<本文>
1.欧州連合(EU)と欧州委員会(EC)
欧州連合(EU)成立には、1946年、ウィンストン・チャーチルの「ヨーロッパ合衆国構想」から始まる歴史がある。1951年には「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」の成立、1957年には欧州経済共同体(EEC)および欧州原子力共同体(EURATOM)が成立、1967年には上記の3共同体は欧州共同体(European Community)委員会の下に置かれた。
1993年に、
欧州連合条約(
マーストリヒト条約)が発効し欧州連合(EU、European Union)が発足した。EUは経済的な統合を中心に発展してきた欧州共同体を基に、共通外交・安全保障政策、および警察・刑事司法協力の三つの政府間協力を目指しており、2008年には27の加盟国がある。
表1はEUを運営する機関を示す。一方、欧州原子力共同体(EURATOM)は、完全にEUの下にありながら今も半独立機関として残っている。
欧州委員会(EC、European Commission)は、EUの行政執行機関である。加盟国から派遣された27名の委員は、国の省庁に相当する38局を分担し、(1)法令案の提出、(2)法令の執行、(3)局の業務に関する対外交渉と条約締結、および(4)予算執行の責任がある。
原子力の研究は「欧州原子力共同体(EURATOM)」と「共同研究センター(JRC)」が担当し、利用に関する業務は「運輸・エネルギー総局」及び「研究総局」が分担する。
2.原子力の研究・開発計画
2.1 欧州連合(EU)のフレームワーク・プログラム(FP)
EUの科学技術開発計画は、フレームワーク・プログラム(FP)と呼ばれている。第7次計画(FP7)は2007−2013年の7年計画で、予算は総額505億ユーロである。研究分野は協力研究、アイデア研究、人材育成、競争力強化、原子力の5分野に分かれている。計画の概要を
表2に示す。予算の1/3は協力研究費である。
共同研究センター(JRC)は、原子力に関して、
放射性廃棄物管理、環境影響、原子力の安全と保安の研究等を進める。総予算額は17.5億ユーロである。
2.2 欧州原子力共同体(EURATOM)の第7次フレームワーク・プログラム(FP7)
欧州連合(EC)の原子力の研究開発は、欧州原子力共同体(EURATOM)の策定した第7次フレームワーク・プログラム(2007−2011年、5年計画)による。EURATOMにはEUとは別に27億ユーロの予算がある。計画は大きく二つに分かれる。予算の配分を
表3に示す。
(1)第1A計画(核融合研究):国際熱核融合炉(ITER)の建設、研究力の向上、DEMO炉の技術開発、人材の育成、技術力の向上と保全、技術の民間移転等を進める。
第1B計画(核分裂と
放射線防護の研究):
放射性廃棄物の処理処分技術の実証、分離・変換技術の開発、将来の原子力システムの研究、放射線利用と放射線防護、テロに対する防護、人材の育成等を進める。
(2)第2計画(JRCの支援):研究計画に従い、共同研究センターJRCの研究開発を支援する。
3.共同研究センター(JRC)の研究計画
研究開発は以下の3項目に分かれる。
(1)放射性廃棄物と環境影響:エネルギー供給から放射性廃棄物までの研究と情報の蓄積に努める。高レベル放射性廃棄物について、直接処分及び分離・変換処理の効率的方法を開発する。また、長半減期廃棄物の処理技術の開発と
アクチノイドの基礎的研究を続ける。
(2)原子力の安全:現用の燃料サイクルや新燃料サイクル、ヨーロッパ型炉、ロシア型炉、及び新型炉の安全性を研究する。
(3)原子力の保安:
バックエンド、環境の
放射線モニタリング、包括的
保障措置の実施、
放射性物質の不法な輸送と分散の防止等について、欧州連合(EU)の活動を支援する。
また、
再生可能エネルギーと原子力を含め、ヨーロッパ社会の需要に見合うエネルギーの多様化について、現実的な討議を進め政策決定に貢献する。
4.運輸・エネルギー総局と研究総局
(1)運輸・エネルギー総局
原子力に関して副総局長の下に、原子力エネルギー局、原子力保障局がある。
・原子力エネルギー局:EURATOM、国際協力、法制、エネルギー輸送、デコミ、
放射性廃棄物対策、放射線防護等を担当
・原子力保障局:
原子炉、燃料工場、再処理等の施設の保障措置などを担当
(2)研究総局
原子力のFP7は、実施担当の副総局長と科学技術推進担当の副総局長が担当する。
・FP7実施担当:T局(研究契約担当)は若手研究者に、奨学金と機会を提供
・科学技術推進担当:J局(EURATOM)は核分裂、核融合、国際協力を担当
K局(エネルギー)はエネルギー転換、
新エネルギー、
燃料電池、水素等を担当
5.日本とEUの原子力分野の協力
(1)原子力協力協定
2006年、日・ユーラトム(EURATOM)原子力協力協定
(2)ITER関連の協力協定
2007年、日・ユーラトム(EURATOM)国際熱核融合実験炉(ITER)協定
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
欧州原子力共同体(Euratom) (13-01-01-09)
<参考文献>
(1)外務省、欧州連合EU
(2)欧州連合EU、欧州委員会
(3)欧州連合(EU)、原子力関連の協力
(4)EC、Research、第7次フレームワーク計画の概要、
http://ec.europa.eu/research/fp7/understanding/fp7inbrief/structure_en.html
(5)EURATOM、第7次フレームワーク計画、原子力関連(2007−2011)、Concerning the Seventh Framework Programme of the European Atomic Energy Community(Euratom) for nuclear research and training activities (2007 to 2011),