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<概要>
 ロシア(旧ソ連)は世界で最も早くから高速増殖炉の開発に着手した国の一つである。実験炉としてBR-1、BR-2、BR-3、及びBR-5を建設した。BR-5を拡張したBR-10(熱出力10MW)では、炭化物燃料窒化物燃料を試験した。その後、実験炉BOR-60に続き、原型炉BN-350をカザフスタンのアクタウ(旧シェフチェンコ)に建設し1973年から運転していたが、1999年に閉鎖した。なお、BN-350は発電及び海水脱塩の二重目的炉であった。原型炉BN-600は、エカテリンブルグ市の東にあるベロヤルスクで1981年から好調に運転されている。
 その後、1984年に実証炉BN-800(電気出力800MW、タンク型)の建設がベロヤルスク(炉)とチェリャビンスク(燃料製造)で始まり、チェルノブイリ事故(1986年)とソ連崩壊後の建設中断を経て、2006年に建設が再開され、2014年の臨界を目指している。
 今後のプロジェクトとして、先ず最も開発が進んでいるナトリウム冷却炉の最初の商業炉としてBN-1200、その後、鉛−ビスマス又は鉛冷却炉(BREST)の建設が計画されている。
<更新年月>
2010年10月   

<本文>
 旧ソ連(現ロシア)は原子力開発の初期から、将来のエネルギー問題を解決する切り札として高速増殖炉(FBR)開発を積極的に進めてきた。最初に臨界実験装置BFS-1、-2、実験炉BR-5(熱出力5MW、後にBR-10に改造)とBOR-60(熱出力60MW、ループ型)が建設・運転され、その後、原型炉BN-350(ループ型)、BN-600(電気出力600MW、タンク型)が建設・運転されて多くの技術的知見と経験が蓄積された。(ATOMICAデータ「ロシアの高速増殖炉BN-600(03-01-05-13)」参照)それらの経験を踏まえ、現在BN-800(電気出力800MW、タンク型)が建設中で、引き続きBN-1200(電気出力1200MW、タンク型)が計画中である。高速炉プラント及びその関連施設の場所を図1に、また発電用高速炉の主要仕様を 表1表2、及び表3に示す。
1.実験炉(BR-1,BR-2,BR-5,BR-10)
 オブニンクス市郊外の物理エネルギー研究所に1955年にプルトニウム燃料の臨界集合体BR-1(Pu金属燃料、炉心容量:1.7リットル)を建設したのに続き、翌年にBR-2(100kW、水銀冷却)、さらにBR-3が相次いで建設された。これらの経験に基づき、旧ソ連の高速増殖炉開発は、ナトリウム冷却、酸化物燃料で進むことが基本方針として定まった。
 この基本方針に沿って、実験炉BR-5が1959年に建設された。BR-5は熱出力5.9MWのループ型原子炉で、冷却材にナトリウム、燃料にウラン酸化物を用いている。1971年から1972年にかけて、熱出力を10MW(出力密度も460kW/リットルから780kW/リットル)へ上昇させるための改造工事が行われ、BR-10として1973年3月に初臨界に達した。さらに1980年から1983年にかけて拡張工事を行い、1991年には、炭化物燃料と窒化物燃料の試験をしていた(表2に実験炉概要の比較を示す)。1998年の第4四半期において、窒化物燃料の最高燃焼度は8.62%h.a(文末の注参照)に達している。
2.実験炉BOR-60
 BOR-60は発電用実験炉で、ディミトロブグラートの原子炉研究所で1965年に建設を始め、1968年に初臨界となった。熱出力は60MW(電気出力:12MW)、混合酸化物(MOX)燃料、ループ型ナトリウム冷却方式を採用している。この炉の目的の一つは将来の実用炉のために、高性能燃料の開発のための基礎データを得ることであり、したがって酸化物燃料だけでなく各種新型燃料の開発を進めている。
3.原型炉BN-350
 BN-350(ループ型)は高速炉としては世界最初の原型炉である。1964年に建設を開始し、1972年11月に初臨界を達成して、1973年7月に運転に入った。図2に原子炉・発電・海水淡水化系統の概略を示す。図3図4にBN-350の写真を示す。同炉はカザフスタン共和国のカスピ海東沿岸のアクタウ市(旧シェフチェンコ市)にあり、発電だけでなく海水脱塩(海水淡水化)も行う二重目的の原子炉である。またBN-350は、例えば出力密度が435kW/リットルと低く、保守的な設計となっている。蒸気発生器での漏えい事故のために1973年から1975年までBN-350は停止し、修理が行われた。その後1976年3月からは熱出力650〜750MWで運転し、発電と共に海水脱塩を行ってきた。日産12万トンの淡水と電気出力135MWをアクタウ市周辺の工場に供給した。
