<本文>
1987年に核物質の防護に関する条約(
核物質防護条約)が発効した。同条約の加盟には国内法の整備が前提条件であったため、国は1988年5月に原子炉等規制法の一部改正法案を可決成立させ、同年11月に第24番目の核物質防護条約締約国になった。また、1989年5月には原子炉等規制法の細則を規定した総理府令が施行され、核物質防護は法令に基づき実施されることになった。
以下に、法令に基づく「核物質防護のための設備と管理」について述べる。
1.「周辺防護区域」および「防護区域」の設定等
核物質の防護措置を講ずる必要のある特定核燃料物質(この特定核燃料物質を「防護対象特定核燃料物質」という)を取り扱う原子力事業者には、研究開発で核燃料物質を使用する使用者、製錬事業者、加工事業者、原子炉設置者、外国原子力船運航者、再処理事業者および廃棄事業者並びにこれらの者から運搬を委託された者、および保管者がある。これらの事業者が、「防護対象特定核燃料物質」を取り扱う場合は、当該特定核燃料物質の種類と量により府省令(総理府令、経済産業省令)で定められた区分(区分は、I、II、IIIの3種類)に従い、「防護対象特定核燃料物質」を不法な取得や妨害、破壊行為から防護するため当該核燃料物質を使用または貯蔵する建家には、周辺の立地条件等を十分考慮した「周辺防護区域」を設けなければならない。また、「防護対象特定核燃料物質」は、建家内の鉄筋コンクリート造りの障壁等の堅固な構造の障壁で区画された「防護区域」内に置き、「周辺防護区域」と合わせ2重の区域により防護されなければならない(
図1参照)。
これら両区域の施設の構造および設備および装置の設置基準、区域の監視、巡視等の管理と運用、施錠等による「防護対象特定核燃料物質」の管理、防護上必要とする設備と装置の整備および点検等の諸般の措置は上記府省令に定められている(
表1参照)。
2.防護設備と管理等
原子力施設における核物質防護システムの一例を、
図2に示す。以下に核物質防護のための設備と管理等について述べる。
2.1 「周辺防護区域」および「防護区域」の監視等
「周辺防護区域」は、許可のない人や車両がみだりに立入れないようさく(フェンス)等の障壁によって区画し、当該障壁の周辺に照明設備、侵入検知・警報システム等の容易に人の侵入を確認できる装置を設置するが、障壁の高さ、形状、強度、照明設備等の設置位置等は、立地条件等を十分考慮する必要がある。またこれらの設備に加え、人の侵入等の異常発生の有無を確認させるため、見張人に巡視を行わせ設備および機器との一体的運用が行われる。
「防護区域」は、鉄筋コンクリート造りの堅固な障壁で区画され、許可された者以外の者が立ち入ることのないようにするとともに、出入口扉を鉄製とし、錠も容易に破壊されない構造のものとされている。また内部には、テレビカメラ等の機械的監視システムを備え、更に、見張人による巡回を併用して防護に遺漏がないことが期されている。また、「防護区域」の出入口は、確実に施錠された場所以外は、見張人による常時監視がなされている。この出入口以外の開口部も外部からの侵入を防護するため適切な補強がなされている。
2.2 「防護区域」および「周辺防護区域」の出入管理
常時「防護区域」または「周辺防護区域」に立ち入る者(以下「常時立入者」という)には、その必要性を確認の上、証明書等を発行所持させ、証明書等のない者が区域に立ち入ることのないように措置されている。また、常時立入者以外に臨時の作業のため「防護区域」および「周辺防護区域」に立ち入る者には、その身分や立入りの必要性を確認して、証明書等を発行所持させ、更に、この者が「防護区域」に立ち入る場合は、常時立入者を同行させ、常時立入者に「防護対象特定核燃料物質」の防護のため必要な監督を行わせる。
2.3 「防護区域」および「周辺防護区域」への特定車両以外の車両の立入禁止
「防護区域」および「周辺防護区域」への業務用の車両(資機材の運搬等)以外の車両の立入は、禁止されている。ただし、「防護区域」または「周辺防護区域」の立入りが特に必要な車両で防護上支障がないと認められた場合は、この限りでない。
2.4 「周辺防護区域」および「防護区域」の物品の出入管理
「防護区域」および「周辺防護区域」の出入口では、施設や「防護対象特定核燃料物質」への妨害または破壊行為に使用され得る物品(持込みの必要性が認められるものを除く)の持込みまたは「防護対象特定核燃料物質」の持出し(持出しの必要性が認められるものを除く。)が行われないよう点検が行われる。この場合、常時立入者以外に臨時に立入る者が物品を防護区域に持ち込みまたは防護区域から持ち出そうとするときは、防護区域の出入口での点検のほか、「防護対象特定核燃料物質」の量および取扱形態に応じ、金属を検知できる装置および「防護対象特定核燃料物質」を検知できる装置による厳重な点検が実施される。
2.5 「防護対象特定核燃料物質」の管理
前述の「防護区域」および「周辺防護区域」の監視、人、車両および物品の出入管理は、異常事態の発見や防止に重要であるが、異常事態をより早く、確実に発見し、かつ、防止するには、「防護対象特定核燃料物質」自体を常時監視下に置く必要があり、監視装置等を含む見張人による常時監視が義務付けられている。ただし、「防護対象特定核燃料物質」が鉄筋コンクリート造りの堅固な施設内に置かれ、出入口が施錠され、施設の周辺を見張人が巡視し、施設に立ち入る人が制限されている場合は、見張人の常時監視を省略できることになっている。
2.6 「防護対象特定核燃料物質」等の点検と報告
(1)定常の報告
「防護対象特定核燃料物質」を取り扱っている者に、毎日の作業終了後、「防護対象特定核燃料物質」や設備または装置の点検を行わせ、異常の有無を、あらかじめ指定した者に報告させる。
(2)異常の報告
