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<概要>
 ウクライナは、設備容量で世界7位、欧州第4位の原子力発電国である。2009年末現在、運転中の原子発電所は設備容量1,383.6万kWで、2009年の総発電電力量の48%を賄っている。政府は2006年3月に「2030年までのウクライナのエネルギー戦略」を決定し、原子力開発の方針を示した。その内容は、2005年の原子力発電量水準(全発電量の約5割)を2030年までの期間維持するというもので、2030年の設備容量を2,190億kWhと見込み、そのために必要な設備を2,950万kW(設備利用率85%)と想定している。このため、原子力設備の増設とともに既存設備の寿命延長の措置も講じられる。1986年4月に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故の当事国となったウクライナは、その後の安全性確保の対策を国際協力の下で進めている。崩壊の危険性を抱えていた事故炉4号機を覆うために応急措置として建造された石棺を、新たな構造物(シェルター)で覆うシェルター実施計画(SIP)もその一つである。SIPは、2008年に石棺の補強作業を終了し、新シェルター建設の段階を迎えている。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
1.原子力発電の現況(2009年末現在)
 ウクライナは、設備容量で世界第7位、欧州第4位の原子力発電国である。2009年12月31日現在、ザポロジエ、フメルニツキ、ロブノ及び南ウクライナの4ヵ所の原子力発電所で15基の原子炉が運転中で、設備容量は1,383.6万kWである(表1図1参照)。2009年の原子力発電量は829億kWhで、総発電電力量1,729億kWhの48%を占めている。1995年から2008年までの電源別設備容量及び発電電力量の推移を表2表3に示す。
 運転中の15基の原子炉はすべて旧ソ連型原子炉で、内訳はVVER−440が2基、VVER-1000が13基である。旧ソ連製チャンネル式黒鉛減速炉RBMK-1000は、ウクライナ初のチェルノブイリ原子力発電所に4基設置された。しかし、1986年4月の事故により事故炉の4号機が石棺と呼ばれるコンクリート製の構造物で覆われ、残る3基についても、安全性を懸念する西側諸国による早期閉鎖の求めに応じ、2000年12月の3号機の閉鎖を最後にすべてが閉鎖された。
 チェルノブイリ原子力発電所閉鎖の代替として建設されたフメリニツキ2号機とロブノ4号機(各VVER-1000)は、2005年及び2006年にそれぞれ営業運転を開始した(K2/R2計画)。ウクライナは当初、1995年に先進7カ国(G7)及び欧州委員会と交わした覚書の枠組みに沿って、欧州原子力共同体(EURATOM)及び欧州復興開発銀行(EBRD)などの融資により建設することで合意していたが、卸料金の大幅引き上げなどを融資の追加条件とされたためその融資を拒否、またロシア側との交渉で合意されていた資金援助も断り、国内での資金調達により自力でこの2基を完成させた。
 他方、ウクライナ共和国の独立(1991年)後としては最初の原子炉となるザポロジエ6号機が1995年10月に運開し、この増設によってザポロジエ原子力発電所(600万kW)は欧州最大の原子力発電所となった。
 ウクライナの原子力発電所の運転は、1996年10月に設立された国営原子力発電会社「エネルゴアトム」(燃料エネルギー省所管)が担当している。一方、チェルノブイリ原子力発電所は、閉鎖後の2001年4月、エネルゴアトムから独立し、国営特殊会社(非常事態省管轄)となり、1〜3号機の廃止措置、「石棺」の安定化、使用済燃料の安全管理等の課題に取り組んでいる。また、独立規制機関としてウクライナ国家原子力規制委員会(SNRCU)が2000年12月に発足した。
2.原子力政策及び計画
2.1 長期エネルギー戦略
 ウクライナ政府は2006年3月、「2030年までのウクライナのエネルギー戦略」(以下「エネルギー戦略」という)を決定した。「エネルギー戦略」は、高品質なエネルギーの安定供給、国のエネルギー安全保障の改善、技術に由来する環境負荷の軽減、国際エネルギー市場における自国の地位向上、経済のエネルギー効率の改善、欧州エネルギーシステムへの統合などの課題の達成を基本方針として示すとともに、エネルギー安全保障の改善策として、核燃料を含むエネルギー供給源の多様化、国産エネルギーや原子力発電のシェア拡大という目標を掲げている。また、電力を重要な輸出商品と位置づけており、原子力はその主力電源とされる。
 原子力発電については、2030年までの期間、約5割の発電量シェア(2005年水準)を維持し、2030年に2,190億kWhとする目標が掲げられ、そのために必要な設備容量は2,950万kW(設備利用率85%)とされた(表4参照)。その設備を確保するには、2030年までに2,000〜2,100万kWの新設(リプレースを含む)が必要とされる。その際、2005年時点で運転中の原子炉のうち9基が2030年時点においても運転が続けられるとし、うち7基に対して15年の寿命延長措置が施されると想定している。表5は「エネルギー戦略」に基づき作成された新規及びリプレース原子炉の建設・運開スケジュールである。
 核燃料供給については、ロシアによる独占供給状態を改め、供給源の多角化を図るとともに、国内に豊富に賦存するウラン(現在、国内需要の30%を賄っている)及びジルコニウムを活用し、将来、核燃料の国産化を目指す方向が示されている。そのために国内ウラン鉱山の新規開発が緊急な課題とされ、また核燃料工場の建設の方針も掲げられている。
 しかし、「エネルギー戦略」を決定した親欧米派のユーシェンコ政権が2010年2月に親ロシア派のヤヌコビッチ政権に交代したことで、ロシアとの関係が改善の兆しを見せている。新政権は、原子力発電、機器製造及び核燃料サイクルの各事業を軸に両国の原子力部門を統合するというロシア側の提案に対しては受諾を拒んでいるものの、核燃料の長期契約や原子炉増設などの個別の分野ではロシアとの協力関係を再構築する動きを見せている。
2.2 増設計画及び既設原子炉の運転期間延長
