<大項目> 海外情勢
<中項目> 旧ソ連・東欧各国
<小項目> カザフスタン
<タイトル>
カザフスタンの原子力事情 (14-06-10-01)

<概要>
 カザフスタン共和国では、高速増殖原型炉BN-350が発電及びカスピ海の海水淡水化を目的として、旧ソ連時代の1973年に運転を開始した。その後、原子炉の設計寿命と原子炉本体施設の老朽化及び廃液保管施設等がほぼ満杯状態になったことから、1999年4月に公式に閉鎖された。以来、カザフスタンで運転中の原子力発電所はない。現在BN-350はIAEA、米国などの国際的な協力体制のもと、廃止措置が行われている。政府は増加を続ける電力需要と、老朽化する発電設備、地球温暖化対策などを考慮し、2030年までに4〜6基の原子力発電所の建設を検討している。ロシアと原子力発電会社アトムナヤスタンチヤ社を設立し、2010年にはアクタウ市近郊に、舶用炉をベースにした中小型炉VBER-300を2基建設すると発表している。
 なお、カザフスタンは石油、天然ガス、石炭、ウランなど鉱物資源に恵まれた資源大国で、政府はこれらの資源開発について積極的に外資の導入を図っている。カザフスタンの原子力事業の中核として1997年に設立されたカザトムプロム社は、傘下企業を通じてウラン鉱石の採掘から燃料加工、原子力発電所建設など原子力全般を手がける。なお、原子力政策、指針・規制、許認可等に関しては原子力庁が担当している。
<更新年月>
2015年02月   

<本文>
1.概要
 カザフスタンは、1991年12月にソ連の崩壊と同時に独立を達成した共和国で、その後、独立国家共同体(CIS)に加盟した。中央アジアに位置し、北にロシア、東に中国、南にキルギスとウズベキスタン及びトルクメニスタンと国境を接し、カスピ海とアラル海に面している。アジアでは中国とインドに次ぐ国土面積272万4,900km2 (日本の7倍超)と人口約1,720万人を有する。国土の大部分は砂漠や乾燥したステップ地帯(半乾燥気候下での樹木のない草原地帯をいう。)で、人口の大半は首都と一部の地域に居住する。
 独立以降、アジアの経済危機、ロシアの金融危機、原油価格の下落などの影響を受けて、経済情勢は急速に悪化したが、エネルギー資源、鉱物資源を活用し、積極的に外資を導入した。とりわけ、石油に対する投資及び石油の輸出増加が経済を牽引し、1990年代後半から急速な経済成長に入ることとなった。2007年からリーマンショック等に起因した世界経済の悪化により、経済成長率は2000年以降の約10%から1%代まで急速に減速した。なお、カザフスタン最大の輸出先である欧州経済の見通しが不透明であるものの、世界的な資源需要の回復を背景に経済は回復基調にあり、IMFの予測では、今後経済成長率が6%台で安定推移すると見込んでいる。カザフスタン共和国の概要を図1に示す。
2.資源
 カザフスタンは、石油、天然ガス、石炭、ウランなど鉱物資源に恵まれた資源大国で、政府はこれらの資源開発について積極的に外資の導入を図っている。現在、多くの西側企業がコンソーシアムを組んで資源開発に乗り出している。油田・ガス田は基本的にカスピ海を中心とするカザフスタン西部に位置し、国土の中部と東部には鉄・非鉄金属や石炭などの資源が集中する。鉱業はカザフスタンにおける最大の産業であり、国家発展のための大きな歳入をもたらす源泉である。近年、政府は石油、天然ガス、ウランの開発を重視し、2010年7月に新地下資源利用法を施行した。国営企業がこれらの資源開発に大きな影響力を持っている。なお、カザフスタンの一次エネルギー生産量の約50%は石油によるもので、石油生産量の約85%は輸出用である。最終エネルギー消費量は石炭が約半分を占めていたが、最近では天然ガスへの依存が増大している。表1に一次エネルギー需給の推移を示す。
 カザフスタンはウランの賦存量も豊富で、2013年のウランの生産量は世界第1位(シェア38%)、埋蔵量はオーストラリアに次いで第2位(シェア12%)である。埋蔵量は679,300tUで、埋蔵地域は中部のシュー・サルィスゥ(Chu-Sarysu)を中心に、北カザフスタン、シルダリア(Syrdarya)、イリ(ILI)、カスピ海、バルハシ湖(Balkhash)の6ヶ所に分散している(図2参照)。ウランの生産量は年々増加し続けており、2013年の生産量は前年比6%増の22,567tUであった。福島第一原子力発電所の事故後も、中国やインドなどの新興国におけるウラン需要の長期的な増加が見込まれており、同国のウラン生産増強計画に変更はない。ウランの生産はカザフスタンの核燃料サイクル全般を束ねる国営ウラン生産会社カザトムプロム(Kazatomprom)により行われ、2013年のウラン生産量は9,449tU(世界シェア16%)で世界最大規模あった。なお、カザトムプロムは独自に、或いはARMZ-Uranium One(ロシア・カナダ)を主に、Areva(フランス)、Cameco(カナダ)など世界のウラン開発企業と共同で、ウラン鉱山の開発・生産を行っている。
