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<概要>
 本訴訟は、日本原子力発電(株)東海第二発電所の原子炉設置許可処分(昭和47年(1972年)12月23日)の取消しを求めた行政訴訟(昭和48年(1973年)10月提訴)である。水戸地方裁判所における第一審判決(昭和60年(1985年)6月25日)は請求棄却であり、国側の勝訴となった。
 原告側は同年7月5日に東京高等裁判所へ控訴したが、平成13年(2001年)7月4日、東京高等裁判所は住民らの請求を棄却した。
 平成13年(2001年)7月18日に原告側は最高裁判所へ上告した。最高裁判所第三小法廷は、平成16(2004年)年11月2日に上告棄却、上告不受理を決定し、原告側の敗訴が確定した。
<更新年月>
2013年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.本訴訟の概要
 本訴訟は、東海第二発電所(日本原子力発電(株)BWR 110万kW)の設置に際して内閣総理大臣が行った原子炉等規制法第23条に基づく原子炉設置許可処分(昭和47年(1972年)12月23日)に対し、周辺住民17名が許可処分の取消しを求めて内閣総理大臣を被告として昭和48年(1973年)10月27日に水戸地方裁判所に提訴した行政訴訟であり、原子力発電に関する行政訴訟としては、伊方1号炉訴訟(昭和48年(1973年)8月提訴)に続くわが国で2番目の訴訟である。日本原電東海第二訴訟の主な経緯を表1に示す。
2.訴訟の経緯と判決
 訴訟提起後10年余にわたり水戸地方裁判所において審理が行われた結果(口頭弁論 59回、現地検証 1回)、昭和60年(1985年)6月25日に第一審判決がなされ、原告らの請求は棄却された。第一審においては、原告適格等の法律上の争点ならびに燃料棒の健全性、配管・材料の健全性(SCC問題(SCC:Stress Corrosion Clacking:応力腐食割れ))、ECCS(Emergency Core Cooling System:非常用炉心冷却系)の有効性、平常運転時の被ばく低減対策、TMI(Three Mile Island Nuclear Power Plant:スリーマイルアイランド原子力発電所)事故等の原子炉の安全性に関する技術上の問題が争点となった。第一審判決では原告適格を認めたものの、本件原子炉の設置について、その安全性が確保されることから、原子炉等規制法第24条1項4号の許可基準に適合しているとする被告の判断には合理的根拠があるとし、本件設置許可に際しての安全審査の適法性が損なわれたということはできないとした。なお、原子炉等規制法改正に伴い、昭和54年(1979年)1月に被告が内閣総理大臣から通商産業大臣(当時)に変更された。原告ら(12人)は第一審判決を不服として、昭和60年(1985年)7月5日、東京高等裁判所に控訴した。
 平成13年(2001年)7月4日、東京高等裁判所は、住民らの請求を棄却し、被告(原子炉等規制法の改正と2001年1月6日の中央省庁再編成に伴い通商産業大臣から経済産業大臣に変更)の原子炉設置許可処分は適法と判断した。判決では、現時点における最新の科学技術水準に照らしてみても、原子力安全委員会の専門技術的な調査審議および判断を基にした本件原子炉の安全性の点に関する審査に、不合理な点があるとすることはできないとし、国側の「安全審査に問題はなかった」とする主張を認めた。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 また、水戸地裁の一審判決後に発電所から100km余り離れた地域に引っ越した原告1人について、訴えを起こす資格(原告適格)を認めた一審判決を取り消し、訴えを却下した。過去には、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所から約96km離れた住民に原告適格を認めた平成6年(1994年)の新潟地裁判決がある。原告適格の距離的な線引きの観点で注目される判断である。
 平成13年(2001年)7月18日に原告側は最高裁判所へ上告した。最高裁判所第三小法廷は、本件の上告理由は民事訴訟法に規定する最高裁判所への上告に係る事由に該当しないとして平成16年(2004年)11月2日に上告棄却、上告不受理を決定し、原告側の敗訴が確定した。この判決を受けて、原告団は平成17年(2005年)1月22日に声明を出し、解散を表明した。
3.本訴訟参考メモ
 昭和49年(1974年)2月から始まった第1審では、(1)住民側に原告適格性があるか(2)設置許可処分は司法が判断すべき問題か(3)安全審査の範囲は原子炉本体の基本設計にとどめるのか、周囲の施設も含むのか(4)東海第二原子力発電所の安全性、の4点が主な争点となった。昭和60年(1985年)6月の一審判決は、住民の原告適格性は認めたが、それ以外は原告の主張を退けた。
 昭和61年(1986年)4月からの控訴審で原告側は、チェルノブイル原子力発電所事故や兵庫県南部地震(阪神大震災)を教訓にすべきだと主張し、(1)緊急制御装置が働かず暴走事故が起こる可能性の有無、(2)中性子照射による原子炉の脆性破壊の危険性の有無、(3)耐震設計で想定されている地震の規模は適切か、の3点を主な争点に据えた。
 これに対して、国側は(1)緊急制御装置が働かないという想定は、安全審査の想定外である、(2)脆性破壊の危険性は科学的に結論がでていない、(3)耐震については、当時の想定データに基づいて設計している、と反論した。しかし、想定データについては、地下に活断層があるかどうかを把握しないまま作成されていたことが明らかになり、原告側は「不十分なデータに基づく想定だ」と批判してきた。
 判決は、脆性破壊の問題などで住民側の立証を一部評価したものの、この訴訟は原子炉設置許可処分の違法性をめぐる行政訴訟であり、国側の法律論に阻まれ敗訴となった。
(前回更新:2002年3月)
<図/表>
表1 日本原電東海第二訴訟の主な経緯
表1  日本原電東海第二訴訟の主な経緯

<関連タイトル>
日本の原子力発電所の分布地図(2001年) (02-05-01-05)
東京電力柏崎・刈羽1号炉訴訟の経緯 (10-05-02-05)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)

<参考文献>
(1)原産新聞編集グループ(編):東京高裁、設置許可は適法と判断:東海第二、原子力産業新聞(2001年7月12日付け)第2095号、(社)日本原子力産業会議(2001年7月12日)2面
(2)日本原子力産業会議:原子力施設に係る主な訴訟の状況、原子力ポッケットブック2001年版、p.176-177
(3)経済産業省のホームページ「原子力のページ」:東海第二原子力発電所原子炉設置許可処分取消請求訴訟について/判決のポイント(2002年2月)
(4)Mainichi Interactive科学環境ニュースのホームページ(物理・化学・原子力)「東京高裁が控訴を棄却、東海原発取り消し訴訟」(2002年2月)
(5)毎日新聞朝刊(2001年7月5日)27面:東海第2原発設置許可取り消し訴訟控訴審判決、原告の思い届かず、全面敗訴わずか30秒の幕切れ、同新聞29面:東海第2原発訴訟、東京高裁住民側請求を棄却、安全審査不合理でない
(6)朝日新聞朝刊(2001年7月5日)38面:東海原発訴訟東京高裁判決「原発から100キロ離れた住民、原告適格を認めず」、同新聞茨城版35面:脱原発の主張実らず、東海第二原発訴訟で控訴棄却、同新聞茨城版34面:東海原発訴訟と原子力をめぐる国内外の主な出来事
(7)茨城新聞(2001年7月5日)1面:東海第2原発訴訟、東京高裁住民側の控訴棄却、安全審査違法と言えず。国側法律論に終始、住民側の立証を一部評価、同新聞35面:東海第2原発住民敗訴、一部認定に望み、提訴28年疲労感も
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