 BN-350は設計寿命が20年のため、1993年7月に寿命を迎える。そこで、1992年より現在の安全要件に合致するかどうかの検討が開始され、1993年以降対策の実施が行われた。1995年3月からは運転を停止して大規模な改造計画が進められ、1996年1月、送電網に復帰した。
 運転復帰後の1996年1月17日、運転員が誤って二次冷却材ポンプのスイッチを切り、出力が42万kWtから自動的に30万kWtに低下し、14時間後に42万kWtに復帰した事象が発生した。さらに同年1月22日には給水配管の損傷が原因で蒸気発生器室内に蒸気が検出された事象が発生した。両事象とも安全機能がすべて機能し、放射能漏えいもないため、INESレベル0と判定された。
 1971年以降BN-350で発生したナトリウム漏えいの回数は合計で15回といわれている。1998年3月以来BN-350は運転を停止し、次の2点についての検討が進められた。
(1)さらなる運転継続のための安全対策
(2)使用済燃料の管理方策
 (1)については、政府は1999年4月にBN-350を廃炉とする決定を行った。IAEAとの協力協定に基づき、同年5月には同炉の廃炉に関する国際ワークショップが開催された。今後、同炉の廃炉については国際プロジェクトとして進めることとした。
 (2)については、既存のプールによる湿式の貯蔵法はリスクが大きく、300体の燃料及びブランケットをなるべく早く水から隔離すべきであり、半乾式貯蔵法(いくつかの燃料を不活性ガスとともにキャニスターに溶接で密封したものをプール内に貯蔵する方式)が推奨されるとの結論になった。これにより、1998年12月から密封、梱包の作業が開始され、1999年4月に公式に閉鎖された。
4.原型炉BN-600
 もう一つの原型炉BN-600(ベロヤルスク3号機)は、3ループのタンク型である。エカテリンブルグ市の東のベロヤルスクに建設された。BN-600(電気出力:600MW、図5及び図6)は、蒸気条件の向上、燃料の燃焼度の向上、1基当たりの出力の増大、燃料交換間隔の長期化を目的としたもので、1980年2月26日に初臨界に達し、4月8日に送電を開始し、1981年12月22日定格出力に達した。(詳細は、ATOMICAデータ「ロシアの高速増殖炉BN-600(03-01-05-13)」参照)
5.実証炉BN-800
 上記の実績を背景に実証炉BN-800(図8参照)が、当初は、ベロヤルスクに1基、南ウラルのチェリャビンスクに3基を建設する計画であった。これらは、1980年代前半に着工されたが、1986年に起きたチェルノブイリ事故の影響で建設が中止され、1991年末の旧ソ連崩壊に伴い凍結が続いた。
 原子力開発計画見直し後の2006年に、BN-800(ベロヤルスク4号機)は建設が再開され(図7)、2014年の運転開始(臨界)を目指している。(参考文献11)建設中のBN-800の特徴は次のとおりである。(参考文献12、13、15)
 BN-600の経験から有効性が確認された次の設計を踏襲している(下記のBN-1200においても同様)。
・1次系機器を原子炉容器内に一体として設置する。
・原子炉容器を保護[保険]容器で覆い、下部で支持する。
・燃料交換のため回転プラグを用いる。
・原子炉容器内に使用済み燃料貯蔵庫を設置する。
・原子炉施設故障時にも、隔離弁により故障ループだけを隔離でき、残りのループで原子炉の除熱・運転を継続できる。
 BN-800の設計は、BN-600と比べて以下の点で改善・変更されている。
・燃料交換の際の手動操作がなく、バックグランド放射線が比較的高いウラン−プルトニウム混合(MOX)燃料を安全・確実に取り扱うことができる。
・安全性向上のため、事故時除熱系として空気冷却器が2次系に接続されている(同様の系統はBN-600にも運転期間延長の際に設置された)。
・チェルノブイリ事故後、水圧で制御棒を挿入する受動的事故時停止系が追加設置された。
・設計を超える深刻な事故(シビアアクシデント)の際に溶融炉心を保持する「コアキャッチャー」が、原子炉支持室の下に設置された。
・BN-600の蒸気発生器セクション化原則は維持するが、ナトリウムによる再加熱の廃止によりモジュール数が減り、信頼性が向上した。
