<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> イギリス
<タイトル>
原子力の経済性(英王立工学アカデミー報告書) (14-05-01-15)

<概要>
 英国の王立工学アカデミーは、2004年3月10日、各種電源の発電コストを比較した調査報告書を発表した。この報告書では、二酸化炭素(CO2)の放出コストを含まない場合、コンバインドサイクルガスタービン発電(ガスタービン複合発電)が2.2ペンス/kWh(約4.3円/kWh)、原子力発電が2.3ペンス/kWh(約4.5円/kWh)、微粉炭発電が2.5ペンス(約4.9円/kWh)などとしている。また、1トンあたり30ポンド(約5900円)のCO2放出コスト(外的コスト)を考慮すると、原子力発電が他の電源に比べ、圧倒的に安価となる。
<更新年月>
2004年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.英国王立工学アカデミー報告書
 2004年3月10日、英国王立工学アカデミー(Royal Academy of Engineering:RAE)は、各種電源の発電コストを比較した調査報告書(The Costs of Generating Electricity)を発表した。この報告書は、電源間のコスト関係が各種補助金や商業利益のため、ゆがめられ透明性を欠いているとして、政策決定者が合理的なコスト情報を入手できるようにするため、PBパワー社に委託して調査を行ったものである。
 この報告書では、名目割引率7.5%などの共通の経済状況下で、新規に運転開始する各種プラントの発電コストを比較している。比較の対象となった電源は、原子力、CCGT(コンバインド・サイクル・ガスタービン)の他、オープンサイクル天然ガスタービン(OCGT)、石炭火力(微粉炭、ガス化複合、流動床)、さらに再生可能エネルギーとして、陸上と海上の風力発電、波潮力、家畜廃棄物を燃料とする気泡型流動床発電などである。風力発電については、間欠性電源であるためバックアップ電源を含めたコスト計算を行った。また調査では、各種電源の燃料コスト上昇に対するセンシティビリティや、炭素税導入による発電コストへの影響も検討している(表1参照)。
 炭素税を考慮に入れない場合、CCGTが2.2ペンス/kWh(約4.3円/kWh)、原子力発電が2.3ペンス/kWh(約4.5円/kWh)、微粉炭発電が2.5ペンス(約4.9円/kWh)などとしている。原子力とCCGTが他のガス・石炭火力より経済的とした。
 風力などの再生可能エネルギーは、家畜廃棄物気泡型流動床発電(BFB)が6.8ペンス/kWh(約13.3円/kWh)、波潮力発電が6.6ペンス/kWh(約12.9円/kWh)、陸上風力発電が3.7ペンス/kWh(約7.2円/kWh)、海上風力発電が5.5ペンス/kWh(約10.8円/kWh)、原子力より約1.6〜3倍発電コストが高くなる。さらに風力はベース電源としては不安定なため、バックアップ電源のコストを考慮すると、陸上風力発電が5.4ペンス/kWh(約10.6円/kWh)、海上風力発電が7.2ペンス/kWh(約14.1円/kWh)で、原子力の2.3〜3.1倍になる(図1参照)。
 二酸化炭素排出に当たり1トン当たり30ポンド(約5900円)の炭素税が課税された場合(2005年〜2007年導入予定)、各種石炭火力の発電コストは5ペンス(9.9円)/kWh以上へと、ほぼ倍となり、CCGTも3.3ペンスと50%上昇する。このケースでは原子力発電が圧倒的に安価になるが、陸上の風力発電と石炭火力のコストがほぼ拮抗する(図2参照)。
 原子力発電について、同報告書では「CCGTの経済的魅力により、原子力発電所の新規建設が妨げられる」とし、競争市場においては、高い資本費と長い建設期間により、原子力の競争力が失われていると指摘した(表1参照)。同報告では、2003年に行われたマサチューセッツ工科大(MIT)の調査から、基礎データの多くを採用し、100万kW原子力発電所の建設費を、kWあたり1150ポンド(約22万7000円)、運転期間40年、設備利用率90%と仮定している。
2.英国のエネルギー政策の推移
 2003年2月24日、英国貿易産業省(DTI: Department of Trade and Industry)は、エネルギー白書「わが国のエネルギーの将来−低炭素(ローカーボン)経済の創造」を公表している。白書は2002年2月14日に公表された内閣府パフォーマンス&イノベーション部(PIU)による報告書(2050年までの英国エネルギー政策の見直し)に端を発する。このエネルギー白書では、(1)2050年までにCO2排出量を60%削減、(2)再生可能エネルギーのシェアを2010年までに10%、2020年までに20%にする——ことなどを盛り込んでいるが、原子力についてはオプションとして維持するという見解が示されている。
 一方、エネルギー大臣は英国王立工学院に、2002年のPIU報告書に対する工学的見地からのレビューを依頼している。2002年8月30日、英国王立工学院は工学的見地からのレビュー報告書を公表し、ガスの安定供給や再生可能エネルギーの寄与を過大評価しているとして批判した上で、2050年までに二酸化炭素排出量の60%削減に取組むことを強調した。