 カザフスタンでは1970年代より主にISLインシチュリーチング)法によるウラン生産が開始されている(表2参照)。カザフスタン国内で大規模な生産規模を持つウラン鉱山としてChu-Sarysu東部にKatco(Tortkuduk)鉱山がある。Katco鉱山はKazatompromとフランスArevaとのジョイントベンチャー(JV)企業で操業され、2013年の生産量は2,550tU(世界第4位、シェア4%)であった。また、Kazatompromと中国CNNCは2016年からの操業開始を目標にZhalpakプロジェクトを進めている。
3.原子力事情
 カザフスタン共和国は、旧ソ連時代の1940年代後半にセミパラチンスク核実験場を設置するなど、核兵器開発の重要地域として機能した経緯があり、この核実験場には核兵器開発に使用した研究炉4基をはじめ、原子力施設が集中的に設置された。この核実験場は、ソ連崩壊(1991年12月)前の1991年8月に実施した核実験を最後に閉鎖された。図3にカザフスタンの原子力関連施設の配置図を示す。
3.1 原子力政策と開発体制
 カザフスタンは、独立中央執行機関である原子力庁(KAEC)のもと、原子力発電所導入の検討及び統合的な核燃料サイクル産業の成立を目指して、法体系の整備を進めている(図4参照)。核燃料生産活動はカザトムプロム(Kazatomprom)によって具体化され、2020年までの目標として、(a)原子力産業開発(ウラン生産・加工技術のための垂直統合企業の確立)、(b)原子力発電の開発の推進(原子力発電所建設サイトの決定・建設)、(c)原子力・物質科学研究開発、(d)健康・環境防護の促進(核実験場汚染領域の復旧とその経済復興)、(e)人材育成を掲げている。
(1)原子力庁(KAEC)
 カザフスタンでは2012年に大統領命令によって、旧原子力委員会と産業・新技術省原子力課を統合した新しい原子力庁(KAEC)が設立され、原子力政策、指針・規制、原子力安全・セキュリティ対策、保障措置・核物資防護、核不拡散及びセクター間の調整が実施されている。傘下の国立原子力センター(NNC:National Nuclear Center)は原子力研究開発の中心組織で、1992年にクルチャトフの原子力研究所(IAE)やアルマティの核物理研究所(INP)、核医学・生物物理センター等6つの研究センターを統合して設立された。NNCは原子力の基礎研究、産業応用開発のほか、旧セミパラチンスク核実験場汚染地帯の放射線による影響評価等の研究を行っている。なお、カザフスタンのすべての研究炉はNNCの管轄下にある(表3参照)。
 海外との共同研究に関して、ロシアのクルチャトフ研究所の支援により熱核融合炉であるカザフスタン材料試験用トカマク(KMT)がクルチャトフ市に設置され、材料試験を行っている。2010年10月にはベルギー原子力研究センター(SCK-CEN)と加速器駆動多目的炉(MYRRHA)計画の研究協力を行うこととしている。また、日本との原子力協力において、NNCは日本原子力研究開発機構(JAEA)と高温ガス炉の研究開発協力を進めており、クルチャトフ市に発電と地域暖房を目的とした出力50MWの小型高温ガス炉の建設を計画している。そのほか、JAEAとは基礎研究、安全研究、人材育成、規格・基準等の整備に関する分野での協力支援を行う覚書も締結している。さらにNNCは2013年2月、日本原子力発電及び丸紅と原子力発電所建設に向けた技術協力と支援を約束する覚書を締結している。
(2)カザトムプロム(Kazatomprom)
 カザトムプロムはカザフスタンの原子力事業の中核機関として1997年に設立された。傘下企業を通じてウラン鉱石採掘から燃料加工、原子力発電所建設など原子力全般を手がける。カザフスタン国内54ヶ所のウラン鉱床のうち16ヶ所で採掘を行い、2013年の企業別ウラン生産量は世界第1位であった。前身は旧ソビエト連邦政権下において操業し、1992年に組織化されたKATEP(カズアトムプロム、Kazakhstan State Corporation for Atomic Power and Industry)である。タンタルやベリリウムの生産、銅やモリブデンの探鉱開発も行っている。
 ウスチカメノゴルスクには、旧ソ連時代に建設した国有持株会社ウルバ冶金工場(Ulba Metallurgical)(旧、ウルビンスキー冶金工場)があり、ここではロシア型PWR(VVER及びRBMK)用燃料や、PWR及びBWR用燃料ペレットを製造している(図5参照)。高速増殖炉BN-350の燃料もこの工場で製造されていた。