・経済性向上のため、タービン発電機の数が3機から1機に減らされた。
6.商用炉BN-1200
 連邦目的プログラム「2010〜2015年までの期間に対する新世代核技術と2020年までの展望」によれば、2020年までの第一段階で実際に建設されるのは、技術及び財務リスクを最小とするため、既に商業化水準に達しているナトリウム冷却炉だけである。電気出力120万kWのナトリウム冷却高速炉(BN-1200)の概念設計が実施され、課題が明確になった。図10にその主要系統図を示す。1次系・2次系主循環ポンプ、中間熱交換器、制御棒駆動機構等の主要施設については、先行炉(BN-600とBN-800)の設計をほぼ踏襲している。
 BN-1200のBN-800(建設中)に対する主な改良・変更点は次のとおりである。
・炉内ナトリウムの温度が上がると作動する、受動的な作動原理の制御棒を設置する。
・受動的に作動する事故時除熱系は1次系に接続されており、信頼性と安全性がより高い(BN-600(寿命延長の際に追加設置)とBN-800は2次系に接続)。
・1次系ナトリウム浄化系を原子炉容器内に入れており、ナトリウム外部漏えいの可能性を完全に除外できる。
・先行炉にはない専用の事故時放出閉じ込め系を設置する。
・BN-800と同様にMOX燃料が予定されているが、炉心出力密度の低下(先行炉の約450MW/m3から約230MW/m3)と燃料棒直径増加(先行炉の6.9mmから9.3mm)により、燃料炉内滞在期間が延び、燃料交換は年1回となる(先行炉は年2回)。こうして90%の稼働率が確保される。
・炉内構造物の中性子照射量が減少するので、原子炉運転期間が60年に延長される。
・蒸気発生器(SG)は、先行炉で高度の信頼性が実証されたので、大型化され、材料使用量が低減される。更に、寿命延長のため、新しい構造材が予定されている。
・燃料交換系は、特に炉内保管庫での保持を2年に延長する結果、使用済み燃料の余熱が減少するため、簡素化される。特に、中間貯蔵のため、水プールに輸送する前にナトリウムを洗い流す「ナトリウム・ドラム」が削除された。
 このような設計改良により、BN-1200の技術・経済性指標は大きく改善し(表2)、ロシア型PWR(VVER)に比肩すると評価される。なお、設置場所としてはベロヤルスクが有力とされる(参考文献12)。
7.鉛または鉛-ビスマス冷却高速炉(参考文献11、13、14)
 冷却材として水と反応しない重金属(鉛又は鉛・ビスマス)を用いた高速炉は、2021年以降の第二段階に建設され、特性の実証と運転経験を経て、以後の方向性が規定されることになる。
 例として、鉛冷却材として用いるBREST-300(出力30万kW)の設計主要目を表4に、概念図を図9に示す。
 鉛冷却材は、水や空気と反応せず、沸点が高く(2034K)、また放射化も少ないので、漏えいしても火災や爆発の可能性がなく、安全性が高い。しかし、重いだけに、耐震性などが課題になるだろう。
 (注) %h.a:% heavy atomの略で燃焼度を表わす尺度の一つで、燃料中に含まれる全重金属原子、すなわち非核分裂性のものも含むウラン及びプルトニウム原子に対して、燃焼したウラン、プルトニウム原子の割合をいう。
<図/表>
表1 ロシアの高速増殖炉(BN-600、-800及び-1200)の燃料設計
表1  ロシアの高速増殖炉(BN-600、-800及び-1200)の燃料設計
表2 BN-800とBN-1200の主要技術パラメータ
表2  BN-800とBN-1200の主要技術パラメータ
表3 ロシア高速炉の技術-経済性指標
表3  ロシア高速炉の技術-経済性指標
表4 BREST-300の設計主要目
表4  BREST-300の設計主要目
図1 ロシアおよび旧ソ連の高速炉の所在地
図1  ロシアおよび旧ソ連の高速炉の所在地
図2 BN-350の発電・海水淡水化系統概略
図2  BN-350の発電・海水淡水化系統概略
図3 BN-350の発電プラント写真(150MWの電気供給可能)
図3  BN-350の発電プラント写真(150MWの電気供給可能)
図4 BN-350の海水脱塩プラント写真(日産12万トンの淡水供給)
図4  BN-350の海水脱塩プラント写真(日産12万トンの淡水供給)
図5 BN-600の原子炉系統概略
図5  BN-600の原子炉系統概略
図6 BN-600の原子炉垂直断面図
図6  BN-600の原子炉垂直断面図
図7 BN-800の建設現場写真(2009年2月)
