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高度経済成長期に石炭から石油への転換が行われて以来、わが国における石炭利用は鉄鋼業でのコークス製造用の原料炭利用にほぼ限られていた。しかし、2度の
石油危機によって石油価格が高騰し、石油の供給安定性に対しても不安が高まる中で、石油代替エネルギーの一つとして石炭火力発電所の新・増設に伴いボイラおよび加熱炉の燃料となる一般炭の輸入が増加してきた。
2004年度の石炭需要量は、1億8,484万トン(うち原料炭8,631万トン、一般炭9,271万トン)、業種別には電力での需要が7,964万トンと最も多く、次いで鉄鋼業での需要が7,056万トンで、この二つの需要で全需要の84%を占めている。また、石炭の国内供給のほぼ全量(約99%)を海外からの輸入に依存している。
エネルギー源の石炭転換に当たっては、海外炭開発、石炭利用技術の開発とともに大型専用船、大型港湾およびストックヤードを含む一貫した輸入体制の整備等、石炭の流通合理化を図る必要がある。このような観点から、海外一般炭の利用に必要なコールチェーンおよびコールセンターの整備が進められている。
表1にコールセンター石炭受入能力の推移を示す。
1.コールチェーン
石炭産業は輸送業であるといわれているが、最近のように海外炭輸入が増加すると、その感が一層強まってくる。石炭が需要者の手元に到着するまでには、採掘された原炭が選炭工程を経て製品炭となり、内陸輸送(山元から積地まで)、外航輸送(産炭国から消費国まで)および内航・内陸輸送(中継基地から消費者まで)を経て工場に納入されるという過程を経る。輸送方法が変わるごとに積み替え施設が必要となるが、その流れは一連の鎖のように連続したものでなければならない。鎖のどこかの部分でその機能を失うと、石炭の流れは中断する。これを防止するには各施設の機能を整備するとともに、山元および積替え箇所ごとにかなりの貯炭を持つことが必要である。このような石炭の一連の流れは「コールチェーン」(coal chain)と呼ばれ、石炭の需要増大とともにその完備が強調されてきている。
(1)コールチェーンの概要
コールチェーンのイメージを図示すれば、
図1、
図2および
図3のようになる。まず、炭鉱で製品化された石炭は様々な輸送手段で港に運び出される。この場合の輸送手段としては、距離、輸送量、自然条件、コストなどにより決定され、鉄道、パイプライン、バージ船、コンベア等が利用される。一般に、鉄道、バージ船を利用することが多く、条件が揃った場合にパイプライン、コンベアが利用されることになる。港に運び込まれた石炭は、いったん貯炭され、シップローダにより石炭運搬専用船に移し替えられる。
海上輸送では、バルク船が利用されることになるが、その規模は輸送量、港の接岸能力、航路等により選定され、ケープ級(11〜15万トン)、パナマックス級(5〜7万トン:パナマ運河を通過できる最大のものの意)、ハンディサイズ(3〜4万トン)の各種の船体が利用される。石炭運搬船により運び込まれた石炭はアンローダにより陸揚げされるが、専用埠頭、貯炭場を所有している消費者は、直接そこに陸揚げを行うことができる。一方、専用の設備を所有していない消費者などは、いったんコールセンターなどで陸揚げし、トラック、内航船等の国内輸送で石炭を運び込むことになる(
図4)。コールチェーンにおいて機能を健全に保つためのポイントは、積替えを円滑に行うところにある。ここでは、いかに迅速に積み替えを行うかが輸送コストの低減になる。また、事故などがあった場合に備えて貯炭を行うことも求められている。
(2)輸送方式
「コールチェーン」は今後増大する石炭輸送に対処して、経済性を重視しつつ、大型・高速化の方向で整備されるであろうが、その輸送方式として現在利用され、あるいは、検討されている主なものを紹介すると次のとおりである。
A.ユニット・トレイン(専用列車)
単一物質を特定区間で高速往復輸送する方式である。現在米国等では、1台100トン程度積載可能な大型貨車100台程度を一編成とし、一列車で一回約1万トンの石炭を輸送することが可能である。輸送距離は1000〜2000kmである。
B.スラリー輸送
水と石炭を混合して流体化し、これをパイプラインで輸送するものである。この方式は米国等で一部実用化されているが、長距離にわたるパイプラインの敷設等新規投資と、大量の輸送媒体が必要であり、年間輸送量が大規模でなければ経済性が出ないといわれている。
C.大型石炭専用船による高速大量輸送
これを実現するためには、産炭国における大型港湾の整備および消費国における大型石炭専用船が接岸可能で、かつ、大量の貯炭能力を有する中継基地の整備が必要である。
2.コールセンター
