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<概要>
 原子力発電所は、核分裂からの発生熱で発電をするとともに放射性物質を発生する。そのため安全確保を確実にするように、設計から運転に至る各段階で品質保証活動を行っている。わが国の原子力発電所の品質保証活動として、国の活動は主として「原子炉等規制法」と「電気事業法」の二つの法律に基づき、原子炉設置許可、工事計画認可、工事着工、運転開始の各段階での各種審査、検査等によって行われる。一方電気事業者(電力会社)は「原子力発電所の品質保証指針」(JEAG4101)に基づいて品質保証実施計画を確立し、設計から運転・保守までの各種活動を実施している。また、プラントメーカーもJEAG 4101に沿って品質保証実施計画を確立し、品質保証活動を実施している。
 最近、原子力発電所の検査・点検等の不正問題が発生し、この不正問題等の再発防止のため原子力安全規制の見直しがなされ、品質保証体制が保安規定に記載されることになった。これにともない、新たに「原子力発電所における安全のための品質保証規程」(JEAC 4111−2003)が制定された。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 品質保証(Quality Assurance)とは、産業界一般で使われている概念であり、一般的には、「品質、信頼性、価格のいずれをとってみても、顧客に迷惑をかけない、後悔させないと請け負う」ことである。
 これを原子力にあてはめると「体系的に整備された組織、要項や要領などに基づき、計画的に原子力発電所並びに原子力建設所における設計、調達、製作及び据付・施工、検査・試験、試運転、運転・保守などの各段階を的確に管理して、最終品質が要求どおり達成される確信が持てるようにすること」と言い換えられる。以下にこうした原子力発電所における品質保証活動の概要を述べる。
2.原子力発電所における品質保証の必要性
 原子力発電所は、熱の発生源として原子燃料(核燃料)を使用し、核分裂の際に発生する熱エネルギーを利用する発電施設であるが、核分裂の際に放射性物質が発生する。そのため、厳重な管理を行い、安全の確保には万全を期さなければならない。
 安全性確保を確実にするためには、発電所の設計から運転に至る各段階で、発電所としての所定の品質を達成するために何をどのように実施すべきかをあらかじめ計画し、その計画に従って実行し、そのとおりに行われたことを確認し、必要に応じてその改善を行う、などの体系的な活動、つまり品質保証活動が必要となる。
 品質保証活動を行うにあたっては、まず、その活動全般の基本事項について、どのような考え方で行うかを定める必要があり、これらの管理方法を集約したものを品質保証計画書と呼んでいる。表1に品質保証計画書の管理項目と内容を示す。
 なお、具体的に実施する際には、品質保証計画書などに定められた活動項目ごとに仕様書、要領書などにより具体的活動内容が決められ、それにより原子力発電所の品質保証活動が行われる。
3.日本における原子力発電所の品質保証活動
 日本では米国連邦法 10CFR50 Appendix B及び国際原子力機関(IAEA)の「原子力プラントと他の原子力施設における安全のための品質保証安全基準」(No.50-C-QA)を参考に日本電気協会が電気技術指針「原子力発電所の品質保証指針」(JEAG 4101)を制定しており、基本的には同指針をもとに品質保証活動が行われている。
 原子力発電所の品質保証活動は、設計、建設、運転の各段階において、発電所設置者である電気事業者(電力会社)はもちろんのこと、国(官庁)、受注者であるプラントメーカー等も関わって総合的に行われているものであり、それにより高度な品質を確保している。
 表2にわが国の原子力発電所に係る品質保証の概要を示す。官庁の活動は主として、「原子炉等規制法」と「電気事業法」の二つの法律に基づき、原子炉設置許可、工事計画認可、工事着工、運転開始の各段階での各種審査、検査等によって行われる。
 原子炉設置者である電力会社は、JEAG 4101に沿って品質保証の実施計画を確立し、設計から運転・保守までの各種活動は、この実施計画に基づき実施する。この中で、プラントメーカーに対して品質保証上の要求を明確にするとともに、その品質保証計画を提出させて、内容の確認を行う。また、設計、建設(工場製作、現地施工、試運転)の各段階でも、設計図面の承認、検査、試験への立ち会い等により、必要な品質に達成していることを確認する。運転開始後は、運転・保守面で品質保証活動を行っている。
