<本文>
1.エネルギー資源
ノルウェーは、日本とほぼ同じ国土面積38.6万km
2を有し、人口は512.4万人(2014年4月、ノルウェー中央統計局)と小国であるが、IT産業、アルミ産業など電力集約型産業が主要産業で、1人当たりの電力消費量は23,660kWh(2012年)、世界有数の電力多消費国である(
表1及び
図1参照)。また、水資源に恵まれ、欧州最大の水力発電国であるほか、スカンジナビア半島西岸の大陸棚(NCS:Norwegian Continental Shelf)には豊富な石油・ガス資源が賦存し、ノルウェー沿岸に接する海域で開発が進むエネルギー資源大国である(
図2参照)。
ノルウェー石油省の調査によると、推定可採埋蔵量は2012年末時点で、石油換算約131億m
3で、そのうち26%が北海(石油全体の53%を産出)、72%がノルウェー海(天然ガス全体の80%を産出)、1.6%がバレンツ海に賦存する(
図3参照)。ノルウェーの大陸棚における油田開発は1965年、英国及びデンマークとの北海大陸棚分割合意から始まる。原油の埋蔵が1969年に確認されると、1971年から生産を開始した。2013年の石油生産量は146万バレル/日、天然ガスは1,087億m
3/年となっている。石油生産は2000年にはピークに達しているが、天然ガスは増産が見込まれている。しかし、天然ガスの生産量が石油減少分を補填できる見込みがないため、今後合計生産量は徐々に減少する傾向にある。また、石油・天然ガスの資源量は既に約44%が開発済であり、2020年頃から減少する見込みである。
表2に主要燃料生産量の推移を示す。
なお、石油・天然ガス産業が2013年のGDPに占める割合は約22%(6,461億NOK;ノルウェー・クローネ)である。輸出に占める割合は約67%(6,002億NOK)で、就業人口が全人口に占める割合は約2%の約61,500人である。2013年時点の石油輸出量は国内生産量の約81%に当たる433百万バレルで、英国(42%)、オランダ(21%)、ドイツ(10%)、スウェーデン(6%)、フランス(5%)、米国(5%)等に輸出されている。天然ガスの輸出は国内生産量の約96%に当たる1,047億m
3で、英国(29%)、ドイツ(25%)、フランス(12%)、オランダ(9%)、イタリア(6%)、ベルギー(6%)等が主要輸出国である。天然ガスの輸出は基本的に長期契約ベースで、パイプラインを通じて輸出される(
図4参照)。現時点のパイプラインの輸送能力は年間1,200億m
3である。
一方、石炭資源も石油・ガスに比較すれば僅かであるが、スバールバル諸島で、ノルウェーやロシアの企業により生産されている。スバールバル諸島はノルウェー北方の北極圏に位置する4つの島と無数の小島からなり、1925年からノルウェー領となった。WEC(World Energy Council)によると、2008年末時点のスバールバル諸島の石炭の推定鉱量は500万トンである。
また、化石燃料以外の資源としてノルウェーは水力資源が豊富であり、これを利用して国内の発電電力の大部分を賄っている。2010年末時点の包蔵水力(平均降水年における年平均可能発電量)は2,060億kWhで、このうち開発水域は1,349億kWh、開発禁止水域が486億kWh、余剰水域が225億kWhとなっている。ただし、余剰水域に関しては、環境や建設コストの問題から将来の水力開発の可能性は不透明である。
2.電力事情
2.1 電力需給
2012年末時点の総発電設備容量は3,208万kWで、そのうち95.1%を水力発電設備が占める(
表3参照)。ノルウェーでは1970〜1980年半ばにかけて、大規模な水力開発プロジェクトが実施され、年率4%の伸びを示し、発電設備容量は1000万kW以上増大した。しかし、1980年後半から開発ペースは鈍化し、1990年以降の設備の増加は既存プラントの増強や高効率化、小規模発電プラントの新設による。また、ガス火力発電所に関しては、天然ガスは従来輸出用であり、温室効果ガス排出量削減のためからも、大陸棚石油ガス生産施設での自家用火力発電以外はガス火力発電所の導入計画は進んでいなかった。しかし、国内の電力需要が高まり、水力発電依存による電力不足と国内資源の有効活用の観点から、陸上のガス火力発電所として、コーシュトー発電所(パイプライン用天然ガス処理プラントへの電力供給、2007年稼動)、メルクオイヤ火力発電所(LNG生産プラントへの電力供給、2007年稼動)や、モングスタ火力発電所(石油コンビナートへの電力供給、2010年稼動)が建設されている。風力発電に関しては、2013年現在全国で合計356基;70.5万kWの陸上風車が稼動している。地勢学的に風力発電の潜在的可能性は高いとされ、設備投資税の免除や国の補助金政策もあり、今後増加していくことが予想される。
表3にノルウェーの発電設備構成の推移を示す。
2013年の総発電電力量1,478億kWhのうち水力が1,429億kWhと97%を占め、残りはガス火力が2%と風力が1%である(
表4参照)。水力発電による発電量は世界第6位であるが、降水量などの気象条件に大きく左右される。降水量が多く、ダムの貯水量が確保されている場合は発電量が増加し、電力を近隣諸国へ輸出できるが、逆に降水量が少なく、電力消費量が多い冬季間には電力の純輸入国に転じる。ノルウェーの送電系統は、隣国スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ロシア、オランダ、またフィンランド経由でエストニアとも連系され、電力取引が行われており、地域的電力不足や国レベルでの電力不足時の安全保障的役割を担っている(