図7  BN-800の建設現場写真(2009年2月)
図8 BN-800の原子炉垂直断面図
図8  BN-800の原子炉垂直断面図
図9 BN-1200主要系統図
図9  BN-1200主要系統図
図10 BREST-300の概念図
図10  BREST-300の概念図

<関連タイトル>
アメリカの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-04)
フランスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-05)
ロシアの高速増殖炉BN-600 (03-01-05-13)

<参考文献>
(1)Yu. L. Kalamin et al.:Choice of Design Decisions for BN-600M Reactor Plant, 3rd JSME/ASME Joint Int’l. Conf. on Nucl. Eng. Apr.23-27, 1995, Kyoto Japan
(2)IAEA/IWGFR Annual Meeting ”Status of Sodium Cooled Fast Reactor Development in the Russian Federation”(1997年5月)
(3)Overview of Fast Reactors in Russia and the Former Soviet Union, Nuclear Plants International Nuclear Safety Center, ANL/USDOE(URL:. 2000年3月アクセス)
(4)V. M. Poplavski, et al.: Review of Fast Reactor Operating Experience Gained in 1998 in Russia, The 32nd Meeting of IAEA Int. Working Group on Liquid Metal Fast Reactors, Vienna, Austria, May 18-19, 1999
(5)S. Krechetov:Nuclear Power in Kazakhstan and Current Status of the BN-350 Fast Reactor, The 32nd Meeting of IAEA Int. Working Group on Liquid Metal Fast Reactors, Vienna, Austria, May 18-19, 1999
(6)I. D. Morokhov et al.:Atomic Science and Technology in USSR, Moscow Atomizdat 1977 and Jahr de Atomwirtshaft 1988.
(7)A. M. Petrosjantsa:Atomic Science and Technology in USSR
(8)「21世紀前半におけるロシアの原子力発電開発の戦略」、原産マンスリー No.57、日本原子力産業会議発行、(2000年10月)、p.61
(9)各国の原子力動向「ロシア」、「カザフスタン」、原子力年鑑2000/2001年版、日本原子力産業会議、p.365、373、374
(10)Operating Experience with Nuclear Power Stations in Member States in 1998, IAEA
(11)原子力ポケットブック2010年版、p527-528
(12)ボリス・ワシリエフ:原則的な容認性、REAロスエネルゴアトム 2010年6月号、ロスエネルゴアトム社、p22-25
(13)西条泰博:閉じた燃料サイクルを目指すロシアの原子力業界、月間「エネルギー」 2010年3月号、日本工業新聞社、p40-43
(14)Nuclear Power Plants of High Safety and Cost Effectiveness with Fast Lead-Cooled Reactor BREST and on-site Fuel Cycle for Future Large-Scale Nuclear Power, 
(15)Construction of BN-800, OKBM Afrikantof,
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