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<概要>
 1957年より旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)において行われてきた原子力研修では、ラジオアイソトープ(RI)・放射線技術、原子炉工学および原子力防災の各分野で数日から数か月にわたる各種コースを設定して、受講希望者に研修を実施している。その結果として国内原子力界、ひいては国際的な場において原子力の知識普及に貢献してきた。このような研修の役割は近年受講者のニーズの変化などから変わりつつあり、コースの改廃を実施する一方で、研究機関としての豊富な人的資源、施設的資源の活用を通じて、次第に大学の原子力教育の一部を担うようになっている。
<更新年月>
2006年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
(1)研修の沿革
 原子力の技術者を養成するために、日本原子力研究所(原研:現在、日本原子力研究開発機構)のラジオアイソトープ研修所が1957年に東京の駒込に設立され、続いて原子炉研修所が1959年に原研東海研究所(現日本原子力研究開発機構原子力科学研究所)に設立された。両者は1975年にラジオアイソトープ・原子炉研修所として組織的に統合され、2個所でそれぞれの分野の研修が所内外の受講生を対象に行われてきたが、1996年には国際原子力総合技術センターと改称してアジア等への原子力支援の研修事業をも開始した(参考文献1)。また、2003年には駒込のアイソトープ研修施設をすべて東海研究所に移設して、施設・研修内容の実体的統合を図った(参考文献2)。この間、2000年に施行された原子力災害対策特別措置法などを受けて、原子力防災研修を拡張し、行政等の要請に応えた。さらに2005年10月に実施された日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)と核燃料サイクル開発機構との統合による独立行政法人・日本原子力研究開発機構(原子力機構)の設立後は、それまで核燃料サイクル開発機構で専ら組織内人材養成として行われてきた研修をも加え、組織的に一体化した原子力研修センターにおいて多様な研修を実施することになった。
 この組織内人材養成を別として、対外的に養成してきた受講者総数は、海外研修者を含め2004年度末で55000余人に上る(参考文献3)。
(2)研修の現状
 原研(統合前)における国内の原子力研修では、社会人の再教育を目的として各種の講座や課程を有料で設定し、社会一般(企業、研究機関、行政等)から広く受講者を募集して行ってきている(参考文献4、5、6)。これらの課程は「RI・放射線技術者の養成」と「原子力エネルギー技術者の養成」とに大別されていたが、近年では原子力防災に関する法整備と行政の要請に応えるべく「原子力防災関係者の養成」が対象者数で大きな割合を占めてきた。これら3分野の各コース内容と過去5年間の受講者数の推移を表1に示す。また前二者の推移のグラフを図1図2に示す。
 これらの研修コースの特徴として、原子力研究機関としての豊富な人材と実験施設・設備を研修内容に当てている点がある(図3図4図5)。受講者は、専任の教官を始め、各専門分野の研究者の講師陣から学べ、座学に偏ることなく大型施設や計測器等の設備にじかに触れて各課目の内容を体得できるように構成されている。
 1)RI・放射線技術者の養成
 開設時から行われてきているこの分野の研修では、RIや放射線の取扱技術を習得する基礎課程や放射線防護の専門課程が実施されている。これらの内容は講義と実習がほぼ同時間数配置され、放射線の取扱業務に携わるための実践的知識が身に付くよう構成されている。また、国の資格取得の要件となる実習の講習が、登録講習機関としての認可を得て行われており、第1種作業環境測定士と第1種放射線取扱主任者の試験合格後の免状申請の要件を満たすための講習を実施している。
 受講者推移は図1にグラフ化されているとおり、施設移設の影響を受けた2002年の減少のほかは、多くのコースでは概ね一定の受講者を得ている。特に登録講習の2コースはRI・放射線利用の産業情勢を背景に、各回定員を超える応募があり、多数の受講希望者には実施回数増によって対応している状況にある。一方、「RI・放射線初級コース」、「放射線管理コース」は受講者が漸減状況にあり、2006年度から廃止された。
 2)原子力エネルギー技術者の養成
 原子炉工学の各課程は、原子炉主任技術者核燃料取扱主任者の資格試験にも対応したコースとして設立時から実施されてきた。前者ではコースの習得が、国の認定を受けて以後は口頭試験に必要な実務経験とみなされる。さらに「原子炉工学特別講座」は炉主任資格試験を対象にした受験講座で、合格者に占めるこれらコースの受講者の率は高い。また、入門的講座では、一般企業人、原子力の研究者や規制関係者にも広く研修の場を提供してきている。
 この分野のコースについても、多くは図2に示す受講者数推移が漸減傾向にある。おそらく原子炉新設の停滞する状況下で有資格者の需要が減ったことと、高度の知識の研修には自前のコース設定をする企業も出てきていることを反映しているためと見られる。他方で、中性子利用入門講座のような新設講座では一定の充足率を満たしており、産業、研究機関等からの中性子利用知識のニーズがあるものと思われる。このような社会情勢に合わせ、ニーズの低下した原子力入門、核燃料・放射線、廃棄物管理の各講座は廃止された。また、新たに原子力分野の技術士資格に対応した講座も準備されている。