図5参照)。隣国スウェーデンとの電力取引量が最も多く、2013年には全輸出量の53%、全輸入量の66%を占めた。ちなみにスウェーデンの総発電電力量の約44%は
原子力発電によるものである。
2.2 電力供給体制
1991年のエネルギー法施行により、効率的、高信頼度のエネルギー供給を得るための手段として、競争原理が導入され、IEA加盟国中最速で電力の自由化を達成した。エネルギー法では電力の販売、または送電事業者には「取引ライセンス」の取得が義務付けられ、送・配電事業と発電事業、小売供給事業とは分離することが法的に決められている。
2011年時点、国内には183社の電気事業者が存在し、発電事業者、送配電事業者、電力卸売り・販売業者など多岐に渡っている。国内最大の発電事業者は「Statkraft社(エネルギー公社)」で、同社が国内総発電電力量のおよそ3割を担う。電気事業者は各自治体により一部ないし100%が所有されているか、完全民間資本により運営されている状況であるが、水力発電事業に関しては、一部例外を除き今後段階的に撤退させることを2008年に決定している。これにより、現在水力発電事業を行っている民間企業は、発電事業ライセンスの期限終了とともに、国の水力発電事業者、または地方自治体に発電施設を返却、若しくは公共資金を得て民間資本を 1/3 以下にする必要がある。
送配電事業に関しては、「Statnett社(グリッド公社)」が基幹送電系統を所有・運転する系統運用会社であり、同国の基幹送電系統(300〜420kV、132kV)の87%を所有しているほか、国際連系線の建設・運転も担当している。また、オランダとの間は海底ケーブル(Norned:送電容量70万kW)を有するほか、2018年までにドイツとの海底ケーブル(Nord Link:送電容量140万kW)、2020年までに英国との海底ケーブル(North Connect:送電容量140万kW)の建設を担当している。
3.電力取引
北欧地域では、1971年から、水力発電設備を最適利用するため、発電事業者間の国境を越えた電力取引が行われ、1991年にノルウェーで
電力自由化が開始されると、電力現物市場「Nord Pool Spot AS」が送電会社「Statnett」の取引部門として1991年1月1日に開設された。
続いて1995年10月にスウェーデンで電力自由化が法制化され、1996年にNord Poolはノルウェー・スウェーデン2カ国の電力市場となった。さらに1998年10月にフィンランド、1999年7月にデンマーク西部、2000年にデンマーク東部がNord Poolに参加した。この結果、北欧電力市場は市場規模・電源構成の全く異なる4カ国から構成されることとなった。
なお、2002年には現物スポット取引所(Nord Pool Spot)と金融デリバティブ取引所(Nord Pool)に取引所を分割し、2008年にNASDAQ OMXがNord Poolの金融デリバティブ取引所(先物・先渡取引)を買収し、名称をNASDAQ OMX Commoditiesに変更している。Nord Poolのスポット取引の電力消費量に対する割合は、1993年のStatnett市場開設当初は9.8%、1996年のノルウェー・スウェーデン共通市場Nord Pool設立時は15.9%であったが、2000年には25.2%、2005年には42.6%と段階的に上昇し、2011年時点で75.5%にまで達している。
4.原子力研究
ノルウェーの原子力研究開発は早く、1959年に研究炉JEEP-1(熱出力450kW)と、ハルデン重水炉(熱出力2万kW)の運転を開始した。1961年にゼロ出力試験炉NORA(熱出力0.1kW)を、1966年にはJEEP-2(熱出力2000kW)を運転し、原子力の基礎研究を行っている。ハルデン重水炉は、経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)による国際プロジェクト(
ハルデン計画)で、日本もキー・メンバーとしてハルデン計画に参加している。
高燃焼度燃料の炉内挙動データの取得、ハルデン炉照射燃料の
照射後試験、各種燃料体の照射実試験等が実施された。
また、原子力発電開発に関しては、1980年代初頭に、エネルギー白書の中で、政府は2000年以前に原子力発電を導入する意志のないことを明らかにした。以降、原子力発電開発計画はない。
(前回更新:2005/10/27)
<図/表>
<関連タイトル>
ハルデン計画(OECD Halden Reactor Project) (06-01-01-17)
<参考文献>
(1)(一社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業、第1編(2014年3月)、オランダ
(2)Statistics Norway:Electricity annual figures 2012 (Table1) 、
http://www.ssb.no/169650/electricity-balance.annual.gwh、Statistical Yearbook of Norway 2013、
http://www.ssb.no/en/befolkning/artikler-og-publikasjoner/_attachment/146776?_ts=143c3b051c8など
(3)ノルウェー石油監督局(NPD):FACTS 2014
(4)国際エネルギー機関(IEA):Statistics Norway Indicators in 1990-2012、
など
(5)ENTSO-E:Statistical Factsheet 2013(formerly Memo)、2014年4月、