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<概要>
 アメリカでは、1963年に最初の低レベル放射性廃棄物(LLW)処分場が開設され、71年までにウェストバレー(ニューヨーク州)、シェフィールド(イリノイ州)、マクシーフラッツ(ケンタッキー州)、リッチランド(ワシントン州)、ビーティ(ネバダ州)、バーンウェル(サウスカロライナ州)の6ヵ所が相次いで操業を開始した。このうち最初の3ヵ所はサイト設計基準が現行基準に適合していないとの理由から閉鎖された。
 全国で発生する低レベル放射性廃棄物を処分している残り3州の負担を軽減する要請に応じた議会は「1980年低レベル放射性廃棄物政策法」を可決、1985年には同法を改正した。これにより各州が単独または他の州との共同でLLWを処分するとともに、そのための地域的なコンパクト(州間協定)を設立した。現在では10のコンパクトが設立し、商用LLW処分場サイトが3箇所操業している。バーンウェル処分場(全区分廃棄物の受け入れ、2008年6月30日まで全発生者に利用開放、以降アトランティック・コンパクト加盟州のみ)、リッチランド処分場(ノースウェストおよびロッキーマウンテン・コンパクト加盟州のみ)のほか、ユタ州エンヴァイロケア処分場(クラスA廃棄物のみ)がある。新処分場として、テキサス州のWCS社が許認可申請中である。2008年7月以降、バーンウェル処分場の利用停止は、およそ36の州のクラスBおよびCの廃棄物に影響が及ぶとみられる。
<更新年月>
2005年01月   

<本文>
1.低レベル放射性廃棄物政策法
 「1980年低レベル放射性廃棄物政策法」(Low−level Radioactive Waste Policy Act)は、アメリカとしての低レベル放射性廃棄物対策の方針を打ち出したものである。その骨子は、(1)各州は、州内で発生した商業用の低レベル放射性廃棄物の処分場を開設する責任を負う、(2)コンパクトと呼ばれる州間協定を設立し処分場をつくる—というものだが、その後、全く進展がみられなかったため、同法は1985年に改正され、新たにペナルティが設けられるなど、計画の進展が促された。それにより、低レベル放射性廃棄物処分場をもつワシントン、ネバダ、サウスカロライナの3州は、それぞれのコンパクト(州間協定)に加盟していない州で発生した低レベル放射性廃棄物の受け入れを1993年1月1日をもって拒否できることが規定された。また、各州は1996年1月1日をもって、州内で発生したすべての低レベル放射性廃棄物の所有権限ならびに法的責任を持つということも明記された。しかし、同法の合憲性に異議申立てをしたニューヨーク州による訴訟の中で、最高裁判所は1992年6月、コンパクトのメンバーでない州に対する所有権限規定の適用を取り消した。最高裁判所は、処分場の開設を促す規定については基本的にそのままとした。
2.低レベル放射性廃棄物の処分の現状
  米国における放射性廃棄物カテゴリーは大きく分類してLLW(低レベル放射性廃棄物)とHLW(高レベル放射性廃棄物)からなる。LLWはNRCの10CFR61.55に記載されているように、含有核種(長寿命、短寿命の核種)と濃度によってクラスA、B、Cに分類される。クラスA:ドラム缶、金属箱等に収納した放射性核種濃度の比較的低いもの(<0.1キュリー /ft3 within 100年)、クラスB:300年間耐用の高健全性容器に入れられる濃度の廃棄物、クラスC:放射化された鋼・ステンレス鋼等の廃棄物、さらにクラスCを超える放射性濃度の廃棄物はGTCC(Greater Than Class C)としており、炉内構造物相当の放射性核種濃度の廃棄物で、これは浅層埋設処分ができない。
 発生源別にみると、原子炉の運転にともなって発生する量が一番多く(44%)、このあとに産業利用(40%)や政府活動(13%)、学術研究(2%)、医療(1%)とつづている。クラス別では、「クラスA」に分類される低レベル放射性廃棄物が最も多く、全体の96%を占めている。 表1低レベル廃棄物の分類を示す。
 現在、LLW処分場を操業しているのは、ワシントン州のリッチランド処分場と、サウスカロライナ州のバーンウェル、ユタ州のエンヴァイロケア処分場である(表2参照)。
 アメリカでは、1963年に最初の低レベル放射性廃棄物(LLW)処分場が開設され、1971年までにウェストバレー(ニューヨーク州)、シェフィールド(イリノイ州)、マクシーフラッツ(ケンタッキー州)、リッチランド(ワシントン州)、ビーティ(ネバダ州)、バーンウェル(サウスカロライナ州)の6ヵ所が相次いで操業を開始した。このうち最初の3ヵ所(ウェストバレー、シェフィールド、マクシーフラッツ)はサイト設計基準が現行基準に適合していないとの理由から閉鎖された。また、ネバダ州のビーティ処分場は1993年1月に廃棄物の受け入れを中止している。
 ワシントン州のリッチランド処分場は、全てのクラスのLLW廃棄物を受け入れているが、1993年1月以降は、ノースウェスト・コンパクト(アラスカ、ハワイ、アイダホ、モンタナ、オレゴン、ユタ、ワシントン、ワイオミングの各州が加盟)とロッキーマウンテン・コンパクト(コロラド、ネバダ、ニューメキシコの各州が加盟)の加盟州だけから廃棄物を受け入れている。