 K2/R2計画に続いて、フメリニツキ3、4号機の増設がウクライナの原子力開発の当面の課題となっている。ウクライナ政府は2005年7月、増設計画を決定し、2008年10月の競争入札で選定されたロシア製VVER-1000/V-392B(V-320の改良型)を建設することを2009年2月に正式に決定した。2010年2月にヤヌコビッチ政権が成立し、ロシアとの協力関係が再構築される中で2010年6月に同3、4号機の建設協力に関する政府間協定がロシアとの間で調印された。これにより設計、建設及び運転に必要な資金はロシアから調達されることになった。
 上記原子炉以降の開発計画については「エネルギー戦略」に大まかな計画が示されている(表5)。エネルゴアトムは今後、新規の発電所(計600万kW)の建設用地3〜4ヵ所の選定を行う予定であり、また、フメリニツキ3、4号機以後の開発についてはカナダ製重水炉(CANDU炉)をはじめとするロシア製以外の原子炉の導入を検討している。
 原子炉の寿命延長については、2004年4月に総合計画が政令で承認され、2007年までに同計画に沿った準備作業が行われた。「エネルギー戦略」においては、運転中の原子炉15基のうち2010〜2019年に30年の設計寿命が切れる12基の運転期間を15年以上延長すると定められた。最初の実施対象とされたロブノ1、2号機(ともにVVER-440、運転期限は各々2010年と2011年)及び南ウクライナ1号機(VVER-1000、同2012年)の実施スケジュールは2007年に作成された。ロブノ1、2号機については2009年に改修作業が集中的に行われ、2010年12月にはSNRCUより10年間隔で安全性評価を実施することを条件に運転期間延長(20年)が認可された。
3.シェルター実施計画の進捗状況
 チェルノブイリ4号機は、1986年4月の爆発事故の直後にコンクリート製の石棺で覆われた。しかし、応急措置的に建造された石棺は設計寿命10〜15年の不安定な構造物であった。このため長期的な安全性確保の観点から、石棺を新たな構造物(シェルター)で覆うシェルター実施計画(SIP)が1997年に国際専門家チームにより作成され、同年6月の米国デンバー・サミットで承認された。また、G7、欧州委員会及びウクライナとの間で計画実現のための基金の設立が決定、同12月にEBRDが運営するチェルノブイリ・シェルター基金(CSF)が設立された。CSFは2010年12月末現在、29ヵ国及びEUの出資により8億6,400万ユーロの資金が集められたが、SIPを実現するには更に6億ユーロが必要とする見通しが示されている。新シェルター(NSC:New Safe Confinement)の概念設計は西側コンソーシアムにより作成され、2004年7月にウクライナ政府によりその後の設計のベースとすることが決定された。NSCはアーチ型の構造(幅257m、長さ164m、高さ110m、重さ29,000トン)をとり、組み立て地点から据え付け地点までレール上を移動する可動式で、設計寿命は100年以上とされている。シェルターの概要、構造、外観などはEBRDのホームページ(参考文献9)で紹介されている。2007年8月にはNSCの主要施設の設計、建設及び運転に関する契約がチェルノブイリ原子力発電所とフランスのコンソーシアムNOVARKAとの間で結ばれた。SIPの作業は段階的に進められており、2004〜2008年に石棺の崩壊を防ぐ補強工事が行われた。現在、計画はシェルター建設の段階を迎えており、2010年9月から基礎工事が始まっている。詳細設計も完成間近といわれており、2011年の早い段階に規制当局の認可が得られるものと期待されている。SIPの主任エンジニアよると、NSCの完成予定は2014年とされている。
 ウクライナ国内ではNSC建設及びチェルノブイリ1〜3号機の廃止措置についての国家計画が2009年1月に国内法として成立し、2010年1月から施行されている。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 ウクライナの原子力発電所一覧
表1  ウクライナの原子力発電所一覧
表2 ウクライナの発電設備容量の推移
表2  ウクライナの発電設備容量の推移
表3 ウクライナの発電電力量の推移
表3  ウクライナの発電電力量の推移
表4 ウクライナにおける2030年までの発電設備・発電量想定
表4  ウクライナにおける2030年までの発電設備・発電量想定
表5 新規およびリプレース原子炉の建設・運開スケジュール
表5  新規およびリプレース原子炉の建設・運開スケジュール
図1 ウクライナにおける原子力発電所の所在地図
図1  ウクライナにおける原子力発電所の所在地図

<関連タイトル>
ウクライナの国情およびエネルギー事情 (14-06-02-01)
ウクライナの原子力発電開発 (14-06-02-03)

<参考文献>
(1)ウクライナ国家統計委員会:ウクライナ統計年鑑2008年版、(2009年)(ウクライナ語)、p.119
(2)NNEGC(ENERGOATOM)パンフレット(2010)(Updated 21 May 2010)
(3)World Nuclear Association:Nuclear Power in Ukraine(Updated December 2010)、http://www.world-nuclear.org/info/inf46.html
(4)日本原子力産業協会:原子力年鑑2009年版、pp.280-282
(5)日本原子力産業協会:原子力年鑑2011年版(2010年10月26日)、p.246
(6)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向、2010年版(2010年3月)、p.58、pp.104-107
(7)ウクライナ燃料エネルギー省:Energy Strategy of Ukraine for the Period until 2030.
(8)チェルノブイリ原子力発電所ニュース(2010年12月14日)
(9)EBRD:Chernobyl 25 years on:New Safe Confinement and Interim Storage Facility 2(Last updated 14 December 2010)

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