 さらに、プラントメーカーは、原子炉設置者より委ねられた範囲でJEAG 4101に沿って品質保証の実施計画を確立し、品質保証活動を実施する。
4.電力会社の保安活動における品質保証活動
 原子力発電所の品質保証活動は、先にも述べたように設計、建設、運転の各段階におけるものがあるが、その一例として、以下に電力会社の運転段階における品質保証活動、特に保安活動における品質保証活動を紹介する。
4.1 マニュアルの作成、教育
 保安活動の要領についてマニュアルを作成、整備するとともにマニュアルの目的、活用方法などの教育を行っている。
(1)マニュアル作成
 原子力発電所では、主として「運転管理」「燃料管理」「放射性廃棄物管理」「放射線管理」「化学管理」「保守管理」「その他」等の事項について、それぞれマニュアルを定めて、管理・運営を行っている。表3−1表3−2に運転操作マニュアル記載項目(例)を示す。
(2)マニュアル教育
 マニュアルに定められている事項に精通するため、マニュアルの目的、背景、考え方、活用方法などを定期的に教育している。
4.2 文書管理
 保安活動を遂行するにあたり、重要な文書の作成、審査及び承認、発行と配布、並びに変更に関する管理事項をマニュアルとして定め、的確な運用を実施している。
(1)作成、審査及び承認、発行及び配布に関わる運用
 管理の対象となる文書を定めるとともに、文書の作成、審査と承認、発行及び配布の手順、主管部署も定め、運用している。具体的には、管理の対象となる文書の明確化、適切な文書の作成、審査及び承認、文書の発行及び配布の的確化等を行う。
(2)文書の整理及び保管に関わる運用
 保管の主管部署と保管期限などを定め、具体的には、保管主管部署と責任者の明確化、保管方法の明確化等、文書の保管場所と保管形態の明確化、集中保管文書管理室の採用等、を行っている。
(3)文書の変更及び廃棄に関わる運用
 文書については常に最新化を図るとともに、改訂、更新を行う場合には関係部署に対して速やかに連絡、改訂版の配布を行っている。具体的には、文書の変更を行う場合の手順・主管部署・責任者等の明確化、保管の主管部署による文書の保管状態の確認・点検、
保管期限の過ぎた文書等の適切な廃棄を行っている。
4.3 記録管理
 原子力発電所の安全性と信頼性を確保するため、保安活動が定められたとおり実施されたことの客観的証拠となる記録の管理を実施している。特に、運転・保守段階の記録は、設備の運転状態、保守・補修状況の客観的証拠となるものであり、発電所の保安活動を実施する上で重要なものである。そこで電力会社では、記録の作成、保管等に関わる管理事項をマニュアルとして定め、適切に記録を管理している。
(1)記録の作成に関わる運用
 管理の対象となる記録や記録の作成に関する手順、主管部署を定め、記録の管理を行っている。管理すべき記録として品質保証活動を遂行する上で必要な記録を明確化するととともに、記録の作成にあたっては主管部署、責任者を定め、作成者、審査者及び承認者は捺印等を行っている。
(2)記録の取扱いに関わる運用
 記録は台帳を活用するなどの方法により容易に検索、閲覧できるようにしている。
(3)記録の保管に関わる運用
 記録の主管部署、保管期限を定め、記録を紛失、損傷することのないよう管理を行っている。基本的に文書管理と同様の手法により、保管、点検、廃棄等を行う。
4.4 監査
 原子力発電所の安全性と信頼性を確保するため、電力会社は保安活動の実施状況と有効性を検証するための監査を実施している。また、電力会社が行う保安活動の実施状況については官庁による総合保安管理調査を受けている。
(1)電力会社の行う監査
 監査には、電力会社が自らの保安活動の実施状況と有効性を検証するために内部組織に対して実施する内部監査と、電力会社が外部組織であるプラントメーカー等の保安活動の実施状況と有効性を検証するために実施する外部監査がある。図1に内部監査及び外部監査の仕組み(例)を示す。
 a.監査の種類
 内部監査には、原子力部門内の監査チームが部門内の原子力発電所等に対して行う監査と、より広範な立場・客観的視野から、原子力部門より独立した組織の監査チームが原子力部門に対して行う監査がある。外部監査は原子力発電所の工事のプラントメーカー等に対して実施するもので、外部監査の一例としては、プラントメーカー、原子燃料製造会社、工事請負会社等に対する監査がある。
 b.監査の運用
