<本文>
1.国情
(1)面積と人口
ウクライナは黒海の北側にあって東北側でロシア連邦に隣接している。国土の大半は緩やかな丘陵地帯といえるが、西部には標高2,000m級のカルパチア(Carpathian)山脈が控えている。中央部は、肥沃な黒土地帯で穀倉地帯として知られ、小麦、てんさい(ビート)やジャガイモなどが多く栽培されている。
面積は、60万3,700km
2で、日本の1.6倍に達するが、旧ソ連全体からみれば2.7%にすぎない。また、人口は4,545万人(2013年10月、国際通貨基金(IMF)調べ)である。人口密度は81.6人/km
2で、首都キエフには約280万人が住んでいる。民族は、主としてウクライナ人(77.8%)、ロシア人(17.3%)それに少数民族として、ベラルーシ人、モルドバ人、クリミア・タタール人から構成され、ウクライナ正協会とウクライナ・カトリック教の信奉者が多い。1989年10月には、ウクライナ語が公用語化された。
(2)略史
ウクライナは16世紀にポーランドの支配下に入り、1783年からロシア直轄領となり、19世紀後半には強力なロシア化政策が進められた。ロシア革命後の1919年にウクライナ・ソビエト社会主義共和国が樹立され、1922年にはソ連に加盟した。その後ペレストロイカ(再構築)を経て、1991年8月24日に独立を宣言し、民主国家となっている。
(3)経済
独立後市場経済を導入したが、ハイパー・インフレーションと財政赤字の増大など経済的混乱が続いた。旧ソ連時代に各共和国間で分業化が進んでいたため、独立により産業連関が途切れ、工業生産も著しく落ち込んだ。ウクライナは帝政ロシアの頃から、東部のドンバスがドネツ炭田とクリヴィー・リグの鉄鉱石を活用して「鉄鉱の街」として知られ、ドニエプル河の中流域に突出した一大重工業地帯を形成している(
図1参照)。旧ソ連時代に入ると一層工業化が進み、高い技術力を備えた軍需産業コンビナートに発展していた。
1998年から、ウクライナはIMF等、国際金融機関と協調路線をとって経済改革を開始した。2000年代には経済成長率がプラスに転じ、好調な鉄鋼輸出や内需拡大により高い成長率を実現させた。2008年夏以降、リーマンショック・世界金融危機の影響を受けて財政状況は悪化した。2010年に就任したヤヌコーヴィチ大統領のもと、IMFからの資金援助により各種経済改革を実施し、経済は復調の兆しをみせ、2011年の実質GDPP(経済成長率)は5.18%を実現した。2012年からは欧州債務危機の影響等により、成長率はやや鈍化気味である。
表1にウクライナの主要経済指標を示す。
2.エネルギー事情
2.1 エネルギー需給
国際エネルギー機関(IEA)によると、ウクライナにおけるエネルギー自給率は1990年に53.9%であったが、1995年には49.9%まで落込み、その後は上昇に転じて2011年には67.6%に達した。一次エネルギー供給量は、1990年には石油換算252万トンであったが、1995年には163.7万トン、2011年時点で126.5万トンと減少している(
表2及び
図2参照)。2011年の燃料別内訳は、天然ガス36.9%、石炭32.7%、原子力18.6%、石油9.8%、水力0.7%、廃棄物燃料1.2%である。2011年の最終エネルギー消費量は1990年の約半分に減少したが、欧州の中では極めて大きく世界第18位である(2012年BP統計)。2011年のセクター別最終エネルギー消費量の割合は、工業34.6%、住居用31.1%、輸送16.6%、通信・農林業等が9.7%、非エネルギー利用が7.9%であった。
エネルギー資源の生産量は減少傾向にあり、2011年には年間の原油生産量は340.7万トン(国内需要の37%)、天然ガスは石油換算1,552.8万トン(国内需要の33%)である。原油及び天然ガスの不足分の70%以上はロシアからの輸入に依存し、そのほか、天然ガスをトルクメニスタンから、原油をカザフスタンから、旧ソ連時代に建設された原油・天然ガスパイプラインにより、ロシア経由で輸入している。
2.2 エネルギー資源
ウクライナ東部は、旧ソ連時代からウクライナ経済を支えてきた工業基盤が強く、ここにドネツ炭田及び石油・天然ガスの生産拠点であるドネプロ・ドネツク盆地が位置する。
表3にウクライナの主要エネルギー指標を示す。
(1)石炭
