<本文>
1.国情
1.1 面積と人口
オランダの正式名称は「オランダ王国(和蘭)」であり、西ヨーロッパに位置するオランダ本土と、カリブ海領域にあるオランダ領アンティル諸島並びにアルバ島から成るが、普通「オランダ」と言えばヨーロッパのオランダ本土を指す。その面積は41,864km
2(水域:7,655km
2、陸地:33,873km
2)で九州とほぼ同じ面積に相当し、人口は1,679万人(2013年4月、出典:オランダ中央統計局)、1km
2当たりの人口は401人で、世界で最も人口密度の高い国の一つである。オランダは長い海岸線を有する温帯海洋気候に属し、平均気温は、夏が18℃、冬が3℃、平均年間降水量は800mmである。
国土の24%は海抜ゼロメートル以下にあり、ライン、マース、スヘルデという西欧の3大河川が海へ注いでいる(
図1参照)。低湿地帯のほとんどが堤防に囲まれた平坦なボルダー地帯(干拓地)で、16世紀から風車により、近年は汲上げポンプにより、内陸湖全体の干拓が行われ、地下水レベルが人工的に調節されている。さらにオランダは世界最大の海港「ロッテルダム港」の存在により、欧州ヘの玄関口となっている。
国民はゲルマン系のオランダ人であるが、公用語であるオランダ語はオランダ人とフランドル人(オランダ語圏のベルギー人)あわせて2,100万人余りが母国語としており、そのほか歴史的なつながりから、フランス北西部、和蘭領アンティル諸島(ボネール、キュラソー、サバ、セント・ユースタティウス、及びセント・マーティン諸島)とアルバ島、旧和蘭領スリナム、インドネシアなど幅広い地方でオランダ語が使われている。宗教はカトリック27%、プロテスタント16.6%、ヒンズー教1.3%、仏教1%、無宗教・その他50.7%である。
1.2 政治
オランダは議会制度を持つ立憲君主国で、政府は国王と閣僚によって形成される。オランダ政府の機関はハーグに置かれるが、首都はアムステルダムである。2012年11月5日、第2次ルッテ内閣が誕生し、現在は自由民主国民党(VVD)と労働党からなる連立政権であり、国家元首はウィレム・アレクサンダー国王である。
オランダは1954年に制定されたオランダ王国憲章と憲法を有し、立憲君主制、代表民主制、法治国家、地方分権単一国家を基本に据えている。立法権は民主議会にあり、議会は全国12州の代表による間接選挙で選ばれた議員75名(任期4年)で構成する上院と、18歳以上の有権者による直接選挙で選ばれた議員150名(任期4年)で構成する下院からなり、行政権は首相及び大臣で構成する内閣によって行使される。なお、オランダの行政は、国家行政を担当する中央政府と、地方行政を担当する州政府及び地方自治体の3層から成り、他に、地方の治水を行う地域治水委員会が設置されている。
また、オランダは外交面で国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD、通称、「世界銀行」、「第一世銀」)、国連、西欧同盟(WEU)、北大西洋条約機構(NATO)、欧州共同体(現欧州連合(EU))の創設に関わっている。安全保障の面では、欧州及び米国との緊密な関係維持、国連等の多国間における外交関係、EU共通外交安保政策及びNATO体制の下で推進している。欧州統合・拡大化に積極的であり、平和維持活動、軍備管理、開発途上国援助等に貢献している。オランダは比較的小国ながら競争力の強い経済を背景に、現在では環境、都市貧困の撲滅等の活動に重きを置いている。
1.3 経済
オランダは伝統的に自由貿易主義に重きを置き、中継・加工貿易を基軸とした通商国家を形成してきた。1980年代前半から構造改革に積極的に取り組んできた結果、オランダ経済は現在欧州でも有数の健全さを示している。ロッテルダム港(貨物の取扱量世界第1位)、スキポール空港及び道路・鉄道網は、欧州におけるモノ、ヒト、カネの物流の中心地である。1996年〜2000年は個人消費の拡大と輸出増加に支えられ3%台の成長を維持、2000年の経済成長率は3.94%、失業率3.06%、物価上昇率2.34%であったが、2001年以降、世界経済の影響を受けて減速傾向に転じた。2004年から輸出増により緩やかな経済回復が見られたが、2008年以降、リーマンショックと欧州債務危機の影響により、政府の財政支出削減、不動産価格の下落、投資の減少、消費者購買力の低下などオランダ経済の低迷が続いている。2010年に5%を超えた財政赤字対