 図2に品質保証監査の体系の例を示す。監査にあたっては、監査チームの編成、監査計画作成等の監査の運営に関する方法を定め、監査を実施している。監査前の活動としては、監査チームは、監査計画を作成し、事前に被監査組織へ実施を通知する。監査の実施としては、被監査組織の保安活動が適切に実施されているかどうかを文書、記録の審査、質疑、現場調査等を通じて確認、評価する。監査終了時に、監査チームは被監査組織に対して監査結果を説明し、指摘事項または要望事項がある場合には、その内容を相互に確認する。監査後の活動としては、監査チームは、監査終了後にその結果を監査報告として作成し、責任者の承認を得るとともに被監査組織へ結果を通知する。是正措置・改善措置としては、監査の結果、監査チームの指摘事項に対し被監査組織は是正計画を作成し、その計画に従って是正措置を行う。監査チームは、被監査組織からの是正措置完了の報告を受けた後に是正措置を評価し、フォーロアップを行う。また、被監査組織は監査チームの要望事項に対し改善措置を行う。
(2)総合保安管理調査
 原子力発電所の過去のトラブル事象に鑑み、より一層の安全確保を図るために運転管理監督体制の充実強化として2年に1回程度行われる官庁の総合保安管理調査により、「法令、原子炉施設保安規定の遵守状況」、「官庁からの通達、指示事項の遵守状況」、「内外の事故・トラブル事例の反映状況」及び「その他保安活動」の事項について官庁の確認を受けている。
5.原子力安全規制の見直しによる品質保証体制の確立
 原子力発電所における、自主点検記録の不実記載(平成14年8月)、格納容器漏えい率検査の偽装(平成14年10月)など一連の検査・点検等の不正発生(文献(3)参照)の重大性に鑑み、再発防止策として国は原子力安全規制の見直しを行い、電気事業法及び原子炉等規制法の改正、原子力安全委員会のダブルチェック機能の強化など安全規制体制の強化を行った(詳細は文献(5)参照)。図3に原子力安全規制の見直しによる品質保証体制の確立を示す。
 この原子力安全規制の見直しによって品質保証体制が保安規定に記載されることになった。すなわち、電力会社は原子力部門の安全確保活動について他部門等による監査機能を含め経営者の明確な方針の下で実施できる体制を整備すること、軽微なトラブルなどの情報を収集し全社的活用を図ること、及び軽微な修理・改造に係る安全評価の実施について社内体制・意思決定のプロセスを確立することである。
 さらに、今まで品質保証活動の基になっていた日本電気協会の指針「原子力発電所建設の品質保証手引き」(JEAG 4101-2000)の改訂がなされ、新たに「原子力発電所における安全のための品質保証規程」(JEAC 4111-2003)が制定された。
<図/表>
表1 品質保証計画書の管理項目と内容
表1  品質保証計画書の管理項目と内容
表2 わが国の原子力発電所に係る品質保証の概要
表2  わが国の原子力発電所に係る品質保証の概要
表3−1 運転操作マニュアル記載項目(例)(1/2)
表3−1  運転操作マニュアル記載項目(例)(1/2)
表3−2 運転操作マニュアル記載項目(例)(2/2)
表3−2  運転操作マニュアル記載項目(例)(2/2)
図1 内部監査及び外部監査の仕組み(例)
図1  内部監査及び外部監査の仕組み(例)
図2 品質保証監査の体系の例
図2  品質保証監査の体系の例
図3 原子力安全規制の見直しによる品質保証体制の確立
図3  原子力安全規制の見直しによる品質保証体制の確立

<関連タイトル>
電気事業法(原子力安全規制関係)(平成24年改正前まで) (10-07-01-08)
燃料加工における検査工程及び品質保証 (04-06-02-06)
発電設備技術検査協会 (13-02-01-22)
原子力施設の検査制度の改正(平成15年改正の概要) (02-02-03-17)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会(編集・発行)実務テキストシリーズ No.1、軽水炉発電所のあらまし 改訂版、(1992年10月) p.322-344
(2)日本原子力産業会議:絵で読む 原子力の品質保証 改訂版、(1994年11月)
(3)原子力安全・保安院:原子力発電所の検査・点検等の不正問題の概要(2002年11月)
(4)原子力安全委員会:原子力発電施設の自主点検記録の不正等に対する対応について(2002年10月17日、原子力安全委員会決定)
(5)原子力安全・保安院:原子力安全規制関係省令改正について(2003年10月)
(6)日本電気協会原子力規格委員会:「原子力発電所における安全のための品質保証規程」(JEAC 4111-2003)について(2003年11月14日)
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