ウクライナにとって石炭は重要な国内資源である。その確認可採埋蔵量は338.7億トン(瀝青炭・無煙炭:153.5億トン、亜瀝青炭・褐炭:185.2億トン)と評価されている(BP統計2012)。瀝青炭と無煙炭の大部分は東部のドネツ炭田(Donetsk)に集中しているほか、ポーランド国境のリボフ/ヴォリン炭田や中東部のドニエプル炭田がある。浅い炭田のほとんどが開発済みで、独立当初の石炭需要の落込みや、採掘深部移行に伴う採掘コストの増大から、2011年の生産量は1986年水準の半分に当たる8,000万トンで推移している。近年、生産設備の老朽化で生産性が低下、1996年には大統領令により、石炭産業の再編(補助金削減、不採算炭鉱の閉鎖、生産効率の向上など)が図られている。2012年の生産量は、前年度を4%上回り8,834万トンであった。
(2)石油及び天然ガス
ウクライナの石油及び天然ガスの埋蔵量は石油換算230億バレルと推計され、全体の約87%が天然ガスである。天然ガス確認埋蔵量の世界シェアは約0.4%、石油確認埋蔵量の世界シェアは0.2%で、ドニエプル・ドネツ盆地(Dniepr-Donets)、西ウクライナのカルパチア盆地(Carpathian)、及び黒海/アゾフ海地域の黒海大陸棚(Black Sea/Azov-Kuban)の3ヶ所がある(
図3参照)。かつて、ウクライナは旧ソ連の天然ガス産業における中核的な役割を果たした。特に、1950年代、カルパチア盆地にあるPrekarpatianガス田は旧ソ連のガス生産量(50〜60億m
3)の約半分を産出していた。1960年代後半、中央ウクライナの巨大なシェベリンカ(Shebelinka)鉱床がウクライナの生産量のおよそ3分の2を占めるようになったが、1970年代に衰退した。
天然ガス生産量は1975年に687億m
3のピークに達し、1990年代には160〜180億m
3まで減少傾向を辿っている。今後期待の持てる天然ガスの確認手段として、5,500〜6,300mの深層採掘技術が必要とされている。なお、国有会社ウクライナ・ナフトガス(NJSC:Naftogaz of Ukraine)が、天然ガス及び石油資源の探鉱・開発・採掘産業の約90%を独占している。
ウクライナは、その地勢的条件と領域内に発達した石油・天然ガスのパイプライン網の存在により、ロシアや中央アジア産エネルギーの対欧州輸送ルートとしての役割を担い、欧州エネルギー安全保障に深く関わってきた。特に天然ガスについては、ロシア産の対欧州ガス供給の約80%がウクライナ経由である。ウクライナもまた、天然ガスの70%以上をロシアから輸入している。一方、ロシアのガスプロム(Gazprom)社とウクライナのナフトガス(Naftogaz)社はガスの購入価格をめぐり、しばしば対立している。2006年には、ロシアはウクライナに対してガス供給量の30%削減を決行した。しかし、ウクライナはロシアの対欧州連合諸国向けパイプラインの上流側に位置するため、結果的に欧州のエネルギー危機を招いた(
図4参照)。2009年にもロシアはガス供給の停止措置を取っている。ロシアはガス紛争による対欧州への影響を回避するため、北方輸送ルートのNord Stream(ロシアのヴィボルグ−バルト海海底−北ドイツのグライフスヴァルト)と、南方輸送ルートSouth Stream(ロシアのベレゴバヤ-黒海海底−ブルガリアのヴァルナとヴァルナから中欧と南欧に向かう陸上2系統)を開発中であるが、ウクライナの重要性は依然として変わらない。
(3)
天然ウラン
ウクライナのウラン探査は1944年に始まり、Pervomayskoye鉱床(1967年採掘終了)とZheltorechenskoye鉱床(1989年採掘終了)が発見され、1947年から採掘を開始した。1955年には砂岩型鉱床であるDevaladovskoye鉱床が発見され、1960年代半ばから交代岩型鉱床であるKirovograd(キロボグラド)地域で集中的に探鉱活動が行われた。その結果、Michurinskoye鉱床、Vatutinskoye鉱床、Severinskoye鉱床が発見された。現在、砂岩型鉱床では
ISL(インシチュリーチング)法による採掘が行われているが、低品位(0.1%〜0.2%)の交代岩型鉱床での採掘が中心である(
図5参照)。
製錬センターは、1949年〜1991年まで、Dnepropetrovsk(ドニエプロペトロフスク)地方のPridneprovsky化学工場(PHZ、2005年から環境修復作業を実施)が、現在は同地方のZheltye Vody(ゾフティ・ヴオディ)地域の湿式製錬プラント(HMP)が操業中で、年間1,500tUの処理能力を持つ。坑内採掘された100km西方のIngulsky鉱山と150km西方のSmolinsky鉱山の鉱石を処理する。製錬は鉱石粉砕と硫酸による回収技術が使われる。また、Kirovograd地域のNovokonstantinovskoye鉱床はウラン生産会社VostGOK(SkhidGZK)により、年間2,500tUの生産体制を目指して開発中である。VostGOK(Vostochny Uranium Ore Mining and Processing Enterprise)は、1951年に創設された、ウラン採掘、選鉱、ウラン燃料獲得に関する国有会社で、ウクライナエネルギー・石炭産業省原子力産業局(MPE)の傘下にある。
