<本文>
2013年の米国の原子力発電電力量は、約7,710億kWhにのぼり、総発電電力量の約20%を原子力発電に依存している。発生する使用済燃料については、従前、ネバダ州のユッカマウンテン処分場に直接処分する方針をとっていたが、2006年2月に米国政府が発表した国際原子力エネルギーパートナーシップ(以下、「GNEP」という)では、使用済燃料をリサイクルし、処分すべき放射性廃棄物を極小化するとの路線が示された。ユッカマウンテン処分場は全米の発電所の運転中に発生する使用済燃料からの廃棄物処分に十分な容量をもち、今世紀中は処分場の追加を必要としないようにしたいとしていたが、オバマ政権によるユッカマウンテン計画中止の方針を受け、ブルーリボン委員会がバックエンド政策に関する報告書を発出している。
また、商業用原子力発電所から発生する低レベル廃棄物は、現在、バーンウェル処分場(サウスカロナイナ州)、リッチランド処分場(ワシントン州)、及びクラスA廃棄物のみ処分可能なクライブ処分場(ユタ州)において、浅地埋設処分が実施されている。
さらに、核兵器開発の過程で生じた廃棄物のうち、
超ウラン元素で汚染された廃棄物(以下、「TRU廃棄物」という)については、ニューメキシコ州カールスバッド近郊の廃棄物隔離パイロットプラント(Waste Isolation Pilot Plant 以下、「WIPP」という)で地層処分されている。
1.ユッカマウンテン処分場(ネバダ州)
ユッカマウンテンはネバダ州ラスベガスの北西約160kmに位置しており、土地は連邦政府の所有である(
図1及び
図2)。ユッカマウンテンで処分される対象は、商業用原子力発電所から発生する使用済燃料、エネルギー省(以下、「DOE」という)が保有する核兵器製造過程で生じた
高レベル廃棄物(ガラス固化体)及び兵器製造炉、研究炉及び海軍の舶用炉から発生する使用済燃料の3種類が計画されている。米国では、商業用原子力発電所で発生した使用済燃料の
再処理は1973年以降行われておらず、また、1993年の「核不拡散及び輸出管理政策」でも、使用済燃料をそのまま高レベル廃棄物として処分する直接処分方式の採用が謳われているが、2006年2月に発表されたGNEPでは先進再処理の構想が示された。
当地の地下水面の深度は地表から500〜800mと深く、降水量は約190mm/年と少ない。処分施設は、地下水面より約300m上部(地表面下約200〜500m)に設置される計画であり、また、こうした地質環境による
天然バリアに、廃棄物を環境から長期間隔離するための
人工バリアを組み合わせた、多重バリアが考えられている(
図3)。処分対象の高レベル廃棄物は、外側がアロイ22と呼ばれるニッケル基合金、内側がステンレス鋼の2重構造の
廃棄物パッケージ(外側の合金が腐食に耐える役割、内側のステンレス鋼が力学的な荷重に耐える役割を担う)(
図4)に封入して処分されるが、現在、処分場の地上施設を簡素化するための設計変更が進められており、原子力発電所で使用済燃料を封入する輸送・貯蔵・処分キャニスタの使用について検討が行われている。処分場の規模は、サイト推薦時の計画では総面積が約4.65平方km、坑道の延長距離は約69km、処分坑道の延長距離は約56kmである。
1982年の放射性廃棄物政策法では、処分候補地が3地点選定され、さらに1987年放射性廃棄物修正法により、ユッカマウンテンが唯一のサイト特性調査対象候補地となった。さらに、ドラフト環境影響評価書(1999年)を経て、DOE長官の大統領への推薦、(2002年2月)、大統領による連邦議会への推薦が通知された。2002年4月にはネバダ州知事による連邦議会への不承認通知があったが、2002年7月には立地承認決議案の可決により、不承認は覆され、ユッカマウンテンが処分場サイトとされた。業務の実施主体は、DOEの民間放射性廃棄物管理局とされてきたが、オバマ政権のユッカマウンテン計画中止の方針により、同局は廃止され、処分場関連業務はDOE原子力局が引き継いでいる。ユッカマウンテン計画の中止の方針を受け、バックエンド政策の検討を行ったブルーリボン委員会の報告書では、同意に基づくサイト選定プロセスが重要であるという勧告が出されている。この勧告を受け、DOEと連邦議会において同意に基づくサイト選定プロセスについての法制化の検討が進められている。
上記の放射性廃棄物政策法では、1998年に使用済燃料の受け入れを開始するとされており、法廷が定める損害補償は約20億ドルになる見込みであり、2020年までに200億ドル、2020年以降、毎年5億ドルになると推算されている。
2013年8月、合衆国控訴裁判所は、NRCは入手可能な資金を用いてDOEの申請についての安全性評価を再開するよう命じている。