 なおPIU報告書では、政府に対し原子力発電を他の電源と同様に扱うことを要求し、(1)PBMR(ペブルベッド・モジュール型高温ガス炉)などの新型炉の開発に英国が引き続き参画し、原子力技術力を絶えず向上させること、(2)将来原子力発電所の新規立地が決定された場合、スムーズに運転開始が出来るよう必要な措置を取ること、(3)二酸化炭素を排出しない原子力発電所に価値が付加される体制を確立すること−等を提言していた。
 さかのぼって、2001年8月2日貿易産業省(DTI)は、「技術開発が進み、運転期間が延長され、高稼働率が維持された場合、新規に立地された原子力発電所はkWhあたり2.5ペンス(4.47円)以下で発電が可能」とする報告書を発表している。1995年に試算された発電コストをみると、kWhあたりCCGT:2〜2.5ペンス、石炭火力:2.5〜3.6ペンス、原子力:3.7〜4.5ペンスで、他電源に比べて原子力発電の競争力は低かった。しかし、原子力発電事業者であるBEとBNFL社は、(1)シリーズ建設、(2)公定歩合引き下げ、(3)原子力発電所の運転期間を60年まで延長、(4)90%以上の高稼働率の達成——等の条件を満たせば、kWhあたり2.5ペンス以下で発電できると試算した。DTIは、CO2の排出抑制に環境税が課されるようになれば、新規原子力発電所の経済性が高まるとの認識を示していた。
 英国では2020年までに約900万kW、さらに2040年までに約370万kWの原子力発電所が老朽化・経済性等の理由で閉鎖される見通しであり、新規立地がない場合、原子力シェアは現在の25%から2020年には5%に減少する。温室効果ガスの排出抑制で重要な役割を果たす再生可能エネルギーも、2020年時点のシェアはせいぜい10%程度と予測され、ベースロードの電力需要は賄えない状況である。また天然ガスおよび石油の生産量は今後激減すると見られており、現在100%である自給率が2020年には40%以下に落ち込むと見られている。
 エネルギー白書に対しては、英国王立工学アカデミー、英原子力産業会議(BNIF)から、政府の温暖化防止対策は楽観的なシナリオであり、再生可能エネルギーや省エネに過度に依存(エネルギーシェアの20%)することは、電力の系統安定性の維持のため、さらに10億ポンド以上のコストがかかること、1600〜1900万kWの在来発電設備が必要となること、2020年までに既存の原子力発電所のほとんどが運転を停止してしまうため、電力不足を化石燃料で補わざるを得ないこと等の見解が示されている。
3.欧州委員会EC)による電源別外部コスト調査報告書
 ECは2003年9月3日、「外部コスト:電力及び輸送による社会環境的損害に関する調査結果("External Costs: Research results on socio-environmental damages due to electricity and transport")」と題する報告書を発表している。エネルギー利用に伴う自然環境や生活環境などに及ぼす影響を、社会的費用として電源別にまとめたもので、具体的には大気汚染による人々の健康に及ぼす影響、農作物や森林などへの影響、発電所建設に伴う景観破壊や騒音被害など、通常の発電コストの中に含まれない影響を金銭的に換算している。
 同報告書は、外部コストで比較した場合、欧州連合(EU)に加盟している15カ国の中で、原子力発電がベースロード電源として最も外部コストが低く、また全ての電源で見ても2番目に安価な電源であると位置付けている。英国とドイツの2カ国では、風力発電が原子力発電の外部コストを下回る。英国における1kWhあたりの電源別の外部コストは、原子力発電が0.25ユーロセント、風力が0.15ユーロセント、天然ガスが1.1〜2.2ユーロセント、バイオマスが1ユーロセント、石炭及び褐炭が4〜7ユーロセント、石油が3〜5ユーロセントとなっている。また、天然ガスがkWh当たり3〜5ユーロセント、石油・褐炭の場合が、4〜7ユーロセントの範囲にあるなど、化石燃料を用いた電源の外部コストが高いと結論付けている(表2参照)。
<図/表>
表1 各種電源別発電コストの内訳
表2 EU加盟国のkWhあたりの発電に伴う電源別外部コスト
図1 各種電源別発電コスト(CO2放出コストを含まない)
図2 各種電源別発電コスト(炭素税を考慮した場合)

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<関連タイトル>
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
イギリスの電気事業および原子力産業 (14-05-01-06)
イギリスのエネルギー事情と政策 (14-05-01-14)

<参考文献>
(1)英王立工学アカデミー(RAE):
(2)(社)日本原子力産業会議:原子力産業新聞(2004年3月25日)
(3)資源エネルギー庁(原子力のページ):
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