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<概要>
 オーストリアは、水力が豊富で全発電電力量の約3分の2を占める。石油、石炭、天然ガスの埋蔵量は少なく、ほとんどを輸入に依存している。石油依存度を減らすために建設されたツベンテンドルフ原子力発電所(BWR、72.4万kW)は、完成したものの、原子力反対運動の高まりを受けて実施された国民投票の結果、運転開始が禁止されることになった。
 オーストリアは、今も原子力発電に対して厳しい態度を示しており、近隣諸国(特に東欧諸国)の原子力発電所に強く反対している。このようなオーストリアであるが、国際原子力機関(IAEA)の本部が首都のウィーンに置かれている。
<更新年月>
2016年11月   

<本文>
1. エネルギー・電力需給とエネルギー政策
 オーストリアの2014年国内総エネルギー生産量は石油換算1208.6万トンであり、一次エネルギー供給に占める割合は37.6%である。国内生産量の29.2%が水力で、水力が国内最大のエネルギー源である(表1参照)。アルプス山系や多数の河川に恵まれた豊富な水力資源も可能な部分はすでに開発されており、これまで未開発地点であったところは、自然の景観に恵まれているなどの理由により、開発が行われなかったところである。従って、これら地域での開発に対しては反対も強く、新規開発が難しくなっている。国産エネルギー資源として、石油、石炭、および天然ガスがあるが、埋蔵量は少なく、生産量は年々減少し、それに代わって輸入量は増大している(図1参照)。
 2014年現在、オーストリアの一次エネルギー供給量は、水力が11.0%、その他の再生可能エネルギーが21.7%を占めている。一方化石燃料は、石油35.3%、石炭9.5%、天然ガス20.0%という割合である(表1参照)。
 また、2014年における総発電電力量654.21億kWhのうち水力発電が68.5%を占め、オーストリアの主力電源となっている。天然ガス火力は8.3%、石炭火力7.5%、石油火力0.9%、その他14.8%となっている(表1参照)。オーストリアの国内電力消費量は2005年以降鈍化傾向にある(図2参照)。温室効果ガス排出量の削減のため、化石燃料の使用量は減少しているが、国際連繋送電系統による隣国との電力の輸入量は増加傾向にある。
 なお、オーストリア政府はエネルギー資源確保のため、1960年代後半から原子力発電開発計画を進め、ツルナーフェルト共同発電会社(GKT:Gemeinschaftliche Kraftwerk−gesell schaft Tullnerfeld)を設立している。1972年には首都ウィーンから北西約40kmのツベンテンドルフ(Zwentendorf)で、ドイツのクラフトベルク・ユニオン(KWU Siemens)社が、オーストリア最初の原子力発電所の建設を始めた。70万kW級の発電容量を持つ沸騰水型原子炉として設計され、オーストリアの発電電力量の約10%を発電することが期待されていた。1974年初めには2基目の原子炉建設計画も進められ、政府の1975年エネルギー計画では、1985年までに、3ケ所、設備容量3000MWの原子力発電所建設計画が示された。しかし、電力需要が鈍化したことや反原子力運動が高まったことから、1978年11月に国民投票を実施、オーストリアは原子力利用を放棄することを決定した。1987年には発電のための分裂炉を禁止する法律を制定し、以降これを保持している。
 従って、長期にわたって安定して利用できる国産エネルギー源としては水力とバイオマス、また太陽光、地熱、風力などの再生可能エネルギーである。近年、太陽光や風力を中心に再生可能エネルギーの利用が進んでいるが、量的には大きくない。オーストリアのエネルギー政策は、持続可能なエネルギーシステムの構築を目標に据え、エネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの利用拡大に重点を置いている(表2表3参照)。
 また、オーストリアはEU加盟国の一員として、EU域内の市場統合、エネルギー事業への競争原理の導入、気候変動への国際的取組み、東欧諸国へのエネルギー分野での協力・支援など、エネルギー政策に影響を与える役割にも積極的に取り組んできた。電力市場に関しては2001年10月、完全自由化されている。
 オーストリアが現在取り組んでいる2020年までの目標は以下の2点である
・再生可能エネルギーの比率を34%にする
・非欧州連合域内排出量取引セクターにおいて、温室効果ガスを16%削減する
2. オーストリアと原子力
 オーストリアでは1978年11月5日に、ツベンテンドルフ原子力発電所の運転開始に関する国民投票が行われた。その結果、反対50.5%:賛成49.5%の僅差で、国内初の原子力発電所の運転開始が否決され、オーストリアの原子力発電開発計画は1978年11月に停止した。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故による放射線の影響を直に受けたこともあり、オーストリアの原子力に反対する国民感情は強く、チェコのテメリン原子力発電所(Temelin、VVER−1000/V320、100万kW×2基)など東欧諸国の原子力発電所の維持にも強く反対している。
 ツベンテンドルフ原子力発電所の主要機器はドイツの同系のイザール1号機(Isar)、ブルンスビュッテル(Brunsbuettel)、フィリップスブルグ1号機(Philippsburg)に売却された。ツベンテンドルフの代替え発電所としては近隣にデュルンロア火力発電所が建設された。ツベンテンドルフ発電所は2005年オーストリアのエネルギー関連会社EVNグループに売却され、太陽光発電所として利用されている。
 一方、オーストリアの首都ウィーンには、国際原子力機関(IAEA)の本部がある。IAEAは、国際連合の機関として、1957年7月29日に設立された。IAEAは、原子力活動が軍事目的に転用されないようにするための監視機関として役割を果たしているだけでなく、世界の平和、健康および繁栄のための原子力の貢献を促進、増大する活動も行っている。2016年5月現在167か国がIAEAに加盟している。
 研究炉は、ウィーン大学とグラーツ大学、およびサイベルスドルフ研究所に各1基ずつ設置されている(図3参照)。種々の研究や医用アイソトープの製造に利用されてきたが、現在はウィーン大学のみが運転中である。また、オーストリアには原子力産業に直接従事するなどコンサルタント業務を行っている企業が数社ある。
(オーストリアにある研究炉)
(1)TRIGA MARK II(運転中)
  サイト ウィーン工科大学(Vienna)
  炉型  TRIGA MARK II
  熱出力 250kW
  初臨界 1962年3月7日
  用途  教育、訓練用
(2)ASTRA(廃止措置中)
  サイト サイベルスドルフ研究所(Seibersdorf)
  炉型  プール型
  熱出力 10MW
  初臨界 1960年9月24日
  閉鎖  1999年7月31日
(3)SAR−GRAZ(Siemens Argonaut Reactor)(廃止措置中)
  サイト グラーツ大学(Graz)
  炉型  Argonaut
  熱出力 10kW
  初臨界 1965年5月17日
  閉鎖  2004年7月31日
  備考  燃料は2005年に米国へ輸送
<図/表>
表1 オーストリアのエネルギー・電力需給バランス(2014年)
表1  オーストリアのエネルギー・電力需給バランス(2014年)
表2 オーストリアにおけるエネルギー政策目標
表2  オーストリアにおけるエネルギー政策目標
表3 オーストリアの発電設備容量
表3  オーストリアの発電設備容量
図1 オーストリアにおける一次エネルギー供給量の推移
図1  オーストリアにおける一次エネルギー供給量の推移
図2 オーストリアにおける電源別発電電力量の推移
図2  オーストリアにおける電源別発電電力量の推移
図3 オーストリアの原子力施設配置図
図3  オーストリアの原子力施設配置図