国内総生産(
GDP)比は、2013年には3%台に縮小し、IMFによると経済成長率も緩やかな成長に転じるとしているが、失業率はなお上昇傾向で7%台の水準にある(
表1参照)。
2013年のGDPは6,023億ユーロ、1人当たりのGDPは35,864ユーロで、総貿易額は8,181億ユーロ、その内訳は輸出が4,338億ユーロ、輸入が3,843億ユーロである(オランダ中央統計局)。GDPの貿易依存度は50%以上と高く、主要貿易の相手国は輸出がドイツ、ベルギー、英国、フランス、イタリアであり、輸入がドイツ、ベルギー、中国、英国、米国である。
2.エネルギー
2.1 エネルギー資源
オランダはEU諸国の中では、化石燃料資源に恵まれ、石油、天然ガスを生産する。石油推定埋蔵量は2008年時点で3,660万m
3にすぎないが、天然ガスは豊富に賦存し、推定埋蔵量は1兆3,900億
3と見積もられている。このうち約8割の1兆m
3は、オランダ北部の陸上ガス田であるフローニンゲン・ガス田(Groningen)に賦存しており、残りは海上あるいは大陸棚の小規模なガス田である。オランダは西欧ではノルウェーに次ぐ天然ガスの産出国であり、ガス製品はロッテルダム港を経由して直接、ドイツやベルギーの工業地域へ輸送している。
2.2 エネルギー政策
オランダは国内エネルギー資源の確保とEU政策に準拠したエネルギー政策の策定により、安定的、経済的、かつクリーンなエネルギーの確保を図っている。1995年12月には第3次エネルギー政策白書を発表し、電気事業部門の自由化措置について提案するとともに、持続可能なエネルギー需給の達成目標を掲げた。1998年8月には新電気法の制定により、電気事業の完全民営化に向けた部分自由化を開始、最終的には2004年7月に全面自由化が実施された。
また、気候変動対策として、2007年12月に政府は「クリーン・効率計画」に関する白書を発表し、(1)温室効果ガス排出量の削減目標を2020年までに90年度比で30%とすること、(2)エネルギー供給に対する再生可能エネルギー比率を2020年までに20%まで引き上げること、(3)エネルギー効率を2020年までに年間2%向上させること、(4)2020年までに持続可能なエネルギーシステムを開発することとしている。2011年11月には、4年ごとに作成されるエネルギー報告書(Energy Report 2011)が経済省から発表され、この中にエネルギー・環境政策の枠組みの見直しのほか、低炭素社会への2050年までの長期見通しを取り上げて再生可能エネルギーの利用に関する小規模エネルギー技術の開発促進、二酸化炭素回収・貯留(CCS)付きの石炭火力発電プラントの拡大について言及している。
なお、2008年6月のエネルギー報告書の中で、既存の大規模ガス田であるフローニンゲンの産出量は今後減少に向かい、近海におけるガス田新規開発も限界に近づき、オランダは2025年頃に天然ガスの純輸入国になる見通しを示した。そのため、二酸化炭素排出量を抑制し、かつ経済性を維持、枯渇に向かう天然ガスの代替エネルギーとして、洋上風力を中心とした再生可能エネルギーの拡充と、ボルセラ
原子力発電所のリプレースが示された。当時の第4次バルケネンデ政権は、任期中の原子炉建設を行わないと政権誕生時に明言していたことから、原子炉の建設時期は次政権以降となった。2010年、ルッテ政権が発足し、原子炉新設の促進を政権合意で打ち出したことから、原子炉の新規建設が可能となっている。
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故後も、ボルセラをリプレースする方針を維持したが、2012年2月以降、事業者により計画は凍結されている。2013年9月に出された政府と経済界の「エネルギー合意」には、原子力について言及はなく、2020年までの目標として、エネルギー全体に占める再生可能エネルギーの割合を14%とし、陸上風力の設備容量を600万kW、洋上風力の設備容量を445万kWとすることなどが盛り込まれている。
2.3 エネルギー需給
2012年の一次エネルギー供給量は7,858万石油換算トンで、1990年〜2012年の間の伸びは19.6%(年平均0.8%)とそれほど大きくないが、この間のGDPは56.5%増加した(
表2及び