2.クライブ処分場(ユタ州)
クライブは、ユタ州ソルトレークよりバスで1時間ほどの場所にあるが、最も近い集落からは、約35マイル離れている(
図5)。DOEのウランのミルサイトがあり、そこのクリーンアップが、処分場の発端である。運営はEnergy Solution社が行っており、2006年3月にエンバイロケア社から変更になっている。処分場には約350名が従事している。ウランミルテイル、mixed waste(重金属や有機物との混合廃棄物)、クラスA廃棄物の3種類を処分している。クラスAよりも
放射能レベルの高いクラスB、Cの申請もしていたが、2005年に取り下げている(
図6)。比較的低いレベル(量は多い)はそのまま処分できるバルク状で受け取り、少し高いレベル(量は少ない)は容器に封入して扱われ、覆土は粘土、砂利と岩石によって行われる(
図7)。処分場の方では焼却処理はしていない。地下水(8〜9m深度)の分析監視(
モニタリング)は実施されているが、地下水は海水の2倍程度の塩分があり直接の飲用には適さない。また、空気モニタリングについても実施されている。処分容量は約35万立方mであるが、処分場拡大の計画は現在のところない模様である。処分場は閉鎖後100年間モニタリングすることとなっている。
処分されている廃棄物の発生事業者のうち最大はDOEであるが、輸送は鉄道と車両によって行われ、輸送の責任は廃棄物発生者が持つことになっている。
2009年までにサバンナリバー・サイトから20,000本の劣化ウランがクライブに持ち込まれた。さらに15,000本の劣化
ウランが持ち込まれようとしたが、住民の反対により実現しなかった。その後、ガス拡散プラントからの廃棄物を含む70万トンの劣化ウラン汚染廃棄物をクライブにおいて処分する計画が明らかになった。劣化ウラン汚染廃棄物をClass A廃棄物として取り扱うべきでないという議論が提示され、2010年4月、ユタ州が劣化ウラン汚染廃棄物の処分に関する規則を定め、劣化ウラン汚染廃棄物の安全性が確認されるまで、少量を除いて劣化ウラン汚染廃棄物の処分を行わないことが決定された。
クライブ処分場の他に民間事業者が操業している処分場は、バーンウェル処分場、リッチランド処分場の2つがあり、クラスA、B、Cの廃棄物を処分している。また、テキサス州アンドリュース近郊のWCS処分場が2012年に操業を開始している。民間事業者の処分場は、許認可発給時までには連邦または州による土地の保有が必要とされており、処分場の閉鎖後、一定のモニタリング期間を経て最終的には、連邦または州に移転されることとなる。
民間事業者の他、連邦政府のうちDOEから発生する低レベル廃棄物は、DOEの施設で処分が実施されている。連邦政府の廃棄物は民間事業者の処分場でも処分できるが、民間の廃棄物を連邦政府の処分場で処分することはできない。
3.WIPP(ニューメキシコ州)
WIPPが設置されている岩塩層は、1957年の全米科学アカデミーの勧告に基づいて、当初、高レベル廃棄物を岩塩層に処分するために選定されていたが、カンザス州での高レベル廃棄物の処分場計画が中止となったことから、同じ岩塩層が続いているニューメキシコ州カールスバッドでTRU廃棄物の処分計画が進められることになった(
図8及び
図9)。岩塩の層は、太古において、内海から湖となって塩が堆積し、再び内海になるということが、繰り返されてできたもので、1回で2m堆積し、2000万年の間、繰り返された。現在の地層になったのは約2億5千万年前で、岩塩の上には砂が堆積した地層となっている。表層から300mから1kmにわたって岩塩の層となっている。岩塩の層は、北はカンザス州に至るまで広がり、全体として500km×500kmの広さを持ち、WIPPは丁度真ん中付近の岩塩層が一番厚い場所にある。水気はなく、周辺部の水も2億5千万年前から遮断されてきている。
WIPPは軍事用のTRU廃棄物のみを対象としており、ロッキーフラッツ、アイダホ等の研究施設等から廃棄物が輸送され、処分されている。WIPPの計画のために、民有地が買い上げられ、全体としては、約42平方kmあり、WIPPサイトはその真ん中辺りにある。1999年3月より処分が開始されている。
施設内への空気吸入量は毎分10,000立方mで、排気は平常時にはフィルタを通していない。異常時になると、HEPAフィルタを通すが、排気量は2,000立方mに流量を絞る。フィルタにはヨウ素フィルタはついていない。
1年間で10cmぐらい、岩塩が変形してきており、20〜30年で廃棄物を完全に閉じ込めることになるが、この変形を抑えることはしていない。空洞は矩形状になっているが、岩塩層は何重にもなっていることで、天板が合成した形(天板のすべりの抗力)で形状が維持されている。廃棄体の上に酸化マグネシウム(1袋2トン)を置いており、岩塩により段々と押しつぶされ、廃棄体の周りに粉を散らせることで、水がある場合には