 サウスカロライナ州のバーンウェル処分場は、1994年7月1日、サウスイースト・コンパクト(アラバマ、フロリダ、ジョージア、ミシシッピ、テネシー、バージニアの各州が加盟)に加盟していない州からの廃棄物の受け入れを中止した。バーンウェル処分場は当初、1995年末までにすべての州からの受け入れを中止することになっていた。しかし、サウスカロライナ州はサウスイースト・コンパクトから脱退するとともに、ノースカロライナ州を除く、すべての州の放射性廃棄物発生者に対して、期限を定めないでバーンウェル処分場を開放するという法律を1995年に成立させた。2000年6月LLW負担の軽減から、全ての廃棄物発生者が利用可能なバーンウェル処分場の開放を2008年6月30日までとし、その後はアトランティック・コンパクト加盟州(サウスカロライナ州、コネチカット州、ニュージャージ州)のみの受け入れとした。図1にバーンウェル処分場概略図を示す。
 ただし、エネルギー省(DOE)の低レベル放射性廃棄物は、発生したDOE各サイト(ハンフォード、サバンナリバー等)で貯蔵され、処理処分に回される。DOEはクラスCを超える低レベル放射性廃棄物に関しても、安全に処分する責任を負っている。こうした廃棄物は原子力規制委員会(NRC)の許可を受けた施設に処分される。
3.低レベル放射性廃棄物処分場開発の状況
 図2に示すように、これまでに、(1)アパラチア(デラウェア、メリーランド、ペンシルベニア、ウェストバージニア)、(2)セントラル(アーカンソー、カンサス、ルイジアナ、オクラホマ、ネブラスカ)、(3)セントラル・ミッドウェスト(イリノイ、ケンタッキー)、(4)ミッドウェスト(インディアナ、アイオワ、ミネソタ、ミズーリ、オハイオ、ウィスコンシン)、(5)ノースイースト→アトランティック(コネチカット、ニュージャージ、サウスカロライナ)、(6)ノースウェスト(アラスカ、ハワイ、アイダホ、モンタナ、オレゴン、ユタ、ワシントン、ワイオミング)、(7)ロッキーマウンテン(コロラド、ネバダ、ニューメキシコ)、(8)サウスイースト(アラバマ、フロリダ、ジョージア、ミシシッピ、テネシー、バージニア)、(9)サウスウェスタン(アリゾナ、カリフォルニア、ノースダコタ、サウスダコタ)、(10)テキサス(メーン、テキサス、バーモント)——の10のコンパクト(州間協定)が設立されており、44の州がいずれかのコンパクトに加盟している。
4.低レベル放射性廃棄物対策の最近の動向と問題点
 最近、テキサス州において、低レベル放射性廃棄物(LLW)処分とクラスCを超える(GTCC)廃棄物の処分に、ウェイスト・コントロール・スペシャリスツ(Waste Control Specialists LLC :WCS)社が、新天地を切り開く活動を始めた。
元々WCS社は、有害廃棄物市場が活気を帯びた1980年代半ばに資源保全修復法(RCRA)の処理・貯蔵・処分施設として1990年代初頭にスタートした。1997年半ばには処分用有害廃棄物と処理用の混合廃棄物を最初に受け入れた実績を有するが、有害廃棄物市場の低迷から事業計画の見直しを行い、放射性廃棄物市場に参入した。その頃、テキサス州低レベル放射性廃棄物処分局(Texas Low−Level Radioactive Waste Disposal Authority)はメキシコとの国境近くのシエラブランカ(Sierra Blanca)に低レベル放射性廃棄物処分場の建設を予定し、許認可発給のための作業を行っていた。また、WCS社は自社施設の建設を開始すると同時に民間企業がLLW処分場を申請できるように法律を制定することを提案した。LLW処分場は、連邦政府と州政府による法律や規制、行政命令の対象になっており、関係する法律も原子力法(Atomic Energy Act)、国家環境政策法(National Environmental Policy Act)、大気浄化法(Clean Air Act)、水質浄化法(Clean Water Act)、大統領命令など、広範に及んでいる。
 しかし、両者の試みは、いずれも功を奏さなかった。テキサス州LLW処分場の認可申請は建設サイト直下の断層の特性評価や処分場が社会経済的に及ぼすと考えられる影響に関する情報が不十分だとして同州天然資源保護委員会によって却下され、1999年にはテキサス州議会により低レベル放射性廃棄物処分局のための資金も打切られた。これにより、民間企業によるLLW処分場建設の必要性が高まり、テキサス州議会は2003年6月に、民間企業が10CFR61のクラスA、BおよびC を受け入れる処分サイトを申請できるようにする法案を通過させた。受け入れ対象州はテキサス州が確定しており、WCS社は2005年末までに認可取得を目指している。
