシステム、石炭液体混合燃料(CWM、COM)等)
・石炭灰の有効利用技術(建設・土木分野での利用技術、溶融繊維化技術等)
(3)クリーン・コール・テクノロジーの国際的普及基盤整備
今後予想されるアジア・太平洋諸国を中心とする石炭需要の増大、地球環境問題に対応するため、クリーン・コール・テクノロジーの海外における普及基盤の整備を積極的に進める。
・石炭のクリーン利用のためのマスタープランの作成
・脱硫施設等のモデル事業の実施及びフォローアップ
・日本国内における海外技術者の育成
(前回更新:2002年11月)
<図/表>
<関連タイトル>
コールチェーンとコールセンター (01-03-01-02)
石炭利用技術の新体系 (01-04-02-04)
石炭の液化・ガス化 (01-05-02-02)
日本の石炭エネルギー政策 (01-09-02-01)
太平洋コールフロー構想 (01-09-02-02)
主要国の石炭政策 (01-09-02-03)
<参考文献>
(1)経済産業省:平成21年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2010)
(2)(財)日本エネルギー経済研究所計量分析部編:EDMC/エネルギー・経済統計要覧2011年版、(財)省エネルギーセンター(2011年3月)
(3)資源エネルギー庁:クリーン・コール・テクノロジー(CCT)の開発及び普及について(2004年3月)
(4)財団法人 石炭エネルギーセンター:日本のクリーン・コール・テクノロジー(2006年3月)、
http://www.jcoal.or.jp/cctinjapan/cctinjapan.html