<本文>
1.本指針の位置づけと適用範囲
本指針は、「発電用軽水型原子炉施設に関する
安全設計審査指針」(以下、「設計指針」という)及び「発電用軽水型原子炉施設の
安全評価に関する審査指針」(以下、「評価指針」という)の定める所により軽水型動力炉すなわち加圧水型(PWR)及び沸騰水型(
BWR)原子炉の非常用炉心冷却系(ECCS)の設計上の機能及び性能を評価するためのものである。本指針の基本的考え方は、次の炉型のECCSの設計上の機能及び性能の評価に準用することができる。
(1)ジルカロイ製以外の被覆管の燃料を用いる軽水減速軽水冷却型原子炉。
(2)軽水又は重水冷却圧力管型原子炉。
2.判断基準
ECCSは、配管等の破断による原子炉冷却材喪失時に、炉心の冷却可能な形状を維持しつつ、事故を収束させる機能及び性能を有しなければならない。このことを確認するため、想定冷却材喪失事故の解析を行い、次の基準を満足することを示さなければならない。
(1)燃料被覆の温度の計算値の最高値は、1,200℃以下であること。
(2)燃料被覆の化学量論的酸化量の計算値は、酸化反応が著しくなる前の被覆管厚さの15%以下であること。
(3)炉心で燃料被覆及び構造材が水と反応するに伴い発生する水素の量は、
格納容器の健全性確保の見地から、十分低い値であること。
(4)燃料の形状の変化を考慮しても、
崩壊熱の除去が長期間にわたって行われることが可能であること。
3.解析に当たっての要求事項
前項の求める想定冷却材喪失事故の解析に当たっては、原則として以下の事項の要求を満足しなければならない。ただし、その妥当性が合理的に示し得る場合には、以下によらず、又は以下の要求する仮定等を省略することができる。
3.1 破断口
(1)破断口は配管等の任意の1個所に生ずるものとする。
(2)破断口の体様は両端破断及びスプリット破断とする。
(3)破断口の面積は、破断を想定する配管等の流路断面積の2倍を上限とし、冷却材の流出量が、補給水系の補給容量となる面積を下限とする。
(4)破断口からの冷却材の流出量を計算する相関式又は理論式、並びにこれを適用する際の原子炉冷却系のモデル化の方法は、実験データとの比較によってその妥当性が示されなければならない。これらの式の使用に際して用いられる係数等については、解析の不確実性を考慮して、解析の範囲に適切な余裕が確保できるように選定しなければならない。
(5)解析の結果、基準に照らして最も厳しいものとなる破断条件が明らかになるように、破断口の位置、体様ごとに、破断面積を変化させた解析結果を示さなければならない。
3.2 流体の挙動
(1)流体の挙動は、質量、エネルギー及び運動量の保存則並びに流体の状態方程式及び構成式の組み合せ、又は実験によって妥当性が示し得るモデルに基づいて計算しなければならない。
(2)二相流体の挙動の解析に当たっては、二相相互の流れの様相の影響を適切に考慮しなければならない。
(3)冷却系の構造物と流体間の熱伝達及びPWRの場合、
蒸気発生器を介しての1次、2次冷却系間の熱の授受の影響を考慮しなければならない。
(4)炉心、ダウンカマ等、多次元又は多数の平行流路の流動が予想される部分については、その効果を適切に考慮しなければならない。
(5)各流動径路における摩擦圧力損失は、実測値、実験値ないし設計値等の信頼し得るデータに基づいて適切に定めなければならない。二相摩擦増倍係数を採用する場合には、実験によって妥当性が示されている式又はデータを用いなければならない。
(6)冷却材ポンプの挙動は、ポンプの可動部分と流体との間の運動量交換を評価できる動的モデル又は実験によって妥当性が示されたモデルによらなければならない。二相領域でのポンプの評価方法については、実験との比較によって妥当性を示さなければならない。
(7)ECCSによって注入される水の挙動は、冷却系全体の伝熱と流動の解析に基づき、実験データとの比較によって妥当性が示し得る方法で評価しなければならない。
(8)事故過程中、冷却系内に非凝縮性ガスの発生又は注入がある場合には、その影響を適切に考慮しなければならない。
(9)被覆管の変形等により、事故過程中に流路の形状が変化することが解析で予測される場合には、その影響を実験に基づいて考察しなければならない。
(10)事故直前の冷却系各部の温度、圧力、流量等は、実験値、設計値又は信頼度の高い解析に基づいて定めなければならない。
3.3 ECCSの動作
