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<概要>
 文部科学省からの委託により(財)放射線利用振興協会は、原子力・放射線の知識を普及するため教員を対象とした「原子力体験セミナー」を実施している。平成2年度から平成16年度までの受講者総数は8,000名を超えた。ここでは、本セミナーの経緯、内容、実施状況について紹介するとともに、セミナー後に行ったアンケート調査の検討結果について述べる。セミナー受講者が得た知識は授業に広く活用されている。
<更新年月>
2005年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.まえがき
 どのようなエネルギー源をどのように利用するかは長期にわたる国の大きな課題であり、エネルギーや原子力について幼少時より適切な形で教育することが重要である。このため原子力委員会や文部科学省は原子力・エネルギーの教育に関して基本方針を定めている。平成15年版原子力白書に学校における原子力・放射線教育について、「原子力に関する教育は、エネルギー教育や環境教育の一環として、また、科学技術、放射線等に関する理解の観点から、体系的かつ総合的に捉えることが重要であり、各教科における学習の充実とともに新しい学習指導要領において新設された『総合的な学習の時間』等を活用することが有効である」としている。(文献1)
 このような国の基本方針に基づいて(財)放射線利用振興協会(放振協)は文部科学省の委託を受けて全国の小学校、中学校、高等学校の教員を対象とする「原子力体験セミナー」事業を実施し、学校における原子力・放射線教育の環境整備を支援している。(文献2)

2.原子力体験セミナーの経緯
 昭和47年当時の科学技術庁(現文部科学省)は文部省(現文部科学省)の後援を得て、全国の高等学校及び高等専門学校の教員を対象として原子力・放射線について正しい知識の普及を図るために「原子力実験セミナー」を放射線医学総合研究所と日本原子力研究所(原研(現日本原子力研究開発機構))で開始した。平成2年度からは特別会計予算による委託事業として原研が単独で実施することとなり、原研の研修施設を使用した原研コースのほか、各県の教育センター等を会場とした地域コースを開設した。平成10年度からは全ての事業が放振協に委託され、平成11年度には「原子力実験セミナー」の名称を「原子力体験セミナー」と改称した。その後、平成13年度に授業への活用を検討する「授業実践研究コース」や文系の教員を対象とする「文系コース」を開設するなど事業規模を飛躍的に拡大し、さらに平成15年度に「上級理科コース」を開設するなど充実を図ってきた。平成15年度の受講者定員は約1,400名である。

3.実施体制
 原子力体験セミナーのカリキュラム、開催時期、教材開発などの運営全般を審議するために運営委員会を設置している。同委員会は、教育界で原子力・放射線教育に造詣の深い人、原子力の専門家、及び、各県の教育センターの指導主事や教育事務所の課長職の人等によって構成されており、その下にカリキュラムの詳細や実施方法および教材等について検討するための各種ワーキンググループを置いている。講師は、原研、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)、大学、電力中央研究所、放射線医学総合研究所、放振協、放射線計測協会の専門家等のほか、専門コース「授業実践研究コース」ワークショップのファシリテータ世話人や「文系コース」の授業実践報告者として小学校、中学校、高等学校の教員に依頼している。

4.セミナーの構成と講座の内容
 平成15年度に実施した原子力体験セミナーの種類、コース名、ねらいなどを表1に示す。全部で40コースあり、全国から受講者を募集する“全国コース“と地域の特性や要望に応じてカリキュラムを組み“地域で開催するコース”の2種類に大別される。
 全国コースは、受講者の興味・関心や知識レベルに応じて選択できる「基礎コース」、「科学コース」及びいずれかのコースの既受講者がレベルアップすることを目的とした「専門コース」に分かれる。「科学コース」には理科、産業科学、社会科学、環境科学、生活科学の5コースがある。「専門コース」には、セミナーで得た知識を授業に活かす授業計画を検討する「授業実践研究コース」と原子炉の原理や運転についてより深く学ぶ「上級理科コース」がある。
 地域で開催するコースには全国を10ブロックに分け各ブロックで主として文系の教員を対象として実施している「文系コース」と県や市町村、あるいは学校や教育研究団体を単位としその要望に応じてカリキュラムを組んで開催する「地域コース」がある。「文系コース」はNPO法人放射線教育フォーラムとの共催で実施している。「地域コース」は、教育センターのセンター講座として採用されている場合や教育研究会の研修の一部として採用されている場合もある。
 開催期間は、コースにより半日から4日間に設定している。全国から受講者を募集するコースと「文系コース」は、主として夏休みや冬休み期間中に開催し、「地域コース」は、年間を通して開催している。開催会場として、原研の各研究所のほか、民間の研修施設や会館等を使い、地域コースでは、各地域の教育センターや大学・学校の教室を借用している。セミナーのカリキュラムは、講義、実験・実習、施設見学及びワークショップで構成し、その時間割合は、講義が50%、実験・実習と見学を合わせて50%程度である。
 講義、実験・実習については、教員が知っておくべき原子力の基礎知識やエネルギー資源問題、放射線の基本的性質や医療・産業への応用、自然や生活の中での放射線の特性を学べるように標準的なものを用意している。これらを表2に示す。具体的な内容は、受講者の担当教科や知識レベルを考慮して各講師が調整している。
 施設見学先としては、原研の研究用原子炉、核融合研究施設(JT-60)、放射性廃棄物処理施設、大型放射光研究施設(SPring-8)、γ線照射施設、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)の高速炉「常陽」と「もんじゅ」、放射線総合医学研究所の重粒子ガン治療施設(HIMAC)、原子力発電所、民間の核燃料サイクル施設、核燃料製造施設、放射線照射施設などからコースのねらいや開催場所に応じて適切な対象を選択している。
 教材については、受講者が原子力・放射線についての理解を促進し、また児童・生徒への授業にも活用できるように体験的に学べる教材、視聴覚教材や各種資料を用意しており、これらを表3にまとめて示す。

