<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> イギリス
<タイトル>
イギリスのエネルギー事情と政策 (14-05-01-14)

<概要>
 EU加盟国の中で主要な産油国であると同時に、天然ガス生産国である英国は、エネルギー供給の大部分を化石燃料に依存してきた。しかし、温室効果ガス排出量の削減など気候変動への対応や、北海における石油や天然ガスの生産量の減少に伴い、エネルギー政策を次々と打ち出している。即ち、既存の油田・ガス田からの増進回収、エネルギー効率の向上、化石燃料使用量の削減、エネルギー交易の促進及び再生可能エネルギーの利用と原子力利用推進への多大な投資による脱炭素指向などである。
 2008年11月、英国は二酸化炭素排出量を規制する国内法「気候変動法」を制定し、温室効果ガス排出量を2050年までに1990年比で80%削減することを義務付けている。特に電力部門については、2020年までに低炭素電源による発電量を40%(再生可能エネルギー30%、原子力とクリーンコール(CCS火力)で10%程度)に引上げることを目標としている。
<更新年月>
2016年02月   

<本文>
1. エネルギー需給状況
1.1 エネルギーの供給
 英国はEU加盟国中、主要な産油国であると同時に、天然ガス生産国である。1960年代後半に北海ガス田、1975年に北海油田の生産を本格化させ、石油と天然ガスの生産量は1990年代後半にピークを迎えたが、その後徐々に減少している。長年、石油と天然ガスの純輸出国であったが、天然ガスは2004年に、原油は2005年に純輸入国となった。さらに、2013年には石油製品についても純輸入国になっている(図1参照)。
 一次エネルギー生産量の最も多かった1999年には、石油換算2億9,700万トンを生産し、その18%に相当する5,300万トンを輸出に回した。しかし、2000年代に入ると、北海油田・ガス田の枯渇によって生産量が急速に低下し、2014年の一次エネルギー生産量は1億1,290万トン、国内需要は1億9,870万トンで、エネルギー自給率は56.8%であった。生産量は今後も低下する傾向にある。1981年にエネルギー自給率100%を達成したが、2016年頃には自給率は50%を割り込むと推定される。図2に一次エネルギー生産量の推移を示す。
(1)石炭
 国内石炭生産量は、1970年以前には1億トンに達していたが、1970年代以降、北海ガス・石油の開発とともに年々低下、1990年には5,600万トンへと半減した。さらに、電力自由化が始まった1990年代以降、ガス火力(CCGT)の建設ラッシュで2,000万kWに及ぶ石炭火力が閉鎖された。また、安価な海外炭への切り替えが進んだことで、石炭生産量は激減した。海外輸入炭量は2,000万トン前後で推移しているが、近年、ガス価格の高騰や炭素価格の下落を背景に増加傾向がみられる。主な輸入先はロシア、米国、コロンビアであり、この3カ国が総輸入炭量の9割近くを占めている(図1参照〉。
(2)石油
 石油は1975年から本格的な生産が始まった。これによって、1974年には1%に満たなかった石油自給率は、1980年には100%に達し、英国のエネルギー事情を大きく変えた。その後も生産を拡大させ、ピークの1999年には1億5,000万トンを生産し、4割以上を輸出した。しかし、2000年代に入ると、北海油田の枯渇が顕著となって生産量が急速に低下し、2005年には純輸入国に転じている。需要は過去10年間、6,000〜7,000万トンで推移しており、今後も大きな変化はないと予想される。
(3)天然ガス
 天然ガスは1967年から生産が始まり、1970年代にはパイプライン網が整備され、以降ガス田の開発が急速に進められた。特に1990年代には発電用天然ガスの需要が増大すると予想されたため、大規模開発が進み、1990年代後半には天然ガスの純輸出国となった。しかし、ガス田の枯渇によって2000年をピークに減少傾向になり、2004年には純輸入国に転じた。今後、天然ガスの需要は石油換算4,000万トン程度で推移し、2030年には北海ガス田の生産はほぼ終了するとされている。
 生産量の減少分は国際パイプラインによるノルウェー及び大陸からの輸入とカタールからのLNGで補填されている。大陸間のパイプラインはベルギー間が1999年に、オランダ間が2006年に開通されている。一方、シェールガスについては、将来的には有望な国産エネルギーとされているが、2030年までの需給想定に本格的な利用計画は盛り込まれていない。
(4)一次電力
 一次電力の2014年の生産量は石油換算1,750万トンで、一次エネルギー需要に占める割合は8.2%であった。このうち、水力は主要地点が既に開発されており、今後、小規模水力開発のみが期待される。原子力は1,600万kWに上る開発計画がある一方、2023年までにPWR1基(サイズウェルB,119万kW)を除いて、すべての原子力約1,000万kWが段階的に閉鎖される予定である。再生可能エネルギーについては、2009年に発効した「EU再生可能エネルギー利用促進指令」において、英国は2020年までに最終消費エネルギーの15%(石油換算2,050万トン)を再生エネルギーで賄うことが義務付けられている。2011年の再生利用エネルギーのエネルギーシェアは3.8%で、今後、風力等の開発を急速に進める必要がある。