pHをコントロール(アルカリ環境として
核種の溶解を抑える役目)する目的のものである(
図10)。岩塩層には水がないが、ボーリングされたと仮定し、さらに、岩塩の下に
帯水層があると仮定し、その上さらに、もう1本ボーリングされたと仮定すると、横方向に水が拡がる可能性が出てくることとなり、この場合に、この酸化マグネシウムの役割が活かされることになる。閉鎖後ボーリングされないようにマーカーを付けるが、マーカー・ボーリング2本・帯水層の3つの条件の重なりを前提としたもので、保守的な前提である。
廃棄体の定置では、ポジショニング(アドレス管理)、水平をとる等のことはせず、順番に置いていくだけという方法で行われている。貯蔵ではなく、廃棄であり、このような取り扱いがされている。
2006年4月現在、操業開始して7年、総合計800万kmを輸送し、76,000コンテナが処分され、パネルは4つ使われた。第5、6、7パネルはまだ掘削していない状態である。放出放射能や作業員汚染のトラブルはこれまでない。トラックは40台保有、112コンテナを所有している。WIPPサイトの作業者は980人程度であり、50人はDOEで、一次請負(主たるオペレータ)はワシントンTRUソリューション社である。廃棄体製作と確認は各施設で予算手当てされ、輸送と処分はWIPPで予算手当てされている。WIPPの予算は年間約2億ドルである。
なお、2006年9月現在では、WIPPにおける廃棄物処分量は41,353立方mに達し、廃棄物受け入れ回数は5,000回に達しており、第5パネルが建設中である。また、2007年1月には、アイダホ国立研究所から、TRU廃棄物の中で比較的強い放射能を持つ「遠隔ハンドリングが必要なTRU廃棄物」(RH廃棄物)の最初の輸送が行われた。
エネルギー省(DOE)は、これまでに3回、WIPPの再認証評価申請を環境保護庁(EPA)に行った(2006年、2009年、2014年)。これは施設が過去5年間にEPA基準に従って運営されたことを検証するものであり、第3回の申請については検証中である。また、EPAは2014年8月、放射線量に関する評価をDOEと独立に実施し、評価結果が一致すること、許容線量をはるかに下回ることを確認した。
(前回更新:2007年6月)
<図/表>
<関連タイトル>
アメリカの核燃料サイクル (14-04-01-05)
低レベル放射性廃棄物対策の現状(州間協定に基づく処分場開発の状況) (14-04-01-15)
国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想 (14-04-01-44)
<参考文献>
(1)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:原環センタートピックス 2006.9、No.79、p.3-8(2006年)
(2)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター(編):諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2007年)、p.54-75
(3)文部科学省:諸外国の低レベル放射性廃棄物処分の現状(2006年)、p.82-87
(4)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の動き、NewsFlash:2006-09-19
(5)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の動き、NewsFlash:2007-01-26
(6)U.S.DOE,OCRWM:Graphics,
(7)U.S.DOE,OCRWM:Map Center,
(8)U.S.DOE,WIPP:WIPP Graphics,
(9)U.S.DOE,WIPP:WIPP Graphics,
(10)原子力安全委員会:低レベル放射性廃棄物埋設分科会(第2回)資料、埋分第2-3号
(11)EnergySolution:Clive-Operations、
(12)Nuclear Energy Instituteホームページ:
(13)長谷川 信他:北米地域のウラン廃棄物処分に関する調査、JAEA-Review 2013-043(2013年12月)p.22-29
(14)米エネルギー省ホームページ:
http://www.wipp.energy.gov/fctshts/factsheet.htm
(15)米エネルギー情報局ホームページ: