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<概要>
 1988年5月原子炉等規制法の一部改正が行われ、「核物質の防護に関する条約」が防護の対象とする核物質を「特定核燃料物質」とするとともに、この「特定核燃料物質」の範囲から天然ウラン等の一部の核物質を除外したものを使用、貯蔵または国際輸送する場合に防護措置が必要な「防護対象特定核燃料物質」とする等の法制が整備された。
 製錬事業者等の原子力事業者が、工場または事業所の施設において「防護対象特定核燃料物質」を取り扱う場合は、当該核燃料物質の種類と量に応じて定められた区分に従い当該施設に「防護区域」を設定する等の措置が義務付けられた。
<更新年月>
2006年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.防護すべき核物質
 わが国は、1988年11月核物質の防護に関する条約(以下「条約」という)に加盟したが、これに先立ち同年5月原子炉等規制法の一部改正を行い国内法制を整備した。
 この改正は、原子力の開発利用の基本方針を定めた第1条の目的に、「災害の防止」に、「核燃料物質の防護」を加えるとともに、原子力事業者が行うべき核物質の防護措置の基準化、核物質の輸送時の防護措置と責任体制の明確化および核物質を用いた犯罪行為に対する罰則の整備が中心となっている。
(1)核物質防護の対象とする核物質
 核物質防護の対象は、主としてプルトニウムおよび濃縮ウランであるが、核物質の種類と量により核爆発物の製造の難易度、すなわち盗取の魅力度が異なるため、核物質の種類と量によって必要とされる防護要件が軽減されるよう3段階に区分されている。
 原子炉等規制法では、第2条第5項でプルトニウム、ウラン233、濃縮ウラン、その他の政令で定める核燃料物質を「特定核燃料物質」と定義しており、さらに事業ごとに第12条の二(製錬)、第22条の六(加工)、第43条の二(原子炉設置)、第43条の二十五(貯蔵)、第50条の三(再処理)、第51条の二十三(廃棄)、第57条の二(使用)などの別条でこの「特定核燃料物質」の防護措置について規定している。さらに「特定核燃料物質」の範囲から天然ウランなど一定の核物質を除外し、原子力施設で使用する場合又は同施設から輸送する場合にも核物質防護措置を講ずる必要のあるものを「防護対象特定核燃料物質」と定義している。この両者の関係は、簡単に示すと図1のとおりである。
(2)「防護対象特定核燃料物質」の区分
 原子炉等規制法施行令では、「防護対象特定核燃料物質」をその物質の種類と量に応じて、区分1、区分2、区分3の3つの防護段階に区分している。これは、条約附属書2「核物質の区分表」および原子力委員会核物質防護専門部会報告の「核物質防護の区分」に対応するもので、核物質防護を必要とする程度の高い順の区分である。便宜上の区分と防護の必要度の高低の関連を表1に示す。
 区分1、2および3は、前述のように核物質の種類と量で定まっている。これらの照射済燃料の場合は、未照射の状態で区分1および区分2のものは、照射直後にその物質表面から1メートルの距離の地点で放出された放射線が空気に吸収された場合の吸収線量率に応じ区分を1ランク下げることができる。
 しかし、劣化ウラン、天然ウラン、トリウムおよび濃縮度10%未満の低濃縮ウランの照射済燃料は、区分2に位置づけられている。
(3)原子力施設における「防護区域」の設定
 「防護対象特定核燃料物質」を取り扱う法制上の事業者は、使用者、製練事業者(製練の事業を行う場合の核燃料サイクル開発機構(現、日本原子力研究開発機構)を含む)、加工事業者、原子炉設置者、外国原子力船運航者、再処理事業者(再処理事業を行う場合の核燃料サイクル開発機構および日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)を含む)および廃棄事業者並びにこれらの者から運搬を委託された者および保管者(以下これらを「製練事業者等」という)である。
 製練事業者等は、製練施設等を設置した工場又は事業所(原子力船を含む)において「防護対象特定核燃料物質」である「特定核燃料物質」を取り扱う場合は、府省令の定めるところにより、それぞれの事業所において、特定核燃料物質の防護のため、次の措置を講ずることが義務付けられた。
 1)「防護区域」の設定管理および、施錠等の核物質防護措置を講ずること。
 2)「核物質防護規定」を作成し、あらかじめ主務大臣の認可を受けること。
 3)「特定核燃料物質」の防護に関する業務を統一的に管理する核物質防護管理者を選任し、主務大臣に届け出ること。
 これらの詳細な内容は、府省令で定められており、製練事業者等による「防護対象特定核燃料物質」の防護のための「防護区域」の設定について説明する。
 「防護区域」は、「防護対象特定核燃料物質」の防護上の基本となるもので、区域の設定には慎重な配慮が必要である。
 (a)区分1の施設における防護区域
 「防護区域」を鉄筋コンクリート造りの障壁等の堅固な構造の障壁によって区画する。更に、「防護区域」の周辺に、「防護区域」における「防護対象特定核燃料物質」の防護をより確実に行うための区域(以下「周辺防護区域」という)を定め、当該周辺防護区域をさく等の障壁によって区画し、および障壁の周辺に照明装置等の容易に人の侵入を確認することのできる装置を設置すること。(図2参照)
 (b)区分2の施設における防護区域
 防護区域を鉄筋コンクリート造りの障壁等の堅固な構造によって区画すること。
 (c)区分3の施設における防護区域
 防護区域を定めること。
<図/表>
表1 防護対象特定核燃料物質の区分
表1  防護対象特定核燃料物質の区分
図1 核燃料物質、特定核燃料物質および防護対象特定核燃料物質の関係
図1  核燃料物質、特定核燃料物質および防護対象特定核燃料物質の関係
図2 区分1の場合の原子力施設における防護区域および周辺防護区域
図2  区分1の場合の原子力施設における防護区域および周辺防護区域

<関連タイトル>
核物質防護条約 (13-04-01-02)
核物質防護とは(世界と日本の現状) (13-05-03-01)
核物質防護のための設備と管理 (13-05-03-03)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局(監修):核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号)、原子力規制関係法令集、2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.27−161
(2)科学技術庁原子力安全局(監修):核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行例(昭和32年政令第324号)、原子力規制関係法令集、2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.162−204
(3)科学技術庁原子力安全局(監修):試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則(昭和32年総理府令第83号)、核原料物質又は核燃料物質の製練の事業に関する規則(昭和32年総理府令・通商産業省令第1号)、核燃料物質の加工の事業に関する規則(昭和41年総理府令第37号)、使用済燃料の再処理の事業に関する規則(昭和46年総理府令第10号)、核燃料物質の使用等に関する規則(昭和32年総理府令第84号)、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和53年通商産業省令第77号)、核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄物管理の事業に関する規則(昭和63年総理府令第47号)、原子力規制関係法令集2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.205−250、445−469、543−584、589−629、636−669、736−786、1056−1091
(4)核物質管理センター:核物質防護シリーズ6、特定核燃料物質と輸送中の核物質防護措置、核物質管理センターニュース、Vol.18、No.9(1989年9月)
(5)核物質管理センター:核物質防護シリーズ7、原子力施設の核物質防護措置、核物質管理センターニュース、Vol.18、No.10(1989年10月)
(6)(財)核物質管理センター:やさしい核物質管理読本、原子力の平和利用のために、2001年版(2001年9月)、p.42−59
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