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<概要>
 わが国では、平成17年5月に改定された「核原料物質核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)」において、放射能濃度が十分低いものは通常の廃棄物と同等の扱いを認める、いわゆるクリアランス制度が導入された。また、国際原子力機関(IAEA)や欧州委員会(EC)から既にクリアランスの指針が出されており、ドイツ等では整備を終えてクリアランスされた金属等のリサイクル等が行われている。
 一方、米国では、2005年3月に米国原子力規制委員会(NRC)のスタッフ提案のクリアランス案が提示されたが、NRC委員会の判断で採用されなかった。従って、依然として、規制指針RG-1.86の基準値を参考に個別の判断に基づいて廃棄物の扱いが実施されているのが現状である。
 なお、米国では、サイト解放基準を別途定めている。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
 2002年に出された米国科学アカデミー/米国学術研究会議の報告では、原子力発電プラントの廃止措置によって出てくる廃棄物(コンクリートと金属)の処分費用は、$4.5B(5400億円)から$11.7B(1兆4040億円)の範囲にあると見積られている。これらの廃棄物を解放する規制上の仕組みが整備されると、処分費用は、約1/10に低減できると言われている。米国原子力規制委員会(NRC)は、本格的なクリアランス制度の検討を1999年から開始し、NRCスタッフ案が提出されたが2005年6月に採用を延期した。従って、現状では、規制指針RG-1.86の基準を参考に個別の判断に基づき、運用されている。
1.クリアランス制度検討の経緯
 米国のクリアランス制度導入について、過去(1980年から1990年)に作成した規制除外(BRC:Below Regulatory Concern)案が公衆の反対等によって挫折しただけに、NRCでは最新の知見に基づき慎重に検討が進められた。
 NRC委員会スタッフ案のクリアランス基準案(10 CFR Part 20 RIN3150 AH18)は、体系的に検討されたNRC NUREG-1640及びIAEA RS-G-1.7等を取り入れた許容濃度と許容表面密度で示したものでNRC委員会に2005年3月提出された。しかし、NRC委員会は、同年6月、採用の延期を決定した。
2.ケースバイケース判断によるクリアランスの取り扱いについて
 米国では、原子力委員会(現NRC)が1974年に制定した規制指針RG-1.86に沿って、規制当局の判断により運用されている。この指針は、必ずしもクリアランスを規定したものではないが、解体廃棄物等の解放基準として広く利用されている。ただし、この基準は許容表面密度のみで示されている。
 この規制当局のケースバイケース判断によるクリアランスの取り扱いについては、NRCが1999年に公表した課題ペーパーによると、その根拠に3種類の考え方が示されている。
 (1)規制指針RG-1.86の基準(許容表面汚染レベル)適用
 (2)放射能が検出不能な場合
 (3)10 CFR Part 20第2002条の適用
 このうち、(1)の規制指針RG-1.86は原子炉施設からの廃棄物を対象とするものである。また、(2)の検出可否によるクリアランス判断については、いくつかの状況で実施されているものの、測定機器の検出限度は機器により差があるため、この手法は一貫性のない不適切な規制指針であると課題ペーパーの中でも述べられている。(3)については、過去において様々な汚染物質の規制解除に使用されてきたとされており、従って、原子炉の運転以外から発生する放射性固体物質のクリアランスについては、10 CFR Part 20第2002条が処分手続き上の対象廃棄物クリアランスの基本的な根拠となっている。
3.規制指針RG-1.86原子炉の運転認可終了
 このRG-1.86のC4項「無制限利用に解放するための除染」において物質許可の典型的な条件が織り込まれたことにより、実質的なクリアランス基準として機能している。この指針に示される許容表面汚染レベル(表1参照)以下に放射能レベルが留まるとの調査を申請者が実施した場合、規制からの解除を認めるもので、クリアランスの基準に加えて測定結果の平均値取得に当たっての対象は1m2を限度とすること、最高値の確認に当たっては100cm2を限度とすることなど検認に関わる条件も示されている。
4.クリアランスの実績例
 米国での実質的なクリアランス事例では、商用原子力発電所の廃止措置に伴う蒸気発生器、加圧器、ポンプ等の付属解体物を除染した後、旧SEG(現GTS Duratek)の溶融施設において溶融処理を行い、遮へいブロックを製造して高エネルギー粒子加速器
<図/表>
表1 許容表面汚染レベル
表1  許容表面汚染レベル

<関連タイトル>
各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向 (11-03-04-05)
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日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)
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米国における発電炉廃炉計画 (05-02-03-06)
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<参考文献>
(1)J. S. Devgun, et. al., “National Initiative Clearance of Materials,” WM’04 Conference, Tucson, Arizona, February 29 - March 4 (2004).
(2)J. S. Devgun, et. al., “ANS Activities and Input to National Initiative on Clearance of Solid Materials,” DD&R, 2005, Denver, Colorado, August 7-11 (2005).
(3)Code of Federal Regulation 10 CFR Part 20“Standards for protection against radiation, http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/cfr/part020/
(4)U.S. Atomic Energy Commission, Regulatory Guide, RG 1.86.“Termination of Operating Licenses for Nuclear Reactors”(06/1974), http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML0037/ML003740243.pdf
(5)ENERGY SOLUTIONS社のパンフレット“ENERGY SOLUTIONS, Facilities Group Summary”(2009年)
(6)L.Miller, NRC Perspective on Controlling the Release of Solid Material, TUV NORD, March 2006.
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