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<概要>
 原子炉等規制法は、東京電力福島第一原子力発電所(以下、「福島第一発電所」という)の事故を受け、同事故の教訓や最新の技術的知見、国際原子力機関などの定める規制基準、海外の規制動向等を踏まえ、2012年(平成24年)6月に改正された。この法改正に基づき、規則、各種ガイド等により新規制基準を制定した。
 新規制基準の要点は、1)重大事故(シビアアクシデント)対策の強化、2)最新の技術的知見を取り入れ、既に許可を得た原子力施設にも新規制基準への適合を義務づける制度(バックフィット制度)の導入、3)運転期間延長認可制度の導入、4)発電用原子炉の安全規制に関する原子炉等規制法への一元化、などの措置を講ずることである。
 原子力規制委員会は、改正された原子炉等規制法の施行日(2013年7月)以降、新規制基準に対応する準備ができた電気事業者からの申請を受けて、原子力発電所の新規制基準への適合性審査を実施している。
<更新年月>
2014年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.新規制基準の制定に至る経過と法・規則改正等
 福島第一発電所の事故以前の安全規制に関しては、国会事故調査委員会及び政府事故調査委員会から、下記のような指摘がなされた。これらを受け原子力規制委員会は、新たな基準を既設の原子力発電所に対して遡及的に適用する法的仕組みを作成し、常に最高水準の安全性を図ることとした。
1)外部事象も考慮したシビアアクシデント対策が十分な検討を経ないまま、事業者の自主性に任され、規制の対象とされず十分な備えがなかった。(国会事故調)
2)設置許可された原発に対して遡って適用する(「バックフィット」といわれる)法的仕組みが何もなかった。(国会事故調)
3)日本では、積極的に海外の知見を導入し、不確実なリスクに対応して安全の向上を目指す姿勢に欠けていた。(国会事故調)
4)地震や津波に対する安全評価を始めとして、事故の起因となる可能性がある火災、火山、斜面崩落等の外部事象を含めた総合的なリスク評価が行われていなかった。(政府事故調)
5)複数の法律の適用や所掌官庁の分散による弊害のないよう、一元的な法体系となることが望ましい。(国会事故調)
 福島第一発電所の事故では地震、津波という共通要因により安全機能が一斉に喪失した。地震により外部電源が喪失し、津波によって所内電源の喪失・破損が生じ、このように大部分の電源を長時間失ったことにより、冷却不全、炉心損傷、格納容器破損、水素発生と漏洩、水素爆発による原子炉建屋の損傷、放射性物質の外部放出というようにシビアアクシデントが進展していった。この事故の教訓及び上記の指摘に基づき、2012年(平成24年)6月に原子炉等規制法が改正された。原子力規制委員会は、この法改正に基づき、下記等の規則を2013年(平成25年)6月28日に制定した。
・原子力規制委員会規則第四号、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則
(耐震構造、核燃料物質貯蔵用冷却設備の構造及び冷却能力、非常用格納容器保護設備の構造、重大事故等)
・原子力規制委員会規則第五号、実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造の基準に関する規則(設計基準対象施設、重大事故対象施設等)
・原子力規制委員会規則第六号、実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則(設計基準対象施設、重大事故対象施設等)
 また、審査基準、評価ガイド等の内規は、表1に示すように審査基準(5件)、規制基準(15件)新安全規制の手続き内規(7件)に区分し、2013年(平成25年)6月19日に決定した。
 原子力規制委員会は、改正炉規制法の施行(2013年(平成25年)7月8日)にあたり、参考資料「実用発電用原子炉に係る新規制基準について(概要)」を2013年(平成25年)7月3日に公表した。
2.新規制基準
2.1 新規制基準の基本的な考え方
 新規制基準では、次の4項に要約するように「深層防護」を基本とし、共通要因による安全機能の一斉喪失を防止する観点から、自然現象の規模の想定と対策を大幅に引き上げた。また、自然現象以外でも、共通要因による安全機能の一斉喪失を引き起こす可能性のある事象(火災など)について対策を強化することとした。
1)「深層防護」の徹底
 目的達成に有効な複数の(多層の)対策を用意し、かつ、それぞれの層の対策を考えるとき、他の層での対策に期待しない。