 濃縮ウランは、旧ソ連時代からロシアより搬入し、カザフスタンでペレットに加工した後、製品をロシアのノボシビルスクにあるVVER-1000燃料組立施設及びエレクトロスターリにあるVVER-440燃料製造施設へ送っている。ウルバ工場では濃縮度20%までのウランを取り扱う。2006年10月、カザトムプロムとロシアROSATOMが核燃料分野での合弁会社UEC(Uranium Enrichment Center)の設立に関する覚書を締結し、ロシアのウラン濃縮施設であるウラル電気化学コンビナートへのカザフスタンの参加に関する共同声明も発表している。また、カザフスタンは低濃縮ウラン(LEU)を備蓄する国際原子力機関(IAEA)燃料バンクの誘致活動を2010年から行っている。
3.2 高速増殖原型炉BN-350の閉鎖
 カザフスタンには、旧ソ連時代の1973年に運転を開始した唯一の原子力発電所であるループ型ナトリウム冷却高速増殖炉BN-350(燃料は高濃縮ウラン)が、カスピ海沿岸のアクタウ市(旧シェフチェンコ市)にある。この発電所は一般供給電力150MWe、海水淡水化能力5,000t/時の性能を有していたが1993年に閉鎖、1997年から廃止措置を開始している。この発電所はKATEP社が所有していたが、1997年にマンギスタウ原子力発電会社(MAEC:Mamgistau Atomic Energy Complex)に移転され、2003年4月からカズアトムプロムが所有している。
 BN-350は運転開始後まもなく、蒸気発生器のナトリウム漏洩事故が発生し、5基の蒸気発生器伝熱管の全数取替えが行われ、その後も同様のトラブルや燃料破損が続いたため、1976年から熱出力を最高の1,000MWtより650MWtに制限して運転された。以降、設備利用率は80%を達成し、運転経験も豊富になった(表4参照)。しかし、BN-350の原子炉本体施設の老朽化、廃液保管施設及び固体廃棄物貯蔵施設がほぼ満杯になったこと、設計寿命20年を超え漏洩の可能性があること、ロシアからの技術援助が十分に得られなかったことから、1999年4月22日に閉鎖された。
 BN-350のデコミッショニングはIAEA査察下で行われ、1997年11月に米国と協定を結び廃止措置作業を進めている。施設は50年間の安全貯蔵後、解体撤去する方針で、2000年〜2017年を準備段階とし、燃料の取出しとサイト外中長期貯蔵施設への搬出、1次系、2次系ナトリウムのドレン回収、また、敷地や施設のサーベイランス及び保守管理などを行っている。使用済燃料はキャスクに移され、発電所サイト内及びクルチャトフ原子力研究所敷地内で一時保管されるが、最終的には、セミパラチンスクにあるバイカル-1(旧ソ連の核実験場)に埋設する計画である。
3.3 原子力発電所建設計画
 近年、カザフスタンは電力需要の増加による電力不足、電力設備の老朽化や送電ロスによる電力需給のアンバランス、安価な石炭を主要なエネルギー源として使用していることにより発生する大気汚染への対策が課題となっている。2012年現在、既存の発電能力は17,850MW、そのうち87%が火力、13%が水力、再生可能エネルギーが1%未満となっている。また、発電電力量は約912億kWh、その1割が送電ロス等の電力損失分であり、発電構成比は石炭76.1%、天然ガス14.7%、水力8.4%、最終消費電力量は692億kWhであった。電力需要は年々増加する傾向で、2030年までに年間1,500億kWhを超えると予想されている。このため、カザフスタン政府は原子力発電の必要性を改めて強調しており、2030年までにエネルギー供給のほぼ4.5%を賄う計画である。1997年9月10日に政府が発表した原子力発電所建設計画の主な内容は次の通りである(国家長期開発計画「カザフスタン2030年戦略」)。
(1)2030年までに4〜6ヶ所の原子力発電所の建設を検討する。
(2)バルハシ原子力発電所計画を推進する。
  発電所サイト:首都アルマティの北東400kmのバルハシ湖畔
  原子炉:VVER-640×3基、190万kW
  運転開始:1号機 2005年、2号機 2007年、3号機 2010年
  総括契約者:ロシアのザルベージアトムエネルゴストロイ
(3)化学工場、石炭処理施設向け熱併給原子力プラント計画(ツルガイ)を推進する。
(4)地域暖房用原子力プラント計画(セミパラチンスク、カラガンダ、ペテロパブロフスク、レニンスク)を推進する。
 しかし、このバルハシ発電所計画は資金不足によって頓挫し、代わりに2008年6月、カザトムプロムとロシア・アトムストロイエクスポルトとの共同出資によって原子力発電会社アトムナヤスタンチヤを設立し、マンギスタウ州アクタウなど国内2ヶ所に中小型炉を建設する方針を示した。2010年にはアクタウ市近郊に、舶用炉をベースにした中小型炉VBER-300×2基の建設を検討中である。なお、VBER-300は「第3世代+」炉で、地上及び海上等への据付も可能で、電気、熱生産、海水淡水化にも使える。カザフスタンの2030年までの計画では、アクタウでの発電所建設検討に加えて、少なくとも1基の大規模な原子力発電所(可能性としてバルハシ湖付近の日本製沸騰水型原子炉)と、さらに孤立したコミュニティへ電力を供給するための出力50〜100MW級小型の原子力発電所を20基程度建設する予定であり、1号機はクルチャトフに建設すると発表している(図6参照)。