 3)原子力防災関係者の養成
 従来、自治体職員を対象に行われてきた「原子力防災入門講座」、「原子力防災対策講座」は原子力災害対策特別措置法の制定を受けて内容を実践的なものとし、多くの受講者を養成してきた。また、原子力事故時に実践的な防災活動を行うための「原子力特別防災研修」、原子力防災専門官や保安検査官を養成するための「原子力専門官研修」を新設して多くの原子力関係職員を養成してきた。その数は表1に見るとおり多きに上る。特に自治体に出向いて講義・実習を行う「原子力防災入門講座」は多数の消防、警察、病院関係者等を受講者に得て盛況に推移した。しかし、国の規制官の養成を対象にした防災対策や専門官研修は、対象者にほぼ行き渡り、役割を果たした状況にある。
 これらの防災研修は2005年度下期より大幅に改編し、原子力機構としては、原子力緊急時支援・研修センターに移して、原子力防災対策実践研修の各コース、オフサイトセンター機能班訓練、原子力防災専門官緊急時対応研修として平常時業務の中で実施している(参考文献7)。
 4)その他の研修
 上述した国内向け研修の他に、アジア等の途上国における原子力利用を安全で円滑に遂行できるための国際支援研修も重要である。文部科学省の委託事業として実施されている「指導教官研修」ではインドネシア、タイ、ベトナムから数名ずつの指導的若手技術者を招いて、放射線防護・計測等の知識を与える。さらに、これらの受講者が帰国後多くの研修生を指導できるよう「講師海外派遣研修」を実施し、自立を支援している。このほかIAEAの保障措置の研修への協力や、「アジア原子力安全ネットワーク」への協力も行っている(参考文献4)。
(3)新たな状況への対応
 原子力の人材養成が原子力委員会の「原子力政策大綱」(参考文献8)にも重要課題として挙げられ、原子力機構の中期目標における中核業務の一つとして採り上げられたことから、単に研修コース設定で募集した受講者を養成するに留まらず、研修の枠を超えて大学等所外からの要請に応えて、人材教育に、持てる資源を当てて協力することが、強く求められるようになっている。
 その一つの実践が、東京大学の原子力専攻(専門職大学院)等(参考文献9)への協力である。東大と原子力機構の両者は2005年4月に協定を締結し、専攻で運営する講義、演習、実習に対して100人におよぶ多数の原子力機構の講師協力が行われている。また、実習には原子力機構の東海研究開発センターの多様な実験施設の場を提供し、2005年度は15名、2006年度は17名の学生および社会人がこれらを活用して原子力を学んでいる。この修了者には原子炉主任技術者、核燃料取扱主任者の試験の一部免除の資格も与えられる。
 もう一つの人材養成協力の形態は、連携大学院制度である。各大学はこの制度の認可を得て原子力機構等と連携大学院の協定を締結することにより、必要な講座に客員教員を委嘱し、講義、演習を依頼することができる。そのほか、この教員を指導教員として施設への大学院生の受け入れを依頼し、日常の研究活動の指導を受けさせることができる。2005年度末において、このような制度の協定を締結している大学は11あり、客員教授等の委嘱を受けている原子力機構の研究者は約50名に上っている。
<図/表>
表1 分野別コースと過去5年間の受講者数の推移
表1  分野別コースと過去5年間の受講者数の推移
図1 RI・放射線技術者養成分野の受講者推移
図1  RI・放射線技術者養成分野の受講者推移
図2 原子力エネルギー技術者養成分野の受講者推移
図2  原子力エネルギー技術者養成分野の受講者推移
図3 日本原子力研究開発機構の原子力研修センター外観
図3  日本原子力研究開発機構の原子力研修センター外観
図4 指数実験装置と移動面積測定装置
図4  指数実験装置と移動面積測定装置
図5 臨界集合体(TCA)
図5  臨界集合体(TCA)

<関連タイトル>
原子力教育における教員研修 (10-08-02-05)
日本原子力研究開発機構 (13-02-01-35)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:日本原子力研究所史(2005)、p.465
(2)国際原子力総合技術センター:国際原子力総合技術センターの活動(平成15年度)、JAERI−Review 2004-022(2004)
(3)国際原子力総合技術センター:国際原子力総合技術センターの活動(平成16年度)、JAERI-Review 2005-033(2005)
(4)傍島眞:原子力研修の現状と今後 社会のニーズに合わせるために、日本原子力学会誌、Vol.47、No.10、693-697(2005)
(5)JAEA・NuTEC:
(6)日本原子力研究開発機構:研修生募集案内(2006)
(7)原子力緊急時支援・研修センター:緊急時・平常時の活動
(8)原子力委員会:原子力政策大綱(2005)
(9)班目春樹ら:大学における原子力学教育の再構築−V. 東京大学の原子力専攻(専門職大学院)と原子力国際専攻、日本原子力学会誌、Vol.47、No5、321-324(2005)
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