1.2 エネルギーの需要
 2014年の一次エネルギーの需要は石油換算1億9,870万トンで、内訳は石炭17%、石油33%、天然ガス35%、一次電力9%、その他5.4%である(図3参照)。これを1988年の需要内訳、石炭31%、石油38%、天然ガス23%と比較すると、天然ガスは1.5倍に増大する一方、石炭が約2分の1に減少するなど、その構成に大きな変化がみられる。特に電力部門では、1990年の電力自由化以降、2,000万kW以上の石炭火力や石油火力がガス火力(CCGT)に置き換わている。2000年代後半からは、北海ガス田の枯渇や輸入天然ガス価格の上昇により、石炭消費量がやや増加する傾向を見せているが、今後、再び減少するとみられている。この背景には大気汚染の原因となるNOxまたはSOxの規制強化によるもので、2015年までに既存の石炭火力の半分以上(1,000万kW以上)が閉鎖されること、さらに新設石炭火力へのCO2回収・貯留装置(CCS)の設置が義務化されるため、建設計画が減少していることなどが挙げられる。
 2014年の最終エネルギー消費量は、石油換算1億3,530万トンで、2008年より約1,950万トン下回っている(図4参照)。燃料価格の高騰、欧州経済危機による需要の低迷、また暖冬による家庭用消費量の減少などの要因があった。産業用の需要は既に省エネ、効率化が促進し、第一次オイルショック以前の需要の4割近くまで減少しているが、家庭用あるいは輸送用に関しては、今後、さらに省エネ化や再生可能エネルギーの利用が進み、需要の減少が期待されている(図5参照)。なお、英国の最終エネルギー消費量は、2005〜2014年の間に15%減少し、再生可能エネルギーの利用は年率11%で拡大しているものの、石油、天然ガスなどのエネルギー消費量は依然として高く、2014年時点で約77%を占めている。
2. エネルギー政策
 英国のエネルギー政策を担当する機関はエネルギー・気候変動省(DECC:Department of Energy and Climate Change)である。この機関は、2008年10月の省庁再編により、密接に関係しあうエネルギー供給と気候変動対策についてより効率的に対応すべく、ビジネス・企業・規制改革省(DBERR:Department for Business,Enterprise and Regulatory Reform)から、エネルギー政策を、環境・食料・農業省から気候変動対策に関わる大部分の機能を切り離して新たに設立したものである。英国では、(a)安定的でクリーン、かつ適正な価格のエネルギー供給の確保と、(b)気候変動緩和のための国際協力の推進及びエネルギー・環境問題への対応を課題としている。エネルギー・環境政策に関わる具体的な政策として、「2003年エネルギー白書」、「2008年原子力白書」、「2008年気候変動法」、「2009年EUの再生可能エネルギー利用促進指令」、「2013年エネルギー法」がある(表1参照)。
2.1 「2003年エネルギー白書」と「2008年気候変動法」によるエネルギー政策
 英国政府は2003年2月、エネルギー白書「エネルギーの未来:低炭素経済の設立」を発表した。同白書では、(a)2050年までに二酸化炭素の排出を1990年比で約60%削減すること、(b)エネルギー安定供給の維持、(c)持続可能な経済成長率と生産性の向上ためのエネルギー市場競争の促進、(d)適正価格での家庭暖房への供給確保の4つの目標が掲げられた。また、同白書では、経済性や放射性廃棄物の問題を理由に原子力発電は推進しないが、将来のエネルギー・ミックスに貢献できるオプションとして今後も維持するという方針(KNNO:Keep the Nuclear Option Open)が示された。
 2008年11月に成立した「2008年気候変動法」では、2050年までの温室効果ガス削減目標を強化し、1990年比で約80%削減することを主務大臣の義務とした。また、目標達成のため、5年ごとの削減目標値(カーボン・バジェット)の設定を義務付けた。これを受け、政府は2009年7月、「英国低炭素移行計画」を発表し、3期間の温室効果ガス排出量の上限値を定めた(2008〜2012年;22%削減、2013〜2017年;28%削減、2018〜2022年;34%削減)。同計画では部門ごとの削減目標数値を示し、2020年までに電力部門では約50%削減することとした。また、低炭素電源のシェアを40%に、そのうち10%を原子力及びクリーンコール電源で、30%を再生可能エネルギー源で達成するとした。
 さらに、2011年11月のエネルギー法では、2023〜2027年までに50%削減するという目標値を法制化した。
2.2 「2008年原子力白書」によるエネルギー政策
 英国政府は2008年1月、原子力白書を発表し、そのなかで「エネルギー・セキュリティと地球温暖化対策のため原子力発電を推進する」という方針を示し、新規原子力発電所の建設を認める決定をした。原子力発電は以下のように結論付けられている。
(1)低炭素:気候変動の悪化を最小限化するために貢献できる。
(2)適正価格:原子力は現在最も安価な低炭素発電技術の1つであり、費用対効果に優れ、われわれの目的を達成するために貢献できる。
(3)信頼性:立証済みの近代的な原子炉技術があり、信頼性のある発電が可能である。
