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西欧には欧州共同体(EC)があり、また原子力平和利用の国際原子力機関(IAEA)がある。さらに、各国はそれぞれ原子力利用、素粒子物理、放射光(SR)等の研究開発を進めており研究機関は多い。ここでは、ECとIAEAの研究機関のほか、主な国の原子力関連の研究機関を紹介する。
1.欧州共同体(EC)の研究機関
ECのJRC(Joint Research Center)には、ブリュッセルの本部と7研究所がある(図1)。
(1)標準物質・計量研究所 JRC-IRMM(Institute for Reference Materials and Measurements)
(2)エネルギー研究所 JRC-IE(Institute for Energy)
(3)超ウラン元素研究所 JRC-ITU(Institute for Transuranium Elements)
(4)防護・保安研究所 JRC-IPSC(Institute for the Protection and Security of the Citizen)
(5)環境・保全研究所 JRC-IES(Institute for Environment and Sustainability)
(6)健康・市民保護研究所 JRC-IHCP(Institute for Health and Consumer Protection)
(7)未来技術研究所 JRC-IPTS(Institute for Prospective Technological Studies) 表1に、上記研究所のうち主に原子力に関連する研究所とURL、施設、業務内容等を示す。
2.欧州合同原子核研究機構(CERN:European Organization for Nuclear Research)
CERNは世界最大の高エネルギー加速器を有し、それを利用する核物理、素粒子物理などを進めている(表1)。2010年には欧州の20ヵ国がメンバーである。
3.国際原子力機関(IAEA)の研究所
IAEAの研究所を表2に示す。
(1)国際理論物理学センター(ICTP:International Centre for Theoretical Physics)
イタリア政府、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)と国際原子力機関(IAEA)によって運営されている。活動は応用物理、地球物理、宇宙物理等の広範囲の物理研究、教育などである。
(2)サイベルスドルフ研究所(IAEA-Seibersdorf Laboratories)
サイベルスドルフ研究所には、農業・バイオ、物理・化学・機器及び保障措置分析のラボがある。
(3)環境研究所(IAEA‐EL Environment Laboratory)
放射線測定、放射線生態学、海洋環境研究及び地球環境研究のラボがある。
(4)IAEA-EC共同研究センター(EC/JRC-IE:IAEA and EC Joint Research Centre)
2009年に開始された協力の組織で、原子力導入のインフラ整備、発電用原子炉の長寿命化、新型炉開発、燃料・廃棄物技術の分野について、技術会議、ドキュメントの共同出版、技術協力を実施し、原子力利用を推進する。
4.西欧の主な国の研究所
(1)イタリア
(1)-1 原子力関連
イタリアには、2009年に発足したENEA「新技術・エネルギー・持続的経済開発機構」がある。本部はローマにあり、9研究センターと5研究所がある(図2)。そのうち表3に示す6研究センターとイスプラ研究所がエネルギーや原子力開発に関わっている。
(1)-2 原子核物理の関連 表4に、原子核物理関連の研究所を示す。原子核物理研究には、国立原子核物理研究所INFN(Istituto Nazionale di Fisica Nucleare)がある。INFNは、4研究所(Laboratories)と大学の19研究部をまとめ、原子核物理、素粒子物理、宇宙素粒子物理などを進めている。
国際理論物理センター(ICTP)の正式名はThe Abdus Salam International Centre for Theoretical Physicsであり、イタリア政府、IAEA、国連ユネスコ(UNESCO)による共同運営である。
(2)ベルギー
原子力利用研究センター(STK-CEAEN)は1957年に原子力研究センター(SCK・CEN)に改称された。その傘下に3科学技術研究所と情報・利用・管理研究所がある(表5)。また、放射性廃棄物等には、ベルギー核物質・放射性廃棄物機構(ONDRAF/NIRAS)L'organisme national des dechets radioactifs et des materes fissiles enrichies(Belgian Agency for Radioactive waste and Enriched Fissile Materials)が研究開発を担当している。
(3)オーストリア(表6(1))
水力資源に恵まれ再生可能エネルギーの利用を進めている。発電用原子炉は無いが、国際原子力機関IAEAの本部がウイーンにある。核物理、素粒子物理の原子核素粒子研究所がある。
(4)デンマーク(表6(2))
当国には原子力発電所は無い。デンマーク工業大学が運営するRiso DTUは国立の再生可能エネルギー関連の研究所である。
(5)フィンランド(表6(3)、(4))
供給電力の約30%は原子力発電による。原子力利用及び放射線利用の研究所がある。
(6)オランダ(表6(5)、(6))
原子力発電は全発電電力量の約4%である。1998年にオランダ原子力センターECN(Energy Research Centre of the Netherlands)と エネルギーコンサルタントKEMA社の合併で原子力研究・コンサルタントグループ社NRG(The Nuclear Research & consultancy Group)が発足した。EUのペッテン研究所はNRGが管理・運営する。
(7)ノルウェー(表6(7))
ノルウェーはエネルギー資源が豊かであり原子力発電所はないが、ノルウェーエネルギー技術研究所(IFE)が原子力の基礎研究を進めている。
(8)スイス(表6(8)、(9))
スイスの電力量の40%は原子力発電で賄われている。2020年以降の電力需給の逼迫予想から原子炉の建替が検討されている。原子力研究ではポールシェラー研究所(PSI)があり、核融合ではプラズマ物理センター(CRPP)がある。表7に、西ヨーロッパの原子力学会と協会を示す。
(前回更新:2004年2月)<図/表>