2)共通要因故障をもたらす自然現象等に係る規模の想定の大幅な引き上げとそれに対する防護対策の強化
 ・地震・津波の評価の厳格化、津波浸水対策の導入、多様性・独立性の十分な配慮
 ・火山・竜巻・森林火災の評価の厳格化
3)自然現象以外の共通要因故障を引き起こす事象への対策の強化
 ・火災防護対策の強化・徹底、内部溢水対策の導入、電源の確保(表2
4)基準において必要な「性能」の規定(性能要求)
 ・基準を満たすための具体策は事業者が施設の特性に応じて選択
2.2 シビアアクシデント対策、テロ対策における基本方針
 新規制基準では、次の5項目に要約するように、万一のシビアアクシデントが発生した場合に備え、シビアアクシデントの進展を食い止める対策を要求している。また、法目的にテロの発生を想定する旨が追加されたことも踏まえ、テロとしての航空機衝突への対策も要求している。
1)「炉心損傷防止」、「格納機能維持」、「ベントによる管理放出」、「放射性物質の拡散抑制」という多段階にわたる防護措置。
2)可搬設備での対応(米国式)を基本とし、恒設設備との組み合わせによる信頼性のさらなる向上。
3)使用済み燃料プールにおける防護対策の強化。
4)緊急時対策所の耐性強化、通信の信頼性・耐久力の向上、使用済み燃料プールを含めた計測系の信頼性、耐久力の向上(指揮通信、計測系の強化)。
5)ハード(設備)とソフト(現場作業)が一体となり機能を発揮することが重要であることから、手順書の整備、人員の確保、訓練の実施等。
2.3 耐震・耐津波性能
 津波対策としては、既往最大を上回るレベルの津波を「基準津波」として策定し、基準津波への対応として防潮堤等の津波防護施設等の設置を要求している。津波防護施設等は、地震により浸水防止機能等が喪失しないよう、原子炉圧力容器等と同じ耐震設計上最も高い「Sクラス」とする。津波対策についても、敷地内への浸水を防止するための防護壁の設置に加えて、建屋内への浸水を防止するための防潮扉の設置等、防護の多重化を要求している。
 津波を発生させる要因として、以下の事象を検討していることを確認する。
・プレート間地震(発生事例:2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0))
・海洋プレート内地震(発生事例:1933年昭和三陸地震(Mw8.4)
・海域の活断層による地殻内地震(発生事例:1983年日本海中部地震津波(Mw7.9)、1993年北海道南西沖地震津波(Mw7.7))
・陸上及び海底での地すべり、斜面崩壊
・火山現象(噴火、山体崩壊、カルデラ陥没等)
 津波の評価は、地質学的証拠及び歴史記録等に基づき確認する。
2.4 基準地震動
 基準地震動策定に係る審査フローを図1に示す。基準地震動の策定における基本方針は以下のとおりとする。
(1)基準地震動は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」について、それぞれ解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として策定されていること。
(2)「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は、内陸地殻内地震、プレート間地震及び海洋プレート内地震について、敷地に大きな影響を与えると予想される地震(以下、検討用地震)を複数選定し、選定した検討用地震ごとに不確かさを考慮して、応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価により、それぞれ解放基盤表面までの地震波の伝播特性を反映して策定されていること。不確かさの考慮については、敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で、必要に応じて不確かさを組み合わせるなどの適切な手法を用いて評価すること。
(3)「震源を特定せず策定する地震動」は、震源と活断層を関連づけることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し、これらを基に各種の不確かさを考慮して、敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定し策定されていること。
(4)「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」を相補的に考慮することによって、敷地で発生する可能性のある地震動全体を考慮した地震動として策定されていること。