5.受講対象者
 平成2年度からこれまでの受講者総数は7,500名を超えているが、受講対象となる全国の小学校、中学校、高等学校及び養護学校等の教員総数は平成15年5月現在100万人弱であり(文献3)、これまでに原子力体験セミナーを受講した教員数の総数に対する割合は、全国平均でまだ1%に達していない。都道府県別の受講者数をその所属教員数で割った割合を図1に示す。この割合が1%を超えている県は、原子力発電所の立地県が多いがそれでも2%未満である。また、東京都、大阪府、愛知県、福岡県など大都市圏ではこの割合はまだ低い。このことは今後もセミナーを継続していく必要のあることを示している。平成15年度に受講した中学校と高等学校の教員の担当教科は、理科系と工業系が多く45%を占めているが、文系教科と小学校全教科もそれぞれ13%、24%を占めており、受講対象者の裾野が広がってきていることが分かる。

6.アンケート調査の集計結果と検討
 原子力体験セミナーの受講直後と受講1年後にアンケート調査を行った。受講直後のアンケート調査では、受講者の所属校種、担当授業分野、原子力・放射線について教えたことがあるかどうか、セミナーの内容についての感想などを調査し、以後の原子力体験セミナーのカリキュラム設計や講師の選定などに反映するよう努めている。
 平成15年度の基礎コースと科学コース受講者の受講直後アンケートについての集計結果を表4に示す。受講者の所属は、「基礎コース」では中学校と小学校が多く、「科学コース」では、高等学校と中学校が多い。受講の動機としては(1)授業に役立てたい(2)教員自身の知識の向上(3)エネルギー・環境問題に関心がある、である。セミナーのカリキュラムの構成を良いとする割合は「基礎コース」受講者で82%、「科学コース」受講者で76%である。両コースとも講義および実験・実習の構成内容がともに良いとする割合が圧倒的に多かった。
 教員は原子力・放射線を授業で取り扱う必要性を感じており、そのためにも、自身の知識レベルを上げ、またエネルギー・環境の問題の中で原子力の位置づけを明確にしておきたいということであろう。平成14年度から実施された新学習指導要領では原子力を含めたエネルギー教育の重要性が指摘されているが、実際に授業をする際には、教員が正確な知識や体験的な知識を得ておくことが必須であろう。このことからも原子力教育の支援が必要と考えられる。
 次に受講1年後アンケートとして、平成15年度には、平成14年度のセミナー受講者を対象として受講後1年間にセミナーで得た知見及び持ち帰ったVTRソフトウエアやCAIソフトウエアを活用したことがあるかどうか調査した。アンケートを送付した教員の総数は1,120名であり、そのうち381名から有効な回答を得た。集計結果を表5に示す。
 講義で得た知見を授業に活用したことのある教員の割合は、全校種平均で65%であったが、校種別では中学校、高等学校が多かった。活用した講義題目は「放射線とは」、「原子力とは」と「資源・エネルギーと地球環境」が多い。これらの講義題目は、主として理科と総合的な学習の時間で活用されている。実験・実習で得た知見を活用した教員の割合は、全校種平均で36%であったが、校種別では高等学校が多い。実験・実習を活用している教科はほとんどが理科と総合的な学習の時間である。施設見学で得た知見を授業で活用したことのある教員の割合は、全校種平均で49%であるが、校種別では高等学校が多かった。VTRソフトウエアとCAIソフトウエアを持ち帰って活用したことのある教員の割合は全校種平均で43%であった。
 セミナーで得た何らかの知見を授業で活用した教員の割合は、全校種平均で70%とかなり高く、セミナーで得た知見が教育現場で役立てられている。
<図/表>
表1 原子力体験セミナー各コースの構成とねらい
表1  原子力体験セミナー各コースの構成とねらい
表2 講義と実験・実習の題目
表2  講義と実験・実習の題目
表3 使用または配布している教材
表3  使用または配布している教材
表4 受講直後のアンケートの結果(平成15年度受講者)
表4  受講直後のアンケートの結果(平成15年度受講者)
表5 受講1年後のアンケートの結果(平成14年度受講者)
表5  受講1年後のアンケートの結果(平成14年度受講者)
図1 都道府県別教員数に占める平成15年度までの受講者数の割合
図1  都道府県別教員数に占める平成15年度までの受講者数の割合

<関連タイトル>
日本原子力研究開発機構における原子力研修の活動 (10-08-02-06)
放射線利用振興協会 (13-02-01-23)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):平成15年版原子力白書、2003年12月
(2)(財)放射線利用振興協会(編):放射線と産業、特集‘学校教育における放射線教育’、No.104,2004年12月
(3)全国学校データ研究所:全国学校総覧 2004年度版
(4)原子力委員会:原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画、平成12年11月24日
(5)植田脩三、安田秀志、平林孝圀:報告、原子力教育における教員研修「原子力体験セミナー」の役割、日本原子力学会誌、Vol.47,No.3,30-34(2005)
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