 アンドローズ郡(Andrews County)にあるWCSの処分場は、約16,000エーカー(65平方km)の敷地面積で、6 マイル(9.65km)の私有支線によって鉄道網に直通している。サイトは、厚さ約800〜1000フィート(244〜305m)のほぼ不浸透性の赤色粘土層上に立地し、この層は地表から約20フィート(6.10m)以内に近接する。唯一の帯水層は粘土層の下位にあり、飲用に適さない。同施設周辺に地表水は存在しない。気候は乾燥しており、蒸発散量は浸透量を大幅に上回る。なお、アンドルーズ郡と隣接のニューメキシコ州の住民から、公的および政治的に強い支持が得られている(図3参照)。
 また、WCS社はLLW処分許認可申請のほか、(1)GTCCおよび超ウラン元素(TRU)廃棄物の受け入れ長期貯蔵、(2)半減期300日未満の放射性核種のみを含むLLWの受け入れ処分、(3)テキサス州保健局への低放射能LLWを処分のための法律制定の請願書提出などの活動を行っている。
 WCS社はGTCC 廃棄物を長期貯蔵のために受け入れる最初の商業施設となった。この廃棄物は、米環境保護庁(EPA)とテキサス州を代行してスーパーファンド浄化サイトから受け入れたものであり、外部ガンマ線レベルが最大毎時1700レントゲンのパッケージを含み、各パッケージに10キュリーを超えるセシウムと、アメリシウムとベリリウムに汚染された物質および線源が含まれた。WCS社は10CFR70の特殊核物質の適用を免除された許認可により、無期限に更新できる許認可期間で、GTCC/TRU 線源と遺棄された物質の受け入れと貯蔵が可能になっている。
 (2)の活動に関しては、医療や研究分野で発生した半減期300日未満の放射性核種が対象で、従来「減衰貯蔵(DIS:decay−in−storage)」用施設で保管してきたが、同時テロ(2002.9.11)以降、保安上の問題によりDISの方式の見直しが迫られたことに由来する。WCS社はこの廃棄物を直接処分できる権利を取得し、RCRAのサブタイトルC埋設場で処分することが可能である。
 以上のように、テキサス州では低レベル放射性廃棄物処分に対して新たな動きがみられるが、アメリカ全体では2008年以降、およそ36の州のクラスBおよびクラスCの低レベル放射性廃棄物が、バーンウェル処分サイトを確実に利用できない。廃棄物発生者連合カリフォルニア州放射性物質管理フォーラム(California Radioactive Materials Management Forum:CalRad フォーラム)は、その対策案として(1)協定サイトを利用できない州に、米国エネルギー省(DOE)のLLW 処分サイトの利用を暫定的に許可する、(2)高レベル廃棄物の場合と同様の議会の措置として、連邦所有地にLLW 処分サイトを建設するようDOE に指示し、米国原子力規制委員会(NRC)の規制対象とするなどの意見を提案している。いずれにせよ、早急な解決が望まれている。
<図/表>
表1 アメリカNRCによる低レベル放射性廃棄物の分類
表1  アメリカNRCによる低レベル放射性廃棄物の分類
表2 低レベル放射性廃棄物・TRU廃棄物の処分
表2  低レベル放射性廃棄物・TRU廃棄物の処分
図1 バーンウェル(Barnwell)処分場概略図
図1  バーンウェル(Barnwell)処分場概略図
図2 低レベル放射性廃棄物コンパクト地域マップ
図2  低レベル放射性廃棄物コンパクト地域マップ
図3 WCS社処分サイト位置図
図3  WCS社処分サイト位置図

<関連タイトル>
アメリカの核燃料サイクル (14-04-01-05)
ユッカマウンテン処分場の調査状況(2003年) (14-04-01-14)
高レベル放射性廃棄物対策の現状(MRSの立地可能性調査状況) (14-04-01-18)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:米国の原子力最新事情(下)、原子力資料292号、(1997年5月)
(2)日本原子力産業会議:OECD/NEA加盟国の放射性廃棄物管理計画、(原子力資料299号)、(1999年1月)
(3)日本原子力産業会議:原産マンスリー,1998年10月号
(4)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック(1998年11月)、p.23、p.31−32
(5)(社)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック’98/99年版(1999年2月)p.178−179、p.222
(6)米国エネルギー省放射性廃棄物ホームページ
(7)Chem−Nuclear System社ホームページ
(8)原子力規制委員会(NRC)ホームページ
(9)Waste Control Specialists LLC(WCS)ホームページ(http://www.wcstexas.com/
(10)経済産業省 資源エネルギー庁(監修)、(財)原子力環境整備促進・資金管理センター(編集)諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について、米国資料(2004年10月)、p.151
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