(前回更新:2007年7月)
<図/表>
表1 カザフスタンにおける一次エネルギー需給の推移
表2 カザフスタンにおけるウラン生産センターの概要
表3 カザフスタンの研究炉一覧
表4 BN-350の運転実績および設備利用率
図1 カザフスタン共和国の概要
図2 カザフスタンのウラン資源分布状況
図3 カザフスタンの原子力関連施設配置図
図4 カザフスタンの原子力関連行政体制
図5 国有持株会社 ウルバ
図6 カザフスタンにおける原子力を含む2030年の電力網

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
海外諸国の高速炉におけるナトリウム漏えい事故 (03-01-03-08)
世界の高速増殖炉原型炉 (03-01-05-02)
旧ソ連の高速増殖炉研究開発 (03-01-05-09)
高速増殖炉BN-350(発電・海水脱塩炉)の建設 (16-03-02-07)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2000/2001年版(2000年10月)および原子力年鑑 2014年版(2013年10月)、カザフスタン
(2)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編 2010年版(2010年3月)、カザフスタン
(3)原子力委員会ホームページ:カザフスタンの原子力開発利用の動向、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/inter-coop/siryo/siryo10/020204.htm
(4)日本原子力研究開発機構:日本原子力研究開発機構:プレス発表−カザフスタン補足説明資料、2008年6月、
http://www.jaea.go.jp/02/press2008/p08060901/hosoku.pdf
(5)世界原子力協会(WNA):カザフスタン、
http://www.world-nuclear.org/info/Country-Profiles/Countries-G-N/Kazakhstan/
(6)日本原子力産業協会:躍進するアジアの原子力 カザフスタン、2009年2月、
http://www.jaif.or.jp/ja/asia/kazakhstan_data.html
(7)カザフスタン原子力庁:Technical Meeting, Sweden:BN-350 REACTOR SPENT FUEL HANDLING、2006年4月
(8)KAZATOMPROM:Structure of the Group of Company、
http://www.kazatomprom.kz/en/#!/content/structure-group-company
(9)国際エネルギー機関(IEA):Kazakhstan、Energy production、
http://www.iea.org/stats/WebGraphs/KAZAKHSTAN3.pdf
(10)OECD・NEA/IAEA:Uranium 2014:Resources, Production and Demand 2014
(11)カザフスタン原子力研究所(IAE):Current Status of Nuclear Power Introduction in. Kazakhstan、

(12)公益財団法人 原子力安全研究協会:アジア地域原子力協力に関する調査報告書(2013年3月)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/sitemap/pdf/asia_report2503.pdf
(13) International Assistance for Decommissioning of Fast Breeder
Reactor BN-350 at Aktau (Kazakhstan)、

(14)カザフスタン共和国大使館
(15)外務省、カザフスタン共和国基礎データ、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/kazakhstan/data.html
(16)IMF:World Economic Outlook Database、
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2014/02/weodata/index.aspx
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