 ここで、「解放基盤表面」とは、基準地震動を策定するための基盤面上の表層や構築物がないものとして仮想的に設定する自由表面であって、著しく高低差がなく、ほぼ水平で相当な拡がりを持って想定される基盤の表面をいう。「基盤」とは、概ねせん断波速度Vs=700m/s以上の硬質地盤であって、著しい風化を受けていないものをいう。また「地震基盤」とは、せん断波速度Vs=3000m/s 程度以上の地層をいう。
2.5 地震による揺れに加え地盤の「ずれや変形」に対する基準の明確化
 活断層が動いた場合に建屋が損傷し、内部の機器等が損傷するおそれがあることから、耐震設計上の重要度Sクラスの建物・構築物等は、活断層等の露頭(*)がない地盤に設置することを要求している。開削工事の結果、建物・構築物等の接地を予定していた地盤に現れた露頭も含む。(露頭とは、断層等が表土に覆われずに直接露出している場所のことをいう。)
2.6 活断層の認定基準
 将来活動する可能性のある断層等は、1)後期更新世以降(約12〜13万年前以降)の活動が否定できないものとし、必要な場合は、2)中期更新世以降(約40万年前以降)まで遡って活動性を評価することを要求している。
2.7 より精密な「基準地震動」の策定
 原子力発電所の敷地の地下構造により地震動が増幅される場合があることを踏まえ、敷地の地下構造を三次元的に把握することを要求している。
2.8 その他の自然現象の想定と対策の強化
 共通原因による安全機能の一斉喪失を防止する観点から、火山・竜巻・森林火災について、想定を大幅に引き上げた上で防護対策を要求している。火山の例では、原子力発電所の半径160km圏内の火山を調査し、火砕流や火山灰の到達の可能性、到達した場合の影響を評価し、予め防護措置を講じることを要求している。
2.9 自然現象以外の事象による共通要因故障への対策
 自然現象以外に共通要因による安全機能の一斉喪失を引き起こす事象として、停電(電源喪失)への対策を抜本的に強化する。また、火災・内部溢水などについても対策を強化する。火災対策の例としては、安全機能を有する構築物等のケーブルについて、実証試験により難燃性が確認されたものを用いることを要求している。
2.10 炉心損傷防止対策
 万一共通原因による安全機能の一斉喪失などが発生したとしても炉心損傷に至らせないための対策を要求している。
・電源喪失時には、可搬式電源等によって圧力抑制プールに至る配管の弁を開放し、原子炉圧力容器を減圧し、可搬式注水設備等による注水が可能となるまで原子炉を減圧する。
・原子炉を減圧後、可搬式注水設備により炉心へ注水する。
2.11 格納容器破損防止対策
 炉心損傷が起きたとしても格納容器を破損させないための対策を要求している。
・格納容器内圧力及び温度の低下を図り、放射性物質を低減しつつ排気するフィルターベント系を設置する。
・溶融炉心により格納容器が破損することを防止するため、溶融炉心を冷却する格納容器下部注水設備(ポンプ車、ホースなど)を配備する。
2.12 敷地外への放射性物質の拡散抑制対策
 格納容器が破損したとしても敷地外への放射性物質の拡散を抑制するための対策を要求している。(屋外放水設備の設置など(原子炉建屋への放水によって放射性物質のプルーム(大気中の流れ)の発生を防ぐ))。
2.13 意図的な航空機衝突などへの対策
 意図的な航空機衝突などへの可搬式設備を中心とした対策(可搬式設備・接続口の分散配置)を要求している。バックアップ対策として常設化を要求(特定重大事故等対処施設の整備)している。
3.新規制体系と規制適用制度
3.1 新規制体系
 発電用原子炉施設に係る規制体系には、福島第一原子力発電所事故に係る調査委員会等の指摘が反映されている。設置許可段階での重大事故対策・技術能力、工事計画認可・使用前検査等に係る規制ついて、電気事業法から原子炉等規制法へ一元化することなどが盛り込まれている。
3.2 新規制基準への適合を求める時期(表3参照)
 今回、福島第一原発事故の教訓を踏まえて必要な機能(設備・手順)はすべて、2013年7月の新規制の施行段階で備えていることを求めている。ただし、信頼性をさらに向上させるバックアップ施設については、施行から5年後までに適合することを求めている。
3.3 新規制施行後の当面の審査・検査の進め方
 通常の審査においては、設置許可、工事計画認可、保安規定認可に係る審査を段階的に実施する。今回の審査では、設備の設計や運転管理体制等、ハード・ソフトの両面の実効性を一体的に審査することとし、設置許可、工事計画認可、保安規定認可について、事業者から同時期に申請を受け付け、同時並行的に審査を実施する。
3.4 高経年化対策及び運転期間延長認可に係る制度
 高経年化対策制度として、運転開始後30年を経過する原子炉施設を対象に、以降10年ごとに機器・構造物の劣化評価及び長期保守管理方針の策定を義務づけ、これを保安規定認可に係らしめる制度を設ける。