<関連タイトル>
ツベンテンドルフ原子力発電所 (14-05-12-01)

<参考文献>
(1)海外電力調査会:海外諸国の電気事業、第2編、2005年(2005年3月)、p.34−40
(2)Energie−Control Austria(E−Control):Installed Capacities? Time Series(2016年7月)、https://www.e-control.at/documents/20903/636515/ElecTotal-TS_Capacity.xlsx/2da24a84-a50e-4bdd-8cfe-d4f50cee6fbahttps://www.e-control.at/documents/20903/636515/ElecTotal-TS_Balance.xlsx/ae82e250-0439-4294-b58a-7be7355ce753
(3)国際エネルギー協会(IEA):Energy Policies of IEA Countries Austria 2014 Review(2014年)、https://www.iea.org/publications/freepublications/publication/Austria2014.pdf
(4)IEA energy Statistics:Austria,,,http://www.iea.org/stats/WebGraphs/AUSTRIA5.pdf
(5)The Nuclear Power Plant Zwentendorf:https://www.nuclear-power-plant.net/index.php?lang=en
(6)ウィーン工科大学 Helmuth Boeck:Austria‘s Anti−Nuclear Crusade(2006年)、https://www.euronuclear.org/events/pime/pime2006/presentations/Boeck.pdf
(7)オーストリア経済・家族・青少年省:Energy Strategy Austria
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