(4)安全性:非常に効果的な規制枠組みによって支援される。
(5)電源の多様化と、特定の技術・国へのエネルギー・燃料供給の依存度を下げることができる。
 即ち、新規原子力発電所は、他の低炭素電源とともに将来のエネルギー・ミックスにおいて役割を果たせるものであり、事業者に新規原子力発電所への投資オプションを与えることや、英国政府が新規原子力発電所建設への道を切り開くための積極的な活動を行うことは、地球温暖化対策やエネルギーの安定供給保障の観点から、公衆の利益になる重要なオプションと位置付けた。
2.3 「エネルギー法2013」によるエネルギー政策
 2013年12月にエネルギー法2013(Energy Act 2013)が成立した。内容は、(a)2030年の脱炭素化目標の設定と第5次炭素基金の設立(2016年予定)、(b)電力の安定供給の確保、消費者負担の低減、低炭素発電の拡大を目的とした電力市場改革(EMR)、(c)原子力規制庁(ONR)の設立、(d)政府保有のパイプラインや備蓄施設の売却等に関する制度の整備、(e)電力ガス消費者保護の強化等から成る。(b)の電力市場の改革では、低炭素発電事業者の安定収益の確保と投資促進を図る差金決済取引型固定価格買取制度(FIT−CfD)の導入、長期に必要な電力供給能力を競売で調達する制度として容量市場の新設、新設火力発電所の運転者に対する二酸化炭素排出基準(EPS)の導入等が実施される。
2.4 省エネルギー政策
 2013年1月、省エネルギー推進政策として、家庭や事業所に省エネ設備を導入する際の初期投資費用を全額借入れし、電気・ガス料金に上乗せして返済していく「グリーンディール(Green Deal)」制が導入され、施行されている。
3.エネルギー政策のなかの原子力
 原子力は英国の将来に不可欠な技術の1つであると位置づけ、政府は事業者に新規原子力プロジェクトの推進を促している。ただし、他の大型プロジェクト同様の認可手続きを踏むこと、原子力発電への補助金は拠出しないこととされている。英国の原子炉の運転期間には法的規則がなく、10年ごとに実施される定期安全審査(PSR)の経年劣化で評価される。しかし、2020年頃には国内既存の原子力を含む火力発電設備の5分の1が閉鎖される見込みである。
 英国では1990年代の電力自由化の過程で、ブリティッシュ・エナジー(BE)社を設立し、BE社は競争力がある原子炉としてAGRとPWRを所有した。しかし、電力取引制度を2001年から導入したことで、電力価格が低下し、また、使用済核燃料の高額な再処理契約や気候変動課税への対応で経営が悪化した。2009年1月にはフランス・EDF社が完全子会社化している。なお、英国では海外資本を呼込んだ原子炉新規建設プロジェクトが進行中であるが、運転開始は早くとも2023年以降となる見通しである。
<図/表>
表1 英国におけるエネルギー関連年表
図1 英国における一次エネルギー供給概要(2014年)
図2 英国における一次エネルギー生産量の推移
図3 英国における一次エネルギー需要量の推移
図4 英国における最終エネルギー消費量の推移
図5 最終エネルギー消費量の消費部門別推移

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
イギリスの核燃料サイクル (14-05-01-05)
イギリスの電気事業および原子力産業 (14-05-01-06)
英国の電気事業の民営化と原子力発電の非民営化問題 (14-05-01-08)

<参考文献>
(1)(一社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編(上巻)、2014年1月、
英国
(2)轟直也、武内祐磨:イギリスのエネルギー政策、2012年10月、
http://www2.rikkyo.ac.jp/web/taki/contents/2012/20121022d.pdf
(3)エネルギー・気候変動省(DECC:Department of Energy&Climate Change):
Digest of UK energy statistics(DUKES)60th anniversary、2009年7月、
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/65896/1_20090729135638_e____dukes60.pdf
(4)エネルギー・気候変動省(DECC):Energy Trends December 2015、2015年
12月、https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/487870/ET_Dec_15.pdf
(5)エネルギー・気候変動省(DECC):DUKES 2015 Chapter 1 Energy−
Infographics、2015年7月
(6)エネルギー・気候変動省(DECC):Energy Consumption in the UK(2015)、
2015年7月
(7)エネルギー・気候変動省(DECC):Energy consumption in the UK、2015年
7月
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