 運転期間延長認可制度として、発電用原子炉を運転することができる期間を運転開始から40年とし、その満了までに認可を受けた場合には、1回に限り延長することを認める制度を設ける。延長期間の上限は20年とし、具体的な延長期間は審査において個別に判断する。通常保全で対応すべきものを除き、これまで劣化事象について点検していないもの、点検範囲が一部であったもの等を抽出し詳細な点検を求める。
4.安全目標について
 新安全規制が実現しようとする目標として、諸外国において設定がなされている「安全目標」に関しては、我が国では旧原子力安全委員会にて決定がなされていなかったため、原子力規制委員会は、この検討を進め、下記の内容を平成25年4月に合意した。
1)旧原子力安全委員会安全目標専門部会における検討結果(*)を議論の基礎とする。
 *炉心損傷頻度:10-4/年程度、格納容器機能喪失頻度:10-5/年程度等
2)放射性物質による環境への汚染の視点も取り込むこととし、事故時の137Csの放出量が100TBq を超えるような事故の発生頻度は、100 万炉年に1回程度を超えないように抑制されるべきである(テロ等によるものを除く)。
3)安全目標は、すべての発電用原子炉に区別無く適用するべきである。
4)安全目標は、原子力規制委員会が原子力施設の規制を進めていく上で達成を目指す目標である。
5)安全目標に関する議論は、今後とも引き続き検討を進めていく。
<図/表>
表1 実用発電用原子炉の新安全規制に関連する審査基準、評価ガイド等の内規リスト(平成25年6月19日、原子力規制委員会決定)
表1  実用発電用原子炉の新安全規制に関連する審査基準、評価ガイド等の内規リスト(平成25年6月19日、原子力規制委員会決定)
表2 新基準と従来の基準との比較(電源)
表2  新基準と従来の基準との比較(電源)
表3 新規制基準への適合を求める時期
表3  新規制基準への適合を求める時期
図1 基準地震動策定に係る審査フロー
図1  基準地震動策定に係る審査フロー

<関連タイトル>
福島第一原発事故の概要 (02-07-03-01)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)
原子炉等規制法(平成24年改正)の概要 (10-07-01-05)

<参考文献>
(1)政府事故調:東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会報告書・中間報告(平成23年12月26日)、
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/icanps/post-1.html
(2)政府事故調:東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会報告書・最終報告(平成24年7月23日)、
・本文編:
・資料編:
(3)国会事故調:東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書(平成24年7月5日)、http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/report/
(4)電子政府(法令)、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年六月十日法律第百六十六号)、

(5)原子力規制委員会規則第十六号、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(平成25年1月26日最終改正)、

(6)原子力規制委員会規則第五号、実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造の基準に関する規則(平成25年6月28日)、

(7)原子力規制委員会規則第六号、実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則(平成25年6月28日)
(8)原子力規制委員会:実用発電用原子炉に係る新規制基準について−概要−(平成26年2月)
(9)基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド(平成25年6月28日)
(10)基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(平成25年6月28日)
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