2013年12月末時点で、ウクライナでは4サイト・15基の総発電設備容量1,381.8万kW、原子力発電シェア40〜50%で原子炉を運転しているが(
表4参照)、国内ウラン生産量は、需要の約30%を満たしているに過ぎない。ウクライナの国家エネルギー戦略ではウランの生産拡大をはかり、燃料を100%供給できる体制を目指している。また、
ウラン濃縮と燃料加工のロシア依存度も低減することがウクライナの大きな目標である(ATOMICAタイトル<14-06-02-02>ウクライナの原子力政策及び計画、参照)。
2.3 エネルギー政策
ウクライナ政府は、ロシアからの政治的独立のみならず、エネルギー分野での自立も目指し、将来的には石炭と原子力に依存する方向に政策を転換していく傾向にある。ウクライナの政策基本文書である「改定2030年までのウクライナエネルギー戦略」(2013年7月閣議了承)では、(1)安定かつ、高品質なエネルギー製品供給を可能とする体制の構築、(2)確実かつ持続的な発展を目的としたエネルギー政策の策定、(3)エネルギー安全保障の確立、を挙げている。2030年には、再生可能エネルギー設備容量シェアの10%達成と、原子力発電シェア50%を目標に掲げている。原子力発電に関しては、2017年〜2019年にフメルニツキ3号機、4号機2基の完成目標と、原子炉3基の新規導入を計画している。
表5に2030年までの電力開発計画を示す。
(前回更新:2005年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 (02-07-04-11)
ウクライナの原子力政策および計画 (14-06-02-02)
ウクライナの原子力発電開発 (14-06-02-03)
<参考文献>
(1)(一社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2013年版(2013年5月)
(2)国際エネルギー機関(IEA):UkraineBalances for 1990-2010、
、及び
Ukraine Total primary energy supply、
http://www.iea.org/stats/WebGraphs/UKRAINE5.pdf
Ukraine Electricity and Heat for 1990-2011、
(3)ウクライナ燃料エネルギー省:
http://euea-energyagency.org/images/articles/Ukrainian_Energy_Strategy_2030.doc、2013年6月
(4)在ウクライナ日本国大使館:ウクライナ概観、主要経済指標(ウクライナ国家統計局)、
http://www.ua.emb-japan.go.jp/jpn/sidebar/info/photo/gaikan.pdf
(5)住商総研:Business EYE(COUNTRY WATCH Poland Ukraine)、2012年秋、
(6)国際通貨基金(IMF):World Economic Outlook Databases (2013年10月版)、
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2013/02/weodata/weorept.aspx?sy=1997&ey=2012&scsm=1&ssd=1&sort=country&ds=.&br=1&c=926&s=LUR%2CLP&grp=0&a=&pr1.x=57&pr1.y=8
(7)OECD/NEA, IAEA:URANIUM-RESOURCES, PRODUCTION AND DEMAND-2011、OECD(2012年7月)、ウクライナ
(8)ロシアNIS経済研究所・服部 倫卓氏著:ウクライナ鉄鋼産業の鳥瞰図、
(9)米国エネルギー情報局:ウクライナ、
など
(10)Cadogan Petroleum plc:Prospectus、2008年6月、
http://files.investis.com/cadogan/investor/reports/FINAL_UK_Prospectus.pdf