図2参照)。一次エネルギーの国内生産量6,472万トンのうち天然ガスは88.8%を占めている。エネルギー源別一次エネルギーの供給量は天然ガス41.7%、石油39.6%、石炭10.4%で、原子力、水力、再生可能エネルギーは全体の7%に過ぎない。なお、石油の生産量は国内石油消費量の3%程度を賄うに過ぎず、また大陸棚にある油田の多くは閉鎖の予定である。しかし、オランダは国内の石油需要を満たすためでなく、ロッテルダムなどにある製油所用に大量の原油を輸入し、石油製品として輸出している。そのため、石油の輸出入量は大きく、一次エネルギー供給に占める石油供給量の比率も高くなっている。
2.4 電力需給
オランダの2012年の発電電力量は1025億kWhで、対前年比9.3%減となった。電源別(エネルギー源別)では火力の比率が高く、その中でもガス火力のシェアは54.4%とかなりの比重を占める(
表3及び
図3参照)。これは1990年代に急激に普及した天然ガスを燃料とする
コージェネレーション・システムに起因する。石炭は石油ショック以降の燃料多様化政策のため存在しているものの、天然ガスへの燃料転換などが図られ、2012年の石炭火力のシェアは全体の26.6%であった。原子力はドーデバルト原子力発電所(BWR、6.0万kW、1969.3月運転開始)が経済性の問題で1997年に閉鎖したが、ボルセラ原子力発電所(PWR、51.5万kW、1973.10月運転開始)は順調に運転を継続し、全発電電力量の3.8%を供給している。また、再生可能エネルギーの中でも風力は、政府の支援策やグリーン料金の普及により、2003年以降急速に増加し、全発電電力量の4.86%を占めている。
2.5 消費電力量
2012年の電力消費量は対前年比0.9%減の1064.8億kWhであった。1990年から2010年まで、電力消費量は45.4%増加している。部門別の消費電力量の内訳は、公共・サービス業が35.2%、ガス採掘などのエネルギー部門が32.6%、ついで住宅部門が23.5%となっている(
表3参照)。
2.6 発電設備
オランダの地形は平坦で水力資源は極めて限られているため、発電設備の
電源構成は火力発電が中心となる。2011年の火力設備容量は2,791万kWで、総発電設備容量の83.7%を占める。火力発電設備は、燃料転換が可能であり、現在では天然ガスを主燃料とする設備が多い。また、オランダでは政府の奨励政策もあり、コージェネレーション・システム(CHP)の比率が高い。原子力発電に関しては、かつて、総発電電力量の1/3を原子力で供給することが提案されたが、1986年
チェルノブイリ事故により新規原子力発電の建設は棚上げされ、現在ではボルセラ原子力発電所のみが稼動している。ボルセラ原子力発電所についても一時閉鎖を求める動きがあったが、政府は2003年に運転期間を耐用年数に当たる40年としたが、その後2006年に運転寿命を60年に延長し、2033年末までの運転を認めている。
また、オランダは隣国ドイツ、ベルギーと送電線で連系して電力の輸出入が行われている(
図4参照)。基幹系統は380kV送電線で、150kV線でも連系されているほか、ノルウェーとは海底ケーブルによって連系されている。連系容量は輸入が700万kW、輸出が680万kW(2009年夏季)で、これら国際連系線及び電圧220kV以上の国内送電線はTenneT社によって所有・運転されている。
<図/表>
<関連タイトル>
オランダの原子力開発と原子力施設 (14-05-08-01)
<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編(2010年3月)、オランダ
(2)米国エネルギー情報局(EIA):Netherlands、
(3)外務省:オランダ王国、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/netherlands/data.html
(4)在日オランダ大使館:
(5)国際エネルギー機関(IEA):IEA energy Statistics/Energy Balances for Netherlandsなど
(6)独立送電系統運用者TenneT:
(7)国際通貨基金(IMF):World Economic Outlook Database April 2014、2014年4月、
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2014/01/weodata/index.aspx