「防護対象特定核燃料物質」を取り扱っている者に、「防護対象特定核燃料物質」や設備または装置に異常が認められた場合は、直ちに、あらかじめ指定した者に報告させる。
2.7 監視装置の設置基準
(1)機能
監視装置は、人の侵入を確実に検知して速やかに表示する機能を有するものであること。
(2)非常用電源設備の設置
「防護対象特定核燃料物質」の防護上重要な監視装置には、非常用電源設備を備える等装置の機能を常に維持するための措置を講じること。
(3)監視装置の設置位置
監視装置で人の侵入を表示するものは、防護区域内若しくは周辺防護区域内または周辺防護区域の近くで見張人が常時監視できる位置に設置すること。
2.8 「防護区域」、「周辺防護区域」または施設の出入口の施錠とかぎの管理
(1)かぎおよび錠の取扱いの基準
かぎおよび錠は、取替えまたは構造の変更を行う等複製が困難となるようにすること。
(2)かぎ等の取替え
かぎまたは錠に不審な点が認められた場合は、速やかに取替えまたは構造の変更を行うこと。
(3)かぎの管理
かぎは、あらかじめ指定した管理者(一時的に取り扱うことを認めた者を含む)に厳重に管理させ、その者以外の者が取り扱うことを禁止すること。
2.9 設備および装置の保守点検
「防護対象特定核燃料物質」の防護のために必要な設備および装置は、点検および保守を行って機能を維持すること。
2.10 連絡設備の設置と通報
(1)見張人と見張り人が常時監視を行うための見張人詰所との連絡
見張りを行っている見張人と見張人の詰所との間における連絡を、迅速かつ確実に行うことができるようにすること。
(2)見張人詰所との連絡設備
防護区域内および周辺防護区域内に連絡のための設備を設置し、見張人の詰所への連絡を迅速かつ確実に行うことができるようにすること。
(3)連絡手段の複数化
見張人の詰所から関係機関への連絡は、2以上の連絡手段により迅速かつ確実に行うことができるようにすること。
2.11 情報の管理
「防護対象特定核燃料物質」の防護のために必要な措置に関する詳細な事項は、知る必要があると認められる者以外の者に知られることがないよう管理すること。特に、防護に関する秘密の範囲及び業務上知りうるものの指定その他秘密の管理の方法を定めることにより、その漏えいの防止を図ること。
2.12 教育訓練の実施
従業者の職務の内容に応じて、「防護対象特定核燃料物質」の防護に必要な教育および訓練を行うこと。
2.13 防護体制の整備
「防護対象特定核燃料物質」の防護に必要な体制を整備すること。
2.14 「防護対象特定核燃料物質」、施設および設備に対する緊急時対応計画の作成
「防護対象特定核燃料物質」の盗取、「防護対象特定核燃料物質」の取扱いに対する妨害行為、「防護対象特定核燃料物質」が置かれている施設若しくは防護に必要な設備・装置に対する破壊行為が行われるおそれがあり、または行われた場合に、迅速かつ確実な対応ができるように適切な計画を作成すること。
<図/表>
<関連タイトル>
核物質防護とは(世界と日本の現状) (13-05-03-01)
防護すべき核物質と対象となる施設 (13-05-03-02)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局(監修):核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号)、原子力規制関係法令集、2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.27-161
(2)科学技術庁原子力安全局(監修):核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(昭和32年政令第324号)、原子力規制関係法令集、2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.162-204
(3)科学技術庁原子力安全局(監修):試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則(昭和32年総理府令第83号)、核原料物質又は核燃料物質の製練の事業に関する規則(昭和32年総理府令・通商産業省令第1号)、核燃料物質の加工の事業に関する規則(昭和41年総理府令第37号)、使用済燃料の再処理の事業に関する規則(昭和46年総理府令第10号)、核燃料物質の使用等に関する規則(昭和32年総理府令第84号)、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和53年通商産業省令第77号)、実用船舶用原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和53年運輸省令第70号)、核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄物管理の事業に関する規則(昭和63年総理府令第47号)、原子力規制関係法令集、2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.205-250、445-469、543-584、589-629、636-669、736-786、871-898、1056-1091
(4)(財)核物質管理センター:核物質防護シリーズ7、原子力施設の核物質防護措置、核物質管理センターニュース、Vol.18、No.10(1989.10)
(5)(財)核物質管理センター:やさしい核物質管理読本、原子力の平和利用のために、2001年版(2001年9月)、p.42-59
(6)動燃30年史編集委員会:第4節核物質防護対策1.国の核物質対策、動燃三十年史、動力炉・核燃料開発事業団(1998年7月)、p.545
(7)核燃料サイクル開発機構:第4節核物質防護対策1.国の核物質対策