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<概要>
 米国マサチューセッツ工科大学(MIT)及びハーバード大学の研究者の連名による報告書「原子力の将来」は、その多岐にわたる検討内容と具体的な提言から、米国内のみならず世界各国から注目を集めた。
 同報告書は、原子力を、温室効果ガスの排出を削減しつつ、今後成長する世界の電力供給ニーズへの適応を図る上でのオプションとして維持活用するために何が必要かを論じたものである。そのために、同報告書は、世界のエネルギーシナリオに立脚した「将来の原子力のイメージ」を描き出した上で、それを支える3種の燃料サイクルオプションについて、経済性(コスト)、安全性、廃棄物管理、核不拡散の側面から論証し、比較評価と具体的な政策アクションの提唱を行っている。これらサイクルオプションの比較評価手法には問題点も見受けられるものの、このような総合的な政策評価の枠組みは、我が国でも参考にし得ると考えられる。
<更新年月>
2005年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 米国マサチューセッツ工科大学(MIT)及びハーバード大学の研究者の連名による学際研究報告書「原子力の将来」(文献1)は、その多岐にわたる検討内容と具体的な提言から、米国内のみならず世界各国から注目を集めた。以下にその概要を述べる。
(1)原子力エネルギーの将来像
 同報告書は、地球温暖化の抑止、すなわちエネルギー使用起源のCO2排出の抑制を最優先の課題とした上で、原子力を「電力起源のCO2排出抑制のための現実的なオプション」の一つとして位置づけている。その上で、原子力がこれら他オプションと肩を並べて相応の役割を果たすよう維持するために実行すべきアクションを摘出するものである、と表明している。
 評価の前提として、”Global Growth Scenario”(表1)を提示している。これは、成長シナリオの下での2050年の原子力発電規模を、地域別の内訳と電源構成に占める原子力の比率とともに示している。2050年時点で、全世界合計で1,000GWeの発電容量を実現するが、そのためには米国のリーダーシップの下に、各国各地域の協力が必要との認識を併せて示している。なお、Global Growth Scenarioは、IPCC特別報告書(文献2)など既報告の長期エネルギーシナリオと比較して、原子力に大きな役割を求める野心的なものであるが、その期待は非現実的なほどに過大なものとまではいえない。
(2)3種燃料サイクルの比較評価
 前節に示した成長シナリオに基づいて、MIT報告書は、3種の燃料サイクルオプションについての比較評価を行っている。その3オプションとは、以下のとおりである。
・現行の熱中性子炉のワンススルー運用。使用済核燃料は直接処分。
・熱中性子炉のクローズドサイクル運用。使用済核燃料は再処理し、分離したプルトニウム(Pu)を混合参酸化物(MOX)燃料に加工してリサイクル燃焼。以下、PUREX/MOXと略記。
高速炉サイクル。熱中性子炉はワンススルー運用する一方で、物質バランスを保つよう高速炉を導入し、クローズドサイクルで運用。高速炉燃料サイクル施設は炉施設と共同立地すると想定。
 これらのサイクルオプションについて、複数の評価項目について詳細な検討を加えている(表2)。ワンススルー方式は、Pu等を分離した上で処理する閉サイクル方式に比較して、経済性、核不拡散、燃料サイクル安全性において有利である一方で、長期的な廃棄物処理処分の面では不利となる。閉サイクル方式の2つは、長期的な廃棄物処理処分において明白な優位性を持つ反面、経済性、短期的な廃棄物処理処分、核不拡散リスク、燃料サイクル安全性において劣るとしている。原子力の今後を占う上で、経済性及び廃棄物処理処分が相対的に重要視されると考えられるため、ワンススルーオプションに大きな優位性があると結論している。
(3)MIT報告書の評価とインプリケーション
 MIT報告書は、フランス原子力庁(CEA)からの反論(文献3)をはじめとして、その評価手法と結果の一部について批判を浴びた。とりわけ大きな問題は、経済性の評価である。MIT報告書では、ウラン燃料1kgHMによる発電に伴うサイクルコスト(2,040$/kgHM[Heavy Metal])を前者とし、後者についてはウラン燃料と等価となるMOX燃料1単位の製造に必要なウラン使用済燃料(5.26kgHM)の再処理と高レベル廃棄物処理処分費(ただし不要となる貯蔵・処分費をクレジットとして差し引く)、MOX成型加工費及び使用済MOX燃料貯蔵・処分費を合計(8,890$/kgHM)している。つまり、使用済核燃料の処分費用は既に支払われているとの前提で、フロントエンドの費用比較、すなわちウラン燃料による発電を続行するか、(処分の予定を変更して再処理にまわすことで得る)Puを燃料として発電するか、を比較しており、再処理リサイクル側に「不当な」比較となっている。
 また、核不拡散の面で、Puリサイクルに伴う短期リスクを重視する一方で、地層処分された使用済み核燃料が「Pu鉱山」となることの長期リスクを軽視している。
 さらに、ウラン資源埋蔵量について、過度に楽観的な想定に立ち、ワンススルー路線でも上記Global Growth Scenarioが維持可能とした点に対する批判も強い。
 これらの問題点はあるにせよ、こうした総合的な評価体系で原子力の燃料サイクル路線の比較を行うことは、日本にとっても有意義である。実際に、原子力委員会は「4つの仮想シナリオ」と「10個の評価指標」に基づいた総合評価(文献4)を実施した結果、「使用済燃料を再処理し回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを基本方針とする」ようとりまとめた。
<図/表>
表1 世界の原子力成長シナリオ
表1  世界の原子力成長シナリオ
表2 核燃料サイクルの類型と比較評価
表2  核燃料サイクルの類型と比較評価

<関連タイトル>
アメリカの原子力政策および計画 (14-04-01-01)
米国エネルギー省と原子力産業界の軽水炉開発共同計画 (14-04-01-39)
米国エネルギー情報局「エネルギー見通し2005年版」の電力予測 (14-04-01-41)
原子力発電の推進(DOE長官顧問会原子力タスクフォース最終報告) (14-04-01-42)
2005年エネルギー政策法と原子力再生の動き (14-04-01-43)

<参考文献>
(1)MIT:“The Future of Nuclear Power: An Interdisciplinary MIT Study,”(2003)
(2)IPCC:“Special Report for Emission Scenarios,”(2000)
(3)CEA:“Comments on the MIT Report on −The Future of Nuclear Power−an Interdisciplinary MIT Study,”(2003)
(4)原子力委員会新計画策定会議:核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ(2004)
(5)長野浩司:米国MIT報告書「原子力の将来」について、日本原子力学会誌Vol.40, No.1 (2004)
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