エネルギー源の石炭転換に当たっては、海外炭開発、石炭利用技術の開発とともに大型専用船、大型港湾およびストックヤードを含む一貫した輸入体制の整備等石炭の流通合理化を図らなければならない。コールセンターは、その意味でコールチェーンの一環として重要な役割を果たすと考えられる。
(1)コールセンターの概要
海外炭の輸入拡大に伴い、一般産業等、多数のユーザーに石炭を中継するため設置される施設であり、港湾設備、石炭搬入設備、貯炭設備、石炭払出設備等からなり、大型船(外航船)から石炭を搬入し、小型船(内航船)、鉄道、トラック等に払い出しを行うものである。
コールセンターは次のような機能を有している。
A.コールセンターの中継により大型石炭輸送船の利用が可能となり、一次輸送費の低減を図ることができる。
B.石炭消費者(特に小口消費家や立地上、近隣に受入基地の建設が無理な消費家)が個々に多額の投資を行い、自らの受入基地を持つことは石炭利用の相対的コストを高めることとなる。コールセンターは、港湾設備、貯炭設備等の集約化によりこのような問題を解消し、石炭利用の拡大に寄与する。
C.産炭国におけるストライキ等による供給変動等に対する調整能力(貯炭能力)が増大し、石炭の安定供給の確保に寄与する。
(2)コールセンターの建設の現況
1973年の第一次石油危機以降もしばらく続いた石油供給過剰状態により、石炭利用は重油利用に比して経済的にも劣性で、電力業界や一般産業においては石炭転換に消極的であった。このため、コールセンターの必要性は少なく、建設はなかなか具体化しなかった。しかし、1979年の第二次石油危機以降、石炭利用の経済性が相対的に向上し、かつ海外炭輸入が増えてきたことに伴って、年間使用量が少なく自ら大型港湾を建設することが非現実的なセメント、紙・パルプ業界等の石炭需要者が急速に石炭転換を指向したため、海外炭の中継基地が必要となってきた。こうした中で、コールセンターの建設が進められ、2002年現在、
図5に示すとおり、各地でコールセンターが稼動している。
図6に2001年度の輸入一般炭受入実績を示す。なお、1980年度からコールセンター建設に対する低利融資(日本政策投資銀行貸付)制度が創設され、2001年までが適用期限となっている。また、金利を低利にするために、石特会計から利子補給が行われている。
(3)今後の検討課題
コールセンターは、今後、石炭利用技術、特に石炭の流体化の技術開発の進展に対応してA;スラリー基地、B;COM(Coal Oil Mixture:石炭・石油混合燃料)基地、C;CCS(Coal Cartridge System:コール・カートリッジ・システム技術)基地、D;灰処理基地等の機能を果たすことも検討される必要がある。
近年の国際エネルギー市場および石炭市場の変化を踏まえ、石炭の安定供給という政策目標を再考し、今後の課題と対応の方向性が
図7および
図8に示されており、輸送問題がボトルネックとならぬよう常に検討・準備しておくことが重要である。現在の石炭関連施設の国内分布を
図9に示す。
(前回更新:2003年9月)
<図/表>
<関連タイトル>
日本の石炭情勢 (01-03-01-01)
石炭利用技術の新体系 (01-04-02-04)
太平洋コールフロー構想 (01-09-02-02)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁 資源・燃料部(監):コール・ノート2003年版、資源産業新聞社(2003年3月26日)、p.377-395
(2)資源エネルギー年鑑編集委員会(編):2003/2004資源エネルギー年鑑、通産資料出版会(2003年1月30日)、p.789-791
(3)(財)日本エネルギー経済研究所計量分析部(編):EDMC/エネルギー・経済統計要覧2003年版、(財)省エネルギーセンター(2003年2月5日)、p.131-139
(4)国土交通省:昭和56年度運輸白書、総論第1部、第0章、2「エネルギー等重要資源の受入れ、備蓄態勢の強化」、
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/transport/shouwa56/ind010902/frame.html
(5)資源エネルギー庁:エネルギー白書2006
(6)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、(社)日本エネルギー学会:石炭Q&A
(7)経済産業省 石炭安定供給施策研究会:中間報告書「エネルギーと石炭の安定供給のために」(平成18年5月2日)、
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g60501a03j.pdf
(8)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構:石炭利用の啓蒙を目的としたパンフレットの作成及び関連調査報告書(平成16年3月)委託先:(社)日本エネルギー学会