(1)ECCSの動作を開始させる信号及びその信号の発生時刻を明らかにし、かつ、信号発生後ECCSの動作開始まで適切な時間遅れを見込まなければならない。
(2)外部電源が喪失して非常用所内電源のみの場合、及び外部電源がある場合について考察し、さらに、ECCS以外の系統及び機器の動作とその影響を考慮しなければならない。
(3)電源、機器の冷却系、その他ECCSの運転に必要な系統及び機器を含めて、「評価指針」の要求を満たすように適切に故障の仮定を設けなければならない。
(4)運転員の操作を要する場合には、その操作が必要とされる時期、時間的余裕、運転員に与える情報等を考慮し、「評価指針」の要求を満たして、運転員の操作に高い信頼度が期待できることを示さなければならない。
(5)ECCS性能の評価に当たっては、格納容器内圧は、各減圧装置の作動を見込んで低くなるように評価しなければならない。
(6)ECCSによる炉心の冷却効果は、実験結果に基づき、適切な安全余裕を含めて評価しなければならない。
3.4 熱源
(1)事故発生前、原子炉は定格出力の102%を下回らない出力で十分長時間運転を継続しているものとし、仮定された出力値は計器の誤差等も考慮してその妥当性が示されなければならない。炉心内の
出力分布は、許容されている範囲内で、基準に照して最も結果が厳しくなるように仮定しなければならない。
(2)事故中の核分裂による出力の変化は、妥当な方法で評価しなければならない。スクラム条件が満たされた時の制御棒挿入の効果、温度変化に伴うドップラ効果、及び蒸気泡発生による
反応度の変化を考慮することは妥当と認める。これらの反応度に及ぼす効果は、
燃焼度による変化を考慮して、結果が厳しくなるように評価しなければならない。
(3)事故発生前の
燃料棒内の蓄積エネルギーは、出力分布、ギャップ熱伝達率、燃料ペレットの熱伝導度及び熱容量等の燃焼に伴う変化を考慮し、結果が厳しくなるように評価しなければならない。
(4)崩壊熱の評価に当たっては、核分裂生成物及びアクチニドによるものを考慮することとし、実験データ等との比較によって適切な安全余裕を見込まなければならない。
(5)ガンマスミアリングの効果を考慮する場合には、評価方法の妥当性を明らかにしなければならない。
(6)被覆管の金属−水反応の反応速度及び反応熱は、実験との比較により妥当性の示し得る値を選ばなければならない。被覆管が破裂すると計算される場合には、その時点以降破裂個所近傍の内面も反応するとしなければならない。反応は、蒸気の供給不足により制限されることがないものとしなければならない。
3.5 燃料の挙動
(1)燃料棒の挙動を解析するために用いられる各種物性値については、燃焼に伴う変化も含めて、信頼性の高いものが選ばれていることを示さなければならない。
(2)燃料棒表面からの熱伝達として次の伝熱様式を考慮することは、妥当と認める。
(i)燃料棒表面と流体間の熱伝達
(ii)燃料棒と、他の燃料棒又は
炉内構造物との間の輻射熱伝達
(3)事故過程中に、被覆管が変形し、又は機械的に損傷する可能性を考慮しなければならない。被覆管の変形ないし損傷の計算に当たっては、被覆管の内外差圧、被覆管の温度及び温度変化率等を考慮し、実験と比較して妥当性を示し得るモデル又は基準に照らして厳しい結果となることを示し得るモデルに基づかなければならない。
被覆管に変形が生ずると計算された後は、流路面積及び形状、被覆管の厚さ、伝熱面積、ギャップ熱伝達率、輻射角関係等の変化を適切に考慮しなければならない。
(4)ジルカロイと水との反応による酸化量の計算は、Baker-Justの式により計算し蒸気の供給に制限がないものとする。被覆管が破裂すると計算される場合には、その時点以降破裂個所近傍の内面も反応するとしなければならない。反応は蒸気の供給不足により制限されることがないものとしなければならない。
<関連タイトル>
わが国においてECCSが作動した事故・故障 (02-07-02-01)
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 (11-03-01-05)
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針 (11-03-01-10)
<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員会 安全審査指針集、大成出版(1994)